《最強になって異世界を楽しむ!》邪神

「さて、落ち著いたところで狀況を説明してもらえますか?」

「はいっす、実はっすね」

エンゲルを殺したリートは、現在起こっている戦爭についての詳しい狀況を聞き、ノクターンが簡潔にまとめて答える。

「そうでしたか……では、私たちは人間側に加勢すべきですね」

「ここに來る前に、裏切った幹部がいないことは確認しています。殘りはラースだけかと」

ロンドはノクターンたちと合流する前に、ほかの幹部がどうなっているかを確認していた。

そうしてセレナーデ以外の幹部が、既に戦場から消えていることは確認済みだ。

「わかりました。それでは、急いでラースの元へ向かいましょう。あれは人間では歯が立たないでしょうから」

「いえ……リート様のお手を煩わせる必要はありません」

「それはどうしてでしょう?」

現在魔王を名乗っているラースは、當然エンゲルよりも強い。

それほどの相手となれば、人間など取るに足らない相手に違いないとリートは考えていたのだ。

「人間側にも、リート様にすら匹敵する実力の持ち主がいます」

「私に……ですか」

「はい。ワタルという人間ですが、ワタルとその仲間達であれば、必ずリートを倒してくれるかと」

「あ、エレナって人狼もそのワタルってやつの仲間か。俺も戦いましたが、強かったですよ」

ロンドの言葉に同調するように、カプリースもそう付け加える。

リートはじっと2人を見つめ、やがて納得したように笑顔を浮かべる。

「ロンドが言うのでしたら、間違いはないのでしょう。ですが、萬が一ということもあります。私達は魔王軍の殘黨を処理しながら、ラースの元へ向かいましょう」

「「「はい!」」」

リート率いる魔王幹部の3人は、殘った魔族を殺しながらラースがいる魔王軍本陣へ向けて歩き始めた。

* * *

「ハラルちゃん、どうする?」

コラールを倒したハラルとレクシアは、その場に留まりワタルたちを待つか、2人で先に進むかを悩んでいた。

確実に倒すためならワタルたちを待つべきなのだが、こうしている間にも人間側は消耗し続けている。

「……進みましょう」

「はーい。今の私たちなら意外と簡単に倒せちゃうかもね!」

「そうだといいんですけどね」

そう言うハラルの橫顔は、かなり険しいものだった。

神の力を取り戻したハラルと、神殺しであるレクシア。

確かに並の相手であれば、敵ではないだろう。

「どうかしたの?」

「いえ、し気になることがあって」

「なんだ、2人だけか」

いざ進もうとした2人は、突如かけられた男の聲に驚き、一瞬で臨戦態勢にる。

聲の主と思われる男は、そんな2人を見ても眉一つかさない。

「どうした? わざわざ來てやったのだ。喜んでいいのだぞ?」

「ハラルちゃん、もしかして……」

「ええ、ラースです」

茶髪に翡翠の瞳をした、軀の良い男、ラースはレクシアには目もくれず、ハラルを見て口角を吊り上げる。

「久しぶりだな、セリカ?」

「気軽に名前を呼ばないでください。蟲酸が走ります」

親しげに話しかけるラースに対し、セリカは最大級の嫌悪を込めた聲音で応える。

「え、知り合いなの?」

「ラースは……いえ、後にしましょう。來ますよ」

セリカの言った通り、ラースは2人に開いた手をむける。

それだけで闇の炎が2人の足元に出現し、2人は後ろへ飛び退く。

「おいおい、連れないな。俺とお前の仲だろう」

「黙りなさい!」

セリカが地面を踏みしめ、一気にラースとの距離を詰める。

「神雷!」

同時にレクシアからの援護も飛び、神の雷がラースへ落ちる。

「神の雷だと? なるほど……お前が神殺しか」

ラースはしだけ驚いた様子を見せるものの、ニヤリと笑って無造作に腕を振る。

たったそれだけで、レクシアの放った雷は消え去った。

「ハラルちゃん、やっちゃって!」

簡単に攻撃を防がれたことにショックをけなかった訳では無いが、本命はレクシアの攻撃ではない。

「はああッ!」

既にハラルはラースの懐にり込んでおり、ラースの鳩尾目掛けて拳を振り上げる。

ラースは両手でハラルの拳を防ごうとするが、その程度で止まるほどハラルの攻撃は甘くなく、後方へ吹き飛ばされる。

「お、おお! 素晴らしい。神の力を取り戻したのだな」

吹き飛ばされたラースは音もなく綺麗に著地し、まったくダメージをじさせずにハラルを見る。

その表は、こころなしか嬉しそうだ。

「そうではなくてな。俺の相手は務まらないというものだ」

「貴方のそういう格、大嫌いです」

「そう言ってくれるな。モラルタ」

ラースがの前に手をかざせば、その手に漆黒の剣が現れる。

モラルタと呼ばれたその剣を見た2人は、一目で尋常ではない業だと理解できた。

「では、そろそろ俺も」

ラースが腰を落とし、モラルタを構えた瞬間だった。

その背後から、急接近していたセリカが音もなくラースの首元へ白夜を振る。

完全に不意打ちでの攻撃だったが、ラースはそれに気付いていたようにしゃがんで避けた。

「なんだ、仲間か?」

攻撃を避けられたセリカは無防備で、そこへラースが攻撃を仕掛けようとするが、セリカの顔に焦りはない。

「仲間は私一人じゃない」

「はッ!」

セリカが笑ったのと同時に橫へ飛び退くと、その影からマリーの突風による支援をけたワタルが、凄まじい速度でラースへ斬りかかった。

ガキッ!

鈍い音を立てながら、ワタルが振るったデュランダルは、ラースのモラルタによって防がれていた。

それも、かなりの勢いを持っていたワタルの攻撃をけて、その場から1歩もかずに、だ。

「お前がワタルか?」

「だったら何」

「楽しみにしていた。お前を殺せるのをな!」

鍔迫り合いとなった2人だが、ラースが力を込めるとワタルが後ろへ大きく飛び退く。

「これて5人……報告通りならば、お前の仲間はこれで全員のようだな」

ワタル達はラースと距離をとると、5人で固まるようにして集まる。

「遅すぎた?」

「いえ、ナイスタイミングですよ」

「ならよかった。それで、あれが」

「魔王ラースです」

ワタルとハラルは短く言葉をわすと、目の前の相手が誰であるのかを確認する。

「ハラル、魔王ラースなんて呼び方はやめてくれ。魔王なんて稱號、俺は興味が無いのだ」

「知り合い?」

「あ、それ私も気になってた!」

「そうですね……知り合いというより、憎むべき敵ですけど」

肩をすくめるラースから目を離さず、ハラルは口を開く。

「あの男の本當の名前は邪神ラーステイル。天界に幽閉されていた男です」

「邪神……神?」

ハラルの言葉に、思わずワタルは驚いて気を取られてしまう。

戦場では致命的なスキとなるが、ラースに攻める様子はない。

「なんで貴方がここに居るんですか」

「いやなに。天界の牢獄も飽きてな。そんな時にお前が下界に降りたと聞いて追ってきたのだ」

「……私の力が目的ですか」

「もちろん」

ハラルは怒りからか、ギリッと歯が砕けそうになるほど食いしばる。

「気を付けてください……あの男は天界にいた頃に神を殺して、殺した神の力を奪っています。闇と自然を司る最悪の邪神です」

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