創造神ストレイム。

奴の狙いは、魔王に不祥事を起こさせることにあった。

その上で僕に魔王を始末させ、魔界を脅おびやかかし、ナイゼルに攻め込ませる――それがストレイムの言う《計畫の第一段階》である。

だが、魔王ワイズは頭がまわるうえに臆病者だった。みずからのを滅ぼすような軽挙には出ない。

「ですから、ストレイムは薬を用いることにしたのだと思います」

ロニンは深刻な顔で言った。

「……たしかにそうだね。薬を飲んだ魔王は……僕への恐怖をすっかり忘れてた気がする」

「ええ。拐事件に走ったきっかけも薬でしょうね」

ロニンはさっきとは一転し、力強い瞳で僕たちを見據えた。

「そしていまも、創造神は世界を混に陥れようとしている。これを見過ごすわけにはいきません。お願いします……私たちと一緒に、創造神を倒してください」

僕とコトネは顔を見合わせた。

正直、願ってもいない申し出だ。

彼らほどの実力者が味方になってくれるのであれば、非常に頼もしい戦力になる。

僕はもう一度ロニンに目を向けると、薄く微笑んだ。

「……ありがとう。ぜひとも一緒に――」

瞬間。

「なんだと貴様！」

店に突然、大きな怒聲が響き渡った。

「人間軍に降伏すべきだと！？　貴様に魔としての誇りはないのか！」

「そんなこと言ったって、この狀況で人間に勝てるわきゃないでしょ。誇りと命、どっちが大切なのさ」

「愚かな！　誇りを捨てるくらいならば死んだほうがマシだ！　それに――次期魔王候補たるアルゼイド卿きょうがきっと良き未來を摑んでくれるはず！」

「はん。アルゼイドか……」

どうやら大人二人で口論してしまっているようだ。片方の男は完全に顔を真っ赤にしている。

豪勢な服を著こなしていることから、そこそこ位の高い貴族なのだと思われるが、ああやってんでいる様子からは品位の欠片もじられない。

「……やれやれ」

僕はため息をついた。

混する気持ちはわかるが、なにもこんなところで討論する必要はあるまい。

「あのう」

見かねた店員が聲をかけた。

「申し訳ございませんが、他のお客様のご迷になりますので、大きな聲は出さないよう……」

「なんだと貴様！　貴族たる我々に逆らう気か！」

「い、いえ、そういうわけでは……」

店員が泣きそうな顔で後ずさる。

――うるさいな、まったく。

僕が顔をしかめていると、コトネが小さい聲で訊ねてきた。

「ね。いまあのヒトたち、アルゼイドって言ってなかった？」

「……え？」

「聞いたことない？　たしか、ルイスくんの苗字って……」

言われてはっとした。

ルイス・アルゼイド。

たしかに本人も名門貴族だとか言っていたし、同一の家系だとは思うが、まさか。

「アルゼイド……そういえば」

と言ったのはロニンだった。

「魔王城の幹部たちは、新しい魔王を擁立ようりつさせて、指揮系統を統一させるよう急いでいるようですが……その有力候補がたしか、アルゼイドさんという方でした」

「…………」

僕はなにも言えなかった。

たしかにストレイムがいない今、名門貴族たるアルゼイド家が選ばれるのはなにも不自然ではない。

次期魔王を決定するのも、幹部たちによる會議のみで行われる。

魔みんなに投票してもらう――という手順は、たしか近年では行われていない。

そのとき。

《臨時ニュースを申し上げます。臨時ニュースを申し上げます》

ふいに、店に無機質な男の聲が響き渡った。

――いや。

ここだけじゃなく、城下町全に聞こえているようだ。おそらく遠隔魔法によるものだろう。

僕たちはなにも言わず、その男の聲に耳を傾けた。

《城下町に住む皆様にお伝え申し上げます。魔界の厳しい勢を立て直すべく、急遽きゅうきょ、新しい魔王様が決定されました。ルハネス・アルゼイド様であります。ただいまよりアルゼイド様の演説が行われますので、心してお聞きください》

ルハネス・アルゼイド……

僕は思わず顔をしかめた。

間違いあるまい。ルイスの父親だろう。

ややあって、渋みのある低い男の聲が響きわたった。

《國民の諸君、ご機嫌よう。新魔王に就任した、ルハネス・アルゼイドである》

ここで一拍置き、ルハネスは演説を続けた。

《前代魔王の失腳、人間軍による宣戦布告……國民におかれては日々不安をじていることと思う。だが、心配はいらぬ。人間軍など、我ら魔に比べれば恐れるに足らぬ。ゆえに、ここで宣言しよう。……我ら魔軍でもって、人間界を先制攻撃することを！》

「な、なに……！？」

僕は知らず知らずのうちに目を見開いた。