《ガチャって召喚士!~神引きからはじめる異世界ハーレム紀行~》第七十四話 不吉な兆し
「……ト……ユート……ユート! 目を覚ましなさい! 目を覚ましてよ!」
アリサの悲壯漂う聲で俺は目を覚ました。
どうやら落下中に気絶してしまっていたらしい。
「大丈夫だ、生きてるって。そんなつらそうな顔するなよ」
掠れた聲でアリサに話しかけると、アリサは嬉しさをかみ殺したような、それでいてムッとしているような表になった。
「ぶ、無事だったならもっと早く返事しなさいよね」
アリサは俺に目を合わさずにプイっと橫を向いてしまった。アリサのツンデレ発である。
「――と、それよりも一緒に落ちたシルヴィアは」
そこまで言いかけて心配そうに俺の方を見ているシルヴィアの姿が目に映った。……良かった。無事だったみたいだな。
「……ユート……ありがとう」
瞬間、ふわっと淡い香りに包まれた。
シルヴィアが俺に抱きついてきたのだ。
「ん、なんかお禮言われるようなことしたっけ?」
「……落ちるとき……わたしを……かばってくれた」
あぁ、そういうことか。意識は失ったけど最後まで庇うことが出來たみたいでよかった。
俺はシルヴィアのサラサラの髪にそっと手をばして頭をでた。
「…………♪」
シルヴィアは無言だがとても嬉しそうだ。シルヴィアの喜ぶ表を見ていると、自然と俺の顔にも笑みが零れてしまう。
そんな様子を見てアリサはジト目で俺を睨む。
「……ロリコン。変態」
「いや、だから俺はロリコンじゃないって。……アリサも嫉妬してるなら俺に抱きついて來いよ、でてやるからさ」
「…………」
――バキィ!
一瞬の沈黙があった後にアリサの鋭いパンチが俺の右頬に飛んできた。
シルヴィアに抱きつかれていたので、俺は完全に無防備な狀態でそのパンチを貰ってしまった。
「――痛っ!? ちょっとアリサさん!? 俺ついさっきまで意識失ってた怪我人なんですけど酷くないっすか!?」
アリサは腕を組んでそっぽを向いて俺の抗議を無視している。その橫には俺とアリサの様子を見てウフフと笑うローザが立っている。
「ほんとユート君とアリサちゃんは仲良いわね」
「ローザ!? 俺がアリサに毆られたの見てなかったの!?」
「……フフッ、どうでしょう? でもなんにせよユート君はアリサちゃんに謝するべきよ? ユート君とシルヴィアちゃんが落ちてくる時に、間一髪でシルフを発して落下の衝撃を和らげてくれたんだからね」
「えっ、そうだったのか?」
俺はアリサのほうに視線を移した。
「わたしは可い妹を助けただけよ。あんたはついでに助かっただけよ。つ・い・でにね」
「……そんなについでってとこを強調しなくてもいいだろ。にしてもアリサのおかげで軽癥で済んでたわけか。本當にありがとな」
アリサはふんっと鼻を鳴らして相変わらずつっけんどんな態度をとっている。
「ま、なんにせよこれでフェニックス騒ぎは一件落著……いや、違うか。肝心のフェニックスの召喚者を捕まえてない」
「それなんだけどね」
ローザは困ったような顔をして頬に手を當てて右後ろの方を向いた。
その視線の先には手を前で縛られて座っている男の姿があった。
「……本當になにも覚えてないんだ……本當なんだ」
「噓を言うでない! わたしはフェニックスが民衆に向かって炎を吐いているところをこの目で見たのである!」
「サモンランドでフェニックスを使えるのはあなたしかいないときいてますの。異端審問機関で拷問にかけますわよ」
「――まじかよ!? 勘弁してくれ! 俺は無実だ! 本當なんだ!」
レイチェルとエリーが詰問している相手の男がフェニックスの召喚士ということか。
しかしあそこまでやって覚えてないというのは妙に引っかかるな。
言い訳にしては無理がありすぎる気がするし、あの必死さは噓を言っているようにも見えない。
俺はフェニックスの召喚士の所まで歩いて近づいた。
「なあ、あんた。覚えてないって言ってるけど、どこから・・・・覚えてないんだ?」
「どういうことだ?」
フェニックスの召喚士は俺の質問の意図がわからずに困した顔で返事をする。
「記憶を失ったのがいつかってことだよ。昨日からか? それとも今日ここにきてからか?」
「サモンランドにきて仕事を始めようと思ってフェニックスを召喚した時までは覚えているんだがそこから記憶がないんだ……」
「なるほどな」
この男の言うことが本當なら召喚に意識を乗っ取られたとかそういうことだろうか?
「ローザ、召喚に意識を乗っ取られるなんてことって有り得るのか?」
「うーん、そんな話は今のところ聞いたことないわね。……あっ、もしかしたら」
ローザは急に何かを閃いたようで、縛られた男の手を引いてエリーの方を向いた。
「エリー、ちょっとこの召喚士さんを教會まで連れて行くから付き添ってもらえるかしら?」
「ええ、構わないですの。フェニックスに乗れなかったのは殘念ですけど、それはみんな同じですものね」
ローザはエリーの返事に頷くと、俺の方に笑顔を向けてウインクした。
「というわけでエリーとわたしは教會に向かうわ。他のみんなは私達の分もサモンランドを満喫してくださいな」
「――待って」
と口を挾んだのはさやかだ。
「わたしも今は教會に盡くさなければいけない。連行を手伝うわ」
「わかったわ。それじゃあよろしくね、さやかちゃん。ユート君はサモンランドに殘るみんなを頼むわよ。しっかりエスコートすること!」
「了解。本當は俺も手伝いところだけど悪いな。ま……」
まだ遊び足りないんだと言いそうになって口をつぐんだ。元々ニート気質な俺は休みの日まで働く気力はないのだ。
――――――――――――――――――――
ローザ達と別れた後は、殘ったメンバーでリヴァイアサンに乗ったり召喚獣ランチなる名ご飯を食べたりしてサモンランドを満喫した。
その帰り道、夕暮れ時の空を見上げてレイチェルは口を目一杯開けて笑った。
「あー、楽しかったのである! フェニックスに乗れなかったのは殘念であるがそれでも十分に良いところであったな、サモンランドは」
「……うん……とっても……楽しかった」
レイチェルと並んで歩くシルヴィアはコクリと頷いて同意する。
その二人の前には俺とアリサが並んで歩いている。
「どうだ? アリサも楽しめたか?」
「ええ、楽しかったわよ。……でも」
アリサは真面目な表でし俯いて考え込んでいる。きっと考えていることは俺と一緒だろう。
「朝にあったフェニックスの事件、まだ気になるのか?」
「そうね、なんとなくまだ解決していないような気がするの。特に拠はないんだけど……でもわたしの勘ってよく當たるのよね、特に悪い方には」
「そりゃ嫌な勘だな。でも俺も気になっていたところだ。もう家には先にサモンランドを出た三人も居る頃だろうし、どうなったか聞いてみようぜ」
アリサは軽く頷くとそれきり黙ってしまった。
俺もの中に溢れるなんとも言えない気持ちの悪さが拭えないまま、一緒に黙って帰り道を進むのであった。
『経験値12000倍』のチートを持つ俺が、200億年修行した結果……
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