《魂喰のカイト》27話 リディルの正
「それで、3日後に出発だったっけ?」
「うん、そうだね。3日後から軍や冒険者たちが出撃する」
草原から王都に戻るまでの帰り道、リディルと魔との戦いについて話す。
出発は3日後の早朝。
數鋭の部隊は飼いならされた騎乗用の魔で一直線に魔城へ向かうらしい。
鋭以外の大群を相手にする冒険者、兵士たちは徒歩での行軍だ。
開戦は行軍を初めてから3日後。
別行の俺らは5日後の夜に魔城に夜襲をかける。
魔たちも睡眠をとるようで、そこをつくのだそうだ。
ちなみに隠蔽の魔法に優れた人がいるらしく、その人の魔法が破られない限り俺達の強襲が見つかることはない。
5日間移に専念できるというわけだ。
「鋭ってのはどのくらいいるんだ?」
數鋭としか聞いてないから、的な數はわからない。
この世界ではスキルや異常な能力、魔法で一騎當千も十分にありえるから、大100とかそのくらいか?
と、予想をしていたのだが、返ってきた答えはことごとく予想から外れたものだった。
「話してなかったね。イルム、ボクを含めて6人だよ」
「……えっ?」
6……?
いやいや、流石にそれはないだろ。
仮にも城に攻め込むんだぞ?
聞き間違いに違いない。
「ごめん、上手く聞き取れなかったもう一回頼む」
「うん、イルムとボクを含めて6人」
あ、6人ね。
なるほど。
…………って、ふざけんなっ!?
「冗談だよな!?」
「ボクは至って真面目だよ」
「本當の本當に6人!?」
「うん、本當の本當」
おいおいおい、ちょーっとまて。
敵の本拠地に行くのに6人?
魔があふれる城に6人?
自殺行為じゃないか!
「ごめん、やっぱり俺、辭退します」
「えええ!? たった今、握手わしたばっかりだよね!?」
「ああ、うん。今のは流石に冗談だけど、6人って大丈夫なのか……?」
「なんだ、冗談か……。そうだね、たしかにこの人數を聞いても勝ち目が無いと思うかもしれない。でもね、心配はいらないよ」
リディルは冗談だと知り、しホッとしたような作をした後、柄にもなくを張って続けた。
「――なんたって、1人が王國最強の冒険者、そしてボクを含む殘りの4人は勇者一行だからね」
えっ、えええ!?
なんだそれ、めっちゃ豪華なメンバーじゃないか!
というか、リディルが勇者一行!?
いや、たしかに異常なほど強くて重要な役割を擔う6人に選ばれるような人だけど……。
と、そんなじで目に見えるほど俺が混してると、リディルは更に弾を落とした。
「あ、ちなみにボクは勇者をやってる、リディル=ハートです。改めてよろしく!」
こいつ勇者張本人だったのかよ!
そりゃ強いわけだわ!
いや、俺と毎日同じ店で飯食ってたやつが勇者なんて信じられないな……。
「ははは、信じられないって顔してるね。イルムをこんなに驚かせることができるなんてにしてた甲斐があったよ」
そう言ってリディルはケラケラ笑う。
なに楽しんでんだよ!
というか、前に目立ちたくないって言ってたのはそういうことだったのか。
確かに勇者なら下手に目立ちたくはないよな。
見つかったら騒がれたりしそうなもんだし。
「まあ、勇者だってんならさっきの実力には納得できるな」
「うん。勇者になる上で戦闘能力は必要不可欠だからね。というか、勇者に追いつきかけてるイルムが異常なんだよ」
「あー。そうだな、異常と言えば異常かもしれない。俺にも事があるんだ」
「そっか、イルムにも々あったんだね」
人間じゃないしな。
転生者でもあるし。
能力自は常人を超えてるってのはなんとなく理解できてた。
でも、強くなった過程自は大したことじゃない。
深刻な理由や強くならなければならなかった過去があるわけでもなく、り行きで強くなっただけだ。
しかし、リディルは何か深い理由があったのかと勘ぐったのか、俺にその事を聞かずに話を変える。
「それと、心配のいらない理由は、魔城を落とすのが勇者一行と最強の冒険者ってだけじゃないんだ。さすがに勇者一行と最強の冒険者って言っても、魔城にいる魔全てを壊滅させるには力が及ばないからね」
「まあ、そうだよな」
6人で何千と魔の殘っているであろう敵の本拠地を落とせる、というのはさすがに無理があるだろうからな。
「それで、その理由って言うのが、これなんだ」
そう言い、リディルが空間の裂け目のようなものを作り出す。
空間魔法を使って収納をしているのだろうか?
便利そうだな。
確か俺も時空魔法ってのを持ってたはずだ。
今度同じことができるか試してみようかな。
リディルはその空間の中に手をれ、球狀のものを取り出した。
取り出されたそれはおびただしいほどの魔力を纏っており、七に輝いている。
どこか神的で、綺麗だ。
「これは『浄化の寶』。王國が所有する最大級の魔導の1つだね」
「そりゃまた大層なものを出してきたな」
「ははは、まあこれだけの事態だからね。仕方ないと言えば仕方ないかな」
そうだよな。
國の存亡の危機なんだもんな。
大げさにもなる。
「効果は簡単。この魔導を発したときに発するを浴びた、力のない魔は全部消滅する。魔城の魔はほとんど殘らないだろうね」
「おお、すごいな」
流石に全ての魔は倒せないみたいだが、魔城に殘る魔がほとんど殘らないって相當な威力だ。
地球で言うところのミサイルとか、そんなもんか?
だとしたら魔城攻略の糸口も確かに得られるかもしれない。
「あれ? でもそれって戦場で使えばいいんじゃないか?」
単純に疑問に思ったので訊いてみる。
魔を大量に倒せるんなら戦場で使ってしまったほうが効率がいい。
それどころか形勢逆転もありえるんじゃないか?
これを使えば戦場にいる大半の魔を倒すことができると思うんだが。
と、そう考えたのだが、それは甘かったらしい。
「殘念ながらそれはできないんだ。この魔導の効果が屆くのがちょうど王城を覆うくらいの範囲だからね。王城と同じくらいの大きさの魔城を収めるので一杯なんだ。それに、この魔導は使い捨てで、1回使うと々になってしまう。魔城で使うのが最善なんだよ」
なるほど。
戦場では範囲が広すぎて使えない上に、1回きりしか発できないのか。
だとしたら魔城に攻め込むときに使うのがいいってことだな。
「これで6人で攻めることについて異論は無くなったかな?」
「ああ、無くなった。十分に勝機はあるってことだな」
「うん。分かってもらえてよかったよ」
そう言い、リディルは浄化の寶を再び空間の中に片付ける。
「王都を出るのは3日後だったよな? だったらダンジョンにでも潛ってしでも強くなっておくべきか……」
「ははは、イルムは向上心があるね。3日でばすのには限界があるから休んだほうがいいとは思うけど……を慣らすために潛ってもいいかもしれない」
「ああ。敵の大將と戦うんだ。しくらい事前に経験を積んでおいて損は無いだろう。それに、鋭の人たちに迷はかけられないしな」
「迷、か。イルムがかけることは多分無いと思うけどね。他の構員より圧倒的に強いし」
「え? そうなのか?」
「うん。僕が見る限り構員がまとめてかかってもイルムが勝つと思う」
へぇ、そうなのか。
確かにカーテナの一撃を止めたのは俺だけだって言ってたからな。
でも、それにしても誇張しすぎだとは思うな。
リディルを抜いた4人を一気に相手にして勝てるとは思えない。
々1対1でなんとか勝てるくらいだろう。
いや、他の人の能力が分からないからなんとも言えないんだけどな。
「ま、褒めてくれてありがとな。とりあえず明日からはダンジョンにこもることにするよ」
「わかった。じゃあ、3日後の早朝に王城前に來て。そこから出征する」
「了解。……と、もう門についたみたいだな」
話しながら歩いているうちに、門までついていた。
リディルが、門の前に立つ門番に話をつける。
すんなり了承を得ることができたようだ。
門番が大きな門の隣の小さな口を開けてくれた。
ちなみにこんな時間に通ることができるのは、リディルのおかげだ。
外に出るときもリディルの一言で外に出られたのは不思議だったのだが、勇者だからだったんだな。
納得。
り口を通り、王都の中にってすぐのところで立ち止まる。
王都はランタンの明かりで照らされてるが、すっかり日が落ちてしまっていることもあり、真っ暗だった。
その暗闇の中でリディルはおもむろにこちらに向き直し、俺に言葉をかける。
「それじゃあ3日後、王都を出るときにまた會おう」
握りこぶしをこちらに向けて差し出してきた。
俺はそれに応えるように同じように握りこぶしを出し、ぶつけた後、言った。
「――ああ。お互い、絶対に生き殘ろうな」
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