《魂喰のカイト》34話 1対3

リディル達は魔城にり、歩みをすすめる。

エントランス。

暗く、奇妙な雰囲気以外は何の変哲もなく、左右に正面の扉につながる階段があるのみ。

寶で駆逐できたのはあくまで力が無い魔のみだ。きっと強力な魔が潛んでいる。奇襲への警戒を怠らないように》

リディルが皆の気を引き締めさせる。

気配察知には抜け道が多い。

察知が反応しない位置からの高速移、幽、仮死などには反応しないのだ。

そのことは鋭であるメンバー全員が理解できている。

だからこそ警戒は最大にまで高めている。

ただでさえ魔城の中なのだ。

何が起こるかは決して分からない。

鋭隊全員が再確認したそのとき――

《――アルダス、上だ!》

フィオンからの思念。

その思念が屆くと同時に鉄がぶつかり合うような音が鳴り、辺りの塵が舞って煙となった。

突然の視覚への障害に、最初に反応したのはアリシアだ。

アリシアが杖をすぐさま取り出し、掲げる。

掲げられた杖から起こる神聖なるが辺りを照らし、煙を晴らした。

「アルダス! 無事か!!」

リディルがアルダスの安否を確認する。

しかし、その心配はいらなかったようだ。

「突如頭上に出現……転移、いや、召喚か? フィオンが居なかったら首を落とされてたかもな」

晴れた煙の先にいたのは、右手で両手斧を斜めに構えて二匹の魔の攻撃を防ぎ、左手で襲いかかっている一匹の魔の頭を摑むアルダス。

即座にき、同時に三方向の攻撃を防いだのである。

人間離れしたこの技。

そして、両手斧を片手で扱い、敵の攻撃を防ぐ圧倒的筋力。

これこそがアルダスが勇者の仲間である所以だ。

「くそっ! いってぇなぁ!!」

頭を摑まれていた魔がアルダスの腕に向かって剣を振る。

しかし、その斬撃はアルダスが次の行に移ったことで外れる。

「なっ! ぐおっ!!」

アルダスは魔の頭から手を離し、その腹に向けて蹴りをれたのだ。

それと同時に片手に持つ両手斧を大きく振り、二匹の魔と距離を取る。

「ねーねー、あの大きいゴミ人間、僕たちの攻撃防いじゃったよー?」

「むー、あたし、怒っちゃったぞー! ゴミのくせにでしゃばるなんて、サイテー!」

右方向に吹き飛ばされていた小さな子どものような二匹の魔がアルダスに向かって不満をぶ。

そして、蹴りにより吹き飛ばされ、壁に埋もれてしまっていた魔も立ち上がり、目をギラつかせた。

「よーし、分かった。標的はテメェだ。デカブツ!」

吹き飛ばされた魔はそう言い、瘴気を纏ったオーブを取り出した。

そこで、アリシアが気づき、く。

「ダメ! そのオーブは!!」

だが、アリシアでは追いつけない。

きのほうが早かった。

「おせぇんだよニンゲンンンン!!」

オーブが砕かれる。

砕かれたオーブから黒い靄が溢れ、アルダスと三匹の魔を覆う。

その靄はすぐに黒くの結界を作り出し、アルダスとリディル達を隔離した。

「ふひひひ、旦那様が直々にお創りになったオーブだ。これで一対三。テメェは死んだ! ニンゲン!!」

「ほう、中々強度のある結界だ。俺らで破壊しようとしても時間がかかるだろうな」

の言葉など気にもとめずにそう呟き、アルダスはすぐ背後にできた結界をコンコンとノックでもするかのように叩く。

その顔に悲壯、絶はない。

余裕綽々だ。

「あれー? あのゴミ人間、ぜーんぜん焦ってないよー?」

「ホントだー! ゴミのくせに余裕見せるなんて、サイテー!」

二匹の子供の魔が無邪気な様子で言葉を発する。

「くそっ!! ムカつく、ムカつくぞテメェ! すぐにぶっ殺してやる!!」

それを聞き、アルダスの様子を確認したもう一匹の魔は、目にみえて分かるほど怒り狂った。

だが、アルダスは全く気にもとめず、リディルと會話を始める。

「どうやら隔離されちまったらしい。俺は大丈夫だ。先に行ってくれ」

「アルダス、本當に大丈夫かい?」

リディルが聞く。

しかし、アルダスは迷いもせず、即答した。

「ああ、問題ない。”ゴミ”に”ぶっ殺される”気分を味あわせてやるだけだ。戦いにすらならない。なってちょうどいい肩慣らしだな」

その言葉を聞いたリディルは、アルダスを一人殘すことに何もじずに返答する。

「そうか。じゃあボクたちは先に行くよ」

その言葉の裏にあるのは絶対的な信頼。

アルダスの戦闘力を信じているのだ。

「おう、終わり次第すぐにそっちに向かう」

この応酬。

どころか張もせず、はてには自分をぶっ殺すとまで言うアルダスに、魔たちの怒りは発しそうになる。

アルダスは今にも攻撃しそうな魔たちに脇目も振らず、リディル達を見送る。

そして、リディル達が階段を昇り、見えなくなったところで魔たちに聲をかける。

「俺はアルダス。お前達、名は?」

アルダスは問う。

一人で戦うときに行う、剣闘士として戦ってきた頃から続けてきた習慣だ。

対峙する者の名を聞く。

深い意味はない。

ただの、これまで戦った者達を忘れずにいるための方法にすぎない。

「ドーグ!! テメェらニンゲンをぶっ殺し盡くす存在だ! 冥土の土産にでもしやがれ!」

「僕、スー!」

「あたし、ムー!」

名を名乗りながら、三匹の魔は戦闘の構えを取る。

ドーグが一本の剣を低姿勢で片手で持ち、スーが右手、ムーが左手にそれぞれ短剣を持った。

そして、先程から溜め込んだ怒りを発散するかのように、スーとムーがアルダスに飛びかかる。

「死んじゃえ、ゴミ人間ー!」

「ゴミが早く死なないなんて、サイテー!」

スーとムーは笑顔だ。

自分らの一撃でアルダスを殺せると確信していたから。

しかし、それは淺はかだ。

そもそも、最初の奇襲に失敗した時點で作戦を練り直すべきだった。

奇襲が失敗するということは、実力差がそこまで大きいというように捉えることもできる。

それをアルダスの態度やリディルと行った會話に含まれていた挑発に乗り、わざわざ逃げずに戦った。

つまり――

「――お前たちは、俺と戦うことになった時點で死んでいる」

飛沫が舞う。

橫薙ぎに振るわれた白銀の斧が紅く染まる。

既にスーとムーに首から上は存在しなかった。

この驚異的な一撃を前に、短剣の攻撃など目ではなかった。

アルダスはそもそも、その攻撃のリーチにすらっていない。

斧にこびりついた返りを振り払い、アルダスはドーグの方に向き直す。

「次はお前だ。ドーグ」

「ヒッ、ヒィッ!! なんだってんだよぉぉ!!」

ドーグは心の底から恐怖をじる。

それは魔の強者として君臨し続けたドーグがこれまで一度もじたことのないもの。

生まれて初めての得の知れない覚に捕われてしまった。

しかし、ドーグは仮にも強者。

の中では圧倒的実力を誇る者の一人。

ここで恐怖に負け、勝負を捨て、一人逃げるほど愚かではなかった。

「クソがああぁぁぁ!!」

突如、アルダスの足がかなくなる。

土魔法。

それが足がかなくなった答えだ。

地面からびた土がアルダスの足に絡みついていた。

すぐに足に力をれ、絡みつく土を散らせる。

しかし、ドーグの狙いはアルダスのきを止めることではなかった。

アルダスのきが止まった一瞬。

その一瞬でさらに土魔法を行使し、スーとムーのが落ちている地面を隆起させ、そのを自の元へ飛ばした。

そして、それを空中で摑み取る。

「これだけはしたくなかったんだが、仕方ねぇ!! お前は終わった! ニンゲンンン!!」

そう言い放った次の瞬間、ドーグがスーとムーのを一度地面に押し付け、そのに手を差し込んだ。

生々しい、聞き心地の悪い音が鳴る。

しかし、その音をともせずドーグは何かをつかみ取り、すぐに手を引き抜いた。

その手に握られていたのは、で濡れた小さな球狀のもの。

黒く濁った、一般的に魔石と言われるソレは、強力な力をめているようで、異様な雰囲気を醸し出している。

ドーグはその魔石を見て、し躊躇した後、一気に口に放り、飲み込んだ。

すぐにドーグのに異変が起こる。

だったの筋が突然隆起し、ゴキゴキと音を鳴らしながら一本角が生えてきた。

たった數秒での変化に、思わずアルダスは目を奪われた。

「俺様のスキル、悪食。魔力を含むものを食べると、食べたものに基づいて一時的に能力が上昇する。使用後の反がデカイが……今はそんなの気にしちゃいれねぇ。さぁ、ニンゲン! 第二ラウンドと行こうじゃねぇかぁ!!」

その異様な雰囲気、確かに上昇した魔力量にアルダスは固唾を飲む。

しかし、その顔には焦りはない。

アルダスの心は、その微かな笑みからは読み取れないほど喜びで満ち溢れていると言っていい。

「面白い。いいだろう、お前は俺と同格。これより、これは肩慣らしなどではない。戦いだ!」

アルダスの瞳に闘志が宿る。

剣闘士であった時代を思い出す、熱き戦いになりそうだ。

そう、アルダスはじていた。

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