《やっと封印が解けた大魔神は、正を隠さずに凡人たちに力の差を見せつけます ~目覚めた世界はザコしかいない~》どこがとは言わないが
教室は朝からざわついていた。
ルイス・アルゼイドの傲慢すぎる態度。相手が先輩だろうと教師であろうと関係なく、己の支配下にしようとする思い上がり。
その急激な変貌っぷりに、學園中が沸いていた。
僕はまだいいけれど、ルイスと同じクラスの生徒は地獄だろう。あんな奴がクラスにいたら絶対に居心地が悪い。……いや、一番気の毒なのは先生かな。
そんななか、魔界全に、シュン國王からのお知らせが鳴り響いた。
三大國平和會議は一週間後、朝の九時をもって開催。
會場はなんと、人間界の首都だという。もともとナイゼルとシュンが會談予定だったものを、急遽きゅうきょ、魔界もえて執り行うことになった形だ。
このことに対し、學園はまたも騒然となった。
なにしろ、この會議にはサクセンドリア大陸の命運がかかっていると言っても差し支えがない。話の結末がどう転ぶかで、魔界が滅んでしまう可能も否定できないのだ。
シュンやロニンも頑張ってくれている。僕は僕で、できることをやってくのが大事だろう。
「えー、それでは皆さん落ち著いて!」
ざわついている教室を、老年の教師が一喝して黙らせる。
「前にも言いましたが……皆さんの本分は勉學です。世界の勢に捕らわれることなく、真実を探求していってください。――では、朝のホームルームを開始します」
そこで教師はさっと僕たち生徒を見渡した。
「……と、その前に、今日から新しい子が転になります。ユイさん、出てきてください」
――転校生。
その言葉に、生徒たちがざわざわし始める。
連日重たいニュース続いていたなかで、やや和やかなお知らせである。
一同の視線が教室のり口に向けられた。僕もあまり興味はなかったが、一応みんなに倣ならって転校生とやらの登場を待った。
果たして、教室の扉が開き――ユイと呼ばれた生徒が姿を現す。
瞬間、男陣から「おお……」というため息にも似た聲が発せられた。
転校生は、一言に言ってものすごーい人だった。
やや紫がかったショートヘアに、小ぶりな丸顔。和そうなその瞳は、何事をもけれてくれそうな慈に満ちている。他人の警戒心を自然と溶いてしまうような、そんな優しい笑みがなんとも可らしい。
「どうも皆様、初めまして」
転校生は腰の前に両手を組み、つま先を綺麗に四十五度に開くと、優雅なお辭儀をしてみせた。
「ユイと申します。先日ニルヴァ市よりこちらに越して參りました。まだまだ不慣れな土地でして、皆様にご迷をかけてしまうかもしれませんが、どうぞよろしくお願い致します」
そう言ってニコニコ笑いを浮かべるユイに、男陣がまたしても低い唸りを発する。
「で、でかいな……。どこがとは言わないが」
「ば、馬鹿おまえ! ふしだらな発言をして家名を傷つけたら……」
「ふーむ、しかしそんな理など吹っ飛ぶような……」
そんななかにあって、僕だけは和やかな気持ちになれなかった。
あの仕草。作。表。
すべてに隙がない。
また、彼からじられる魔力も一般人と比べてかなり高い。抑えているのかどうかわからないが、どちらにせよ、ただの學生ではない。
僕がそうしてユイを凝視していたからだろう。隣のコトネがジト目で睨んできた。
「……もしかして、鼻の下、びてる?」
「いやいや、違うから」
本當に誤解である。
それから僕はコトネにを近づけ、周囲に聞かれない聲量で聞いた。
(あの転校生、ニルヴァ市の出だって言ってたけど……見覚えあるかい?)
するとコトネも困った顔をする。
(ないね……。ニルヴァ市も広いし、私もずっと寢たきりだったから、なんとも言えないけど……)
(そうかい……)
となると、後でアリオスにも確認を取る必要があるだろう。
ちなみにアリオスは今現在、警備隊に復帰している。
ナイゼルの宣戦布告により、戦力を強化したいと考えた上層部が聲をかけたのだと言う。魔王ワイズの失腳により汚點もなくなったし、アリオスも魔界を守るために復帰したようだ。
なんにしても、この時期に、ちょっと怪しい転生が現れた。このことは警戒しておく必要があるかもしれない。
そう心に留めながら、僕はホームルームに意識を戻した。
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