《魔がない世界で魔を使って世界最強》碧撃の弓神
用意されたのは冒険者組合が所有する練習場。敷地は半徑約四百メートルの広さで、吹く風が地面の砂を軽く巻き上げている。その練習場にて二人は向き合っていた。彌一とビルファだ。
セナと付嬢が練習場の外枠から見守る中、ビルファが口を開く。
「それじゃあ始めようと思うけど準備はいいかい?」
ビルファは先程とは違い緑を基調とし、所々に金の刺繍がったローブをに纏っているだけだ。それ以外には何も裝備していない。『碧撃の弓神』と呼ばれるくらいなのに肝心の弓が見當たらないことに彌一は困する。
「弓はどこにあるんです?」
「それならここに」
そう言って首もとから出てきたのは碧の寶石がついたネックレス。に反して緑に輝く寶石は神的でしい。しかしそれだけではなかった。彌一はそのネックレスを見て魔力の反応をじた。
そしてビルファはネックレスの先の寶石を摑み、そのままチェーンを引きちぎって前に突き出し、呼ぶ。
「ーー疾く輝けきてくれ。ウィルセルク」
ビルファがそう呼んだ瞬間、摑んだ寶石から眩い碧の輝きが生まれ辺りを塗り潰す。
そしてが収まるとビルファの手元には一つの長弓が握り締められていた。
寶石でできたような弓は緑に薄っすらとり所々に木や風をイメージしたような繊細な裝飾がある。弦は緑のをした糸でできてその弦からは魔力がじられる。緑に輝くその弓はまるで森の神を封じ込めたようなしさだ。。
「これが僕の武、【ウィルセルクの霊弓】さ」
しくも神に溢れ力強さもじる弓を見て彌一はリカードの【アルメディアの紅眼・碧眼】と同じアーティファクトだと推測する。
「弓は持ち運びに不便だからね。普段はこうして寶石に戻ってるんだ」
「なるほど、それじゃこっちも準備しますか」
パチンと指を鳴らす音と同時に彌一の足元に無の魔陣が展開して上昇し飲み込み消えるとそこにはレルバーホークと【蒼羽】を裝著し、甲明が使っていた黒を基調にし裾や袖など所々に銀の刺繍が施されたロングコートをに纏った彌一が悠然と立っている。
実はこの刺繍ミスリルで出來ている。ミスリルを【錬魔】で糸のように細くしそれを使ってコートをい直したのだ。う際に【刻印魔】の応用でい方に魔的な意味合いを持たせ、コートに魔に対する耐を高めている。さらに鋼よりもいミスリルで編んでいるため防としての耐久も高く、そこらの鉄の鎧なんかよりも耐久が高い。
たった一つの指鳴りで全ての服裝が変わったことにビルファは心したような聲をあげる。
「へぇ。それが魔か。それに彌一君は剣も使えるのかい?魔法師なのに」
「魔師も近接戦はできないといけませんからね。それにこれくらいの魔で驚いていたら持たないですよ?魔師の本當の魔はこんなものじゃない」
不敵に笑う彌一にビルファも同じように笑い弓を構える。
「そうかい。それでは見せてくれ」
矢が裝填されていない弦を引き絞ると瞬時にそこに碧の寶石でできた矢がうまれる。弦を最大限引き絞って放たれた矢は弓の速度とは思えないほどの速さで彌一を貫くべく駆け抜ける。
しかし銃弾に比べて速度が劣る矢に弾丸すらも視覚できる魔師の彌一が反応できないわけがない。ましては今は【解析眼】もある。【解析眼】による予測能力は未來視にも迫り、その矢の軌道予測に従い腰の【蒼羽】を抜刀し矢を斬り払う。
迫り來る矢に【蒼羽】が衝突する瞬間ーー
ーー矢が避けた。そうまるで水が流れるがのごとく。
「ーーッツ!!」
避けた矢が彌一の左肩を撃ち抜く寸前、咄嗟にを半に捻りスレスレで矢を回避する。しかしーー
「なに!?」
回避したはずの矢が今度は背後から彌一を狙う。
迫り來る矢を背後に【金剛障壁】を局所展開する事で防ぐ。カキンと質な音を立てて矢が障壁をぶつかり合い矢が砕ける。
砕けた矢を見てすぐにビルファを見るとそこにはさらに矢を構えたビルファがいた。限界まで引き絞った弓から飛び出すのは三つの矢。
発された矢は今度は一本は正面から、もう二本は左右からそれぞれ迫る。レルバーホークを使い矢を撃ち落とすべく裝填されたゴム弾を発砲。ゴム弾は矢に當たる瞬間今度はゴム弾の方が矢を避け、矢が彌一に向かってくる。
「《業火の火柱》!」
彌一の周りに炎の柱が立つ。柱に衝突した矢はその業火に焼かれ消失する。業火の柱が消えるとビルファは一つの矢を放ってくる。放たれた矢の速さは先程よりも速く威力も相當なものだ。
加速する矢を見據え【金剛障壁】を前方に展開し、防ぐ。砲弾をも止める障壁に阻まれ砕ける矢の欠片が舞うなか、ビルファは再び靜かに弓を構える。引き絞った弓はいつでも発出來る狀態だ。
【金剛障壁】を維持した狀態で彌一はビルファを見つめる。
「風の魔法か」
「さぁ?どうだろう」
彌一の呟きにとぼけた様に答えるビルファにさらに言葉をかける。
「矢に風を纏わせてに當たる瞬間に風の力で矢をにらせるようにして避けたんですね。そしてその矢を回避しても矢の方向を曲げ、背後から狙い撃つ。これが回避する矢のカラクリです」
「・・・そこまでわかってしまっては流石に誤魔化せないか。流石だね。まさか一目で正解にたどり著くとは」
「ええ。でもまさかこれほどのな風の魔をる人がこの世界にいるなんて」
風の魔というのは他の屬魔法に比べ制が難しい。気溫、度、風圧など制する項目が多いからだ。その分風の魔は応用の幅が広く、屬系魔を使う魔師はこのんでよく風の魔を使う。
「けど不思議だ。霊ではそれほどのな魔行使はできないはず」
霊はあくまで補助的な魔回路しかない。最上級霊でもここまでのな魔行使が出來るほどの魔回路は持ち合わせていない。なので仕組みは分かってもそれを制する魔回路に疑問が生まれるのだ。
「そうだね。この仕組みにたどり著いたご褒として教えてあげます。このウィルセルクは霊が集まってできた結晶をもとに作られていてね、そのおかげで自分で風の魔法が使えるんだ」
「・・・!そうか、その弓自が魔回路なわけか」
【ウィルセルクの霊弓】はそれ自が風の魔専用の魔回路なのである。風の魔専用の魔回路のおかげで霊を使わずとも自ら風の魔の制が出來るのだ。
「ウィルセルクを使える人は僕以外にいなくてね。それくらいウィルセルクの風魔法は扱いが難しいが、その分自分次第でな制ができるからこんな蕓當もできるのさッ!」
言葉とともに放たれた三本の矢が正面、側面、背後と様々な場所から彌一を狙う。
「《三重展開》!!」
彌一を囲む様にして展開した三つの【金剛障壁】が全ての矢を防ぎ、矢が砕けたと同時に駆け出す。それと同時にレルバーハークを連続発。発される弾丸はゴム弾。
発された五つの線はビルファの両足、両手、頭部を狙うがビルファが纏う超高度の風の鎧がゴム弾を全てらせ流す。
弾丸が命中しないことは予想済み。駆け抜ける彌一はビルファとの距離をめる。
「シッ!」
まったビルファとの距離を更に埋めるべく短く息を吐き袈裟斬りを食らわせる。
しかしビルファは弓を使って【蒼羽】をうけとめる。ガキンッと質な音を立てて両者が拮抗すると思われたが、彌一のステータスは人間のレベルではない。そのステータスが示す通りの筋力が弓の防を押し返す。
「くッ!」
吹き飛ばされたビルファだが風の鎧が怪我を防ぎ、さらに風を使って彌一との距離を引き離す。追撃とばかりに彌一はゴム弾を連するがやはりそらされる。
「ならっ!」
発するのは【重力魔】。この世界にはない重力をる魔で隙を突き拘束する算段だ。
足を踏み鳴らすと彌一を中心とし魔陣が急速に広がる。魔陣がビルファを飲み込んだ瞬間、ビルファに強烈な重圧が掛かる。掛かる重圧はおよそ3G。それはビルファは本人の重の三倍。
「なに!ぐはっ!!」
急激な重圧にビルファは膝を崩す。彌一の作戦は見事ビルファの隙を突き拘束した。しかしーー
「ーーッ!まだです!!」
ビルファはウィルセルクを使って風の魔で自分自を吹き飛ばす。吹き飛ばすと同時に自を風の魔で加速させ強引に重圧を振り払い魔陣の効果範囲を抜ける。強引に重圧を振り払ったことでへのダメージは相當だがそこは『四天武神』といったところか、ビルファにけなくなるほどのダメージは伺えない。
そんなビルファに驚愕しつつ即座に追撃を試みようとするとビルファが詠唱する。
「《駆け抜ける風・鋭く疾い疾風よ・汝の風を我がに宿し・我が行く末を導く追い風となりて・駆け抜けろ》!!」
その詠唱とともにビルファの周りの風にさらなる風が纏い加速したビルファはそのまま地面を蹴りーー壁を疾る。
「噓だろ!?」
訓練場の壁を疾るビルファに向かって【弾門】を展開し発する。発されたのレーザーともいうべき弾は総勢百。しかしビルファはさらに壁を加速して疾りながら全ての【弾門】を回避する。
そしてさらに驚くことにビルファは壁を蹴り空中に飛び出し、背後で指向をもった風の発を起こしその発を推進力にして空中を飛ぶ。
そのまま彌一の頭上を越える寸前まとめて矢を放ってくる。
頭上から迫り來る碧の雨を【金剛障壁】を頭上に展開することで防ぐ。
その間ビルファは反対の壁に著地し疾りながらさらに矢を放ってくる。
一連のきに彌一は驚愕を隠しきれない。
「【疾風加速ゲイルアクセラレイション】だと!?まかさこの世界こっちにも使い手がいたなんて・・・!」
風を纏うことで自を加速させ、さらには制限付きではあるが空を飛べる風の高等魔。それが【疾風加速ゲイルアクセラレイション】だ。この魔は制が難しい風の魔を自に纏わせ背後に風を発的に噴させ加速するため、とてつもない制が要求される。噴する方向や角度、さらには正面からの風圧を軽減する制などが必要な為だ。一つでもミスをすれば大慘事に発展する為制の難しさからも使える者は地球でもほとんどいない。このことからもビルファの風の魔に対するセンスは相當なものであると言える。
この魔はもともと屬系魔の魔系だった時代に開発されたものだ。時代が進むにつれ屬系魔以外の魔系も発展し、安全も高く制の簡略化が進んだ【加速魔】や【飛行魔】が生み出されたことで忘れ去られた魔なのだ。
しかしこの魔は場合によっては【加速魔】や【飛行魔】よりも応用ができ使い方次第では大きな力をす為今もなお使う者はいる。
「って驚いてる場合じゃない!」
放たれる矢に【金剛障壁】を半球狀に展開することで防ぐ。頭上からあるいは橫からまさざまな角度から幾多の雨の矢が降り注ぐ。矢一本一本が別々の軌道を描きながら殺到する。
ガガガッーーと質な音を連続で立てて全ての矢を防ぎきる。しかし幾百もの矢の鋭い攻撃をけて障壁が悲鳴を上げる。やがて永遠に思われたが矢の雨が終わると最初の位置に戻っていたビルファが新しい矢を構えている。
今までの矢よりも大きく先端は槍の様に鋭く尖っている。まるで短槍の矢だ。そしてその短槍には凄まじい風、いや暴風が濃されていく。濃されている暴風はさしずめ天災といったところ。
あれ程の天災が直撃すればいくら【金剛障壁】でも防げない。それをじた彌一は【金剛障壁】を解除し、新しい障壁いやーー盾を展開する。
「《我が前に現るのは純白の神盾。その盾は盾にあらず、その盾は盤石にして不たるもの。決して揺らぐことのなき、確固たるもの》」
彌一の前に現れたのは純白にり輝く巨大な魔陣。詠う詠唱とともに輝きは増し、巨大な魔陣の周りに別の四つの魔陣が展開し巨大魔陣の周りを高速で回転する。
輝きを増す魔陣は思わず眼を瞑る程の純白の輝きを示す。
「《如何なるものもの前にあろうと潰えぬ輝き盾。その盾は神が持ちし神盾。その神盾の名はーー》」
輝きを前にしても怯むことのないビルファは矢の狙いを定め撃ち出す矢をぶ。そして彌一も最後の詠唱を紡ぎ、ぶ。
「刺し穿て!ウィルセルクの槍撃矢!!」
「《神の盾アイギス!全てを阻む純白の輝きよ》!!」
輝きが全てを飲み込む。
視界の全てを塗り潰し場を純白が覆う。やがて輝きが収まりそこにあったのは訓練場の地面や壁がまるで臺風の直撃にあったかの様に抉られ見る影もない景だった。
そしてこの景を引き起こした原因である攻撃をけた彌一はーーー立っていた。純白の輝く魔陣をを展開して。
あの天災を喰らってなお魔陣は壊れず純白に輝いている。魔陣陣の後ろの彌一や地面、壁には一切の傷はない。そこだけは天災が避けたかの様に靜かだ。
「まさか、ウィルセルクの槍撃矢を防ぐとは・・・!」
ビルファ最強の攻撃であるウィルセルクの槍撃矢を防がれたことにビルファは眼を見開き驚愕する。ウィルセルクの槍撃矢は城塞すら破壊する威力を持つ。
驚愕に染まるビルファを見て彌一は言う。
「大魔【神の盾アイギス】。かつて黒赤竜の咆哮ドラゴンロアーをも防いだこの盾にたかが天災じゃあ突破できませんよ」
大魔【神の盾アイギス】は彌一最強の防魔である。
アイギス、英語ではイージスと呼ばれるこれはギリシャ神話に登場する武である。主神ゼウスが娘の神アテナに與えた武でその形狀は盾とされており、神の盾と呼ばれている。
【神の盾アイギス】はこの盾をイメージし作ったもので、彌一渾の力作だ。
この盾は大砲だろうが魔だろうが全てを防ぎ核弾すらも防ぐ。五年前のルバティアドラゴンの討伐では一つで國が滅ぶ威力を持つルバティアドラゴンの放つ黒赤竜の咆哮ドラゴンロアーを防いだ。
そのためたかが天災ではこの"神の盾"は破壊できない。
「それでどうします?」
彌一は【蒼羽】の先をビルファに向けて戦闘続行の意思を問う。それに対してビルファはウィルセルクを元の寶石に戻し両手を上げる。
「いいや、今の一撃に全ての魔力を注ぎ込んだからもう魔力が殘っていないんだ。降參だ彌一君」
こうして碧撃の弓神と魔師の苛烈を極めて戦いは魔師の勝利で終わった。
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