《魔がない世界で魔を使って世界最強》半分は優しさで出來ています。
日が昇り始め、森を赤く照らす早朝に彌一たちは集落のり口で出発の準備を整えている。
集落の人から囁かなお禮にと貰った上質な熊をリュックに詰め込み、背負って腰に蒼羽を帯刀すると見送りに來たジキル・グレバス・カネーシア・カーネに振り向く。
「それじゃあ行ってきます」
「すまぬの皆さんにだけに任せてしまって。本當はわし自ら向かうべきなのじゃろうが、儂は銀狼、否が応でも目立ってしまう。そうすれば皆さんにも迷がかかってしまからの」
「大丈夫ですよジキルさん。俺は冒険者、あなたは依頼者。それでいいじゃないですか」
「日伊月殿がそう言うのであれば。どうか孫娘を頼む」
「ええ、任せてください」
荷を背負い直しながら笑って見せると、ジキルも同じようにホッホッホと笑いかえす。
「彌一、そろそろいかねぇと!」
「そうだな、それじゃあ行ってきます!」
「気を付けての」
ジキルが手を振って送り出すと、彌一たちは一度手を振って歩き出す。グレバスやカネーシア、カーネも揃って手を振り、彌一たちの背中を見つめる。
もう一度振り向いて前を向くと、全員顔を合わせ笑ったあと、ザッ!  と地面を踏んで森を走りだす。
マッピングしたルートを解析眼に表示し、彌一を先頭に辺りの濃い霧を攪拌しながら來た道を疾走する。
皆慣れたらしく、危なげなく獣道を走りきり、森が一時切れて昨日登った崖が見えてくる。
「よしっ!ーーーーーここまま飛び降りるぞ!」
「はぁっ!?ちょっと待てぇえ!!できるか!」
「そうよ落ち著いて!お願いだから走るスピードを上げないで!?」
健と彩が涙目で何か訴えているが、そんなもの彌一の知ったことではない!
二人が騒ぐ間に崖の先が見えた。
「行くぞ!全員飛べ!!」
むしろ加速して崖から飛び降りる彌一。それに続いてユノとセナ、し躊躇って凜緒と雄也がバッ!  と空中に飛び出し、五十メートルのスカイダイビングを敢行する。
「ええい!こうなりゃヤケだ!俺たちも行くぞ彩!」
「いくら何でも五十メートルの高さからヒモなしバンジーなんてイヤよ!?」
「じゃあしっかりと摑まってろ!」
「え!きゃっ!」
実は高い所が苦手な彩を健は橫抱きに抱え、腹に力をれて一気に飛び降りた!
「きゃああああああーーーーー!!」
涙目で可らしい悲鳴をあげながら彩は必死に目を瞑って健にしがみつく。
フワッとに響く浮遊があった後、それを気にする暇も無く落下し、下から強風が頬をで、ヒュオオオ!  と風の紡ぐ音が鳴る。
地上五十メートルという高さも落下すればほんの數秒。貴重なヒモなしバンジー験に浸る間も無く、直ぐさま地面がお出迎えだ。
後數メートルで地面と激突!  といった所で、突如が浮遊が無くなり、落下のスピードが一気に落ちる。
まるで見えない手に包み込まれ降ろされたようなが全員を襲うと、そのまま地面にそっと降ろされる。彌一の魔だ。
「な?大丈夫だったろ?」
「いや怖いわ!」
「壽命がんだかと思ったわよ!」
健と彩が涙目でび、彌一を非難するような目で見る。しかし彌一は反省する態度は見せず、逆にちゃかすような表を作る。
「それよりお前ら、ーーーいつまでそうしてるんだ?」
「「え?」」
彌一の言葉に健と彩はお互いを見る。橫抱きつまりお姫様抱っこの狀態であるため自然と二人の顔の距離は近い。二人は至近距離で目が合うと途端に赤くなる。
「わ、悪い!」
「う、うん.........その、......あ、ありがと.......」
「あ、ああ.........」
「「.........」」
健が慌てて降ろすと彩は耳まで真っ赤にして俯く。
しばらく無言の時間が過ぎる。
「おーい、さっさと行くぞ〜(ニヤニヤ)」
「彩ちゃ〜ん。早く〜(ニヤニヤ)」
二人に彌一と凜緒が生暖かい視線を向け呼びかけると「「ハッ!!」」と二人が振り向き、また赤くなって小走りに駆けてくる。
「さ、行くか」
「お、おう......」
「ええ........」
彌一の言葉に々気まずそうに答える健と彩。最近二人のこういったこと増えて來たな、と思いながら歩き出す。
最大の難所を越えたことであとは山を下りるだけ。行きの山道で歩き方を覚えた健たちは、走って山を下ることができた。
ふと周りの草を見れば、行きで掻き分けた草が元に戻っている。これも集落が見つからないと何か関係があるのだろうか。
普通なら戻る道がわからなくなって苦労するところだろうが、彌一に抜かりはない。
カバンからタブレットを取り出し全員が見えるようにする。すると畫面には彌一達を中心とした3Dの地図がと、一本の赤い線が。
「どうしたんだこの地図?」
「行きの景を解析眼で解析してマッピングをしてたんだ。この線の通りに行けば道に出られる」
「なんでもできんのなお前......」
「魔師は神を用いて萬能を目指す者だからな。これくらいできて當然だ」
なんともないように言う彌一の言葉に全員呆れ顔だ。ユノだけは「パパすごい!」と驚いてくれる。逆にそれはそれで虛しくもある。
それから地図を頼りに來た道を辿って行く。雑草が生い茂って歩きづらくはあったが、なんとか最初の山道まで辿り著くことができた。
「よっしゃああ!!到著!」
「後はここから車でグーデンタームまで行くだけね」
「うん、そうだねーーーー彌一」
「.....ああ」
雄也の言葉に彌一は頷き腰の蒼羽に手を添える。ユノも既に気が付いており氷の爪を創り出す。それを見て殘りも直ぐに自分の武を構える。
すると次の瞬間、近くの木から矢が二本飛來。狙いは先頭にいた彌一と雄也。
「「ハッ!」」
二人は同時に抜剣し、飛來する矢を打ち払う。雄也は剣の腹で流し、彌一は矢を一刀両斷。
カランと音を立て落ちる矢に目もくれず、全員が周囲の警戒に意識を割く。
すると囲むように周囲の森から複數の山賊風の男たちが現れる。
そしてその男たちの中から一際大きな格の男が現れた。
「よぉ、てめぇら旅のもんか?だったらここを通りたければ金と武とを置いて行きな。そうすれば見逃してやるよ」
「そうだぜボスの言う通りにしといたほうがのためだぞ!」
「ケケケケッ!こりゃ上玉揃いじゃねぇか!それに銀狼族のもいるぜ!」
男たちが舐め回すように気の悪い視線を陣に向けてくる。陣はその視線に腕を抱き眉を顰め嫌そうな表を作る。
その反応を見てボスと呼ばれた男が気分良さそうに高らかに名乗る。
「さぁ!さっさと置いて行け!逆らうならブッ殺す!それが俺たちーーーーバファリン山賊団だ!!」
『ブッ.......!!』
名前を聞いた途端彌一、雄也、健、彩、凜緒が噴き出す。それもそうだろう、その名前だと有名な薬だ。
名前の通りならこの山賊団の半分は優しさでできているのだろう。
「あ、あの厳つい顔で....、半分が優しさとか.......ブフッ!」
「やめろよ健。......自覚したら笑っちまうだろ、クッ.....!!」
「な、なに笑ってやがるッ!!」
健と彌一の堪える笑いに、半分が優しさでできたボスが顔を憤怒に染めて怒鳴る。
そんなボスに彌一は笑いかけーーーー
「----死ね」
銃聲が一つ。
それが響くと同時にボスの橫にいた男の頭がぜる。ドサリと首がなくなった人が倒れ、ぜた片やがボスの頬に著く。
「.....は?」
ボスは突然倒れた部下に呆気にとられ間抜けな聲を上げる。そのほかの仲間も同じように呆けた表で彌一を見る。
突き出したレルバーホークを下げる。その瞬間、彌一から莫大な殺気が放たれる。大瀑布を思わせる殺気は空間を捻じ曲げているのではと錯覚させるほど。
バファリン山賊団はその殺気に顔面を真っ青にし、呼吸すら忘れてその場に膝をつく。中には彌一のプレッシャーに耐えられず泡を吹いて気絶する奴もいる。
彌一は莫大なプレッシャーを維持しながら、目を見開いて膝を著くボスのもとまで歩み寄ると、話せるようにしだけ殺気を弱めると、山賊が過呼吸気味に息を吸う。
ボスは全から滝のように汗を流しながら息を吸い、額にゴリッとい。
「........てめぇら、なに俺の嫁と娘に手ぇ出そうとしてんだ」
視線だけで人を殺すことのできるのではと思うほどの鋭い瞳で彌一が見ると、ボスは白い目を剝いて気絶する。
しかしそれを許す彌一ではない。レルバーホークを額から外しドパンッ! と一発の音が響き銃口から閃が奔るとボスの四肢を銃弾が貫く。
「がぁああああああああああああああっ!!!」
痛みで覚醒し四肢を投げ出して悲鳴を上げるボス。彌一は一発の銃聲のうちに四回引き金を引いていたのだ。
「ひっ! に、逃げろ!!」
「な、なんなんだあいつ!!」
目の前でボスがやられる姿に部下達は恐怖で逃げだす。
しかし、
「----【風刃】」
凜と響く詠唱が聞こえると、不可視の風の刃が逃走者を襲いその足を切斷する。
『あがああああああああああああああーーーーーっ!!!』
「.......逃がすと思う?私のユノちゃんと襲おうとしておいて」
一歩セナが踏み出す。剎那、セナの周囲を中心とし地面を這い周囲の木々や山賊の足を凍結させ、氷の世界が周囲を侵食する。
彌一にも負けない鋭い目で山賊たちを見るとそれだけで山賊たちは「ひっ!」とすくみ上る。
逃げることも気絶つすることも許されない。
人外の夫婦の娘に手を出そうとした時點で山賊たちの人生はいとも簡単に潰えた。
「さて、お前らわかってるだろうな?」
「ひっ!あ、悪魔め!!」
「悪魔、ねぇ......」
誰かが言った言葉に彌一はし間をおいて
「------悪魔ならよかったのになぁ?」
悪魔が可く見えるほどの笑みで彌一が笑う。悪魔は対価として命を奪う、逆に言えばそれだけ。だがいま彼らの前に立つのは悪魔ではない、悪魔すらも使役することのできる魔師だ。
その笑みですべての山賊が泡を吹いて気絶する。夢でもうなされているのか「助けてくれ」や「悪魔様お助けを」とうわごとの様につぶやいている。
そしてその凄慘たる戦いとも呼べない躙現場を見ていた健たちは
「魔王だ。魔王がいる......!」
「......雄也、あそこにあなたの倒すべき魔王がいるわよ」
「イヤだ。あの魔王倒しに行くくらいなら魔人族の魔王を倒しに行くほうがいい」
「やいくん、小さいころの優しいやいくんはどこいったの.....」
「おまえら散々な言いようだな......」
『でたな魔王っ!』
「だれが魔王だ!!」
散々な言いようの仲間に聲を荒げる彌一。セナが肩をポンポンとしてくるのがつらい。
「さて彌一こいつらどうする?」
「そうだな.....」
このまま放置しておくのも別の被害者が出てしまうかもしてれない。それにこいつらはこの周辺を見張っていた、自分たちが銀郎族の集落の道に続く木の道を見られたかもしれない。しかしだからと言ってこれだけの人數を近くの街まで連行している時間もない。
しばらく考えた彌一が出した答えは、
「.........魔のエサ?」
「やっぱりお前魔王か!?」
「わかった。食べやすい大きさにカットする」
「セナまでやめなさい!!」
山賊に歩み寄ろうとした夫婦を全力で引き留める健と彩。山賊のバラバラ死など見たくない。しかし二人は健と彩を引きずりながらもジリジリと歩み寄る。二人とも娘が狙われたことに怒り心頭のご様子。
彌一さん蒼羽スタンバーイ。
セナさん【風刃】スタンバーイ。
夫婦は止まらない!
目がマジな夫婦に、なんとかしなきゃ人解ショーの始まりよ!?いやよ!?そんなもの見たくない! と二人とも全力で引き留める。こうなればと彩が聲を上げる。
「それにユノちゃんの教育にも悪いでしょ!」
「「それもそうか」」
ユノを出すと意外なほどあっさりとどまる二人に「よかった....」と息を吐く健と彩。夫婦二人にとって最優先はユノ。山賊の処分とユノの教育なら即決で後者だ。
「ごめんなユノ?怖かったろ?」
彌一がユノの頭をでると、ユノは首を橫に振って逆に嬉しそうにしっぽを振って答える。
「うんうん。パパとママが守ってくれるって思ってたもん!だから怖くなかった!パパ、ママありがと!」
「そうか。ならよかった」
娘の大きな信頼に一人の父親としてとてもうれしく思う。セナも嬉しいのか優しい手つきでユノの頭をでている。
しばらく二人でユノの頭をでていると、コホンッと彩がわざとらしく咳き込む。
「さ、お二人さんそろそろ行きましょ。急がないとエルが待ってるわよ?」
「それもそうだな。よし、それじゃあ行くとするか。健、このゴミども縛り上げるから手伝ってくれ」
「いいけど、もし逃げられたらどうする?」
「心配するな。縄に拘束者から魔力を吸い取って強度を高める呪を掛けておくから」
そういった彌一はポイポイポーイ! と気絶したバファリン山賊団を投げて一か所にまとめていき、まとめてグルグルに簀巻きにしていく。そして適當な木に吊るすと木の板に『私たちは人攫いをしようとしました。』と書いて張り付ける。
「縄に呪を掛けて.......よし、できた」
「できたか?」
「おう。あとはこれを込むだけだ」
そうしてカバンの中から取り出したのは、緑のがった小瓶。
「それは?」
「セナやユノに手を出そうとした輩向けの薬。名付けて『息子が機能しなくな~る』」
健が間を両手で守り顔を青くする。だが彌一に手加減という言葉はない。
小瓶を人數分取り出し一人一人に小瓶を突っ込んで流し込む。小瓶まるまる一つなら一生機能しないだろう。
「さて行こうぜ」
「お、おう」
引きつり顔の健に構わず彌一はヘカートとトレーラーを呼びだし順々に乗り込んでいく。彌一は運転席、セナとユノが助手席、殘りはトレーラーの方に乗り込む。
「出発するぞ」
『いいよ~』
運転席とトレーラーの繋ぐ電話から凜緒の返事が屆くとアクセルを踏んでヘカートが走り出した。
「ん?......彌一、エルから連絡がきたよ?」
ヘカートで走り出してから數時間後。モニターにエルからのメールが屆くと腕の中で眠るユノを起こさないようにセナがメールを開く。
「エルはなんだって?」
「えっと....『グーデンタームに到著しました。これより報収集を開始します。二日後に宿屋で合流します』だって。宿屋の名前も書いてる」
「速いな。グーデンタームまでヘカートで二日かかるのに」
グーデンタームの道のりはここからヘカートで二日かかる距離にある。どうやって移したのか気になる彌一。
実はエルは【世界樹ユグドラシル】を使ってヘカート以上の速度で移したのだ。途中休憩を挾んだが、その程度の距離は難なく移できる。
「セナ、エルに『わかった』って送っといてくれ」
「うん」
手元のタブレットにしぎこちない作で文字を力してエルにメールを送る。スマホを渡して分かったのだが、セナは意外と機會が苦手らしい。
メールを打ち終わったセナが、「そういえば...」と言葉を続ける。
「霊の里の時もそうだけどまた山賊に出會ったね?」
「そういえばそうだな。山賊ってそんなにいるもんなのかねぇ~」
「どうだろう?あの辺は人がめったに寄り付かないから隠れ蓑にちょうどいいんじゃないの?流石にあそこに住んではいないと思うけど」
「そうなると今度ジキルさんに教えとかないとな。また人攫いなんかにあったらシャレにならん」
「そうだね」
山賊の対策を考えながらハンドルをひねって右へ曲がる。揺られる振が心地よいのかユノを抱きしめながらセナもうとうとし始める。
仲良く眠りについたセナとユノに苦笑いしつつ、夕日が赤く照らす平野をヘカートが進んでいく。
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