《「お前ごときが魔王に勝てると思うな」とガチ勢に勇者パーティを追放されたので、王都で気ままに暮らしたい》024 想い、ひとしずく

フラムは魂喰いを力任せに振り下ろす。

フォン――バギィッ!

デインの首筋を狙って繰り出された斬撃を、彼はまた後退して避けた。

空振りした鉄塊が木製の床を打ち砕く。

今は外したが、デインの背中には壁、もう後はない。

反撃しようにも、この距離はクロスボウには向かない。

手元のメインウェポンを捨てて腰に下げた短剣に頼らなければ、反撃の余地もないだろう。

これがトドメ――疑念で生じる揺れをあえて捨て、フラムは大膽かつ勇猛に踏み込む。

デインはバックラーを斜め上に構え、指をくいっと曲げる。

巻きついた紐がびると、バシュッ、と勢い良くワイヤーが出された。

先端の尖った金屬塊が壁に當たると――カシャンッ、と衝撃で花が咲くように開きフックへと変形する。

そしてデインは盾の裏に仕込まれた機構に魔力を注ぎ、高速でワイヤーを巻き取り、まるで空を飛ぶ様に出地點へと移

彼のを斷ち切るはずだった魂喰いの刃は空を切る。

すぐさま振り返るフラム。

壁に張り付いたデインは引き金を引き、彼目掛けてボルトを放つ。

「たかが単発――!」

撃ち落とす。

そう心に決めて、剣を構える。

「甘いんだよ、スプレッドォ!」

それは魔法発の合図。

ボオォッ!

空中でボルトが燃えたかと思うと、破裂し、分裂する。

無數の火の玉となったそれは、一斉にフラムに殺到した。

剣では凌ぎきれない、そう判斷した彼は橫へ飛び、転がりながら著地。

そこにデインは続けざまに矢をる。

「スプレッド、スプレッド、スプレッドォッ! はっははは、呪いだか何だか知らねえが、そもそも実力差があんのに、奴隷風が英雄も連れずに僕に勝てると思ってんのかよォ!」

必死に走りながら、降り注ぐ火の雨から逃げるフラム。

そのうちいくつかが肩を掠め、服を破りが滲んだ。

傷はすぐに治るが、痛みに顔が歪む。

床も焼け、焦げ臭い匂いが教會に漂っている。

しかしそこで、攻撃の手が微かに緩んだ――そこを彼は見逃さない。

「っつあぁぁっ!」

不安定な勢から剣を振り、放つ騎士剣キャバリエアーツは気剣斬《プラーナシェーカー》。

鋭利な剣気がデイン目掛けて一直線に飛んでいく。

彼はまた指をかし、先ほどとは別の糸を引くと、フックはカチッという音と共に閉じ、固定を解除した。

「だからどうしたぁっ!」

床に自由落下する著地點を目掛けて、フラムはさらに追加の気剣斬プラーナシェーカーを放つ。

「くっはは、読みが素人なんだよぉ! イクスフロート!」

再びデインの火屬魔法――足元の空気がぜ、彼のがふわりと宙に舞う。

バギィッ!

無論、著地狙いだったフラムの攻撃は命中せず、壁面を砕くだけである。

デインは地面に降りることなく、浮いた狀態で次の場所にワイヤーを出。

巻き取り、空中を高速で移しながらクロスボウをする。

またスプレッド――そう予想して魂喰いを盾にするフラム。

「馬鹿が! 次はバーストだ!」

ボルトは拡散しない・・・・・。

障害に衝突した瞬間に発する、そんな魔法が込められていた。

チッ――そんなわずかな著弾音。

フラムの背筋が凍る。

デインはにやつく。

次の瞬間、ボルトは衝撃に反応して炸裂する――はず、だった。

しかし思通りに事は進まない。

フラムの腕に力がこもる、魔力が伝達され導通する。

魔法の発は――

「リヴァーサルッ!」

――ギリギリで間に合った。

ビュオォッ!

バーストの込められたボルトは反され今度は、因果応報を現しようと、デインに向けて飛翔する。

はすでに一度見ている。

彼は最初からそれも織り込み済みだったのだろう、迷わずフックを解除、地面に著地した。

ドオォンッ!

遅れることコンマ1秒、著弾地點が盛大にはじけ飛ぶ。

その威力は、完全に壁が破壊され、が開いてしまうほどだ。

「おーおー、意外とやるねえ。さっきも使ってたけどさあ、それ魔法? 希ってやつだ」

フラムは慣れ慣れしく語りかけてくるデインを、完全に無視する。

そして無言のまま、彼自、そして裝備にスキャンをかけて戦力の確認を行った。

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デイン・フィニアース

:火

筋力:561

魔力:212

力:409

敏捷:854

覚:633

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総計2669――実力はBランクの下位程度。

下馬評通り、當人にAランクにふさわしい実力があるとは思えない。

それでも、手下たちの支えで彼はここまで上り詰めることができた。

しかし、どうにも今日は様子が違う。

その実力が、何か・・によって押し上げられている。

おそらくは――にまとう裝備の影響だろう。

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不遜なるレザーアーマー

品質:レジェンド

[この裝備はあなたの魔力を442増加させる]

[この裝備はあなたの敏捷を301増加させる]

[この裝備はあなたを毒から守る]

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聡明たるアイアンバックラー

品質:レジェンド

[この裝備はあなたの魔力を375増加させる]

[この裝備はあなたの敏捷を299増加させる]

[この裝備はあなたの覚を108増加させる]

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オート・クロスボウ

品質:アンコモン

[この裝備はあなたの魔力を12増加させる]

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野心を抱くアイアンダガー

品質:レジェンド

[この裝備はあなたの筋力を241増加させる]

[この裝備はあなたの魔力を224増加させる]

[この裝備はあなたの力を301増加させる]

[この裝備は相手の魔力を奪う]

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裝備によるステータス上昇値、計2303。

元の數値と合わせると4972、Bランク最上位と呼ぶべき能力にまで向上している。

特に、本來低いはずだった魔力は1000以上増加している。

やけに魔法を発してくるのはそれが理由か。

さすがにクロスボウは武能を優先してかレアリティは低いものの――西區の冒険者程度が揃えられる代ではない。

“呪い”の裝備は冒険者に忌避されているため安価で出回る(あるいはそもそも出回らない)が、レジェンド裝備はそうもいかないはずなのだから。

「まさかスキャンでも使ってんのか? んなもん見たって、実力差が変わるわけじゃねえだろうに」

「その裝備……本當にあんたのものなの?」

「もちろんだ、優しい仲間たちが僕に貢いでくれた、正真正銘、僕の持ちさ。言うなれば、仲間との絆ってやつぅ?」

「絆を売り払って、教會に魂を売った奴がそれを言うんだ」

フラムの指摘を、デインは「はっ」と鼻で笑う。

「なあ、お前はどうにも僕を悪者にしたいようだが、考えてもみろよ。自分の命と、仲間との絆ぁ。どっちを取るよ。甘えんなよ? ちゃあんと現実を見て答えろよ? まさか、いい子ちゃんなフラムお嬢さんは絆とか言わねえよなぁ!?」

「何十人も犠牲にするぐらいなら絆を選ぶかな、私は」

ミルキットの笑顔を頭に浮かべ、フラムはそう斷言した。

迷いは無い。

もし自分の命が彼を傷つけることがあるのなら、今のフラムなら、迷いなくに刃を突き立てるだろう。

「っかぁー! くっせぇなあ、くっせえよマジで!」

それが――本気だからこそ、余計に鼻につくのだろう。

彼は手を振りながら、笑い混じりの聲で言った。

「やっぱ何も知らねえガキだわ、お前は。っはは、まったくなんで僕もこんなやつの相手してんだろうなぁー……!」

だがそれを聞いたフラムには――彼の言葉は、他でもない彼自に突き刺さっているようにも思えたのだ。

自らんで教會に手を貸したと言うより――そうするしかなかった、そんな己の無力を嘆く、ある意味でフラムと似た嘲りが。

回りくどい自傷行為、構ってしい子供が流す噓の涙、それらに似た自己顕示。

いかにここで剣をえる経緯が同できるものだったとしても、そんなことは関係ない。

フラムはただひたすらに、デインを殺すことを考えるのみである。

「想像してみろよ、自分が長年積み上げてきたものがさぁ、たった8歳のガキに全部ぶっ壊されるシーンを! なあ、笑うだろ? 笑っちまうだろ!?」

だが彼は自分語りをやめなかった。

とにかく、話したくて仕方なかったんだろう。

「でも見せつけられちまったんだよ、僕は! 圧倒的な力ってやつをさぁ!」

デインの頭の中で、走馬燈のように過去の栄が再生される。

しかし、それらは全て、今や過去のものだ。

今の彼は、わずか8歳の年に従えられ、『いずれ飲み込んでやる』と豪語していた教會の下僕。使いっ走り。犬。

プライドは、もはやズタズタだった。

「同してしいわけ?」

そこに追い打ちをかけるように、フラムは憐れみながら言った。

デインの表から初めて余裕が消え、怒りに歪む。

こめかみに管を浮かべ、顔を真っ赤にしながら――

「は……はははっ、んなもん……んなもんんでねえんだよぉぉおおおおおッ!」

――彼は、吠えた。

フラムにだってわかっている。

デインが語りたかったのは、例え目の前に存在するのが敵だと知っても吐き出したかったのは、自分の々しさ故。

この理不盡を、誰でも良い、たった一人に理解して、同ではなく――共・・してしかったから。

世の中の理不盡を叩き込まれ、英雄から奴隷へと墮ちたフラムなら理解してくれるかもしれない、そんな甘えがどこかにあるのだろう。

「何がスパイラルチルドレンだ、何が教會だっ、何が増だ、何が接続だっ! ふざけんな、ふざけんな、ふざけんなふざけんなふざっけんなあぁぁぁあああっ!」

彼は狂する。

もう、何もない。

もう、取り返せない。

その喪失の痛みに耐えきれないと泣きわめく。

「僕は、この西區の王だ! 貧民街から這い上がり、この手とッ、頭でッ、ここまで上り詰めたカリスマなんだよ! わかるだろ? それが、それがこんな場所で――こんなもんに頼んねえと、小娘1人殺せねえとかよぉおお!」

先ほどバーストで開いたから、眼球が姿を見せる。

我先にと、が詰まるほどぎゅうぎゅうにそこに殺到する姿は、複眼をさらにグロテスクにしたようで、見ているだけで背筋が凍る。

「何が言いたいわけ?」

フラムはちらりとを確認し、問うた。

さらに別の壁へと視線を向ける。

そこには、まるで埋め込まれたかのような狀態で、黒目を含む前半分だけが見える眼球があった。

ぐりぐりとを捩ると、しだけ前進する。

そうやって――壁を貫通してきたのか。

しかも數は1個どころではない。

10個も、100個も、四方八方いたる場所からオリジンの眼がフラムを監視する。

このままでは、教會部が眼球で満たされるのも時間の問題だ。

もしかしてこのやり取りは時間稼ぎなのだろうか――とフラムは一瞬考える。

だが、デインの悲壯に満ちた表を見て即座に否定した。

どうやらそれとこれとは、話は別らしい。

「何が? そんなこともわかんねえのかよ……ははっ、はははっ、あっははははははははは!」

デインの乾いた笑いが堂に轟く。

「はは……は、あー……あぁ」

しかしすぐに聲は力を失い、彼は肩を落とし、両手をだらんと垂らした。

「……僕にも……わかんねえわ。あーあ、あぁーあ、何にもわかんねえ。何がしたいんだ? ガキに負けて、命乞いして、仲間を捨てて、教會に守られて、食住の保証もされて、規則正しく生きていくわけだ。なんだよそれ、はっ、なんだよそれぇ。つまんねえなあぁー! 僕が一番嫌いだった、一番たどり著きたくなかった末路じゃねえか! あぁ、つまんねえ、こっから先の僕の人生、ぜぇんぶつまんねー! つまんねえぇぇぇえええ!」

デインの聲が反響する。

それを誰に向かって言っているのか、彼自にもわかっていない。

「あっはははは! はあぁ、あぁぁぁあああ……あぁ……ぁ……なあ……フラムぅ……僕と一緒にバカやってた奴らも……もう、みんな死んじまったんだろ?」

尋ねているのは、おそらく、フラムを襲ってきた20人ほどの冒険者のことだろう。

フラムは抑揚のない聲で答える。

「バカっていうか、犯罪だけどね。いずれ裁かれるべきだった。あと、確かにあいつらは殺したよ、でも最初から死んでるようなものだったと思う」

「そっか、そうなのか……」

弱々しくつぶやく。

デインの目にはが宿っておらず、表も口が半開きの死のようだ。

「……いや、待てよ。なんだよその言い方、最初から死んでるようなものだった、って。なあ、僕が殺したとでも言いたげだな? おい、わかってんのか? ははっ、お前、ここで死にてえのか?」

を引きつらせながら、相変わらず死人めいた顔をして、デインはクロスボウをフラムに向ける。

それは、末路だ。

殺さずとも、すでに死んだようなもの。

行き著く所まで行ってしまった――ひょっとすると、フラムもガディオが助けにこなければ同じ場所に墮ちていたかもしれない、紙一重の景

ああ、確かに共の余地はあるのかもしれない。

だが彼は理解していない。

その境地にいたる以前に、自分とフラムの間には、絶対不可侵の障壁が存在するのだと言うことを。

「ねえデイン、さっきからあんたの話を聞いてて思ったんだけどさ――」

「あ?」

今の彼は引き金を引かない。

そのを、あるいは“期待”を、フラムは一笑に付す。

「私に甘えようとしないでよ、気持ち悪い」

男は凍りつく。

8歳の子供だけではなく、16歳のにまで看破され。

あらゆるプライドを打ち砕かれた上で、微かな殘りカスすら踏みにじられ。

もはや――デイン・フィニアースという人間を構する全ては、完全に価値を失った。

「僕が……甘え……? あ……あ……っ、違う、違……」

否定したい。

けれど、否定しきれない。

「あぁ、違わない……のか? そ、そんな、そんなことが――ああぁぁあ……ああぁぁぁっ、うわああぁぁぁぁぁあああぁぁあああああああッ!」

アイデンティティの崩壊、その瞬間である。

デインはれがたい現実を拒絶するように、頭を振りしてび、今度は躊躇なくトリガーを引いた。

そこに魔法は宿っていない。

フラムは微だにせず、ボルトは明後日の方向へと飛んでいった。

「殺す!」

まだ彼かない。

それでも當たらない。

「殺すッ!」

まだ當たらない。

「殺す、殺す殺す殺すゥッ!」

まだ――手の震えにより定まらない照準は、フラムを捉えない。

彼は左手で、トリガーを引く右手を固定すると今度こそ眉間目掛けて必殺の一撃を放った。

「死ねよおおぉッ! お前が――お前が居るから僕はぁァァァああっ!」

その怒りに理由なんて無い、ただの八つ當たりだ。

フラムは黒の刃を右手で軽く振り、矢を叩き落とすと、デインに接近した。

若干の正気を取り戻した彼は――「ス、スプレッドォッ!」慌てて魔法を付與した矢を放つ。

魂喰いは左腰の下へ、走りながらプラーナ製、低く構えたそれに力を満たす。

斬り上げると同時に、任意のタイミングでプラーナを弾けさせ――ゴオォォオオッ! と、暴風が床板を巻き上げ、眼球を破壊しながらデインを襲った。

無論、フラムに迫っていた“スプレッド”の拡散する矢も炎を消され、勢いを失い床に落ちる。

「ぐっ……!」

腕で顔を庇うデインに、フラムは更に速度を早め迫る。

剣を振り上げ、重い一撃を繰り出した。

ガギンッ!

咄嗟にクロスボウでけ止めるデイン。

だが威力に耐えきれず、それは手から弾かれる。

回収は難しい――彼は見切りを付け、ワイヤーを出しその場からの出を試みた。

すぐさまフラムはプラーナを練る。

「はっ……あ……!」

フラムの呼吸がれる。

騎士剣発は、確実に彼力を奪っていた。

それでも、絞り出せばまだ繰り出せないほどではない。

「逃がすかぁっ!」

いつもより重くじる大剣を、真っ直ぐに前に突き出す。

ブツンッ――放たれた気穿槍プラーナスティングは、巻き取り途中のデインのワイヤーを切斷した。

支えを失い、彼のが落下する。

“イクスフロート”で著地地點をずらし――いや、その程度では魂喰いの餌食になるだけだ。

デインはあえてその場に落ち、手のひらをフラムに向けた。

「ファイアボール!」

単発の下位魔法による足止め。

だが、ボルトの速度に対応してきたフラムには、火球の速度は止まっているように見えるほど緩慢である。

腰を落とし、難なくスルー。

するとデインは彼に背中を向け、教會のり口に向けて走り出す。

逃げようとしているのではない、その床はすでに眼球で埋め盡くされていたのだ。

ただでさえ、フラムは周囲を囲まれつつあるというのに。

デインらしい賢しい一手に――フラムはやはり騎士剣キャバリエアーツで応える。

両手で剣を握り、走る勢いを緩めずその場で橫に一回転。

ブオォンッ!

剣風が屋に一陣の風を巻き起こし、そして――

ゴオオォォオッ!

一瞬遅れて、プラーナによる暴力的な嵐が巻き起こる。

フラムを取り囲もうとしていた眼球は水風船のように割れ、両手でを庇うデインにも、の各部に切り傷が刻まれる。

技を放った後も、フラムは速度を緩めない。

「はあぁぁぁぁあああっ!」

ようやく黒き刃が、デインのを捕捉する。

「まだ、死なねぇっ!」

彼はバックラーでそれをけ流す。

だが衝撃を殺しきれず、デインのが橫に流れた。

さらにフラムの裝備の力が、裏に仕込まれた機構含めてそれを凍結させる。

「クソッ――」

デインは思わず悪態をつく。

実を言うと、そのバックラーにはワイヤーだけでなく、毒針を出する仕組みも仕込まれていた。

1発しか使えないため最後の手段のつもりだったが、凍りついたのではもう使えない。

追い詰められるデインに対し、フラムは攻撃の手を休めない。

「たあぁぁっ!」

次の一撃で、氷もろともバックラーが砕け散る。

手段を失ったデインは倒れ転がりながら避け続けるも、

「はああぁぁぁっ!」

気迫のこもったフラムの連撃に、肩、足、頬にと傷を負っていく。

「ファイアボオォオルッ!」

デインはやけくそ気味に、魔法を放った。

無論、そんなものがフラムに當たるわけがない。

首を傾けるだけで軽く避けられたそれは、天井に衝突し、ぜる。

そして――

ドオオォォンッ!

教會に、けたたましい発音が鳴り響く。

「なにをっ!?」

的に上を向いたフラムは、落ちてくる無數の瓦礫を見た。

咄嗟に後ろに飛ぶと、鼻先を鋭く尖った木材が掠める。

「ひっひひ、何も仕掛けてねえと思ったのかよ!」

明らかにファイアボールの規模ではない発。

おそらくあらかじめボルトに火薬でも仕込んで、教會に仕掛けていたのだろう。

「往生際が悪いっ!」

「そうやって生きてきたんだよ、どんだけ慘めだったとしてもなぁ!」

そう言って、彼は今度はフラムの足元目掛けてファイアボールを放つ。

著弾、発破――そしてそれに反応し、床下に仕込まれた火屬魔法をトリガーとする弾が作する。

ドドドドドドォッ!

「ガぁッ――!」

橫っ飛びで逃げようとしたが、右足が巻き込まれ、飛び散る。

吹き飛ぶ

叩きつけられた先、目の前には自らの腕にれる無數の眼球があった。

「しまっ――」

ずるりずるりと、左腕に侵していくおぞましい

急いで立ち上がり飛び退くも、もう遅かった。

ずるぅっ、と新たな腕がいくつも生え、絡み合う。

左腕が思うように脳の言うことをきかなくなる。

そこに、今度は火球が真っ直ぐにフラムを狙い飛來した。

避けられない――ならば。

は自ら増した左腕を前に突き出し、あえて魔法をけ止めた。

飛び散る、走る激痛。

だが――これで左腕は正常な狀態に戻る。

「ちぃっ、豬口才なぁッ!」

「っぐ……あんたにだけは、言われたくないッ!」

再び走りだすフラム。

再生途中の左腕がじくじくと痛む。

デインも全傷だらけの狀態で、彼から距離を取りながら移し――弾かれたクロスボウを回収しようとしているようだ。

阻止しようと、フラムも同じ場所を目指す。

ほぼ同時に跳躍――ばした手が先にれたのは、フラムの方だ。

クロスボウを摑み、更に遠くに放り投げる。

もはや回収は困難。

デインは破れかぶれで、フラムに飛びかかった。

「きゃっ!?」

「ひゃはっ、殺し合いの場でみてえな聲出してんじゃねえ!」

フラムに覆いかぶさるデイン。

彼は押し返そうとする両手を、手首を摑むことで封じる。

「はぁ……はぁ……へへっ、よくも甘えるだの何だの好き勝手言ってくれやがったなぁ……!」

「私は事実を指摘しただけ」

「よく考えてみりゃ、お前じゃねえか。全部おかしくなったのは、お前が現れてからだ。つまりお前のせいだ。そうだ、そうに違いねえ……!」

彼らが教會に手を出したことに、フラムは関係ない。

全くの濡れである。

だがもはや、デインにとって理屈などどうでもよかった。

とにかく、自分を否定したフラムを逆に全否定し返して、その上で殺して犯せれば。

「ひっひひ、ほら見ろよ、かわいいかわいい眼球ちゃんたちが近づいてきたぞぉ? 僕が殺さなくても、このままじゃ化になって死んじまうなァ……!」

フラムはもがくが、しっかりと摑まれておりきが取れない。

「はぁ……」

大きくため息をつく。

それが諦めを意味しているように思えたのか、デインは狂気じみた笑みを浮かべたが――

「リヴァーサル」

フラムが靜かにそう言うと、表は一変する。

ゴギッ、そんな鈍い音がしたかと思うと、デインの手首から先・・・・・がぐるりと反転していた。

つまり、向いてはならない方を向いていたのである。

「がっ……ああぁぁぁあああっ!」

思わずを起こし、ぶデイン。

フラムは彼の拘束から抜け出すと、首を狙って剣を振るう。

仰け反り避けようとした彼の肩のが抉れた。

「ぎっ……い……があぁぁっ! このクソアマぁ……クソがあぁぁぁあああッ!」

しかし、もはや痛みすら脳に屆いていないのか、デインのきは鈍らない。

手首を地面に打ち付けて、強引に元の向きに戻す。

握力は相當弱まっているが、腰のナイフを抜き取り握るには十分だった。

「ぐがあぁぁぁぁああああっ!」

どこか獣じみた挙でフラムに迫るデイン。

待ちけるフラムだったが、足元に近づく眼球に気づき、とっさに飛び退く。

「なっ、ここに來て――加速してる!?」

「ぐっ、オオォォオオオオオオっ!」

デインが懐に踏み込み、ナイフを突き立てる。

グチュ――刃が腹部に埋まる。

グリップが捻られ、さらにの中がかき混ぜられた。

「か、ひっ……!」

「フラムウゥゥゥゥゥ!」

恐怖を覚えるほどの執念。

もはや失うものが何もない男は、人間さえ捨てて“せめてフラムだけでも”殺そうと足掻いている。

フラムは魂喰いを消し、両手で彼を引き剝がした。

同時ににまみれた銀の刃が抜ける。

だが今のデインはその程度で止まらない、また奇聲を上げながらフラムの方に飛び込んでくる。

はそんな彼の腹を足の裏で蹴り飛ばす。

「ぐげっ……!」

腹を抑えて苦しむデイン。

フラムはそんな彼の髪を摑み、顔面に膝蹴りを叩き込んだ。

さらによろめき後退した所に剣を抜き、首を飛ばす――

しかし彼は予想以上に早く戦線復帰し、魂喰いを抜く前にフラムに迫り、ナイフを振るった。

元が橫に切り裂かれ、下著がわになる。

続けて繰り出された刺突を、フラムは左腕の尺骨でけ止める。

ガリッ――そんなと共に、腕のが削り取られた。

足元に眼球が近づく。

これ以上決著を待っている余裕はない――フラムにはそんな焦りがあった。

右の拳を振りかぶり、無防備なデインの頬に打ち込む。

ドゴォッ!

それは確かにクリーンヒットしたはずなのだ。

相手が人間ならば、誰もがよろめき、後退するだけの威力はあった。

だが、神も限界を超越したデインは、まるで一切ダメージをけていないかのように、怯まない。

フラムを睨みつけ、ナイフを握った手をばす。

真っ直ぐに心臓目掛けて、兇刃を走らせる。

「もらったぞ、フラアァァァァァァムッ!」

それはデインにしてみれば、勝利の雄びだったのだろう。

実際、彼が勝っても何らおかしくない勝負だった。

ステータスも戦闘経験もデインの方が上。

しかも周囲は眼球に囲まれ、罠も仕掛けられ、フラムは圧倒的不利な狀況。

だから、だから――まさかそんなこと・・・・・が起きるなんて、デインはもちろん、フラムだって想像していなかった。

――白い球が、転がる。

肩を伝い、二の腕まで到達すると、ずぶずぶと沈んでいく。

「……あ?」

デインは、自分の腕に目をやって、きを止めた。

なぜ、自分に・・・。

味方であるはずの自分に、フラムしか狙わないはずの眼球が――

「バカ、な」

呆然とするデイン。

「ああ……そっか」

フラムは気づいた。

眼球は、インクを支配するオリジンの力だ。

けれど確かに、彼から生み出されたものである。

思えば、し前にデインたちとすれ違ったあと、自分を見ていた眼球が居た。

もしあそこでフラムが彼らに戦いを挑んでいれば、今ごろ無事ではいられなかっただろう。

つまり、助けられたのだ。

誰かなんて考えるまでもない、彼しかいない。

それは意思だ。

神すら圧倒する強い意思。

フラムを守ろうとする、インクの、無意識下での神に対する必死の抵抗――

「バカなぁぁああああ!」

する、腕。

狼狽する、デイン。

脳の指令は分散し、フラムの心臓を突き刺すはずだったナイフは、思うようにかない。

彼のは次の瞬間には突き飛ばされ、よろめいていた。

フラムは魂喰いを高く掲げる。

力の限界なのか、腕に力がらない。

握っているだけで剣が震える。

だから、力を込めた。

ありったけの、オリジンコアを破壊した時同様に、持ちうる全ての力を、1つに束ねて――

「はああぁぁぁぁぁあああああッ!」

刃は、デインののど真ん中を、真っ直ぐに切り裂いた。

だが、その一刀がを両斷することはなかったし、それどころか骨を斷ち切ることすらなかった。

それほどまでに、フラムには剣を振る力が殘っていなかったのだ。

「あ……あ……?」

ならばデインに與えられた傷は、一何の意味を持つのか。

それはけた彼自が最もよく理解しているだろう。

「や……め、ろ……あがっ、がっ、ぎ、っ、あぁぁぁああああ!」

傷口を中心に、デインの皮が、が、骨から剝がれていく。

骨がむき出しになり、さらに骨すら裏返り、本來なら隠れているはずの側が、表側にさらされる。

「殺せ、せめて、ひとおも……いっ、ぎいぃいいいっ!」

あえて名付けるとするのなら、我意・騎士剣キャバリエアーツ・エクスパンション――反・気剣斬プラーナシェーカー・リヴァーサル。

側と外側をれ替える、文字通り必殺の剣である。

無論、デインが弱っていたからこそ、必殺となり得たのだが。

「ぎゃっ、あっ……おごおおぉっ……!」

デインは首元の皮も剝がれ、口から聲が発せられることはなくなった。

変わりにむき出しになった聲帯が震えて、音を鳴らす。

「……せいぜい苦しんで死んでね、デイン」

フラムはし離れた場所でそう冷たく言い放つと、死にゆくデインに背を向け、インクの元へと向かった。

ひとり禮拝堂に殘されたデインは、やがて完全に裏返り、臓や脳をむき出しの狀態で放置されたが――それ自に、損傷は無い。

心臓を含め、外気に曬された臓はしばし機能を続け、生命活を維持しており、想像を絶する苦痛の中、自由に死ぬことすら許されないのだった。

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