《【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの年は、眠りからさめた神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】》4-60:最後の役目
『太の娘の剣』。
奔る黃金のが、ユミールのを穿った。
突きの勢いのまま、僕は巨人のに飛び込み、そのまま突き抜ける。
背中から飛び出した僕は、20メートル以上の高さにいた。地面に落ちていく。ちぃん、と涼やかな音を跳ねさせて、短剣から金貨が剝離。コインを握りしめると、黃金の魔力が僕を包み込んで、ゆっくりと降下させてくれた。
朝日を浴びながら、僕は後ろを振り返る。
「ユミールは……!」
原初の巨人は膝をついて、きを止めていた。背中からに巨大なが穿たれている。『太の娘の剣』が、魔力で創りあげたを貫いたんだ。
どくん、と空気を揺らす心音。
<狩神の加護>、『野生の心』で魔力を探知する。
巨に開いた大で、真っ赤なが揺れていた。
『リオン』
ソラーナの聲が頭に響く。
「……うん! 心臓が、あのにある!」
創造されたが撃ち抜かれ、力の源――『氷炎の心臓』がになっているんだ。
今しかない。
「目覚ましっ」
短剣から風の霊(シルフ)を呼び起こした。風の力で僕は上昇、背中から大へ飛び込む。
朝日が差し込んで、し眩しい。
ユミールのは固く冷えていて、側は生きのというよりも、きれいにくり抜かれた窟のようだった。
空中に、氷に包まれた心臓が浮かんでいる。僕が手をばすと、応じるように拍した。
僕はそれを手に取る。何千年前かの神様もそうしたように、この巨人から『創造の力』を奪い取る。
――オオ。
風鳴りのような、きのような、聲が聞こえた。
外から悲鳴が來る。
「倒れるぞぉおおお!」
足場が急激に傾ぐ。崩れる巨に巻き込まれたら、圧死してしまう!
僕は氷炎の心臓を抱えたまま、側の出口へ跳んだ。巨大な板を蹴り、僕を狙うかのような腕をかいくぐり、雪原へ飛び降りる。巨は雪煙と轟音を立てながら倒れていった。
僕はなんとか地面に降り立ったけど、なかなか揺は収まってくれない。
やがて、雪煙が晴れていく。
もう40メートルほどにもなっていたユミールのは、右半を下にして橫倒しになっていた。巨大な左目がかっと見開かれて、宙を睨んでいる。右目は雪に埋まっていた。
誰も聲を出さない。
100人ほどの冒険者と、神様がいるはずだけど、誰も。
雪原はしんと靜まり返った。
「……死んだ?」
<狩神の加護>でも、もう赤い魔力はかすかに巨を覆うだけだ。
ソラーナの聲が金貨から來る。
『ユミールはもともと弱っていた。一度は氷炎の心臓を取り戻したが』
神様は言葉を切る。
抱えた氷炎の心臓が拍し、僕はなくさないようポーチにしまった。
『リオン、君が粘り、そして冒険者やフレイヤ達が魔力を天界まで運んだ。ゆえに、心臓の力を引き出しきる前に――わたし達すべての力を叩きつけることができた』
勝因。
そんな言葉でまとめていいのかは、わからないけど。
「粘り勝ち――」
『耐えしのいで、味方が間に合う。君らしい強さだ』
昇りきった朝日がユミールと僕らを照らしている。吹きつける風を溫かくじるのは、ギンヌンガの空隙にいたせいだろうか。
ソラーナがぽつりと言った。
『さて……これで最も大きな脅威は去った。神々も、人間も、きっとさらに変わる』
え、と言葉を返してしまった。
どういう、ことだろう?
神様の口調はし震えて、弱弱しい。
もし空から聲が降らなければ、僕はソラーナへ問うていたと思う。
――――
皆さん。
――――
朝焼けが殘る空に、聞きなれた聲が響いていた。
冒険者も、神様達も、一斉に空を見上げる。
天界からの全メッセージだ。
――――
ユミールは倒されました。
終末は、終わりです。
英雄達が、いえ、全ての人が魔を退けました。
――――
冒険者達は顔を見合わせた。戦いが凄まじすぎて『勝った』という言葉に実がないのだと思う。
王都では今頃、母さんや王様、それにサフィが安堵していたり、空のが黃昏から戻ったりしているのだろうか。ユミールが倒れてから、雪原の寒さも和らいだ気がする。
――勝ったぞ!
――魔が、いなくなった!
上空からそんな快哉。そういえば、さっきも遠くの聲が聞こえた。
これ――僕らに王國中、いや、世界中の喜びを教えてくれる、神様のサービスだろうか。
全メッセージが、喜びを伝え合うのに使われてる。
頬が緩んだ。
「ありがとう、ノルン」
どういたしまして、なんて言葉が頭に響く。
上空から聲は降り続ける。ありがとう、助かった――そんな謝の雨に元気づけられ、雪原にも歓聲が満ちていった。
僕はへたり込んでしまう。火照ったに、雪が心地いい。
「あ……れ」
『お疲れ様、リオン』
ソラーナが溫かく告げる。
『君は本當に頑張った。家族や仲間だけじゃない。ついに何もかもを、守ってしまった』
「……ソラーナ達のおかげだよ」
『またそんなことを言う』
金貨から神様が飛び出してきた。
白いワンピースと背中まである金髪が、穏やかな風になびく。きらめく目を細めると、ソラーナは腰を屈めて僕を覗き込んだ。
「お疲れ様。今は、君を誇らせてほしい」
神様は、いつものように薄くをまとっていた。でも、普段が太のだとすれば、今の輝きはロウソクのように心許ない。
さらに、の粒が神様から流れ出ていた。がほどけているみたいに。
よく見ると――かすかに後ろの景がけていた。
「……ソラーナ?」
が締め付けられる。
僕を助けるため、冷たい空隙まで來てくれた。それだけじゃなくて、本當に最初から――金貨をけ取ってから、ユミールを倒すまで、力になってくれた。
神様だって、きっと今、ボロボロのはずだ。
「ありがとう」
僕はへたり込んだまま、ソラーナを抱きしめた。謝も、大好きなことも、それしか気持ちを伝える方法が思いつかなかった。
金の瞳と目が合う。
「うむ、こちらこそだ」
ソラーナは微笑んだ。いつも以上にきれいに見えて、が今度はいっぱいになる。
神様が囁いた。
「ありがとう」
がいていた。
僕はソラーナとを重ねる。
しの後、神様と見つめ合う。口元にまだその覚が殘っていて、自分が何をしたか理解して、両頬がどんどん熱くなった。
ソラーナも顔を真っ赤にしている。
「あ……」
「え……?」
僕、何してるの!?
2人でわたわたと離れた。
「ご、ごめん、急に……!」
「い、いや平気だ……!? る、ルイシアから、『ありがとう』以上を伝えるなら、そういうこともするものだと……!」
ル、ルゥ……! 神様に、デートとかだけじゃなくて、そんなことまで教えてたの……!?
僕はどうしていいかわからなくて、へたり込んだまま、籠手(ガントレット)で顔を覆った。
こんな時に、こんな場所で……僕、そんな奴だったのか……!
神様が言う。
「い、嫌ではなかったぞ」
「――!」
冷たい風が頬をなでる。神様のから、また風にさらわれるようにして金のが舞い散った。
の高鳴りも急に冷え、僕は問いかける。
「……大丈夫、なの?」
今までじてきた溫かな魔力が、弱まっている。
ソラーナは笑った。
「実は、わからぬ」
――ただでさえ傷ついていたのに。
神様達はみんな人間のために最後の力を振り絞ったんだ。
そんな思いがやってきて、はっとなる。
『最後』なんて、なんで僕はそんなこと予したんだろう?
「お兄ちゃん!」
後ろから聲がかかった。
ルゥが神様達と一緒に、空中から雪原に降り立つ。妹は、大階段にいたのを連れてきてもらったのだろう。
ミアさん達もこちらへ走ってきた。
僕は足に力をれて立ち上がる。
トールが太い眉を上げた。
「……ん? リオン、なんかお前の顔赤いな」
どきっとした。
「え!? そ、そう!?」
僕は必死に目を逸らした。あちこちに視線が泳いでるのがわかる。ソラーナも下を向いて、顔を真っ赤にしていた。
フェリクスさんが咳払い。ルゥとミアさん、それにトール以外の神様がみんな一斉に雷神様を小突いた。目を白黒させたトールが、神様達に圧されて後ろの方へ隔離されていく。
嘆息しているに、ルゥが僕の方へ歩いてきて、隣でユミールのを見上げた。
「終わったんだね、お兄ちゃん」
「うん」
僕は、ルゥの変化に気が付いた。
瞳が空に戻っている。ユミールと戦う前は、左目がフレイヤ様の魔力と同じ、緑だったのに。
視線に気づいたのか、ルゥは顎を引く。
「……フレイヤ様は、もう私の中にいないの」
僕はルゥからフレイの最期について聞かされた。
あの後、魔力をわずかに取り戻して、僕らに協力してくれたなんて。
「そうだったんだね」
「最後の最後だけど、2人とも、話せてよかったんだと思う」
ルゥの言葉に僕も頷きを返した。剣と覚悟を教えてくれた神様を、僕は心の中で描く。
せめて忘れないように。
ソラーナが巨人のを指さした。
「リオン、見ろ」
ユミールのがだんだんと黒ずんでいった。足先や指先といった端から黒い灰へと変わり、空気へ溶けていく。
この魔は、死んだんだ。
「巨人の最期だ」
神様に、僕は首肯した。
は灰になり、溶けるように消えていくのだろう。他の魔と同じように。
けれども崩壊が部分に達した時――冒険者達がどよめいた。僕も息を止めてしまう。
40メートルに迫る巨は、まだの半分以上が原型をとどめていた。
から空中に巻き上げられていく黒い灰。いつの間にか、そこに白いが混ざっている。
はユミールの部分に集まり、巨の上に球を形し始めた。
ルゥが聲をらす。
「あれって……」
球は、直徑30メートルを超える。白い輝きが降り注いで、雪原をさらに白く染めていた。
僕らには見覚えがあった。
「お兄ちゃん。天界にあった……」
「ああ。創世のだ!」
ユミールが死んだことで、喰らわれていた魔力がまた現れたということだろうか。それとも、これは原初の巨人なりの『魔石』の現れ方なのだろうか。
球はゆるく回転しながら黒い灰と魔力を巻き取っていく。
圧倒的な力の気配。僕ら冒険者も、神様さえ、息をのんでいるように思う。
上空から聲が降りてきた。
「やはり、予想をしていたとおりか」
雪原に降り立ったのは、ローブにを包んだ老神――オーディンだ。手に持った槍を杖のようについている。
隣には緑の裝束を著た、しいがいた。フレイヤ様、とルゥが小さく呟く。風に揺れる金髪が、球に照らされてきらめいていた。
オーディンは雪原に槍をついて、神様達を見渡す。
「トール、ロキ、ウル、シグリス」
そして、と言葉を継ぐ。
「太の娘ソラーナ」
からの粒をらし、弱っていく神様。
オーディンは目を細めたけれども、すぐに無表に戻った。崩れゆくユミールと、球を見上げる。
「神々として、最後の仕事をしよう」
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は11月29日(火)の予定です。
(1日、間が空きます)
次話+エピローグで完結となります。長々とお付き合いいただきありがとうございます。
冒険の終わりまで、ぜひお楽しみくださいませ。
【コミカライズ版 コミックノヴァで連載中!】
・第3話(前半)が公開されました!
ソラーナとリオンが誓いを結ぶシーンです!
幻想的な雰囲気の、素敵な場面となっております。こちらもぜひご覧くださいませ。
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