《ぼくは今日もをむ》#8 お金が、なくなりました
「こ、困りました……」
帰宅して暫くすると、ユズはリビングにて、深刻な表でそう言った。
ちなみにミントは購してきたばかりの服に著替えたあと、今は自分の部屋にいるはず。
ちなみに、とても似合っていて可かったです。
「どうしたの? 生理?」
「ぶっ!? い、いきなり何てこと言うんですかっ! セクハラですよっ!?」
「ごめんごめん。で、何かあったの?」
ぼくの問いに、ユズは暫しの逡巡を見せたのち答える。
「――お金が、なくなりました」
真剣な表で、重い口調で、ユズはそんな一言だけを発した。
それは誰にでも起こり得ることだけど、その誰もがかなり辛いとじることだろう。
まさか、この家にもついに金欠とやらが訪れてしまうとは。
うん、まあ、ほとんどぼくのせいなんだろうけど。
ほんとに申し訳ないです。
「一銭も殘ってないの?」
「完全にないわけではありませんけど……あんまり殘ってはいないです。所持金は訊かないでください」
どうやら、本當に量の金銭しか持ち合わせていないらしい。
仕方ないだろう。昨日だけで服や下著、ベッドやタンス、棚に機……と々なものを買いすぎてしまったのだから。
「ご、ごめんね」
「何で謝るんですか。昨日買ったのは、必要なものだから仕方ないです」
こっちの世界に來てから、ぼくはユズの優しさに甘えすぎているような気がする。
ならば、今くらいはぼくが何かしてあげるべきだろう。
そもそも、この問題はぼくの責任でもあるし。
「じゃあ、ぼくがお金を稼いでこようか?」
「え? どうやって、ですか?」
「ギルドだよ。ぼくだって一応冒険者になったわけだし、依頼をければ報酬金が貰えるんでしょ」
そう。ユズのおかげで、ぼくは冒険者になった。
ステータスは平均以下だったらしいけど、明になれる隠蔽化を使えば相手に気づかれることなく魔を討伐できると思う。
もちろん討伐系だけでなく他にも多種多様の依頼は存在するだろうから、その中から比較的簡単なものを選べば、まだ慣れていないぼくでも問題なく達できるだろう。
安易で無謀な考えかもしれないが、いくら何でも難しいものばかりじゃないはずだし大丈夫だ。
「それはそうですけど……もしかして一人だけでするつもりですか?」
「うん。ユズはミントと一緒に留守番しといてよ」
「本當に大丈夫ですか? わたしもついて行ったほうがいいんじゃ」
「もー、ユズは過保護だなぁ」
「そんなんじゃないですっ! た、ただ、萬が一にもライムさんが死ぬようなことがあったら、転生させ損ですから……」
素直じゃないけど、心配してくれているらしい。
転生させ損って何なんだろう。ユズは別に損にはならないと思うが、別にいいか。
「大丈夫大丈夫。そんなに危なそうなものをするつもりはないし」
「そうですか? それなら、分かりました。くれぐれも気をつけてくださいね」
「分かってるよ。じゃあ、早速行ってくるね」
「はい。行ってらっしゃいです」
そこで會話を終え、ぼくは一人で家を出る。
そして一切寄り道などはせず、真っすぐ冒険者ギルドへと向かった。
§
「うーん、手頃なのないかなぁ」
ぼくは冒険者ギルドの掲示板前にて、ここに寄せられた數々の依頼を見ながら唸っていた。
予想していた以上に種類も數も富で、なかなか決められない。
これも、かなり人口が多いという王都だからこそなのだろうか。
追われているというミントを匿っている以上、そのミントはできるだけ外に出すべきではない。
かと言って家で一人にしておくのも、何かあったときにすぐ対処できないため危険だろう。
そう思って、ぼくだけでここまで來たわけだが……これは參った。
思いの外多いし、どれが自分の実力に合ったものなのかも不明なので、どうするべきか迷う。
魔を討伐する依頼には、どこに出現する何という名前の魔を何匹やっつけろといったことが書かれているが、その場所を知らないし、魔の名前も聞いたことがないから分からない。
他にも採取系や人探しなど様々なものが存在するけど、さてどうしよう。
「……君、何か悩んでいるようだけど、どうかしたかい?」
と、不意に、橫から聲をかけられた。
すらっとびた長、金の頭髪。
発せられた聲質により男であることはかろうじて分かったが、どのような顔をしているのか窺い知ることはできなかった。
何故なら――ギリギリ目元が見えるくらいの、大きな仮面をつけていたから。
「え……? えっと、え……?」
「あ、ごめんね。僕は、別に怪しい者じゃないんだ。とある事で仮面をつけているだけだから、安心してほしい」
「は、はぁ……」
ぼくが訝しんでいることに気づいたらしく慌てて言ってきたけど、どこからどう見ても怪しさ満點である。
しかし、「じゃあ仮面を外してください」なんてことも言えず、ぼくは問いに答えることにした。
「何か依頼をけようかと思って來たんですけど、ぼくは昨日冒険者になったばかりなので、どれにしようかってちょっと迷っていたところで……」
「なるほど、君は新米だったのか」
ぼくの言葉に、男は得心がいったように頷いた。
そして、何やらぼくの全をじっくり見たあと、更に続ける。
「それなら、し僕の頼みを聞いてもらえないだろうか」
「頼み?」
「そう。ああ、もちろん相応の報酬は渡すつもりだ」
注する依頼に困っていたところだったし、ちゃんと報酬を貰えるのなら聞いてみてもいいかもしれない。
ただ、何をやらされるのか分からないからし不安を覚えてしまう。
「僕は今困っていてね。僕からの依頼をけてくれるなら、ついて來てほしいんだけど……どうだろう」
どうやら困っていることがあるらしい。まあ、そうじゃないとわざわざ僕に依頼をしたりはしないか。
「だったら、この掲示板に依頼をれば、ぼくじゃなくても誰かがけてくれるんじゃないですか?」
「いや、急ぐ必要があってね。それに、誰でもいいというわけでもない」
「そうですか……じゃあ、分かりました。ぼくでよければ」
「ほんとかい? ありがとう、助かるよ」
何か事があることを察して引きければ、男は嬉しそうに禮を述べてきた。
でも、さっさと依頼容を話してほしい。
長引けば長引くほど、ぼくの中の懸念が強まっていく。
危険なことだったりしないだろうか。新米であることは話したし、そんなに危険ではないと信じたいけど。
男は「ついて來て」と一言告げて歩き出したため、ぼくは黙ってその背中を追う。
何分、何十分……かなりの長い間、ぼくたちは無言のまま歩き続けた。
やがて到著したようで、男は足を止める。
白い門の奧にあったものを見て、ぼくは思わず絶句してしまう。
今ぼくも暮らしているユズの大きな家より、更に巨大な大豪邸。
いや、それは大豪邸と呼ぶより。
大きな大きな――お城だった。
「こ、ここは……」
「ああ、僕の家だよ」
この城が、この男の人の家。彼は、そう答えたのだ。
ということは、この人って、まさか――。
「ああ、申し遅れたね。僕の名は、ネルソン・バピオール。ここ〈ホームベル〉の――王子だよ」
つけていた仮面を外し、そうぼくに微笑みかけたのだった。
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