《最強になって異世界を楽しむ!》夜想曲の剣
「いやー、負けた負けた」
ワタルとの勝負を終え、ギルドの応接室で目を覚ましたアルマは、笑いながら頭をかいてそう言った。
強くやりすぎたかと不安だったワタルだが、アルマはすぐに目を覚まし、ダメージもないようにき回っている。
「ヨナスが喜ぶのもわかる。こんな逸材は初めてだ」
「逸材なんて、俺はそんな大層なものじゃないですよ」
「謙遜する必要はない。それより、約束は守ろう。俺にできる範囲なら、なんでも言うことを聞こう」
それを聞き、ワタルは最初から決めていた要求をアルマに言う。
「俺が困った時、助けてください」
「なんだ、それだけでいいのか?」
「はい」
「最近の若者はがないのものなのか。そんなことでいいのか?」
「信頼できる人との人脈は、お金を積んでも手にりませんから」
「……そうか。なら任せてくれ。おまえ達の頼みを、俺は斷りはしない」
アルマはワタルの言葉を聞いて、しばらく考えるような姿を見せていたが、やがて笑顔で頷いた。
「話は終わったのであれば、今回の依頼の話をしたいんだが」
アルマとワタルの話が終わったのを見計らい、ヨナスが橫から聲をかけてくる。
元々依頼の話をしようとしていたところを、アルマが無理矢理勝負したのだ。
今からの話が本題なのだろう。
「ワタルくん、君の腰の剣、それが魔剣かね?」
「はい。でも、自己紹介は本人にさせた方がいいと思います」
「本人?」
ワタルは腰の魔剣を手に取り、自分の前に軽く投げる。
魔剣はクルクルと回転し、地面に著く前に人間の姿、レクシアとなる。
「こんにちは、私は神殺しの魔剣レクシア。よろしくね、皆さん」
レクシアは綺麗に著地すると、くるりと回ってその場の全員へ軽く頭を下げる。
「人格を持つ魔剣と聞いたが、まさか人の姿になれるとは」
「魔剣か、俺もしいな」
「でも、魔剣ってそのほとんどが、呪いとかのデメリットがあるらしいですよ」
最初は驚いた表を見せたヨナス、アルマ、リナの3人だったが、すぐに落ち著き普通に話し始める。
この辺の適応力は、やはり人生の経験の差なのだろう。
「レクシアくん、だったね。いろいろと聞きたいことがあるんだが、いいかな?」
「ワタルくんが信用してる人なら、私も信用するよ。だから、聞かれたことには素直に答えるね」
それから、ヨナスが質問しレクシアが答えることが続く。
容はワタルたちに話したことばかりで、自分の生まれた話もしていた。
他にもレクシアの力について聞いており、それにはかなり驚いていた。
「神を倒した、ということか」
「正確には、劣化版の神様かな。本來の実力はあんなものじゃないと思うよ」
「そうか……ワタルくんたちからも、今回のことについて聞かせてくれ」
「わかりました」
レクシアと同じように、ワタルもヨナスから質問され素直に答えていく。
雷帝の能力から使う魔法、喋り方まで、雷帝については特に詳しく聞かれた。
なにせ神様だ。
ヨナスも興味が盡きないのか、長く続きそうだった質問を、リナが橫から止める。
「ヨナスさん、依頼について聞くんじゃなかったんですか」
「いや、すまない。個人的にかなり興味が湧いてな。さて、これが今回の報酬だ」
ヨナスが落ち著き、機に今回の依頼の報酬を置く。
ノクターンの時よりは流石にないが、それでも十分すぎる金額だった。
「これで私の用事は終わりだ。時間を取らせて悪かったな」
「ワタル、兵士になりたかったらいつでも言ってくれ」
「気が向いたらにしときます」
ヨナスとアルマと別れ、ワタルたち4人とリナは応接室を出る。
レクシアは見た目は人間そのものなので、その姿で大丈夫だと言われ、ワタルの隣を歩いている。
そのままギルドを出ようとしたところで、リナから呼び止められた。
「ワタルさん、エリヤから伝言を預かってます。暇があれば鍛冶屋に來てしい、だそうです」
「ありがとうございます。早速今から行きますね」
ワタルはリナに禮を告げ、エリヤの鍛冶屋を目指す。
わざわざ伝言までしたのだから、なにか大切な用事でもあるのだろう。
レクシアの報告もしたかったので、ちょうどいい。
ギルドとエリヤの鍛冶屋は近く、著くのにそれほど時間はかからなかった。
「エリヤさーん!」
「出てこないな」
「本當にここなの?」
いつもなら呼べばすぐに出てくるエリヤだが、今回は大きな聲で名前を呼んでも出てこない。
仕方なく、ワタルは鍛冶屋にり、奧の扉を開いてエリヤを呼ぼうとする。
「エリヤさん。來まし……」
ワタルの言葉は、そこで中斷される。
そこは言わいる工房であり、エリヤが見たことない真剣な顔で鋼を打っていた。
その景にワタルは思わず黙り、その場で立ち盡くす。
「……ん、ワタルか。待たせて悪いな」
「いえ、大丈夫です」
外のマリーたちに待つように伝えて數分後、エリヤの作業が終わったようで、こちらに顔を向ける。
額にはびっしりと玉のような汗をかき、その手には完したばかりの剣が握られていた。
「エレナたちも一緒だったか。いや、1人見たことないな」
「初めまして。私は神殺し魔剣レクシア」
「おお、これが聞いていた魔剣か!」
エレナとマリーは面識があるため軽く會釈し、レクシアは初対面なので自己紹介をする。
それは聞いて驚くどころか、むしろ興味津々といった様子で、エリヤがレクシアに詰め寄る。
「エリヤさん、落ち著いてください」
「っと、悪いな。魔剣を見るのは初めてで興してしまった」
自分の知り合いは、人の姿になる魔剣に怖さよりも、興味を持つ人ばかりだな。
ワタルがそんなことを考えている間に、レクシアがエリヤに自己紹介を終えたようで、エリヤがこちらへ向き直る。
「今回呼んだのは、ワタルにこれを渡すためだ」
「これは、剣と盾ですよね」
エリヤから渡されたのは、先程まで鍛えていた剣と、既に完していたらしい盾だった。
どちらもやや小ぶりだが、ただの剣と盾じゃないのは、持っただけでワタルに伝わった。
「今回はどんな効果があるんだ?」
「よく聞いてくれた。実はギルドがおまえ達の倒した幹部の、腕を解析し終えてな。その腕を俺が引き取って、鋼と掛け合わせて武にした。かなりの業だと自負している」
エリヤは自信満々に言うが、それも當然だろう。
ノクターンの腕を使ったということは、人間の腕を鋼と混ぜ、武を作ったようなものだ。
その技はわからないが、それが途方もなく難しいことだというのは、ワタル含め4人にも伝わる。
「その剣と盾たが、再生能力が備わっている」
「再生能力……噓でしょ?」
「本當だ。実戦で使えばわかると思うが、刃こぼれぐらいなら一瞬で直る」
ノクターンは恐ろしいほどの再生能力が脅威だったが、エリヤはその能力を武に付與したという。
再生能力を持つ武。
そんなもの、世界中探してもこれだけだ。
「魔剣を持ったと言っても、人間の姿になって戦うこともあるだろう。本當は予備のつもりだったが、役に立ちそうだな」
「これ、価値やばいですよね……」
「まあ、結構頑張ったからな。だけど、それはおまえ達が自分で手にれた素材を使った。金額は俺の人件費だけだ」
「こんな凄いものを俺に……ありがとうございます」
「いいってことよ。それより名前はどうする?」
「名前……」
ワタルはし悩んだが、すぐに名前は決まった。
「夜想曲の剣にします」
「ほう」
ノクターンは漢字で書くと夜想曲となり、そこから取った名前だ。
ワタルは新しい夜想曲の剣を目の前に、しばらく眺めていたのだった。
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