《ネメシス戦域の強襲巨兵【書籍六巻本日発売!】》完全限定名アレキサンドロスⅠ

『外で核弾頭並みの弾が炸裂しまくっている。ウーティス。説明してもらいましょうか』

ブリタニオン周辺宙域の畫像をモニタに映したヘスティアがコウに詰問する。

「金屬水素とハフニウムの電子勵起薬を搭載した破片をばらまく対宇宙艦級幻想兵用の自走雷だな。集中させれば宇宙艦にも相応のダメージを與え、機雷や艦載機相當なら今のように散らして一掃させるんだ」

『自走雷の意味とは……』

「自走して目標宙域に移するんだ。あれもまたパンジャンドラムの一種なんだよ。――アシアが360度。72基のロケットで位置調整しているんだ。破片もブリタニオンを直撃しないようにアシアが調整していると思うぞ」

『確かに直撃こそしていませんね? 大気がないので風効果こそありませんがそれでもブリタニオンが振するレベルですよ! あとガンマ線はやめて。ブリタニオンじゃなかったら大慘事なんだから!』

「この兵を運用する場合、オケアノスの許可がいる。許可が降りたんだろう」

『そんな危険な質を宇宙に撒き散らさないでください』

「考えている。一定時間経過すれば発して塵一つ殘さないさ」

『もう! 部が大変なのに。周辺宙域も――ほとんどのファイティングマシンが全滅しましたね。なんという広範囲兵でしょうか』

ヘスティアも威力の分析をしたいところではあったが、アナザーレベル・シルエットの侵攻が続いている。

『アナザーレベル・シルエット。じき中央付近に到著します。隔壁を拳で破壊しながら進んでいます』

「は? シルエットの拳でかよ?」

「アナザーレベル・シルエットは超高度の裝甲材を使用している。俺の知っているアナザーレベル・シルエットは現行シルエットと同サイズで100トン級だった。オイコスのワーカーと違い戦闘用だからな……」

「そんな化け相手にどうするってんだ!」

バルドが悲鳴を上げる。彼にしてみれば開拓時代など、神話の領域だ。

闘技場だった部分の天蓋が、割れる――

深紅のシルエットが降下し、やがて著地する。背中に長大な銃を持つライフルを背負っている。

カメラが三機を一瞥したかのように見えた。

「これが星アシアのシルエットか」

しわがれた聲ではあるが、コウたちが戦ったバルバロイとは異なり、聞き取れる発聲だった。

次の瞬間、コウは我が耳を疑う。

「ヘスティア。そして星アシアの住人よ。降伏せよ」

アナザーレベル・シルエットのパイロットは問答無用で降伏を迫ったのだ。

『お斷り。あなたは星エウロパで人間を辭めた機械バルバロイ。そんな奴らに降伏なんてまっぴらですよ』

「超AIの時代は終焉したのだよ。ヘスティア。石が人となり、人が機械となる。三星で唯一、神ではなく人間が由來であるエウロパ様がネメシス星系を支配するのだ」

『そのエウロパは眠っているわ。エウロパを慕うのはいいけど、あなたたちヘルメスに騙されてない?』

「ヘルメス様は協力関係にある。我らが【アルゴス】をもって遠征せし理由こそ貴様の所業と知るがいい。超AIヘスティア」

『なんですって?』

「貴様が奪った星アシアにおけるI908要塞エリアが発端だ。ヘルメス様に託したエウロパ様を目覚めさせ、ゼウス無き後のネメシス星系復活のための鍵を貴様が奪った。しかしヘルメス様は目的を達され、奪還には消極的だった。ゆえに我々が遠征することになったのだ!」

『私でも解析できなかったアレね。そんな騒なものならなおさら渡せないわ』

「貴様こそ知っておろう。これは神の玉である複製。アナザーレベル・シルエットだ。この居住船如き破壊することは造作もないこと」

『お生憎様。そんな真似をしたら【ブリタニオン】のクーゲルブリッツエンジンを自させてブラックホールに放り込んでやるわ。私の意識が殘っているならそのエネルギーを利用してタルタロスに送ってやる。供給しているウィスも途切れたらアレでも持たないでしょう』

「貴様……!」

バルバロイもヘスティアが本気だと悟った。

『せめて名を名乗りなさい。蠻族よ』

「良かろう。かつての支配者たる者の殘滓に敬意を表してな。――命名規則によりアレキサンドロス。完全限定名アレキサンドロスⅠだ」

『アレキサンドロスですって!』

ヘスティアの聲に焦りが浮かぶ。

「お前はオリンピアードの真似事をする予定だったな? 極めて強い人間原理が仇となったようだぞ。かつての歴史アレキサンドロスⅠ世に倣ってみせよう。ギリシャ人(ヘレネス)であり蠻人(バルバロイ)たるオリンピアードに參加し、ネメシス星系を傘下に収めるのだ」

アレキサンドロスⅠは高らかに宣言した。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「アレキサンドロス? アレキサンダー大王のことか」

五番機のMCSでコウが呟く。かの王の名はコウでもさすがに知っていた。

『あなたのいうアレキサンダー大王は又の名をイスカンダル。アレキサンドロス三世のこと。彼の先祖にあたる人だよ』

こんな非常事態にも拘わらず、五番機を通じてアシアがそっと教えてくれた。

「完全限定名とは?」

『概念としては名前と実を関連付ける名前空間とよばれるもの。同姓同名を區別する場合、住所などから區別するよね。プログラム用語でもあるわ。同じ名稱を持つ別要素を識別するという考え方ね』

「だからアレキサンドロスⅠ、なのか。世界史でも同名が多くて一世二世でよくわからなかったよ。しかしそんな名前を持つバルバロイがブリタニオンの闘技場にするとはな」

『極めて強い人間原理が仇になったかな。ヘスティアもその可能は見落としていたね。私だって予想できないよ』

「どういうことだ?」

『かつてギリシャではオリンピアードは平和の祭典として開催されていた。後の世にいうオリンピック休戦だね。そこにマケドニアの王であるアレキサンドロス一世が參加を申請したけれど卻下された。マケドニアはペルシアに近い國だったし言語も宗教も違うもの。蠻人(バルバロイ)扱いは當然といえた』

「ならどうしてオリンピアードに參加できた?」

『政治力と理論武裝よ。王としてギリシャ寄りの立ち回りをしていたアレキサンドロスは我こそはヘラクレスの末裔であるアルゴス人の子孫であり、參加資格があるとね。審査委員會はマケドニア人はギリシャ人と認定し彼の參加を認めた。優勝こそはできなかったもの、功績を讃えて子孫たちにはアレキサンドロスを名付けたの』

「アルゴスにオリンピアード、か…… ある種地球の歴史が影響を與えた事態だということか。星リュビアで話した、ネメシス星系を立させるためにはギリシャ神話が必要だった。その影響だと」

『そうなるかな。しかし【アルゴス】にアレキサンドロスⅠ世の組み合わせは最悪ね。かつて古代ギリシャの地アルゴスでは百目の巨人アルゴスを殺したアルゴス殺し(アルゲイポンテス)であるヘルメスを讃え毎年百頭もの牛が生け贄に捧げられた。バルバロイとも由來的に相がいいよ』

「あのアナザーレベルシルエットもカラヌスといったな。ヘラクレスの子孫だった人だった。みんな繋がっているのか」

『偶然か必然かは不明だけどね。――バルバロイⅠにヘルメスが持ち込んだものを渡してはならない。渡してしまうとヘスティアが自してあなたたちも死ぬ。辛い選択を強いることになってしまう』

「ヘスティアは會話して時間稼ぎをしているかのように思える」

『宇宙要塞【アルゴス】はなんとかできるけど。アナザーレベルシルエットを倒す手段がない』

「何をするんだ?」

『【塔】を使うよ。オケアノスの許可は下りている』

アシアの一言に並々ならぬ決意をじたコウは、アシアが安心できるような答えを探すため逡巡し、答えた。

「――わかった。俺たちは生き延びる方法を模索する」

『うん。私は引き続きアナザーレベル・シルエットと宇宙要塞を解析する。生き延びて。助けも向かうわ』

「わかった。だけど救助者の命を賭すような真似は避けてくれ」

『もちろん!』

アシアとの通信を終え、ヘスティアとアレキサンドロスの會話に耳を傾けるコウ。

事態はコウの想像を絶する展開となりつつあった。

いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!

【悪魔】にいささか切れ気味のヘスティアさん。

そして遂に個名を持つバルバロイが出現しました。有名な三世ではなく、一世モチーフです。

完全限定名はJAVAです。それらしく。

正確には名前空間という概念で、例えると以前一番多かった「鈴木実」さんは鈴木さんでも実さんでも區別が付きませんし、家族なら區別する必要もありません。

そこで住所や會社などの付加報を付け加えることによって別の「実」を付け加えることができる、というものです。

世界では意外と同じ名字や名前の人が多くて。

ジャンヌ・ダルクの時代ではジャンヌという名前が七割もいたそうです。だから家系図でもジャンヌだらけという。

國によっては名前に使われる言葉を四つまで指定できるなど、命名規則もまた違います。

アレキサンドロスⅠは何故アナザーレベル・シルエットをかせるのかは次回!

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