白金姉妹が墮ちてから數日後。

とあるホテルの一室に、エリスと都の姿があった。

エリスはベッドの上にあぐらをかき、千草に與えられた”すまほ”なる道を不思議そうに眺めている。

都は椅子に腰掛け、退屈そうにテレビのニュースを眺めていた。

報じられているのはもちろん、続く殺人事件の話題。

もはや殺人と呼ぶには規模が大きくなりすぎたせいか、連日どこの局も同じ事件の報ばかりを流している。

警察だけでは手に負えなくなり、自衛隊まで出るのではないかという話まで出始めていた。

もっとも、誰が出てこようが、彼らが止まることはないのだが。

「ねーねーミヤコ、ちょっとお姉さまについて聞きたいことがあるんだけどさ」

「ちーちゃんがどうかしたの？」

都は緑茶のったマグカップをテーブルに置くと、を捻ってエリスの方を見た。

エリスはスマホいじりに飽きたのか、ベッドの上に投げ出す。

「ほら、今ちょうど両親に會いに行ってるんでしょ？　私も廃棄街育ちで親の記憶とかほとんど無いからあんまり話題にしなかったんだけど。お姉さま、両親との間に何か問題でもあったのかなーって」

その場にエリスと都しか居ないのは、千草が親と再會しているからだ。

最初は2人ともついていくと言っていたのだが、やんわりと斷られてしまった。

これは自分で消し去らなければならないしがらみだから、と。

珍しく曇った表を見せて。

都はエリスの問いに、椅子の背もたれにを預けて、大きくため息をついた。

「私は直接見たわけじゃないから、詳しくはわかんないんだけどね。ちーちゃんは8歳のときに母親に捨てられて、ずっと父親に育てられてきた。けどその父親も神的に不安定な人で、よくちーちゃんに暴力を振るってたんだって」

「クズだね、殺さなきゃ」

「同意見。でもその決著をちーちゃん自がつけたいって言ってるんだから、その意思は尊重されるべきだと思うな」

千草の意思の尊重。

それはエリスだって承知している、それでもしのお姉さまを傷つけた男の存在を許せるものではないが。

彼は不貞腐れた様子で言った。

「いくら父親と言えど男なわけじゃん？　今のお姉さまなら”どうでもいい”って思いそうだけど」

「ほら、ちーちゃんは私達と吸鬼になった経緯が違うから。そのあたりの変化も違うんじゃないかな」

「お姉様が男を容赦なく殺せるのは、元々そういう人間だったから、ってこと？」

「全部が全部ちーちゃんの願とは思わないけど、それでも、絶やしを誓うには十分すぎるほどの仕打ちはけてきと思う」

そのうちのある程度を、都は自分の目で目撃している。

思い出す度に、あれを止められなかったこと、むしろ加擔してしまった自分の罪を思い出し、が苦しくなる。

顔をしかめる彼を見て、エリスは慌てて話題を変えた。

「そ、そういや、ミヤコの両親はどうしてんの？」

「ずいぶんと會ってないかな、連絡ぐらいは取ってたけど。どうしてるんだろうね、私が行方不明になったってことは伝わってるはずだし、落ち込んで調崩してないといいんだけど」

「だったら、早く會いに行った方がいいんじゃない？」

「んー、でもお父さん殺さないといけないし、そっからお母さんのこと墮とすわけでしょ？　そうなると意外と面倒そうな……ああ、でも思い出すとお母さんのこと墮としたくなっちゃうな、そこそこ年は行ってるけど、抱いたら気持ちよさそうな型だもん」

実の母親を抱く自分を想像し、ほんのり頬が染まる。

自分を産んでくれた人を快楽の高みに導くことは、今や彼にとってまっとうな恩返しだった。

「私はあんまり、そこまで年齢上の人を墮とした覚えはないかなー……」

「結構いいよ、も強いからノリノリで付き合ってくれるし。一回に教え込んであげれば、魅了が終わらなくても自分から開いてくれたりするしね」

「へえ、変に処こじらせてて抵抗強いよりいいのかな。今度つまみ食いしてみよっと」

現在進行形で半吸鬼デミヴァンプは著々と勢力を強めている。

もちろんその靜かなる侵略にはエリスや都も參加しており、街で見かけただけのを墮とすことなど日常茶飯事だった。

エリスは”今度”と言ったが、おそらく明日にでも事はされるはずだ。

もっとも、世のの警戒心が増して居るのか、以前のように簡単に路地裏にい出すことはできなくなってしまった。

最近では影で鍵を開いて、家に押しって強引に魔力を注ぎ込むことが多い。

強引なのもそれはそれで、エリスは気にってはいるのだが。

「ん……」

ベッドの上で座るエリスは、小さくから聲をらすと、口をへの字に曲げた狀態でを捩よじった。

が熱を帯びている。

都の母親や、明日墮とすであろうのことを想像し、が喚起されてしまったようだ。

エリスはベッドから降りると、憂げに虛空を見上げる都を、後ろから抱きしめた。

回された手に、都の手が重なる。

足音などは隠していなかったので、ある程度近づいてきた時點で彼も気づいていたのだ。

そして気づいた上で、拒まない。けれる。

言葉での許諾は必要ない、れることが許された時點ですでに完了しているのだから。

エリスの手が服の上から都のをまさぐる。

くすぐったい、もどかしい覚に、彼は微笑みながら「んっ……」とっぽい聲を出した。

やがて這い回っていた手が上著のボタンに向かい、一つ一つ外し始める。

「ねえエリスぅ、ここでするの？　ベッドの方がよくない？」

「こういうのも悪くないけど、やっぱ椅子の上じゃ窮屈か。じゃあベッドに行こっか」

エリスは椅子の前方に回り込むと、エスコートするように手を差し出す。

前を開けさせた都はその手を摑み立ち上がり、2人はじゃれ合いながらベッドへ向かった。

前戯のさらに前戯とでも言わんばかりに、にれ合い、頬や耳、そしてで軽いキスを何度もわす。

先に仕掛けてきたのがエリスの時點で、今日の役割分擔は決まっていた。

「んっ、あふ、やぁんっ」

都は甘えたような聲を出しながら、ベッドの縁に腰掛けた。

その狀態で、エリスのが彼の首にある”印”にれる。

「んああぁぁぁぁあんっ！」

満なが、甲高いぎ聲と共に跳ねた。

それに乗じて、エリスは都を押し倒し、膝立ちの勢で上気する表を見下ろす。

千草と行為をする時は基本的にエリスがネコ・・になるが、都相手の時は半々ぐらいで変化する。

ただし、相手を墮とすという立場上、吸する相手に対してはタチ・・になることが多いが。

「んは……はぁ……ねえエリス、私いっつも、いきなり印を責めるのはナシって言ってなかったっけ？」

「”もっとやって”って願の裏返しかと思ってた」

いたずらっぽく笑うエリス。

都はこっそりと影をばし、そんな彼の上著の下に潛り込ませた。

「んひゃわっ！？」

へその下にある印を刺激され、のけぞるエリス。

リベンジ功、と口元に手を當て悪い笑みを浮かべる都を、彼は睨みつけた。

「ミヤコめ、やってくれたなぁ……？」

「言っとくけど、先に仕掛けてきたのはエリスの方だからね」

「うっさいやい、そーいう生意気なこと言うやつは、呼吸できなくなるまで印攻めにしてやろうじゃない」

都は”どうぞ”と言わんばかりに、顔をくいっと上げて首をさらけ出す。

エリスはそこに手をばし、ハートを上から人差し指でなぞった。

「あ……んぁ、ぁぁあ……っ」

で吸い付かれるのとは違う、ゆるりとした気持ちよさに、都のが震える。

彼の意識が快楽でけ、無防備な表を見せ始めた所で、エリスはにやりと口角を上げ、カリッとそこを爪で引っ掻いた。

「ひゃううぅぅぅんっ！」

エリスの思通り、都はひときわ大きなリアクションを見せる。

さらに人差し指を立てて、爪ではなく腹の部分で強めにぐりぐりと押しつぶすと、をブリッジさせたままぎ続ける。

「は、あおぉ……おぉっ、ほっ、ほおぉぉおおっ！」

「なんだかんだ、ミヤコはMだよね。ちょっと痛めにした方が嬉しそうにしてる」

自分だって責められた時は嬉しそうにしてるくせに、と都は反論したかったのだが――

「んぁっ、あぁァァあんっ！」

エリスの指に遮られ、言葉になることはなかった。

ぐ都の顔を十分に堪能した彼は、次は口を近づける。

ちゅう、ちゅう、とわざとらしくキスマークを付けながら、何度も印を吸い上げた。

「はっ、はあぁっ、ぁ、ぇうっ」

今度は唾を分泌させたの裏側、むちゅ、と音を立てながら食む。

「んっ、ひううぅぅぅんっ、ぅ、ぁおっ、ほぉっ！」

最後に、じゅばっ、じゅぶっ、と音を立てながら舐めしゃぶる。

「くうぅぅぅぅぅんっ！　んふうぅっ、ふぁっ、ほっ、おぉんううぅぅっ！」

都のがピンと張り詰め、ビクビクと震える。

そしてぐったりとベッドにを沈ませ、大きくを上下させる姿を見て、エリスは満足げだ。

「はぁ……はあぁ……はぁ……」

「さいっこーにやらしくて下品だったよ、ミヤコの顔」

「っ……ふぅ……褒めてるの、それ？」

「私なりの最高の賛辭ですケド」

言葉だけでは納得しないようすだったので、エリスはを重ねた。

自然と都のが開き、2人の赤い舌と紅の視線が絡み合う。

フレンチキスの長さは、彼たちにしては短めの數十秒ほど。

ちゅぱっ、と口元を唾で汚しつつ口を離すと、鼻と鼻がれ合うほどの近さで見つめ合った。

「ねーミヤコ、私からちょっとした提案があるんだけどさ」

「こういう時のエリスの思いつきは碌でもないよね。この前なんて部屋中がまみれになって、掃除が大変だったんだから」

「掃除なんて影で一瞬じゃんかよう、そうふくれっ面にならなくたっていいのに。それに、今回は汚さないから大丈夫」

斷ればエリスが不機嫌になり、今日はそのまま寢てしまうだろう。

そうなれば、都の高ぶったは宙ぶらりん。それだけは勘弁してしい。

どのみち彼に選択権など與えられていないのだ。

「はぁ……で、何がしたいの？」

都は諦め気味にそう言った。

エリスは嬉しそうに――都曰く、”悪魔のような笑み”を浮かべると、無邪気に言い放つ。

「ミヤコのが吸いたいな」

しばしの靜寂。

都はまばたきを數回繰り返し、無表で目の前の発した半吸鬼デミヴァンプを見た。

その何ともいえない反応をけて、エリスは再び口を開く。

「ほら、ミヤコがを吸われた事があるのってお姉様だけでしょ？　それってなんか、特別なじ、するじゃん？　だから私も吸ってみたいなーって」

「ああそういうこと。まあ、別に、かまわないけど……痛くしないなら、ね」

ようやく言葉の意図を理解した都は、不安そうにエリスの方を見た。

人間のの時は、吸されても痛みは生じなかった。

となると、おそらく半吸鬼デミヴァンプ同士での吸でも痛くはないと思われる……が、確証はない。

「あと、あんまり吸いすぎないでね。貧になるかもしれないから」

「吸鬼に貧とかあんの？」

「私たちは半分人間みたいなものだから、合は悪くなると思うよ？　代わりにエリスの魔力もってくると思うから、たぶん平気だとは思うけど一応、忠告はしとく」

「わかったわかった、やりすぎないから安心して。私はが飲みたいわけじゃなくて、ミヤコともっと繋がりたいだけだから」

都合のいいことばかり言って。

ご機嫌取りだとわかっていても、高鳴る鼓が都は恨めしかった。

合図をするように軽くをれ合わせて、エリスの顔が首の方へといていく。

熱い吐息が敏な首筋に當たり、いつも以上にこそばゆくじた。

さらに吸地點を見定めるように、で繰り返しにれる。

「んっ、んふっ……」

都は噤んだに手を當てながら、思わずあふれる聲を抑えるような仕草を見せた。

そうこうしているうちに、エリスはを吸うのにちょうどいい場所を見つけ、「んぁ」と口を開く。

その狀態で首に吸い付き、牙を慎重に埋め込んでいった。

「んぁっ……ああぁ……ん、ふうぅ……っ」

の側に埋沒していく、自分以外の誰かの一部。

侵されている。

大好きなエリスに侵食されている。

その実は、與えられる快楽以上の陶酔を都に與えた。

「くうぅぅんっ……ん、ふ、ぁ……あぁっ……」

どろりと滲み出していく影都の、代わりにどくんと與えられるエリスの魂。

軽々しく承諾してしまったことを後悔するほど、それは、神を食む行為だった。

「（あ、やば……これ、あとでちーちゃんにも吸ってもらわないと……まずい、かも）」

2人の共通點は、千草に慕しているということ。

そのシンパシーが、ただの同類以上の繋がりを2人に與えていた。

だが、を吸われ、注ぎ込まれていると、関係が変わっていくようなじがした。

千草関係なしに、がエリスを求めてようとしている。

おしさが溢れて、気づけば都の腕は彼の頭を抱きしめていた。

もっと吸ってしい、そうねだるように押し付けている。

しかし、事前に『あんまり吸いすぎないでね』と注意されていたからか、エリスはほどほどの所で口を離してしまった。

「あ……」

名殘惜しさに、思わず聲が出てしまう都。

同時に腕も解け、赤い舌に紅のを絡みつけたエリスは、再び彼と見つめ合った。

「味しかったよ、ミヤコ。そっちはどうだった……って聞くまでもないかな、ぎゅってされて苦しいぐらいだったし」

「ん……すごかった」

「うわお、ミヤコが素直だ。ってことはよっぽどだったんだね、いいなぁ、私もやってしいなぁ」

そう茶化すエリスに向けて、都は手をばした。

両肩を摑み、ぐいっとベッドに倒して、今度は彼が馬乗りになる。

突然の強引な立場逆転に、エリスは「へ？」と呆気に取られていた。

「言われなくたってそのつもりだから」

そう言って、都は舌なめずりをした。

獲を見つめるような彼の瞳に、ぞくりとするエリス。

「え、えっと……お手らかに、お願いします」

「我慢できたら、ね」

その後、お手らかさんが鼻で笑うほど激しい吸が繰り広げられたのは言うまでもなく。

繋がりを深くした2人は、互いの吸行為が終わってもを離さず、底なしの半吸鬼デミヴァンプの力が盡きるまでし合ったのだという。

そして事が終わり、疲れ果て汗塗れになった2人は、ベッドで手を繋ぎながら橫になり、全く同じことを考えていた。

『（ちーちゃん/お姉様が帰ってきたら、私たちの相手をしなかった罰として、沢山吸ってあげないと）』

いつぞやの地獄、あるいは天國が再來しようとしていることを、千草はまだ知らない。