《ぼくは今日もをむ》#14 これが、ぼくの作戦だ
……どうすればいい。
一どうすれば、この子に勝てるんだろう。
相手の攻撃力は、とても脅威だ。
それは、この短時間で嫌というほど思い知った。
逆に、ぼくの異常に低いステータスは比べることすら烏滸がましいくらいだ。
あるのは、明化の能力だけ。
今、ユズもミントも見守ってくれている。
だから、負けるわけにはいかない。この勝負、勝たないといけない。
ぼくたちの――未來のために。
「どーしたの? ちょっとくらい、れかにも攻撃を…………えっ?」
不意に、レカから笑みが消え怪訝な表へと一転した。
無理もないだろう。
何故なら、さっきまですぐそこにいた人ぼくが、一瞬にして姿を消してしまったのだから。
「……あ、あれ? どこ行ったの?」
レカはキョロキョロと辺りを見回す。
そんなことをしても、決してぼくが見つかることはない。
とはいえ、明になったからって、勝算なんて何もない。
今のうちに、作戦を考えないと。
などと、思案を巡らせていたら。
自棄になったのか分からないが、レカが途端にび出した。
「んあぁぁぁっ! もういいよ。見えないなら、全攻撃しちゃえばいいんだもんね。このフィールド、全にさ」
ニヤっ……と、不敵な笑みをらすレカ。
そして、レカは両手を大きく広げ、その言葉を発する。
「――破滅之霧ハメツノキリ」
すると、レカの両手の平から煙のようなものが放出された。
みるみるうちにフィールド中に充満していき、やがてレカの姿も大勢の観客の姿も見えなくなってしまった。
……いや、完全に何も見えないわけではない。
薄うっすらとだが、人影がシルエットみたいに見えてはいる。
ここまで濃いと、たとえ明化の能力を使っていなくても、レカからはぼくの姿は影としか見えなさそうだ。
「……痛つッ」
不意に右肩の辺りに鋭い痛みが走り、ぼくは顔を顰しかめる。
訝しみ見てみると、服が細く切れ、そこから覗く素に傷ができていた。
どういうことだ。
脇腹や背中ならばレカの攻撃を食らいはしたものの、こんなところに攻撃をけてはいないはず。
気づかないうちに、どこかで切ってしまったのだろうか。
いや、それにしては今更痛むのもおかしいような……。
「ねぇねぇ、痛い? 痛い? 當然だよね。この霧の中にいたら、どんどんに傷ができていって……そのうち中が切り刻まれちゃうかもねー」
愚かにも説明してくれたため、なんとか理解できた。
このフィールド中に充満した煙……いや霧? が原因か。
などと考えている間にも、肩や脇腹など中の至るところに痛みが走る。
そこまで致命傷にはならないが、塵も積もれば何とやら、だ。
あまりにダメージを蓄積しすぎるのもよくないだろう。
そう思い、ぼくは駆け出した。
霧の中で未だ微だにしない人影に向かって、せめてしだけでも食らわせることができれば……と拳を突き出す。
やがて、ぼくの拳がレカの頬に直撃し――。
「……ん? ああ、そこか」
レカは一切効いた様子は見せず、それどころかニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
自分の頬に當たったぼくの腕を、の子だとは思えない力で強く握り締めた。
さすが筋力の數値が異常なだけはある。
ただ握っているだけなのに、それだけで手首が砕けてしまうんじゃないかと危懼してしまいそうなほど痛む。
「ごめんね。おねーさんのそんな攻撃じゃ、れかは痛くもくもないよ」
吐き捨てるように言い、摑んだままの腕ごと大きく手を薙ぎ払う。
そのせいで、ぼくのは飛ばされてしまい、再び壁に激突する。
二度目の背中の激痛。
痛みだけが、ぼくの神経を支配していた。
「はぁ……はぁ……くそっ」
れた息を整え、レカを睨みつける。
だが明なままだとぼくの姿は見えていないはずだし、彼は何食わぬ顔で突っ立っているだけ。
……考えろ。知力の數値が低いとか、馬鹿だからとか、そんなことを言っている場合ではない。
勝たなくちゃいけない。負けるわけにはいかない。
一回戦、ユズはちゃんと勝って託してくれた。
次はミントの番だ、ここでバトンを途切れさせるわけにはいかない。
試合開始のときから、レカの行、言葉、フィールドの狀況……そういったものを全て思い出していく。
記憶力にはあまり自信はないけど、諦めたりはしない。
必死に、勝つための手がかりを探す。
でも――。
「……はは。だめだ、こりゃ」
無意識に乾いた笑みがれ、全から力が抜ける。
レカの攻撃力は本だ。それはを持って実した。
ユズの対戦相手、ルーベルのときみたいな何か仕掛けがあるわけではないだろう。
だから、厄介なんだ。
攻撃が最大の防とはよく言ったものである。
生憎と、ぼくの足りない脳味噌じゃ妙案なんてものを思いつけるわけがなかった。
ただ、一つを除いて。
決して、頭のいい作戦ではない。
だけど、ぼくにはそれが一杯だ。
「レカ――そろそろ、決著をつけよう」
ぼくは立ち上がり、明化の能力を解除した。
姿を消したままだと、この作戦は上手くいかない。
「……どうしたの? もう諦めたの?」
「違うよ。早く君を、倒さないといけないからね」
「ふぅん。できるもんなら、やってみたらっ?」
予想通り、レカは真っ直ぐぼくへ迫ってくる。
しかも、ありがたいことに霧の能力を解除して。
おそらく先ほどレカが立っていた場所から離れると、自分自も霧のダメージを食らってしまうのだろう。
そこは、レカの知力の低さと能力の欠點に謝しないと。
「……っ!」
さっきと同じように、ぼくを毆ろうとしてくるレカ。
しかし、ぼくは背後へ背後へ退すさることで、レカの拳を辛うじて避け続ける。
先ほどとは異なり、今度の後退には意味がある。
この作戦を功に導くための、大きな意味が。
「決著をつけるとか言いながら、また逃げてるだけだよ、おねーさんっ! やっぱり、れかの攻撃が怖いんじゃないの?」
ぼくを執拗に狙いながら問うてくるが、答えはしない。
まともに當たったらその時點で終わりだということは、最初、地面をひび割れさせたときに思い知った。
だから、ぼくは全ての一撃を避けつつ、その場所に行かなくてはいけないのだ。
そう。試合開始直後に、レカは攻撃力を見せつけるために地面へと拳を強く振り下ろした。
その際、圧倒的な破壊力で地面はひび割れてしまったのだ。
あと一撃そこに加えると、今にもが開いてしまいそうなくらいに。
ぼくは回避をしながらも、レカの攻撃パターンをある程度把握できていた。
必ずと言っていいほど――右から左、左から右、下から上、上から下への攻撃を繰り返しているのだ。
その全てが力強く加減などはしていなさそうだが、特に上から下への攻撃のときは最も力強いような気がする。
全重を乗せているからなのか、地面をひび割れさせたときと同じように。
レカは、右から左、左から右へ間髪れずぼくの顔を目がける。
その都度、半歩下がることで躱し、次の攻撃に備える。
下から上への攻撃も、半歩下がって避け。
そして、ようやくその場所に到達したことに気づいたぼくは、すぐさま地面にしゃがみ込んだ。
できるだけ小さく、できるだけ低く。
「何してるの? そんなことしてると、一瞬でお陀仏だ……よっ!」
全ては、想定通りだった。
レカの拳が、ぼくの頭上へ振り下ろされる。
力強く、全重を乗せた最後の一撃を。
ぼくの頭にもうすぐで直撃するという、その寸前で。
素早く地面を転がり、遠くへと離れる。
すると。
「……へっ?」
ぼくの予想外の行に、レカは素っ頓狂な聲をあげた。
しかし、そんな聲はすぐにかき消されしまう。
レカの拳が、既にひび割れていた地面に直撃し、大きなが穿たれたことによって。
これが、ぼくの作戦だ。
自分の攻撃が通用しないなら、相手の攻撃が異常なまでに脅威なら。
相手の攻撃力を、逆に利用してやればいい。
「ちょっ、んなぁ……っ!?」
驚愕か恐怖か、はたまた別の故かどうかは分からないが。
レカは上手く言葉を発することすらできず、その大きなに吸い込まれていった。
自分の一撃で開いた、奈落の底へ。
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