《異世界で吸鬼になったので”魅了”での子を墮とし、國を滅ぼします ~洗脳と吸に変えられていく乙たち~》12 そして逃げ場を亡くし、に墮ちてゆく
それは、アイネリンネを半吸鬼デミヴァンプに変えた二日後のこと。
私は夕日が差し込み黃昏に染まる禮拝堂で、レリィさんが來るのを待っていました。
彼と會う約束をした覚えはありません。
ですが私には確信があったのです。
アイと、彼に説得された義母に結婚を許された・・・・・・・レリィさんは、その喜びを私に伝えるために、すぐさま教會へ來るはずだ、と。
私は神像を見上げ、微笑みます。
彼は一、どんな気持ちで、この人外だらけの教會の景を眺めているのでしょう。
こうも何もかもがうまくいっていると言うことは、神は私たちを祝福してくれているのでしょうか。
あるいは、何も出來ない無力な自分を嘆いているのでしょうか。
ですが、私に祈りを捧げる気はさらさらありません。
神の存在を疑っているわけではないのですよ。
しかし、神が本當に人間を救うというのなら、私はとっくに救われていなければおかしいのです。
ゆえに、私は彼らを信じない。
私が今幸福なのは私の力であって、神の祝福など微塵も関係ない。
だからせいぜい見ていてください、また私が、1人の人間を殺し、幸せにするところを。
「チグサさんっ!」
バンッ、と勢い良く扉を開き、禮拝堂にレリィさんの聲が響きました。
私は長椅子から立ち上がると、額に汗を浮かべながらこちらに駆け寄ってくる彼を迎えるように両手を広げました。
もはやレリィさんは私のスキンシップを拒まない。
彼はそのまま一直線に走り、私のに飛び込みます。
「やったわ、やったのよ私!」
「ディックさんの母親の説得に功したんですね」
「うんうんっ、今までずっと反対してたお義姉さんが賛に回ってくれてね、ディックの言葉もあってやっと首を縦に振ってくれたの! 全部チグサさんのおかげよ!」
「そんなことありませんよ、レリィさんとディックさんの強い想いが伝わったんです」
「かもしれないけど、でも私にとってはチグサさんのおかげなの!」
彼はそう言うと、嬉しそうに私の頬に頬ずりをしました。
まるで飼い犬に懐かれているようで、微笑ましいですね。
し汗の匂いがしますが、私はそれも好きですし。
「しかし……ふふ、汗をかくほど急いでくる必要はあったのですか?」
「とにかく、この嬉しさをチグサさんに早く伝えたかったのよ。あなたの助言が無かったら、こんなに上手くはいかなかっただろうから」
そこは否定しませんが。
事実、私が何もしなければ、お義姉さん――アイが賛に回ることもなかったでしょうからね。
今夜にでも、ちゃあんとご褒をあげないと。
「さっそく、近いうちに私を婚約者として紹介するためのパーティーも開いてくれるんだって!」
「それでは忙しくなりますね」
「うん……だから、しばらくチグサさんには會いにこれなくなると思う」
「でしたら、今日のうちにその寂しさを埋めることができるぐらい、レリィさんを満喫しておかないと」
「んふふ、ちょっと大げさじゃない?」
照れながらレリィさんは言いました。
大げさなものですか、今日のうちにたっぷりとレリィさんの中に流し込んでおかないと、いざという時に足りなく・・・・なっては困りますから。
「寂しくなるのは本當ですよ、昨日だってレリィさんが來ないかずっと心待ちにしていたのですから」
「チグサさん、最初に會った時からそうだったけど、なんで私のことをそこまで気にってくれるの?」
「一目惚れ、でしょうか」
「真面目に聞いてるんだけどなー」
「それ以外に適した言葉を私は知りません。初めてレリィさんを見た時に、直的にこの人と仲良くなりたいと思ったのです」
「ほんとに?」
「ええ、そしてこうして話していると、ますますその気持ちは大きくなりました。今ではディックさんに嫉妬するほどです」
「そこまで好かれちゃってたなんて、恥ずかしいやら嬉しいやらだね、えへへ」
嬉しそうにはにかむレリィさんを見ていると、思わず押し倒したくなります。
今なら、冗談っぽく言えば許してくれるかもしれませんね。
「禮拝堂で立ち話も何ですから、今日は私の部屋に行きましょうか」
「え、チグサさんの部屋にれてくれるの? どんなとこだろ、ずっと気になってたのよね」
「そんなに大した場所ではありませんが、レリィさんなら満足してくれるかもしれません」
「えー、なにそれ。私なにされちゃうんだろ」
そのまま私たちは、指を絡めながら手をつなぐと、禮拝堂の奧へと消えていきました。
◇◇◇
部屋にるなり、レリィさんは目を輝かせながら私の部屋を観察します。
特に何もない部屋ですが、彼にとってはそれだけでも新鮮だったようです。
そして周囲を一通り見回すと、ぼふっとベッドに腰掛けました。
「チグサさんの部屋だって思うとドキドキしちゃうな、なんでだろ?」
足をぱたつかせながらそう言うレリィさんに、私はゆっくりと近づいていきます。
「どうしたのチグサさん、ちょっと目が怖いよ?」
そう言いながらも彼は笑い、視線には私に対する信頼が宿っているのがわかります。
本來なら今日も我慢が必要な日なのですが、こんなにも無防備な姿を私の前に曬しているというのに、れないのは逆に失禮というもの。
しだけなら。
そう――あくまで友の延長線上にあるぐらいなら、つまみ食いをしたって問題は無いはず。
それに、おそらく、今のレリィさんなら拒めはしないはずですから。
「チ、チグサ……さん?」
私が両肩に手を置くと、彼は聲を震わせながら、し他人行儀に私の名前を呼びました。
「呼び捨てでいいですよ」
「チグサ……?」
「はい、レリィ」
そのまま私は腕にぐっと力を込めて、レリィをベッドの上に押し倒しました。
馬乗りになりながらまっすぐに彼の瞳を見下ろすと、若干の怯えはあるものの、しずつ目を細め、雰囲気に飲まれていくのがわかりました。
「待って、チグサ……何、しようとしてるの?」
「嫌だったら嫌だと言ってください」
「答えになってないわよぉ。まさか、本當に、そういう意味の”好き”だったの……?」
「私にもよくわかりません。ですが――ディックさんに嫉妬した、と言うのは事実ですよ」
ゆっくりと顔を近づけていくと、彼はまるで拒絶するように両手を私の元に當てました。
しかしその手には全く力がこもっていません。
理は拒むべきだと訴えている。
ですが、レリィの本心が私を求めているのでしょう。
湧き上がる求はすでに奧底に刻み込まれている、それは人間に抗えるものではない。
「今日を終えたら、レリィはディックさんのものになってしまうのでしょう? だったら、今日だけでも……私のになってくれませんか」
「っ……そんなの、ディックへの、裏切りになるし……」
「誰にも言いませんから。約束は違えません、私とて聖職者です」
「聖職者はまずこんなことしないわよ……でも、その……私は、嫌じゃ、無い」
レリィは私の手を摑むと、自分のをらせました。
火照る溫の奧底に、どくんどくんと明らかに普通より早い心臓の鼓が存在しているのが手のひらから伝わってきました。
「私の、こんなになっちゃってるのに……チグサのこと、拒めるわけがないよ」
「ありがとうございます。せめて今日だけは、ディックさんのことを忘れて、レリィも楽しんでくださいね」
私がを近づけると、レリィはきゅっと強く目を閉じました。
ナナリーも婚前渉は無いと言っていましたし、レリィの場合は元は貴族の一目惚れから始まった。
まだ、キスにも慣れていないようです。
つまり私のに染める余地は殘っている。
ふふふ、お嫁さんが、自分以外の誰かにいやらしいことを教え込まれるなんて、どんな気持ちなんでしょうね。
「ん、ふ……」
を合わせると、興のあまり、私のから吐息がれてしまいました。
レリィも興しているようで、荒い鼻息が私の頬をくすぐります。
は固く閉ざされていて、中にはれられそうにありません。
私が一旦を離すと――レリィは顔を真っ赤にしながら、恐る恐る目を開きました。
「いまのが、キス……」
私との口づけに惚けているレリィは、ぼそりとそう呟きました。
その微かに開いた隙間を、私は見逃しません。
「ふぐっ!?」
今度はエリスに見習って荒々しくを奪うと、隙間が閉じるより先に舌をり込ませます。
「んーっ!? んー! んふぅぅっ!」
初めてのに足をじたばたさせるレリィでしたが、吸鬼の力を振り解けるわけもありませんでした。
私は彼の弱點を探るように、彼の口を念りに調べていきます。
まずは頬の粘に――
「んっ、んうぅ……ふ、は、はぷ……ぅ」
次は口の上側、歯の裏側。
「んぁ……は、あ……ひぅっ……ちゅぷ、んく……っ」
そして舌の裏側や、側方をなぞるように――
「ん、んぁっ……あんっ……ん……れる……じゅる……ちゅぱ、んふ、ちぐ……ひゃ……」
明らかに反応が変わりました。
どうやらレリィの弱點は舌の裏側から側面のようです。
私の舌がそこを重點的に攻めると、彼は次第に大人しくなり、しまいにはねだるように、自らり付けてくるようになりました。
も快を愉しむようにゆったりと、艶めかしいきになり、腕は左、右の順番にゆっくりと私の首の後ろへと移します。
「あま……い、ちぐ、んちゅ……さぁっ……はふ、んちゅ、しゅきぃっ……」
じきに私の唾も喜んで飲み込むようになり、完全にレリィは口づけの虜となっていました。
腕だけでは著度が足りなくなったのか、気づけば足も私の腰をしっかりと繋ぎ止めている。
こんなに必死なキス、果たして結婚したディックさんはしてもらえるんでしょうか。
だって――今のレリィ、間違いなく彼よりも私の方をしていますよ?
「わらひも……ちゅう、じゅる……すき、ですよ……っ」
「んはぁっ……あぁ……うれしい、チグサぁ……っ」
キスを終えると、レリィはぐったりとベッドの上で橫たわりました。
汗ばんだ鎖骨が、大きく呼吸をするたびに微かに上下します。
もはや彼の頭の中に、ディックなどというどうでもいい男の存在はありません。
私は彼の元に手を外し、シャツのボタンを1つずつ外していきます。
そんな行を見ても、レリィは止めるどころか、うっとりと目を細めるばかりです。
「する……の?」
「はい、レリィの全てを、私にくれませんか?」
「ん……いい、よ。チグサになら……私の全部、あげても……いい……」
”今日だけ”という免罪符が、彼に大膽な言を取らせているのかもしれません。
最後だからいくられても構わない、そう思っているのだとしたら――ならば、男の手では味わえない快楽を與えてあげるのが私の役目。
それから、レリィが部屋の外にまで聞こえる聲を上げるまでに、大した時間は必要ありませんでした。
私の手によって與えられる未知の覚は、きっと彼の記憶に、心に、そして魂に、深く深く刻み込まれたことでしょう。
◆◆◆
チグサと寢てから、3日が経った。
あまりの気持ちよさに気絶した私が目を覚ますと、私は元通り服を來ていて、チグサも修道服を纏っていつものように笑いかけてきた。
まるで夢みたいなひととき。
いや……本當に夢だったのかもしれない。
だって、目を覚ましたあとのチグサは、全く私のにれようともしなくて、そのまま『ディックさんとお幸せに』と言って、見送ってくれたんだから。
私が今居るのは、待ちに待った、ディックが花嫁をお披目するためのパーティー會場。
社場の雰囲気には相変わらず慣れないけど、今日は私たちが主役ということもあって、をかけて張していた。
チグサのこと、そして張で暗い表を浮かべる私のもとに、赤いドレスを纏った派手なが、金のツインロールを揺らしながら近づいてくる。
「あら、花嫁が憂鬱な表をしてはいけませんわよ」
「アイネリンネさん……」
彼は、ディックの姉であり、私の結婚に反対していたアイネリンネさんだ。
「お義姉さんで良いと言ったはずですわ」
「あ、ごめんなさい、お義姉さんっ」
焦って頭を下げる私を見て、お義姉さんはに手を當てて、くすくすと笑いました。
「そういう慌てん坊なところも可らしい。ディックは良いお嫁さんを見つけたわね」
彼は最近、以前とはまるで別人のように私への當たり方がらかくなった。
何があったのかよくわからないけど、厳しいお義姉さんよりは、今みたいなお義姉さんの方がいいから、私としてはありがたい。
でも、どうも前より顔が悪いみたいなんだけど、大丈夫なのかな。
「妹さんも素敵だし、いっそ私が貰ってしまってもいいかしら?」
「もう、お義姉さんったら。でも、ミリィも仲良くしてもらえると喜ぶと思います」
「あらそうなのね、だったらあとで聲をかけてみるわ。じゃあ、私は々と挨拶があるから、またあとでね」
そう言って、お義姉さんはウインクをして去っていった。
元々綺麗な人だから、しどきりとしてが跳ねる。
そういう趣味、無いはずだったんだけどな……チグサとの一件があってから、私は相手にも妙なを抱くようになってしまった。
ディックには緒にしておかないと。
「お姉ちゃん、さっきのが義理のお姉さん?」
「ええそうよ、ミリィとも仲良くしたいって」
「ほんとに!? えへへ、わたしも仲良くしたいな。名前はなんていうの?」
「アイネリンネさんよ、アイお姉ちゃんって呼ぶと喜んでくれるかもね」
「アイお姉ちゃんかあ……」
頬を赤らめながらお義姉さんの方を眺めているのは、私の妹であるミリィだ。
いつもは調が悪くて家から出られないんだけど、ここ數日は珍しく元気で、今日も奇跡的にパーティーに來ることが出來た。
ディックの好意で合うサイズのドレスも借りることが出來たし、今日のミリィは、かつて見たことが無いぐらい元気だった。
「それにしてもやっぱりすごいね、貴族の人たちって。お姉ちゃんがあの人達に仲間りすると思うと、ちょっとさびしいかな」
「何言ってるのよ、ミリィも一緒よ?」
「私は難しいかな、人とお話するの、あんまり得意じゃないから」
「そうかなあ、ミリィと話してたら、みんなその可さにメロメロになっちゃうと思うんだけど」
「褒めてくれるのはお姉ちゃんだけだよ」
ミリィは寂しそうに、ぐりぐりと私にに顔を押し付けた。
小さい頃からなかなか家の外に出られなかったせいか、ミリィの世界は狹い。
中でも私に特に懐いていて、一時期は結婚すると伝えるだけで泣くほどだった。
それが今は、こうしてパーティーに出て笑顔を見せてくれるようになったんだから、大した進歩だと思う。
「あれ、もしかしてディックさんが呼んでる?」
ミリィの聲で、ディックが私を手招きしていることに気づいた。
貴族のおじさんに囲まれているし、私を紹介してほしいってせがまれたのかもしれない。
「ホントだ。じゃあお姉ちゃん行ってくるね」
「うん、行ってらっしゃい」
笑顔のミリィに見送られながら、私はディックの方に向かう。
そこでは案の定、リンドフォーグ家にを売っておきたいおじさんたちがディックに集っていて、私もそんな人達に想笑いを振りまくことになった。
料理やお酒が味しいのはいいんだけど、こういう空気が苦手なのよね。
パン屋で鍛えた営業スマイルで、想笑いはどうにかなってるんだけど――
「キャアアアアァァァァッ!」
瞬間、何の前れもなく、パーティー會場にび聲が響き渡る。
何事かと思い、一斉に視線がんだの方に向き、私は気づくと――ディックに突き飛ばされていた。
「……え?」
なぜ私にそんなことを?
私は吹き飛ばされながら、視線だけを彼の方に向けると、ちょうど目があった。
ディックが私を安心させるように微笑む。
しかし、その顔は次の瞬間には潰れていた。
顔だけじゃない。
私を抱きしめてくれた両腕も、たくましいも、ついぞ使われることが無かったお腹の周りも、そして足も、何もかもが飲み込まれていく。
天井から墮ちてきた、シャンデリアによって。
ガシャアァァァンッ!
盛大な音と共に、ガラスで出來たライトが砕け散ると、同時にその下敷きとなったディックを含む貴族數名のとが飛び散る。
特にディックの傍に居た私には、ディックのパーツとディックのが纏わりついて。
べちゃ、と言う音ともに、純白のドレスを赤く染めた。
「え……え?」
私はもちをついた勢のまま、呆然と、自分の頬に手を當てる。
ぬとりとした。
手のひらを眺めると、そこにはさっきまでついていなかった赤黒いがへばりついている。
そこに私は、一瞬だけぬくもりをじたけど、すぐに冷たくなって消えた。
遅れて、鼻からり込んできた、鉄の匂いが私の脳を揺らす。
そして理解する、これが彼のから垂れ流されたであることを。
「う、うぇ……おえぇぇぇぇっ……!」
理解して、気分が悪くなって、私はこみあげるパーティ料理とアルコールを、その場に吐き出した。
撒き散らされる吐瀉は、ディックの死の上にぶちまけられる。
汚してしまった、汚してしまった、汚してしまった!
罪悪と、そしてその吐瀉の匂いと、の臭いと、あと死から発せられる排泄めたい汚臭が混じり合って、私の脳を更に滅茶苦茶にかき回す。
「あ、がっ……げえぇえっ、お、おぉう、う、げ……」
私はさらに吐いた。
吐いて、吐いて、胃の容がなくなっても、それでも吐き気は消えなかった。
會場にあは一瞬の沈黙が満ちた後――一気に、発するように各々の悲嘆のびが轟く。
まさに阿鼻喚の地獄と化したパーティー會場において、私を助けようと思う人は誰も居なかったようで、崩れ落ち、嘔吐を繰り返す私に近づいてくれる人は、誰もいない。
ディックが死んでしまった。
結婚するはずだったのに、幸せになるはずだったのに、ディックが死んでしまった。
幸せの絶頂から、不幸の奈落へと、墮ちてゆく。
そんな私に救いの手を差しべてくれる人は、誰一人としていないのか――
その瞬間、とある人の顔が、頭に浮かんだ。
「チグサ……助けて……チグサぁ……」
心の支えを失った私は、ひたすらに彼に救いを求める。
ディックを失ってしまった以上、私にはもはや――彼しか、殘されていなかったから。
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