「――貴様も、同じように奴隷にしてやろう」

銃口は、未だミントの頭に向けたまま。

男はぼくのほうを見據え、そんなことを言ってきた。

最初から抱いていた不快は、今ので一気に最大値にまで上昇した。

この男は、きっとそれでぼくが喜ぶと思っているのだろうか。

今の口ぶりは、そんなじがした。

「安心しろ。晝は當然働いてもらうが、その分、夜はいっぱい可がってやるからなァッ！　ひゃははははっ」

「……ッ」

思わず、拳を強く握り締めた。

こんなに下衆な男がの奴隷にさせる夜の奉仕なんて、あれしかない。

ぼくは自他ともに認めるほどの変態で、になれたことで今までできなかったことが々経験できそうだと興もしたものだけど……だからといって、こんな男に犯されるのは絶対に免だ。

生憎と、ぼくは男が無理矢理するタイプのものは好まないんだよ。

逆は、好きだけどね。

「……逃げ、て……私のことはいい、から……ライムまで、奴隷にさせたくない、から……っ」

銃を突きつけられた狀態で、ミントは震えた聲を絞り出す。

明になれば、ミントのことを見捨てるのであれば、ぼくだけ逃げることは可能だろう。

しかし、そういうわけにはいかない。

當然、ぼくだって逃げられるものなら逃げ出したい。

でも、ぼくが逃げれば、ミントは必ず奴隷生活へと戻る羽目になる。

それじゃ、何の意味もないんだ。

「妙なきをしたら……分かるだろう？　明になられては困るが、貴様が姿を消した直後、俺はミントを撃つ」

明になってミントを助けることも考えたが、銃で人質にとられては下手にけない。

まさに、絶絶命だ。

どうする。どうすれば、この危機をすることができる。

頭の中で考えても、悩んでも、一向に妙案は浮かんではこなかった。

「貴様が取るべき行は、ただ一つだ。ミントや、貴様と共に暮らしていたのに、二度と元に戻らない傷をつけたくないのならな」

ぼくと共に暮らしていた……間違いなく、ユズのことだろう。

ぼくには、明化の能力が宿った。最初はかなり強くて便利な能力だと思ったが、今のこういう狀況だと、何の役にも立たない。

ぼくが能力を発した途端に、ミントを撃つなどと脅されてしまっては。

と、半ば諦めにも似たを抱いた、そのとき。

「――ぅぐッ！？」

不意に男がそんな短い悲鳴をあげ、持っていた銃を地面に落とす。

ぼくは訝しみ、彼の手を見やると、奴の手の甲に一本の矢が突き刺さっていた。

「ちィッ……誰だッ！？」

男は荒々しく矢を引き抜き、辺りを見回しながら忌々しげにぶ。

やがて、男の目線はとある一點に到著したところで完全に固定された。

ぼくは怪訝に思い、彼と同じ箇所――し離れたところにある高い石壁の上に視線をやると。

「無防備なの子相手に銃を向けるなんて、さすがにどうかと思うわ。ここは、お父様の國よ。そんな勝手なこと、娘のあたしが許さないわよっ！」

そう。大きな弓を構えた、シナモン・バピオール王がそこにいた。

さっきまで城の中にいたはずだが、どうしてこんなところにいるのだろう。

「もしかして、ぼくたちを助けるために、ここまで？」

「ちっがぁうッ！　お父様から、この國の平穏を守れって言われただけよ。だから、あたしは住民のみんなを守って、こいつらに帰ってもらわないといけないの」

「それって、結局ぼくたちを守るってことだよね。住民なんだし」

「う、うるさいわね。結果的にそうなっちゃってるだけよ。っていうか、あんたは何でこのあたしにタメ口なのよ！　あたしは王なんだから、もっと敬語使いなさいよっ！」

「いや、だってあんまり王っぽくないっていうか、ただの可くて生意気なの子としか思えないっていうか……」

「なっ！？　あんた、無禮が過ぎるわよっ！　喧嘩売ってるの！？」

「そうだね」

「何よ、そうだねって！　いいわ、あんたがそのつもりなら、その喧嘩買ってあげる。そこをかないでよ、今すぐ心臓を撃ち抜いてやるんだから」

「い、いや、ごめん！　冗談だって！　冗談です、お嬢様！」

「お嬢様って何よ……」

弓の照準をぼくに変えてきたので全力で謝罪すると、シナモン王はジト目で呆れていた。

シナモン王とはついさっき會ったばかりで、まだ日本の料理を食べさせたことくらいしか接していなかったが……このやり取りで、しユズと似た雰囲気をじた。

もちろん格も容姿も似てはいないのだけど、ぼくの言葉に対するツッコミがユズを彷彿とさせるじで実にやりやすい。

もっと仲良く、お近づきになりたいです。変な意味じゃなく。

シナモン王との漫才で若干忘れそうになっていたが、この場にはミントを連れ戻しに來た男もいるわけで。

ただ黙って、ぼくたちの會話を聞いているだけのわけがない。

その懸念は、完全に頭の中から消え失せてしまっていたのである。

「くな。貴様がそこからしでもいたり、弓を引く素振りを見せた途端に、俺はこいつを撃つ。どうやら王の娘らしいが、國民を見捨てたりなどできないだろう？」

いつの間にか男はぼくの背後に立っており、こめかみに銃を突きつけながら言ってきた。

おかげでミントは開放されたわけだが、代わりにぼくが人質に取られてしまったということか。

だが、ぼくが人質に取られているという事実をしっかり確認しながらも、シナモン王は止まらず弓を構え出す。

「……おい、くなと言っているのが聞こえないのか！」

「え？　いいわよ、撃ちたければ撃ったら？　そこに生じた一瞬の隙で、あたしはあんたをつけど」

「ひどくないっ！？　それって、ぼくはどうなってもいいってことだよね！　せめて、ちょっとは葛藤してよっ！」

「うっさいわね！　お兄様を誑かしたあんたのために使ってやる時間なんて、微塵も存在しないの！　あんまりごちゃごちゃ文句言ってると、あんたごとつわよ！」

「こわい！　別に誑かしたわけじゃないのに！　もはや、シナモンが一番こわい！　サイコパスだ！」

「おっけー、かないでよ。どうせ死ぬなら、あんまり苦しまずに死にたいでしょ？」

「待って！　ほんとに、ぼくを狙ってない！？　ちょっと！　待って待って待って待って！」

ぼくの心からのびを完全に無視し、弓で何故かぼくを狙い続けるシナモン王。

もしや、ぼくを殺すためにここまで來たのではなかろうか。そう思ってしまうくらい、ぼくを見捨てる判斷は迅速で殘酷だ。

あぁ、ちょっとでも助けてくれるんじゃないかと期待したぼくが馬鹿だったのか……。

すると。

「――シナモン。あと、名前も知らない君。あまり、僕の際相手をめないでくれるかな」

そんな、爽やかな聲が後ろから聞こえたと同時に。

ぼくの頭上には、真っ赤なの雨が降り注いだ。