《ぼくは今日もをむ》#16 だから、私も
ポメロが魔法の使い手と言われる所以が、し分かった気がする。
「みんとサンとの會話、楽しかったデスよ~。注意を逸らすための囮にしておくのは惜しいって思いマシた~」
その発言で、最初の話にも意味があったのだと悟った。
そうか。あのときに、ミントと會話をしながらも実はこっそり自分の魔力をばら撒いていたのか。
そんなの、気づけるわけがない。
そもそもそんな能力があることも知らなかったから、気づくことなど絶対に不可能。
それでも念を押したのは、萬が一にもバレたくなかったからだろうか。
「にしても、みんとサンはさすがデスね~。てっきり、最初の一撃で終わると思っていたんデスが……敏捷の高さはなかなか侮れないデス」
ポメロは余裕綽々といった態度でありながらも、ミントの実力を認めてはいる。
だけど、その表や聲などから、既に自分の勝ちを信じて疑っていないのだろう。
確かに、ポメロがかなり強いのは間違いない。
あの固有スキル〈無限貯蔵〉は特に厄介だ。
ぼくはこうしてモニターの畫面で見ているだけだが、相手の実力というものは充分すぎるほど伝わってくる。
「……ポメロ」
――でも。
不意に、下手したら聞き逃してしまいそうなくらい儚い吐息がれた。
自慢げに突っ立っているポメロからではなく、壁に激突したまま、そのひび割れた壁にもたれかかっているミントから。
「……あなたは、さっき言った。もし、この戦いで負けたらどうするかって。そうなれば當然、申し訳ないなんて言葉じゃ足りない。あの二人に、どんな言葉をかければいいのかも分からなくなる」
不思議と、司會も観客もポメロも、その場にいる全員がミントの言葉に耳を傾けていた。
「……ここまで協力してくれて、こんなに助けてくれて、これほどの友と絆を私にくれて」
そこで、ミントはようやく立ち上がった。
ただ一人、目の前のポメロを見據えて。
「だから――私は負けない。絶対に、何があっても」
最後にそう告げるや否や、ミントは駆け出した。
ポメロはすぐさま反応し、空気中に充満した魔力を使って多彩な魔法を放つ。
しかし。魔法が當たったかと思いきや、それはミントの殘像で。
かなり高速で走っているから、いくら無數の魔法であっても全てを同時に放っているわけではないため、どれもギリギリのところで回避に功していた。
「くっ……仕方ありマセンね。集中しないといけないから使いたくはなかったんデスが、やむを得マセン」
すると、先ほどまでは一つずつの魔法を使用していたのに対し、二つ、三つ……と複數の魔法をミントに浴びせ始めた。
數が増えれば、必然的に避けるのも難しくなる。
現に、橫から迫ってきた火炎を避けることができず、頬や肩などに直撃してしまう。
だが、ミントはきを止めなかった。
それどころか怯みすらせず、真っ直ぐポメロへと向かっていく。
まるで、痛みをじていないかのように。
「な、なんで止まらないんデスか……ッ! まだ、まだデスよ~っ!」
ミントの攻撃を食らわないよう後退しつつ、次々と多數の魔法を放ち続ける。
それでも、何度相手の攻撃が命中しようとも、ミントは猛攻を途絶えさせない。
「……二人は私のことを認めて、信じて、託してくれた。だから、私も同じことをする。二人は、私のことを守って、助けて、協力してくれた。だから、私も同じことを返す。二人は、頑張って、死に狂いで、勝ってくれた。だから、私も――ッ!」
いつも小さな聲で、控えめで、自分は二の次三の次だった。
そんなミントが今は自分の思いを、ちゃんと聲を張ってんでいる。
そして――。
ミントの全重を乗せた拳が、ポメロの頬に直撃した。
ミントの能力値は筋力も決して低くはなかったが、たとえそうでもの子の力であることに変わりはない。
いくら何でも男には敵わないだろうし、あまり強力な一撃ではないだろう、と。
そう、思っていた。
ほんの、數瞬前までは。
「んんぐッッ……!?」
まるで獣のようなき聲をあげ、口から赤黒いを溢れさせ。
ポメロは、壁にまで吹っ飛ばされていった。
そのポメロが起き上がることはなく。
地面に倒れたっきり、一ミリもかなくなってしまった。
剎那、司會の聲が響き渡る。
「なんと! 三回戦は――挑戦者、ミント・カーチスですッ! 一回戦、二回戦、三回戦と……全ての試合で挑戦者側が勝利したということになりますね!」
そう。
これで、ぼくたちは三人とも勝利を摑んだのだ。
観客からも大きな歓聲が湧き、ぼくとユズも無意識にハイタッチをわす。
終わったんだ、これで。
ようやく、ぼくたちに平和が戻る。
また、三人で仲良く一緒に暮らすことができる。
だけど、やはり異変というものはいつも突然やってくるもので。
ポメロを斃し、大はしゃぎはしないだろうが、きっと今頃心で安堵していたり喜んでいるんだろうなって思っていたミントが。
不意に、何の前れもなく。
地面に、倒れ伏してしまったのだ。
しかも、ただ倒れただけではない。
せき止められていた川の奔流が、再びき出したかのように。
意図的に止めれていたの流れが、勢いよく溢れ出したかのように。
ミントの全から、大量のが噴出したのだった。
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