《現人神の導べ》26 帰城
「街、殘す必要ありました?」
という靜かなヒルデの問にギョッとする他の者である。
「正直ないな。國もいらなかったのだろうし、無くなっても別に良かろう」
「……國が街を必要としていないってどういうこと?」
「ふむ、では帰る前に説明してやろうか」
清家が辛うじて、聞いてきたので教えてあげる事にする。
そもそも今いる街にある冒険者ギルドは、一月以上前からスタンピードの予兆があり、それを王都のギルドに知らせている。応援を呼ぶためでもある。
學園の実地訓練は毎年同じ頃に行っているので、ギルド側もそれを知っている。
スタンピードの予兆がある時に學園のひよっこ共……しかも貴族の子供りを呼ぶわけがない。なぜかって、邪魔でしかない。
で、何が問題かというと……こうして我々がここにいることだ。
それは何故か……など言うまでもなく、學園に連絡がってないから。
「じゃあなんで學園に連絡がってないと思う?」
「ギルドが怠けた?」
「素直に考えればそうなんだが、ギルド側からしたらそんなことしてもメリットが無いぞ? ひよっこかつ護衛対象を……邪魔者を呼ぶようななんだからな」
「むむむ……」
「報を増やそう」
ギルドは學園とは別に、知らせるところがある。當然國だ。
『スタンピードだぞー。領地護れよー』となるのが普通だろう。
「だから國に知らせて騎士団の派遣だ」
「……騎士様、護衛の數人しかいないけど?」
「なんでだろうなぁ? 本當に……なんでだろうなぁ? まあ理由は分かっているのだが」
後はもう、簡単じゃないか。
軍をかすのはお金がかかる。でも今は魔王を倒す勇者がなんと29人もいる! 勇者達に任せればいいじゃないか。魔王を倒せるならスタンピードぐらいなんとかなるだろう? 數人死んでも弱い使えない者が死ぬだけ。
勇者達が行くなら騎士団もいらないだろう。
勇者達の実力も分かり、騎士団を派遣しなくて良い。しかもスタンピードという報を與えなければ勝手に向かっていくと実に好都合。
「ふざけているとは思わんかね? 実に愚か、余りにも愚策。故にこの街は國にとって大した価値が無いのだろう。でないと勇者という不確定な戦力だけ送るなどあり得んからな。要するに勇者も街も纏めて都合よく使われた捨て駒だ」
「その報は……確かなの?」
「ああ、確実だ。よって力を見たいというのでてきとーにやらせてもらった。まあ、肝心の観測者も弱すぎて余波で死んだようだが」
『(いやいや! そりゃ死ぬよねぇ!?)』
周囲の心が1つになった瞬間だろう。むしろ生きてる方がびっくりである。
「まあ、そんなことはどうでもいい。王城に帰るぞ。絶対泣かす」
「えっ……誰を……」
「愚王に決まってるだろう。首を挿げ替えてやる…………既に自國の書類仕事があるというのにこれ以上増えたら堪らんぞ。挿げ替える首があると良いけどなぁ?」
そう言いケタケタ笑うシュテルだが、この國の者だったら反逆罪待ったなしである。普通なら騎士達が真っ先にいても良いのだが、かない。いや、けないと言った方が正しい。だって目の前にいるは今まさに、どでかいクレーターを作った張本人だ。けるわけもない。
「では帰るとするか。面倒だから"ゲート"で良いだろう。馬車と他の生徒達を取りに行かないとな」
戦った者達がいるので辛うじて殘った北側の草原から、街へと戻り宿へ向かう。
勇者以外の生徒達を迎えに來て、馬車も回収。
北側の森はでかいので全部無くなった訳ではないが、森までかなりの距離ができ、馬車で移できる地面でもない。よって実地訓練は無理といえる。
スタンピードによる街への直接的なダメージはゼロである。が、街を1歩でも出た瞬間クレーターであり、素直に喜べない狀態だ。
正直街としてはかなり厳しいと言えるだろう。クレーターとなり行商人が現狀通行不可。魔もかなり消滅。森までかなり遠く同じくクレーター。
當然そのことにシュテルやヒルデは気づいているがスルー。全ては王家の出方次第である。
「では、王都へ帰るとしようか。"ゲート"」
神々しさすらある白い両開きの扉。それには漂う霊達が描かれている。
その扉が先頭の馬車の前に現れ、音もなく開く。その先には王都の門が映る。
《空間魔法》の上級に位置する、集団移用の"転移門ゲート"である。
「見るのは良いけどさっさと通れー。後ろが通れんぞー」
珍しさから眺めている奴らを急かして進ませる。
全員が門を通った後、扉がゆっくり閉まり溶けるように消えていった。
「《時空魔法》いいなー」
「空間収納もいいが、転移ができると便利だぞー。初級の"ジャンプ"は視界限定の短距離転移で、長距離転移は超級の"テレポーテーション"だ。だから実は"ゲート"が上級で難易度が低いが、門だから目立つわけだな。代わりに集団で移できるから便利なのは変わりない」
王都の門を通り、學園でぞろぞろ馬車から降りる。
「では、王城へ毆り込みに行くとしようか」
「俺らも行った方が良いのか、待ってた方が良いのか……」
「どちらでも良いぞ。當事者であることには変わりない。知る権利はあるだろう。とは言え、妾がしばき倒すだけだが」
「どーするよ?」
「気にはなるし、行こうかなぁ?」
「勿論行く!」
「じゃあ行くか」
長嶺、清家、宮武の3人は來ると。
全員王城へは行くが、大付いてくるのは半數。殘りの半數は疲れたから寢ると。休み休みとは言え、デビュー戦だったわけだし、當然といえば當然だろう。
しかし、言わなくてもパーティーから1人は代表として來るのだから実に利口である。
學園は王都の端っこ、お城は當然ど真ん中。
歩くには遠いので再び"ゲート"で護衛の騎士達も連れて行く。
「なっなんだ!? ……君達は」
「勇者一行帰ったぞ。通るが構わないな?」
「どうぞ」
"ゲート"にびっくりした門番だが、ぞろぞろと年と騎士が出てきたのを見て、中へと通す。
寢る組は各自部屋に戻る。その部屋の中に召喚騎士を白と黒1ずつ召喚しておき、護衛とする。容が容だからな。目に見える護衛がいた方が良いだろう。
「さて、どうするか。騎士やら侍やらに呼ばせても良いのだが……いっそ宣戦布告でもするか? 勇者Vsフェルリンデン王國とかどうだろう」
「えっ、できるだけ平和にいきたいなぁ?」
「平和も何も、妾を拐した時點で宣戦布告も同義なのだが……まあ良い。……そこの、王族とこの國の上層部を集めろ。『この國の未來を決める話がある』と伝えろ。場所は謁見の間だ。正式な抗議なのでな。『応じなければそれが答えとする』とも伝えろよ。以上だ、行け」
「は、はい!」
「貴様ら騎士も始まる前に報告しておいた方が良いと思うが? もう帰ってきたのだ、護衛の仕事は終わったぞ」
「では、我々はこれで……」
「ああ、しっかり報告する事だ」
騎士の禮をした後走るわけにもいかないので、早歩きで去っていった。
それを見送り、謁見の間へと向かう。
謁見の間の扉には2人の騎士が立っている。
「おや? 勇者様方、こちらは謁見の間ですが……」
「我々……と言うか主に妾から『國』に対して抗議がある。人を集めさせたから隣で待機させて貰うぞ」
固まる騎士達を放置し、言うだけ言ってさっさと近くの部屋で待機する。
どうせ準備やら何やらですぐには來ないのだ。
「さて、今のうちに本格的な報収集をしておくか……」
シュテルが紅茶を飲んでいる中、勇者達は勇者達で話していた。
「語のようには行かないもんだなー」
「んだなー。俺つえーとは行かないもんだ」
「でも最強とまでは行かなくても、上位までは行けそうなだけマシじゃね」
「最大の幸運はユニエールさんがいることだと思うんだ」
「それは間違いない。いなかったらどうなってたことか……」
「「拝んどこ」」
「なんであいつら拝んでるんだ?」
「知らん……」
「ユニエールさんがいなかったらどうなってたかって、拝んでる」
「「ああ……拝んどこ」」
「そういや、腹減ったなぁ……」
「そう言われると食べてないねぇ……」
「食料と言えば、"ストレージ"にれたウルフとボアどうしようか」
「「何してんのお前」」
「だってユニエールさんが両方普通に食えるって言ってたの思い出して、そう考えると勿無いじゃん? 1匹ずつれといたんだよね」
「でも捌けねぇぞ?」
「そうなんだよね。どうしようか。売れるかな?」
「捌きましょうか?」
「あ、ヒルデさん捌けるの?」
「我々の世界には解ナイフという便利ながあるので、持っていれば誰でも可能ですよ」
10番世界にある解ナイフはアーティファクトであり、神々が與えたアイテムである。
対象に半明の刃を當てると、一瞬で設定した通りに解されるゲームのようなナイフである。
基本は部位ごとに1キロブロックで解し、自分達で使わない部位をギルドに持ち帰って売るのだ。
「なにそれ凄い。じゃあ解屋は無いんだね」
「そうですね。ナイフは冒険者ギルドで買えるので、基本誰でも持てますから」
「あれ、でもそれって詐欺は? バラしたら分からないんじゃ」
「問題ありません。我々の世界では誰でも注視すれば名前ぐらいはポップアップで分かりますから。ウルフのとか、ウルフの皮とか出て來るのです。《分析》持ちなら更にの狀態とかも分かりますね」
「「「おぉ~!」」」
10番世界はかなり特殊な世界と言える。
創造神様がシュテルに伝えた10番世界のコンセプトは……努力すればなんでもできる、可能を求めたゲームのような世界だ。
ステータスの數値化はされていないが、スキルは見れるしポップアップ何かも出る。何より最大の違いが、パッチが來るのだ……10番世界は。
『変化の時』と呼ばれており、スキルの名前が変わったりとかする。
一番大きな大型パッチは魔法形態が変わった事じゃないだろうか。
勇者達はその新型魔法形態で、4番世界の住人は舊式である。
まあつまり、創造神様が干渉しやすい世界なのだ。
「さて、揃ったようだし行くぞ」
誰かが呼びに來た訳ではないが、空間把握しているのでそれぐらいは容易に分かる。基本的にシュテルは同じ世界にいるなら覗き放題だ。逃れようがない。
何か余程のことをして神にマークされるか、やたら妙な行でもしてない限り、把握はしているが意識はしていない狀態だ。
街ですれ違う人をいちいち1人1人認識なんてしないだろう。それが世界規模なだけだ。何してんだこいつってなったら當然見るが。
これが普通の男だったりしたらお風呂とか、ましてや子作り中でテンション上がるんだろうが、神々からしたら生として普通の行なので気にも留めない。
ぞろぞろと勇者達を引き連れ、謁見の間へと向かって行った。
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