アレスは目の前のとの戦闘を回避できるよう説得を試みる。

「始めましてお嬢さん。こんなところでどうしたんだい？」

「ふふふっ。し遊びたくなってしまって……」

そう言って、目の前のは地に足をつき、右手を天に掲げる。

その右手には、いつの間にか氷でできたレイピアが握られていた。

レイピアからは白い冷気が溢れ出す。

「ははは……そんな騒なものを持ってどうしたんだい？」

一瞬で氷のレイピアを作った？

魔法の予備作が一切なかった。

こんな蕓當、國の宮廷魔師でもできないぞ……

魔師系かと思えば、武まで使える。

これは厄介だな……

アレスは警戒レベルを一段と引き上げた。

「こんなおじさんと遊んでも面白くないと思うよ？　やめとこうよ？」

「いえいえ。そんなことありませんわ。ほら、武を構えないと危ないですわよ？」

は氷のレイピアを構える。

綺麗な構えだ……と思った瞬間には、懐まで潛り込まれていた。

「ッ？！」

のきに沿って、しい銀の髪が舞う。

が軽く振るった氷のレイピアは、アレスの橫っ腹に直撃した。

アレスはそのまま壁に向かって吹き飛んでいく。

ドゴォン！！

アレスは壁に激突し、巖の壁は砕けて飛び散る。

倒れまいと地面に手と膝をつくアレス。

自分から吹っ飛ばされることで、橫っ腹の衝撃はある程度逃すことができた。

壁との衝突の勢いもなんとか殺すことができた。

しかし、それでもダメージは大きかった。

「ぐぅ……！」

の方に目を向ける。

先程ぶつけられた氷のレイピアは、ヒビ一つっていない。

それどころか、松明ので煌めくそのレイピアは、見とれてしまうほど綺麗だった。

なんだあの氷は？！

さっきの、刃引きされた鉄の剣みたいだったぞ……

「ほら？　おじさまもどうぞ？」

はこちらを見て不敵に笑う。

「……くっ、やるしかないのか！」

頭の中を戦闘に切り替えたアレスは、のもとへと駆け、そのまま攻撃に移る。

アレスはのあらゆるところへと連続攻撃を加える。

腕、足、肩、腹、手首へと巧みな槍捌きで高速に振るわれる槍。

だが、はそれをいとも簡単に防ぎきってしまう。

「おじさまはの子に対して容赦がありませんのね」

そのお返しとばかりにからも、全く同じ位置へと刺突が返される。

がレイピアを振るう度に白い冷気が軌跡として殘る。

「くっ……！」

討伐戦だからといって、盾を持ってこなかったのは軽率だったか……ッ！

攻撃が止んだのを見計らい、アレスは下がって槍の間合いを確保する。

「……はははっ。最初に不意を打ってきた君がそれを言うかい？」

「ふふっ。たしかにそうですわね」

アレスの戦闘スタイルは、盾で相手の攻撃をけ止め、槍で反撃するという堅実な攻めだ。

だが、今のアレスは槍一本しか持ってきておらず、目の前の強者に対して攻めあぐねていた。

両手で槍を振るって威力をあげようとも、け流されて反撃を食らった。

石突きでの変則的な攻撃も、目の前のには軽々と防がれてしまった。

フェイントをれても、意表を突いて手や足で攻撃しても、全て躱されてしまう。

決め手に欠ける。

今のアレスの狀態はこれに盡きる。

「まいったな……」

相手が武のみで戦ってくれるのが幸いだな……

魔法を使われたら防戦一方になって何もできないだろう。

……だが、この打ち合いが楽しいと思う自分がいる。

いつの間にかコボルト達の聲も聞こえない。

氷のレイピアと槍のぶつかり合う音のみが響く空間。

そのまま時間だけが過ぎていく……

「……って、なんで2人が斬り合ってるんだよ！」

その空間によく知った聲が響いた。

▽▽▽

僕は、コボルトの隠れ家にってから違和をじていた。

さっきまで聞こえていたコボルト達の聲が一切聞こえないのだ……

もしかして間に合わなかったのか？

逸る気持ちを抑え、奧へと進む。

コボルト達が設置したのであろう松明のおかげで、隠れ家の建を見渡すことができる。

奧に進むと何か倒れているコボルトを見かける。

は流れていない。

近寄って見てみると、息はしているようだ。

よかった……死んではいない。

ドゴォン！！

そうほっとしていると、奧のほうから建が崩れるような大きな音が聞こえてきた。

……なんだか嫌な予がする。

僕は音のする方へ駆け出した。

途中で見かけたコボルト達は皆倒れている。

今のところ起きているコボルトを見かけていない。

一、何がどうなっているんだ……？

僕は大きな音が聞こえた建へと、音を立てないよう近付いて中の様子を見てみる。

そこは何かの集會場のような広い空間。

僕のすぐ近くには倒れているコボルト達がいた。

奧の方に目を向けると、1人の騎士と1人の妖が戦っていた。

騎士の槍による高速な攻撃を細いレイピアだけでけ流す妖。

そのお返しとばかりに全く同じ位置に鋭い刺突をお見舞いする妖。

角度をつけたエグイ攻撃をしながら不敵な笑みを浮かべる妖。

……うん。あの妖は絶対遊んでいる。

どこまでついてこられるのかを試しているようにも見えるが、傍から見ると完全に悪役に見えてしまう。

騎士と妖の距離が離れる。

何か話した後、再度お互いに武を振るう。

練者同士による槍とレイピアのぶつかり合い。

攻撃と防が切り替わると、武が鳴らす音にも変化が出る。

それは騎士と妖による演舞のようで、僕はしばらく見惚れていた。

やけにキラキラしている妖のせいか、かっこいいだけでなくしくも見える。

僕がぼうっと見ていると、視界にっているコボルトがピクリと反応する。

それにより僕は正気に戻った。

「……って、なんで2人が斬り合ってるんだよ！」

僕はそうんで2人のもとへと駆ける。

「ルシエル！　なんでここまで來たんだ！　逃げろ！　このは俺よりも強い！」

アレスおじさんがこちらを向いてぶ。

「ふふっ。そうよ。下がっていなさい坊や。怪我するわよ？」

リーチェもこちらを向き、からかうような口調でそう言った。

「いや、リーチェも悪乗りするなよ！　アレスおじさん！　その娘は僕の仲間です！」

「はっ？」

アレスおじさんは、何を言っているんだというように呆けた顔をする。

「坊ちゃん！　怪我はないですか？！」

細剣を抜いたバロンが、僕達のもとへと駆けつける。

「ルシエル、どういうことか説明してもらえるな？」

アレスおじさんは真剣な顔で、バロンは不安そうな表で僕を見る。

あー、これは正直に話した方がいいか……

アレスおじさんとバロンなら話してもいいと思う。

信じてもらえるかはわからないけど、話すだけ話してみよう。

コボルト達は僕が何とかするってことも説得しないといけないし。

……そうして僕は、リーチェと僕のこと、転生のことを打ち明ける決心したのだった。