僕とコトネ、ユイは馬車に送られ、それぞれの家まで帰ることとなった。

見送りの際、ルイスがちょっとだけユイに熱的な目を向けるようになっていた。これは惚れたなと思ったが、僕の予想に反し、《お楽しみ》まではなかった様子である。一方、ユイは変わらずのニコニコ笑いで、やっぱりがわかりにくい。

ルイスの意向なのだろう、馬車は先にユイの家に向かった。

彼もさすが貴族の子というだけあり、學園から指定されたアパートに住んでいるわけではないようだ。魔王城ほどではないものの、羨ましくなるくらいの豪邸が彼の住まいだ。

そこにユイを降ろすと、馬車はようやく僕たちの住むアパートに向かい始めた。

カタン、カタン。

馬の駆ける音を聞きながら、僕は

「ふう」

と息をついた。

「ルハネスか……。思った以上の化けだったみたいだね」

コトネは深刻そうに頷くと、眉を寄せ、難しい顔をした。

「うん……びっくりしたよ。まさか、神を相手に叩き潰すだなんて……」

「ああ。一介の魔でしかない彼が、すごい自信だよ」

俗に言う、自信過剰というやつでもなさそうだ。なにを考えているのかは知らないが、ルハネスは創造神をも手玉に取る策を抱えている様子である。

とはいえ、創造神もそう簡単に始末できる相手ではない。

曲がりなりにも、僕と同等の魔力を備えている存在だ。

世界を創造し、魔と人間という概念を作り上げたのもまさしく創造神に他ならない。ルハネスはその創造神によって生まれた、いわば子どもでしかないのだ。

しかも、その創造神の隣にはナイゼルもいる。こちらはあの前魔王ワイズをして《狡猾》と言わしめた人だ。充分に油斷ならない相手である。

これは本気でわからない。今後、世界はいったいどんなふうにいていくのだろう……

考え込んでいるうちに家に著いたらしい。

気づいたときには馬車は止まっていた。

従者に呼ばれ、僕たちは外に出た。

従者に禮を言い、その姿を見送った後、僕はアパートを見上げる。今日も無事に帰れたが、一週間後の平和會議によっては、それもどうなるかわからない……

と。

ふいに何者かの気配をじ取り、僕は後頭部を掻いた。

「――なに隠れてるんだい？　素直に出てきてよ」

「ありゃ、またバレたか」

「やっぱり凄いヒトですね……」

どうやら二人いたらしい。

それも見覚えのある人だ。

シュロン國の王――シュン。

クローディア大陸の魔王――ロニン。

「わわっ、全然気づかなかったよ……」

僕の隣で、コトネが驚いたように僕の腕にしがみつく。

まあ、仕方ないだろう。彼も強くはなったが、正直、シュンたちは次元が違う。魔王ワイズ程度の魔力では、シュンにはなんの傷も負わせられないだろう。

「で、なんの用だい？　會議の日程はちゃんと耳にってるよ」

「そりゃ結構。けど、今回の用事はそれじゃなくてな」

言うなり、シュンはフードの下でにやりと笑った。

「エル。おまえさんの力を知りたい。ここいらでひとつ、俺と戦ってみねえか？」