《「お前ごときが魔王に勝てると思うな」とガチ勢に勇者パーティを追放されたので、王都で気ままに暮らしたい》009 やっとまたあえたね
揺れる馬車の中で、フラム、ミルキット、セーラの3人は晝食を頬張っていた。
らかくもっちりとした白いパンには切れ目がっており、中にはスパイシーなソースが塗られ、野菜やが挾まれている。
パン自の甘みがソースの辛味をマイルドにしており、子供でも親しみやすい味に仕上がっていた。
王都を出る前に、ミルキットが早起きして作っていたものだ。
それを紙に包み込んで、晝食用に持ってきていたのだ。
「おいひいっふ」
セーラは、口いっぱいに詰め込んだまま言った。
ぷくっと膨らんだ彼の両頬を見て、フラムは思わず吹き出しそうになった。
「喜んでもらえてよかったです」
「ミルキット、料理もできたんだね」
「大したものではありません」
「そっかなぁ、本當に味しいよこれ。ソースはイチから作ったんでしょ?」
「まあ、それはそうですが……」
その料理の腕は、奴隷として培った技なのだろう。
フラムも料理はできる方だが、これは中々の腕のようだ。
何を使っているんだろう、今度レシピを聞かなければ……と真剣な表でパンにかぶりつく。
「そういえば、エニチーデってどんな町なんでしょうか」
「ひょんへもらひいなひゃっふよ」
「ぶふっ……セーラちゃん、食べてしまってからでいいよ」
フラムに笑いながら注意されると、彼は頬を揺らしパンをもっきゅもっきゅと咀嚼し、一気にごくりと飲み込んだ。
に詰まりそうなものだが、そんな素振りは一切見せない。
これが若さか、とフラムはまた1人ダメージをけていた。
「んぐ……とんでもない田舎町らしいっすよ、以前は薬草で潤ってたらしいっすけど」
「以前と言っても、私たちが生まれるより前だよね。取り締まりが始まったのって確か人魔戦爭の後だったはずだし」
人魔戦爭は30年前の出來事だ。
ある日、突然に魔族が人間の領土を奪うために攻め込んできた。
それを防ぐべく王國軍が立ち上がり、大きな被害をけたものの、退けることに功した。
戦いには教會の聖職者たちも參加しており、その功績もあって、教會は王國への強い影響力を持つようになった――ということになっている。
確かにオリジン教は王國における宗教の最大勢力ではあったが、當時はまだ他の宗教を信仰する國民も殘っていた。
だが、それから30年経った現在、オリジン教以外の教會は王國にほぼ存在していない。
「なんでそこまでして薬草を嫌うのかわかんないっす」
「教會でも、理由は教わらないんですか?」
「教會では、“薬を飲むと信仰が弱まる”とか、“回復魔法の効き目が弱まる”とか言ってるっすけど、そんなの信じるわけないっすよ……それでも、中には信じ込んでる子もいるっすけど」
子供の頃からそう教え込まれれば、信じてしまう子も出てくるだろう。
セーラはそうならなかったようだが――馬車が揺れると、彼のもぐらりと傾く。
フラムはそんな彼の首の後ろに、妙な青いタトゥーがあることに気づいた。
「ねえセーラちゃん、その首の後ろのやつってなに?」
「ああ、これっすか」
セーラは指先でそれにれながら説明した。
「おらの故郷は……今はもう無いんすけど、オリジン様じゃない神様を信仰してたらしいっす。両親がその熱心な信者だったんで、まだ小さかったおらに信者の証を刻んだんすよ。これ、特殊な塗料を使ってるとかで消えないんすよね、だからこのままっす」
特殊な塗料とは、フラムの奴隷の印に塗られたものと同じようなものだろうか。
しかし、今はもう故郷が無いとは一――聞いていいものか迷ったが、セーラは自ら語ってくれた。
「ちなみにおらの故郷は、魔族に滅ぼされたっす。8年も前のことで、おらは2歳だったんでほとんど覚えてないっすけど」
彼は力なく笑う。
「あのマリアねーさまも同じだったっす。だから、おらのことをかわいがってくれたのかもしれないっすね」
「マリアさんも……」
互いの境遇を話したことなど無かったので、彼にそんな事があったとはフラムも知らなかった。
魔族を前にすると様子がおかしかったのは、故郷を滅ぼされた恨みがあったから。
ひょっとすると、誰よりも魔王討伐の旅に強い思いれを持っていたのは、マリアだったのかもしれない。
そんな彼からしてみれば、全く戦えず、何の役にも立たないフラムの存在は邪魔以外の何でも無かっただろう。
「今でも魔族は、人間の領地に來ては破壊を繰り返してるっす」
「え、今でもそうなの?」
「あんまり表には報が流れてないっすけど、田舎の方では潰された町がいくつもあるっす」
王都の新聞にだってそんな報は掲載されていなかったはずだ、だとすると教會の人間だけが知る極報ということになる。
薬草の在り処と言い、セーラはどうにも、今の教會の方針に納得が行っていないように思える。
「幸い、死者は1人も出てないみたいっすけど、絶対に許せないっす! おら、魔族を見つけたら必ず倒してみせるっすから!」
セーラは語気を強める。
故郷が滅ぼされた記憶は無い、だが憎しみは確かに刻まれているということか。
人魔戦爭が終わった今でも懲りずに破壊活を続ける魔族たち、彼らに対して憤怒するセーラの気持ちはフラムにもよくわかる――だが妙な話だ、と首を傾げた。
なぜ死者が1人も出ていないのだろう。
フラムは、三魔將の強さを自分の目で見たことがある。
あの力があれば、田舎の小さな町など住民もろとも一瞬で火の海に変えられてしまうはずだ。
……その気がないから?
故郷を滅ぼされたセーラが居る手前、堂々とその仮説を言葉にすることはできない。
だがだとしたら、本當に悪いのは一誰なのか――
「でもその前に、魔族と會っても勝てるように強くならないといけないっす」
「そういえば、あの泥棒たちをあっさり捕まえていましたが、セーラ様はどれぐらい強いのでしょう」
「フラムおねーさんと一緒でちゃんで良いっすよぉ、様ってなんかむずいっす」
「そういうわけには……」
「セーラちゃんが嫌がってるんだからそうしてあげなさいよ」
「……ご主人様がそうおっしゃるなら。では、セーラさん、と」
ミルキットが言い直すと、セーラは“うんうん”と満足げに頷き、ついでにパンに噛み付いた。
「すひゃんでみるといいっしゅよ」
「わ、わかりました……『スキャン』」
彼がスキャンを使えるようになったのは、昨夜のことだ。
読み書きは後回しになってしまったが、何かと使う機會が多いだろうということで、一晩かけて教えたのである。
初めての魔法行使ということで、ミルキットはやけに構えていた。
とは言え、細かい制も必要としないスキャンは、子供にだって簡単に使える魔法だ。
一度コツさえ摑んでしまえば、どんなに不用な人間だって使うことができる。
『私なんかには無理だと思います』と自信なさげだった彼も、使えるようになるまでの所要時間はほんの一時間程度。
スキャンの扱いを覚えた彼は、はしゃいだ様子で、フラムや彼の裝備のステータスを何度も確認していた。
あとは、表示される文字の意味や數値の目安を教えるのに數時間。
ひたすらに簡単な単語や數字の解説をするだけだったが、ミルキットは終始楽しそうな様子で、フラムもそんな彼を見ていると自然と笑顔になっていた。
視界に表示される文字と報を、ジーっと見つめるミルキット。
前のめり気味になる彼の姿を見て、手を口にあててくすりと笑うと、フラムも念のためセーラのステータスの確認をすることにした。
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セーラ・アンビレン
屬:
筋力:285
魔力:301
力:123
敏捷:227
覚:133
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そして驚く。
これが10歳のステータスか、と。
合計値は1069、冒険者で言えば下位のCランク程度の実力。
年齢からしてまだまだび代はある。
多の好き勝手が許されているのは、教會が彼の才能を認めているからかもしれない。
思っている以上に高いステータスに焦りを覚えたフラムは、慌てて自分の手のひらに浮かぶ紋章と、傍らに置いた篭手にスキャンをかけ、ステータスを確認した。
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名稱:魂喰いのツヴァイハンダー
品質:エピック
[この裝備はあなたの筋力を320減させる]
[この裝備はあなたの魔力を99減させる]
[この裝備はあなたの力を297減させる]
[この裝備はあなたの敏捷を183減させる]
[この裝備はあなたの覚を111減させる]
[この裝備はあなたのを溶かす]
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名稱:塗れのスチールガントレット
品質:レア
[この裝備はあなたの筋力を82減させる]
[この裝備はあなたの魔力を101減させる]
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合計値は1193――大丈夫だ、まだ負けていない、とをなでおろす。
魂喰いは、おそらくアンズーを殺した影響だろう、その呪いを強め若干ではあるが減値が増加していた。
とはいえ、変したのはごく微量。
もっと大きなステータス上昇をむには、大量のモンスターを斬らなければならない。
その速度が、才能かなセーラの長速度に追いつくかと言うと微妙な所である。
別に競い合っているわけではない。
なので焦る必要は無いはずなのだが、いつの間にか“おねーさん”と呼ばれるようになったである以上は、お姉さんらしく彼に尊敬される自分で居たいのである。
「お2人が著てる服は、特にエンチャントの無いコモン品質なんすか」
セーラは2人の服にスキャンをかけながら言った。
コモン品質の裝備にはエンチャントが付與されていない。
つまりは、ごく普通の道ということである。
「デザインを気にしなければレアぐらいの服は買えるんだけど、さすがにね」
「確かに、デザインが良くて能も高い服は、ちょっと手が出ないっすよねえ」
もっとも“コモン”であるのは裝備としての品質であって、服としての良し悪しまではスキャンで見ることはできない。
「それにしても可い服っすよね、フラムおねーさんのは……こう、おらが著ると子供っぽくなりそうっすけど」
セーラは自分の発展途上の手足を見て、がっくりと項垂れた。
だがすぐに復活して、次はミルキットの服を褒めちぎる。
「でも、ミルキットおねーさんのは憧れるっす。フリフリしたレースとか、元のリボンとか、可さが詰まってるっすよね。おらもたまにはそういうの著てみたいっす」
「これ、ミルキットが自分で選んだの。ほんと似合ってるよね、毎日見るだけで幸せになれるっていうか」
「わかるっす、うちにも1人しいっす」
「だめだめ、この子はうち専用のメイドさんなんだから」
そう言って、フラムはミルキットの腕を抱き寄せる。
2人がかりでの賞賛に、褒められ慣れていないミルキットは恥ずかしくて俯いてしまった。
「……ご主人様たち、もしかして私をからかってませんか?」
「ふっふっふ、バレた?」
「いやあ、ミルキットおねーさんは鋭いっすねえ」
「うちの自慢のメイドだし?」
「またそんなこと言って、もう……」
彼は頬を膨らます。
その表の変化は、包帯越しでもよくわかった。
そういう仕草も含めて、フラムは彼のことを、素直に可いと思えるようになっている。
そしてミルキットも、褒められてもすぐに“そんなことはありえない”と自己否定していた部分が、しずつではあるが“嬉しい”と素直にけれられるようになってきた。
恥ずかしいことに変わりは無いが。
數日間だが、一緒に暮らした時間は、確実に2人の距離をめているのである。
「ほんと、憧れるっす」
セーラは、楽しげにじゃれあう2人を見ながら言った。
脳裏に浮かぶのは、自分の姉代わりであったマリアの姿。
最近はあまり會えていない。
その寂しさが、姉妹のようなフラムとミルキットを見ていると、蘇ってくるようであった。
◇◇◇
退屈な馬車での移の時間も、3人で話しているとあっという間に過ぎていく。
中継地點の町で一泊し、ご當地の名に舌鼓を打ち、翌朝再び馬車に乗り込む。
天候や道、馬の狀態によってはもう一泊することも考えられていたが、その日の夜のうちには目的地――エニチーデに到著していた。
馬車は3人を降ろすと、別の町へと移する。
次に馬車がここに來るのは3日後。
それまでに薬草の採取が終わっていなければ、また日にちを空けて迎えに來てもらうことになるが、さすがにその頃には終わっているだろう。
町に降り立った3人は、眼前に広がる景を見て立ち盡くした。
確かに民家はいくつも立ち並んでいるのだが、そのうち明かりが燈っているのは數えられる程度。
街燈1つないメインストリートはほとんど闇に包まれており、進むのに窟探索のために用意されたカンテラで照らす必要がある有様だ。
「本當に人が住んでるんだよね、ここ」
「もう數十人しか居ないのかもしれないっすね」
「そんな場所に、宿なんてあるんでしょうか」
どこの町にも、一箇所ぐらい泊まれる施設があるはず。
そう信じて探索するも、一向に宿は見つからず、そして道を訪ねようにも人が居ない。
場合によっては、町の住人にお願いして泊めてもらうことも考えるべきか。
あるいは野宿も視野にれて――そんな考えが脳裏をよぎった時、
「そこじゃないですか?」
ミルキットが宿屋らしき看板を発見した。
しかし、建の中は暗く、り口にも鍵がかかっている。
フラムが扉にカンテラのを近づけると、そこには所々が破れた張り紙がしてある。
彼はそのまま文章を読み上げた。
「『當宿に用の方は、隣の家のステュードまでお申し付けください』……って、もしかして誰か來ない限り、普段は開けてないのかな」
「それだけお客さんが來ないと言うことでしょうか」
「薬草が採れてた頃は賑わってたんすよね、教會のせいでこうなったと思うと何だか悲しいっす……」
3人は何やらアンニュイな気分になったが、ここで傷に浸っていてもしかたない。
早速、フラムを先頭に隣の民家を訪れ、玄関のベルをカランカランと鳴らした。
すると中から、眠そうな太った中年男が顔を出した。
彼がステュードらしい。
フラムが「宿を使いたい」と伝えると、彼は「何年ぶりだか」と驚いた。
一気に不安になる一行。
だが、曰く掃除はきちんとしているらしく、実際に宿の鍵を開いてもらい中にると、確かに割と綺麗ではあった。
いくつかある部屋の中から、ダブルの部屋を一箇所選び、ステュードからフラムが鍵をけ取る。
「食事はもう提供してない、ただ調理室は生きてるはずだから、料理をするつもりならそこを使ってくれ」
「勝手にいいんすか?」
「ああ、どうせ滅多に誰も使わないからな、好きにしてくれ。食材は大通りの商店で買えるし、一応だがその近くにある店で外食もできる。あと何か困ったことがあったら、隣の家に來るといい。対処できることなら対処するし、無理なら別の部屋に移ってもらってもいい、そのへんも好きにしといてくれ」
なんとも投げやりな説明を終えると、ステュードは立ち去った。
フラムたちはしばし呆然と彼の後ろ姿を眺めていたが、ここはそういう場所なのだ、深く考えても仕方ない。
無事、屋の下で宿泊できる場所が見つかったのだ、ひとまずはそれを喜ぶことにした。
部屋にると、フラムとセーラはそそくさと隅に荷を置いた。
そしてベッドを前に2人で顔を見合わせ、頷き合うと、ベッドに向けて軽く助走を付け――両手を上に上げて、顔からベッドに飛び込む。
ぼふっ!
「……?」
その奇妙な儀式を、ミルキットはひとり立ち盡くして見ていた。
しかし、フラムはベッドに埋もれたまま、彼をうように自分の真橫を叩いている。
“お前も飛び込むがよい”、そう言いたいのだろう。
主からの命令に逆らうわけにはいかない。
ミルキットは軽く助走をつけて、控えめにぽふっとベッドに飛び込んだ。
よくわからないが、ちょっぴり楽しい。
「……これは、何の意味があるんでしょうか」
ベッドに顔を沈ませたまま尋ねるミルキット。
「ふかふかのベッドを見たら飛び込みたくなるじゃない?」
「なるっす」
「つまり、そういうことよ」
「はあ……」
結局よくわからないままだった。
まあ、楽しいのなら理由など必要ないのだろう、とミルキットは結論づけた。
その後、3人は起き上がるとしばし歓談し、小腹が空いてきた頃に荷からパンを取り出し――こちらは特に何も挾まっていないプレーンなパンだが――それを齧って夕食とした。
宿の風呂が使えないことに気づきステュードに相談すると、家の風呂を使えという話になり、隣の民家でお風呂を借りたり。
セーラが背びして「の話でもするっす!」と言い出すも、全員経験が無いので特に話が広がらないまま終わったり。
その後もいくつかのイベントがあったが、馬車での旅の疲れもあり、3人は割と早い時間に、同じベッドの上で川の字になって眠りについた。
寢る直前、「私は床でいい」と言い張るミルキットを、フラムが強引にベッドに寢かせたのは言うまでもないことである。
◇◇◇
そして翌朝、フラムは「起きるっすー!」というセーラの騒がしい聲に起こされた。
教會ぐらしの彼は普段から規則正しい生活をしているらしく、起きるのが非常に早い。
ミルキットも早起きが染み付いているようで、自ずと最後まで殘るのはフラムになる。
寢ぼけ眼をこすって起きた彼は、支度を済ませると、さっそく外へ繰り出した。
通りの店で本日の食料調達をすると共に、報収集を行うためだ。
朝の明るい時間に見るエニチーデの町並みは、昨晩と違って――さらに寂れて見えた。
おそらくメインストリートには、以前はたくさんの店が並んでいたのだろう。
だが今では見る影もない。
その名殘だけが殘っているせいで、余計に廃れて見える有様だ。
3人は開いている店を探して、きょろきょろと周囲を見回しながら進んだ。
先に見つけたのは、ステュードが言っていた外食ができる店だ。
建自はボロボロだったが、店の中は比較的綺麗で、味にも期待できそうではある。
さらに進むと、明かりはついていないが、野菜やいくつかの日用品が並ぶ店を見つけた。
足を踏みれ店の様子を見てみると、奧のカウンターにおばあさんが座っており、眼鏡をかけて何やら本を読み耽っている。
彼はフラムたちの存在に気づくと、
「他所からのお客さんかい、珍しいねえ」
と聲をあげた。
セーラは軽く會釈して駆け寄り、人懐こい笑顔を向ける。
「王都からきたっす!」
「へえ、王都から。しかも変わった格好のの子が3人で? これまた珍しいこともあるもんだ、もう薬草だって取れないってのに」
「取れないっすけど、生えてはいるんすよね?」
「そりゃそうだろうけど、あんな化が徘徊してる窟、誰も近寄らないよ。あんたらもあそこに行くつもりならやめときな、ロクな場所じゃない」
おばあさんは忌々しげにそう言い捨てた。
今度はフラムが近づき、尋ねる。
「化って、的にどんな奴が居るんですか?」
「わかんねぇ、わたしゃ直接見たわけじゃないからねえ。見たことあるやつはみんな死んじまったんじゃないかい? ただあんたらと同じように薬草目當てでった冒険者が何十人も居たが、帰ってきたって話を聞いたことが無いよ」
「誰も、ですか?」
「あぁ、例外なくね。そういや今日の朝も、窟の場所を聞いてきた男たちが居たねえ。1日で2組なんてそれこそ珍しい。忠告はしたんだが、今頃おっ死んでるころじゃないかねぇ……」
遠い目をしながら言う老婆。
ある種の確信を持って言い切る彼を前に、フラムたちは思わず黙り込んだ。
モンスターではなく、化。
一窟には何が存在しているのか、自分たちの目で確かめるしかなさそうである。
店で食料を購し、一旦宿に戻る。
そこで晝食を作り、持ってきた籠に詰め、荷に加えた。
「本當に、大丈夫なんでしょうか」
準備を終えたフラムとセーラは、荷を抱えて宿を出る。
今回はミルキットはお留守番だ、さすがに化の居る窟に、戦闘能力のない彼を連れていくわけにはいかない。
「まず第一に、やばいと思ったら真っ先に逃げるから」
「でも……」
「おらもついてるっす!」
「ミルキット、心配する気持ちはわかるけど、笑顔で見送ってくれないと思うように力が出せないかもよ?」
「そういう言い方は卑怯です」
「んっふふふ、そういうご主人様だって知ってるでしょ? んじゃ、行ってくるね」
「行ってくるっすー!」
そう言って、ミルキットの元を去っていく2人。
まだ不安は晴れないが、それでフラムのやる気が出るのなら、と彼は包帯の下で無理に笑顔を作って頭を下げた。
「いってらっしゃいませ、ご主人様、セーラさん」
◇◇◇
町を出て歩くこと30分。
鬱蒼とした森の中を、道に沿って、目當ての窟はぽっかりと口を空けて、突如そこに現れた。
薬草採取で賑わった頃に整備されたのだろう、り口は自然に空いたものとは思えないほど大きく拡張されている。
しかし今はあまり人が足を踏みれていないのか、所々が苔むしていた。
フラムは「ふぅ」と息を吐いて張にれる呼吸を整え、カンテラにを燈して窟に足を踏みれる。
苔でる地面に気をつけながら、じめっとした暗い道を延々と進んでいく2人。
「思ったより、明るくないっすか?」
セーラが小さな聲で言ったにも関わらず、聲はかなり反響している。
「確かにそうかも。ところどころ、天井の切れ目からが差し込んでるみたい」
そしてが差し込んでいる部分には、薬草らしき植が生い茂っている。
おそらくキアルリィの群生地も、同じように上からがれてきているのだろう。
試しに明かりを消すと、それでも意外と問題はなさそうだ。
そのまま進んでいくと、さらに道は広くなった。
削れた壁を見るに、やはりここも人の手で広げられたもののようだ。
「グゴ……」
奧から、獣じみた聲が聞こえた。
フラムが「シッ」とに人差し指を當てると、セーラは息を殺す。
足を止め耳を澄ますと、人のものではない足音が微かに鳴っている。
可能な限り足音も消し進み――曲がり角からフラムが顔だけ出してその姿を確認する。
緑のをした、筋隆々の、3mほどある人型のモンスター。
「オーガっすね、Cランクモンスターっす」
セーラが小さな聲で言った。
時折見える橫顔は、文字通り鬼のような形相をしており、鋭く顎あたりまでびた牙が圧迫を引き立てる。
額の中央には一本角が生えており、窟の天井ギリギリを掠めていた。
フラムはスキャンを発、ステータスの確認を行った。
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オーガ
屬:土
筋力:608
魔力:9
力:623
敏捷:136
覚:81
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見た目通りのステータスをしている。
魔法を警戒しなくてよかったり、群れを形しないため、戦いやすい部類のモンスターではある。
なくとも、いきなり風魔法を放ってくるアンズーよりは遙かにやりやすい。
しかも今回は2対1の戦いだ、前回より遙かに楽になっているはず。
だが一発への警戒は怠ってはならない、當たりどころが悪ければ即死の危険だってあるのだから。
「2人ならどうとでもなると思うっす」
フラムのステータスについては、昨晩のうちにセーラに説明している。
もちろん最初に驚いてはいたが、実際に王都で男を取り押さえたことを知っているので、その能力を疑ったりはしない。
「……よし、行こう」
オーガが背中を見せた時、フラムの合図で2人は同時に駆け出した。
それからの戦いは、実に一方的なものであった。
フラムの魂喰いとセーラのメイスによる重い一撃は、確実にオーガの命を削っていく。
特にセーラの、のひねりを加えて繰り出される打撃は、フラムの想像以上の威力だった。
10歳でこれなのだから、やはり末恐ろしいだ。
オーガは吠えながら腕を振り回したが、冷靜沈著な2人に攻撃があたることは無い。
ダメージを負うごとにモンスターのきは遅くなっていき、力の差は開く一方。
最後はフラムがを貫き、大剣を引き抜くと――巨は顔面から地面に倒れた。
2人は協力してオーガのをひっくり返し、そして頭部から牙を切り抜く。
オーガの牙は、武の素材としてそこそこの値段で売れる。
目的は薬草だが、確保しておいて損は無い。
取得した牙を軽く拭いて袋に詰めると、窟の探索を再開した。
思っていた以上に広い窟らしく、時折モンスターらしき聲は聞こえてくるものの、中々遭遇はしない。
帰り道で迷わないよう、壁にマーキング用の塗料を塗って、先に進んでいく。
すると、次第に窟部の明るさが増してきた。
外が近づいているのだろうか。
曲がりくねった道を行き、ようやく見えた源に向かって歩いていくと――
「こんな場所があるなんて……」
「窟の中で薬草って不思議だとちょっと思ってたんすけど、こういうことっすか」
天井の無い、開けた空間が広がっていた。
そこには空から優しく太のが差し込み、湧き水が小川となって流れ、植の憩いの場とも呼ぶべき環境を形している。
窟の庭、そう稱するのが一番しっくりと來るだろう。
大小様々な草木が生い茂るここならば、キアラリィが生育していてもおかしくはない。
「でもなんか……」
澄んだ空気に、過ごしやすい溫度。
思わず生い茂る草の上に寢転がってしまいたいような環境――なのだが。
「……やけに、靜かじゃないっすか?」
セーラは不安げにフラムに向かっていった。
彼も頷き、同意する。
これだけ生が暮らしやすい場所であるにも関わらず、なぜか、生命の気配がしない。
水のせせらぎと、風にゆれる葉のこれすあう音だけが、どこか不気味に響いている。
「とりあえず、薬草を見つけて早めに帰ろっか」
「そうっすね、長居しない方がいいかもしれないっす」
そう言って2人は頷き合うと、二手に別れて薬草を探し始める。
だが、その直後。
ドオォォオンッ!
2人の背後から、けたたましい発音が轟いた。
ビクッとを震わせ音の方へ振り向いたフラム。
彼がそこで見たのは、壁が崩れ落ち塞がってゆく帰り道・・・と、その向こうで下品に笑う2人組の男の姿だった。
「な、なんでいきなり発したっすか!?」
「まさか……デインの手下? ばっかじゃないの、こんな所まで追いかけてきてたっての!?」
リーチのカバンを盜んだ2人を、教會騎士に突き出した復讐のつもりだろうか。
今になって思えば、町のおばあさんから聞いたフラムたちの前に報収集をしていた2人組というのは、あの男たちのことだったのだ。
しかしまさか、王都から馬車で2日もかかるエニチーデまでわざわざ尾行するとは、想像すらしていなかった。
崩落が収まった頃、フラムは巖で塞がれたに近づき、狀況を確かめる。
「これは手でかすのは難しいかな……無理じゃないだろうけど」
「力づくでやると、また崩れてくるかもしれないっす。別に出口を探した方がいいんじゃないっすか?」
「そう、だね。えっと……ごめんね、なんか大変なことに巻き込んじゃって」
「なんでおねーさんが謝るんすか? デインって、確か西區の冒険者をまとめてる悪いやつっすよね。なら悪いのはあいつらっす、無事出できたらおらがこの手で裁いてみせるっす!」
拳を握り、力強く宣言するセーラ。
個人的な怨恨の巻き添えにしてしまったことを強く悔やむフラムは、し救われた気分になった。
なにはともあれ、ここから出できないとなると、セーラの言う通り別の出口を探すしか無い。
そんなものがあれば、の話になるが――この場所は広い、まだまだ探索すべき部分はいくらでもある。
「よしっ、じゃあまずは薬草を見つけて、その後で出口探し――」
フラムがそう言いかけた時、ガサッと何かがくような音がした。
言葉を中斷し、茂みの方へと視線を向ける。
「どうかしたっすか?」
「今、何かいた音が聞こえたような……モンスターかも」
しばらく止まったまま、音のした方を見ていると――遠くにちらりと、緑のの、大きな人型生が見えた。
「オーガみたいっすね、先に倒しちゃうのがいいと思うっす」
「……」
「おねーさん?」
「……ちょっと待って」
だがフラムは、そのオーガの姿に違和を覚えていた。
先程ちらりと見えた顔の部分、そこが先程倒した個と、あまりにも違いすぎなかっただろうか。
葉に隠れてよく見えないが、モンスターが移し、再びその頭部が現れた時。
「なに、あれ……」
フラムは絶句した。
顔が無いのだ。
その変わりに、皮が剝がれ、赤いが剝き出しになり、それがまるで渦のように時計回りでねじれている。
さらにの渦は、現在もを滴らせながら回転を続けていた。
顔から流れ落ちた赤いが元や肩を濡らし、オーガらしき生のはその部分だけが黒に近いに変している。
「オーガじゃ、ない……? いや、でも、はオーガっすよね?」
「す、スキャンッ!」
まず正を探るには、スキャンを用いるのが一番だ。
魔法を発したフラムの視界に、モンスターの報がずらりと並ぶ。
--------------------
みつけた
or:おまえはなぜigからにげるか
筋りょクオリを、:7sin
マりょ力:報え報え報え
力力:9dea1d定メ、い
敏捷:救イである
死ね:14
------------履行せよ、ふラむ--------・アプリコット
理解不能な文字の羅列。
本能が危険を訴え、心臓が鷲摑みにされたように痛んだ。
フラムは思わずを摑み、をこませる。
「な、なんすかこれ……こんなの、見たことないっすよ……!?」
同じくスキャンを発したセーラも、怯え、後ずさる。
魔法の発不全はよくある話だが、スキャンほど簡単な魔法でそれが起きるなど聞いたことが無い。
それも、2人に同時になんて。
つまり表示されたあのモンスターの報は、正しいものなのだ。
あれには、そういう報が、刻み込まれているのだ。
「それに……なんで、おねーさんの名前が、あれのステータスに!」
「わかんない、でも――ッ!」
ずっと遠くを歩き、こちらに気づいていないと思っていたオーガのような何かは、スキャンを発した直後に首を回し、回転するの顔で2人の方をじっと見つめた。
正円が、若干橫にびた楕円形になっている。
フラムにはそれが、まるで笑っているように見えた。
「たぶん、逃げないと、まずいかも」
緑の拳が強く握られ、天にかざされる。
化・・はそれを全力で振り下ろし、地面に叩きつける。
本來、魔法の使えないオーガがそのようなことをしても、威嚇以上の意味は無いはずである。
だがその直後――フラムは、自分の足元がぐにゃりと歪んだのをじた。
人類最後の発明品は超知能AGIでした
「世界最初の超知能マシンが、人類最後の発明品になるだろう。ただしそのマシンは従順で、自らの制御方法を我々に教えてくれるものでなければならない」アーヴィング・J・グッド(1965年) 日本有數のとある大企業に、人工知能(AI)システムを開発する研究所があった。 ここの研究員たちには、ある重要な任務が課せられていた。 それは「人類を凌駕する汎用人工知能(AGI)を作る」こと。 進化したAIは人類にとって救世主となるのか、破壊神となるのか。 その答えは、まだ誰にもわからない。 ※本作品はアイザック・アシモフによる「ロボット工學ハンドブック」第56版『われはロボット(I, Robot )』內の、「人間への安全性、命令への服従、自己防衛」を目的とする3つの原則「ロボット工學三原則」を引用しています。 ※『暗殺一家のギフテッド』スピンオフ作品です。単體でも読めますが、ラストが物足りないと感じる方もいらっしゃるかもしれません。 本作品のあとの世界を描いたものが本編です。ローファンタジージャンルで、SFに加え、魔法世界が出てきます。 ※この作品は、ノベプラにもほとんど同じ內容で投稿しています。
8 81「無能はいらない」と言われたから絶縁してやった 〜最強の四天王に育てられた俺は、冒険者となり無雙する〜【書籍化】
【Kラノベ ブックス様より1〜2巻発売中】 【コミカライズ、マガポケ様にて好評連載中】 剣、魔法、治癒、支援——それぞれの最強格の四天王に育てられた少年は「無能」と蔑まれていた。 そんなある日、四天王達の教育という名のパワハラに我慢できなくなった彼は『ブリス』と名を変え、ヤツ等と絶縁して冒険者になることにした。 しかしブリスは知らなかった。最弱だと思っていた自分が、常識基準では十分最強だったことに。あらゆる力が最強で萬能だったことを。 彼は徐々に周囲から実力を認められていき、瞬く間に成り上がっていく。 「え? 今のってただのゴブリンじゃなかったんですか?」「ゴブリンキングですわ!」 一方、四天王達は「あの子が家出したってバレたら、魔王様に怒られてしまう!」と超絶焦っていた。
8 122Astral Beat
ある梅雨明けの頃、家路を急いでいた少年は、巷を騒がせていた殺人鬼に遭遇し、殺されてしまう。 気が付いた時には、異能力が発現し、しかも、美少女になっていた!? 異能力によって日常が砕かれた彼(彼女)は、異能力による數々の事件に巻き込まれていく。偽りの平和と日常の瓦礫の中で何を見るのか。 そんな、現代風シリアス異能バトルコメディ、ここに爆誕。
8 97勇者のパーティーから追い出されましたが、最強になってスローライフ送れそうなので別にいいです
ある日、精霊大陸に『星魔王』と呼ばれる存在が出現した。 その日から世界には魔物が溢れ、混迷が訪れる。そんな最中、國々は星魔王を倒す為精鋭を集めた勇者パーティーを結成する。 そのパーティーの一員として參加していた焔使いのバグス・ラナー。だが、スキルの炎しか扱えない彼の能力は、次第に足手纏いとなり、そして遂に、パーティーメンバーから役立たずの宣告を受ける。 失意の內に彷徨った彼は、知り合った獣人をお供にやがて精霊大陸の奧地へと足を踏み入れていく。 精霊大陸がなぜそう呼ばれているのか、その理由も深く考えずにーー。
8 81魂喰のカイト
――《ユニークスキル【魂喰】を獲得しました》 通り魔に刺され、死んだはずだった若手社會人、時雨海人は、気がつくと暗闇の中を流されていた。 その暗闇の中で見つけた一際目立つ光の塊の群れ。 塊の一つに觸れてみると、なにやらスキルを獲得した模様。 貰えるものは貰っておけ。 死んだ直後であるせいなのか、はたまた摩訶不思議な現象に合っているせいなのか、警戒もせず、次々と光の塊に觸れてゆく。 こうして數多のスキルを手に入れた海人だったが、ここで異変が起きる。 目の前に塊ではない、辺りの暗闇を照らすかのような光が差し込んできたのだ。 海人は突如現れた光に吸い込まれて行き――。 ※なろう様に直接投稿しています。 ※タイトル変更しました。 『ユニークスキル【魂喰】で半神人になったので地上に降り立ちます』→『元人間な半神人のギフトライフ!』→『魂喰のカイト』
8 74シスコン&ブラコンの天才兄妹は異世界でもその天賦の才を振るいます
───とある兄妹は世界に絶望していた。 天才であるが故に誰にも理解されえない。 他者より秀でるだけで乖離される、そんな世界は一類の希望すらも皆無に等しい夢幻泡影であった。 天才の思考は凡人には理解されえない。 故に天才の思想は同列の天才にしか紐解くことは不可能である。 新人類に最も近き存在の思想は現在の人間にはその深淵の欠片すらも把握出來ない、共鳴に至るには程遠いものであった。 異なる次元が重なり合う事は決して葉わない夢物語である。 比類なき存在だと心が、本能が、魂が理解してしまうのだ。 天才と稱される人間は人々の象徴、羨望に包まれ──次第にその感情は畏怖へと変貌する。 才無き存在は自身の力不足を天才を化け物──理外の存在だと自己暗示させる事で保身へと逃げ、精神の安定化を図る。 人の理の範疇を凌駕し、人間でありながら人の領域を超越し才能に、生物としての本能が萎縮するのだ。 才能という名の個性を、有象無象らは數の暴力で正當化しようとするのだ。 何と愚かで身勝手なのだろうか。 故に我らは世界に求めよう。 ───Welt kniet vor mir nieder…
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