喫茶店、ロウニー・ミュウス。

魔王ロニンは、待ち合わせ場所としてそこを指定してきた。以前、アリオスと張り込みを行った際、潛伏先として選んだ所でもある。

やはり人気のある店のようだ。今日も多くの人々が、夕方のブレイクタイムを楽しんでいる。

魔王ロニンはすでに待っていてくれたらしい。四人用の席でひとり、コッペパンを控えめにかじっている。

《厳しい勢をけて、魔王城では現在、幹部の方々が次期魔王を早急に決めるための會議を行っており……》

そんな店放送を聞き流しながら、僕たちは最初にけ付けに行きった。バリスタからコーヒーをけ取ってから、ロニンの向かいに座る。

「お待たせしたね」

「あ、お久しぶりです」

ロニンがぺこりと頭を下げる。どうやらパンを頬張るのに夢中だったようだ。

「……なんでもいいけど、パン屑がほっぺについてるよ？」

「ああっ、ごめんなさい！」

慌てて頬を拭う。

可らしい外見といい、まるで魔王という風には見えないが、しかし彼からじられる魔力は本だ。あの創造神ストレイムとも良い勝負をしてくれるだろう。

「あれ？　ロニンさんだけですか？」

僕の隣に座ったコトネが言う。

そういえば彼の夫も同席すると聞いているが、この場にはロニン一しかいない。

ロニンはちょっと困ったように眉を下げた。

「ええ、なんだか大切な用事があるみたいで……すぐには來られないようです」

「そうですか……」

「でも、あのヒトの用事ってどうせ引きこもり……あ、もしかしてセレスティアさんと……ぶつぶつ」

「……あのロニンさん、大丈夫ですか？」

「はっ。ごめんなさい、なんでもありません！」

僕は思わずため息をついた。

魔界の將來を話し合うため、気を引き締めてきたのに――これでは張もクソもない。

まあ、あんまり真面目すぎるのもに合わないんだけどね。

「それで」

僕は無理やり話を切り替えた。

「君はストレイムの正に気づいていたようだけど……それまでの経緯いきさつを教えてほしい」

「あ、はい」

ロニンは瞬時にして表を引き締めた。

「いまから五年前――私たちの《世界》に、神が攻めてきたんです」

そこからの話は、僕もロニンも黙って聞きってしまった。 

――創造神ディスト。

みずからをそう名乗る者が、《天使の軍団》を派遣し、人間もモンスターも殲滅せんめつしにかかった。

ちなみに、その範囲はロニンたちの住む《クローディア大陸》全にまで及んだらしい。そこに住む人間と魔、すべてが犠牲になった。

ちなみに僕たちが住む世界は《サクセンドリア大陸》。ロニンたちが住む場所の隣に位置する地方である。

神にかかれば、相手のステータスを一瞬でいじくることも可能である。何年も鍛錬を積んできた歴戦の戦士すら、數秒で理攻撃力をゼロにできるのだ。當然、そんな化けを前に、多くの生きが命を落とした。

そんな狀況を打破すべく立ち上がったのが、ロニンたちだったという。

「ほんとはもっと多くの協力者がいいるんですが……私の旦那はその筆頭かな。彼が創造神を倒したんです。その過程で、私と旦那は神に並ぶ力を手にれました」

「マ、マジかい！？」

思わず聲が裏返るところだった。

「一介の魔が、創造神を倒したってこと？」

「あ、ごめんなさい。私の旦那は魔じゃなくて……あの、人間なんです」

「えっ？」

今度はコトネが驚きの聲を発した。

「じゃあ、失禮ですが、その……魔と人間が結婚したってことですか？」

「はい。私もこんなことになるなんて予想外でした。ですが、訳あって彼とつきあっているうち、その……」

僕は開いた口が塞がらなかった。

人間と魔が結婚し――

その人間が、神を殺した。

あまりに常識はずれである。

しかもロニンは《魔王》だ。人類にとっては恐るべき強者のはず。なのにロニンの夫は、そんな彼と……

「でも、あなたたちだってヒトのこと言えませんよ」

ロニンは苦笑いを浮かべた。

「神様と魔のカップル……そうそうあるもんじゃありません」

「ふう」

息をつき、僕は肩を竦めた。

「……ま、僕たちも々あったのさ」

そういう意味では、ロニンと似た狀況だということだ。

まあ、詳しい馴れ初めまで聞き出すと長くなるので、いまはこのへんにしておこう。

ロニンはくしゅんと咳払いをすると、話を続けた。

「神を打倒してから、私たちは必死で國を立て直しました。その名も《シュロン國》。人間と魔が共存する國です」

「あ、それ……！」

コトネが目を見開いた。

「ニュースで聞いたことあります！　たしか、近いうちにナイゼルと対談しにいくって……！」

「ええ。その通りです」 

ロニンはそこで僕たちを見渡した。まるで、ここからが本題だとでもいうように。

「種族間の爭いなんて……、本當は無意味なんです。私も長い間それに気づけなかった。戦爭をするのが當たり前だと思っていた。でも……旦那だけは違ったんです」

僕たちは黙って聞いていた。

「建國を続ける折、クローディア國の王――セレスティアさんからある知らせをけました。近々、ナイゼル國王が魔界を攻め込むと。私たちは、それを見過ごすことができませんでした」

「……なるほど」

僕は重い聲で言った。

「つまりナイゼルとの対談で、その戦爭をやめさせる狙いだったわけだね」

「ええ。そして同時に、私たちはじてしまったのです。いまでも忘れられない――忌々しい、神々の気配を。そうしてナイゼルと創造神の足取りを追っているうちに、ストレイムを摑んだのです」