《ガチャって召喚士!~神引きからはじめる異世界ハーレム紀行~》第七十九話 クマラヤン岬
馬をレンタルした俺たちは平野を颯爽と駆け抜ける。
地面には膝くらいまでの高さの草が目いっぱい背びをして辺り一面に生い茂っている。
「ここを歩いていくとなると大変だっただろうな。馬を借りたのは正解だったな」
「そうよ、ローザさんの言うことに間違いなんてないんだから」
ローザと俺は馬に乗りながら並走している。
後ろからはし遅れて小さい蹄が鳴らす足音が聞こえてくる。
「おーい、ちょっと待つのである! ……全く、なんで我らの馬はポニーなのだ」
「……かわいい……ちっちゃな……お馬さん……わたしは……好き」
レイチェルとシルヴィアは背が低いので、取り回しやすいようにポニーをレンタルさせた。
……のだが俺達の馬に比べるとどうやら走るスピードが遅いようだ。
「到著するまでの辛抱だから我慢してくれ! というか乗り心地は多分ポニーのほうがいいぞ?」
「そうなのであるか? 帰りは一旦馬を換して確かめたいのである」
「はいはい」
呑気にそんなやり取りをしていると、アリサがすこし険しい顔をしながら俺の橫に馬を走らせてきた。
「ユート、クマラヤン岬についてはどのくらい知ってるの?」
「俺はさっきローザに聞いた報以外の事は何も知らないぜ?」
それを聞くとアリサはすぐに話しかける相手をローザに変更する。
「ローザは勿論知ってるわよね? ……わたし、思うの。うちのギルドで攻略するのはし難しいんじゃないかって」
「アリサちゃんが心配しているのはジャイアントクラブのことかしら? 大丈夫よ。ジャイアントクラブは火に弱いから、群れでやってきたとしてもユート君のイフリートで一網打盡に出來るわよ。ね、ユート君?」
「お、おう。イフリートなら任せておけ!」
急に話を振られたのでたどたどしい返事になる。
ダンジョンに行くときには大抵オーディンとイフリートは持っていくのでそこのところはバッチリだ。
「わかったわ。頼りにしてるわよ、ユート」
アリサからこんなセリフが聞けるなんて、最初のころには考えられなかった。
俺もなんだかんだこっちの世界にきて長して認められてきたのかなぁ。
「さて、そろそろクマラヤン岬のエリアにった頃よ。いつジャイアントクラブが襲ってきてもいいように頼んだわよ、ユート君」
「おい、ローザ」
「なに?」
「この目の前にいるでっかいのがそのジャイアントクラブなんじゃないのか!?」
それはもう名前の通りで何もひねりがない程にでっかい蟹だった。
八本の足はそれ一つだけでも俺達を馬事踏みつぶせてしまうほどの迫力があるのにもかかわらず、超巨大なハサミまである。
「――ユート君! 攻撃される前に急いで!」
「わかった! イフリート! 蟹を味しく調理してやってくれ!」
俺は即座にイフリートを召喚し、ジャイアントクラブに炎弾を叩きこんだ。
炎を浴びたジャイアントクラブはボテッとなさけなくひっくり返って息絶えてしまった。
「驚くほどに拍子抜けだな。この調子でクリスタルオーブのあるところまでちゃっちゃと進んじゃいますか!」
俺が気を吐くや否や、後ろから大きく羽ばたく音が聞こえてきた。
とっさに振り向くと、空に大きなドラゴンが飛んでいるのが見える。
「ローザ、なんだあれは!? ジャイアントクラブだけじゃなくてあんなのもいるなんて聞いてないぞ!」
「いや、あれはこの辺りに生息しているモンスターじゃないわ。あれは幻獣型の召喚ファフニールよ!」
よく見るとドラゴンの上にはアデルと二人のの子が乗っているのが見える。
「げっ!? あれはアデルじゃないか! それと見たことない顔が二人いるな」
「きっとあの二人のどちらかがファフニールを召喚したんでしょうね。先を越されないように急ぐわよ、ユート君!」
ローザは馬の手綱を強く引っ張り速度を上げる。
しかし所詮は馬の速度、空を飛ぶドラゴンには敵わずすぐに追いつかれてしまった。
アデルはファフニールを見せつけるように俺たちの目の前に止めた。
「ユート、紹介するよ。うちのギルドの新人二人、エルとメルだ」
エルとメルと呼ばれたの子達は、薄紫の髪にパッツンの前髪とお揃いの髪型で尚且つ同じ顔をしている。違う點はと言えば、頭に付けたリボンのが白とピンクということだ。
まずは白のリボンをつけた子がファフニールの上から挨拶をしてきた。
「はじめまして、エルです。ファフニールの召喚をしているのはわたしです。どうです? 恐ろしいでしょう?」
彼は立ち上がってこちらを睨みつけて凄んで見せているようだが、肝心の風貌が可いお嬢様なので全く怖くない。
続いてもう一人のピンクのリボンの子がファフニールから飛び降りて土下座しながら挨拶をしてきた。
「ごめんなさい! ごめんなさい! わたしがエルの雙子の妹のメルです。姉はいつも偉そうにしてますが、人見知りで人を遠ざけようとして尊大な態度をとってるだけなんです。許してください!」
メルはやけにへりくだった態度で何度も土下座を繰り返している。
「いや、別に気にしてないから。二人ともよろしくな、俺はユートっていうんだ」
「勿論知っています! 知っています! ユートさんの活躍はうちのギルドでももっぱらの評判でして! 是非お嫁に行きたい……じゃなかった、冒険の手ほどきをしてしいと思っていました!」
メルは土下座から一転、いきなり立ち上がって俺の手を両手でガシっと握ってきた。
その様子を見た雙子の姉のエルはファフニールの上に佇んだまま、
「……メルは軽ビッチだから近づかないほうがいい」
抑揚のない口調でとんでもないことを言ってきた。
「ちょっと姉さん! またわたしの悪口を! ユートさん、軽ビッチなんていうのは噓ですからどうか信じないでくださいね!」
「あはは……」
本當に軽ビッチなのかどうかは若干気になるけども、俺は苦笑いを浮かべることしかできなかった。
「二人とも変わった格をしているけど、腕は確かだから仲良くしてやってしい」
アデルもファフニールから降りてきて俺達に挨拶をしてきた。
「エルのファフニールは確かに凄そうだけど、妹のメルもこれくらいの召喚を持っているってことか?」
「持ってます! 持ってます! それはもうユートさんが惚れ惚れしちゃうくらいの召喚を! ユートさんが持ってるイフリートも持ってますよ! お揃いですね! お揃い!」
メルは再び俺に近づいてきてぐいぐいとアピールしてくる。
この子、やっぱり軽ビッチなんだろうか……。
「……メルは男と見るとすぐに元をアピールするセクハラビッチ」
「姉さん! いい加減にしてください! 嫌われちゃうじゃないですか、わたしが!」
雙子の姉妹はわいわいがやがやと喧嘩を始めてしまった。
「アデル、二人の世話をするの大変そうだな……」
俺はぽんっとアデルの肩を叩いて呟いた。
「二人とも実力は確かなんだけどね、実力は。……さて、そろそろクリスタルオーブ探索に戻るとするよ。健闘を祈るよ、ユート!」
アデル達はファフニールに戻ると、クマラヤン岬の奧のエリアまで飛び立ってしまった。
「しまった、先を越された! 急ぐぞ!」
聲をかけると橫にはシルヴィアとレイチェルだけしかいなかった。
「……あれ? 他のみんなは?」
「アデル達に先を越される前にクリスタルオーブを回収するわよって言って行ってしまったのである」
さすが抜け目ないな。でも俺のイフリートがなくても大丈夫なのだろうか、し不安だ。
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