《現人神の導べ》55 第4番世界 深い生き
例え周囲の者が警告をしたところで、當の本人達が気にした様子が無いためどうしようもない。
「やっぱ実績がしいようね」
「となると、長男ではないのですね」
「いや、待って下さい。そもそもあれ既に40近くなかったですか?」
「……確かに。既に長男が當主になっているのでは……?」
「そう……ね。長男が継いで、あれは次男ね。長男は特にこれと言った問題も無いし……堅実」
「「「…………?」」」
ヒルデと眷屬騎士2人は怪訝な顔をして首を傾げていた。
家を継いでいる長男が堅実でこれと言った問題がないなら、今更次男が実績を得たところで家を継ぐことは不可能である。
となると、家ではなく魔導開発方面で何かあるとしか思えないわけで。
「ふむ…………なるほどねぇ……」
「家ではなく魔導開発方面ですよね?」
「そうね。まず次男だから、次期當主のスペアとして教育や生活自は保証されていた」
「ええ、よくあると言うか……基本ですね」
「ただこの國は魔法に力をれており、《魔導工學》や魔導開発系に所屬する者の権力が高いみたいね」
「それは分からなくもありませんが……侯爵より上になるのですか?」
「実績次第では公爵ぐらいにはなるようね」
「それはまた……」
優秀な兄を持つ弟。
兄が死ぬなどの問題が起きない限り、椅子は空かないだろう。
しかしこの國は魔導開発部門で優秀と認められ、國にとって非常に有用な開発をした者はそれ相応の発言権……権力を持てる。
しかも最大公爵だ。優秀な兄を超え、更には実家すらも超える。そこに目を付けたのだろう。
魔法陣の開発はある意味プログラミングだ。魔導文字と魔導回路の組み合わせ。
魔導文字さえ覚えてしまえば開発は可能。つまり覚える努力さえすればいい。
まあ、プログラミングより遙かに複雑なのだが……。
10番世界だと魔導文字は既に失われた知識であり、好き達が地道に研究している。だが4番世界は理解しているようだ。なくとも異世界召喚を作る程度には。
にも関わらず文明の発展がイマイチな理由は……素材だ。鉱山から金屬を取らねば発展のしようがない。剣を作る技があっても、鉄が無ければ意味がないと。
何分素材を取るにも危険が伴う。流通……行商人達の移にも危険が伴うから。
まあつまり、もっと気合れて魔狩れということだ。
「理由は分かりましたが……よりによって我々に喧嘩売りますか」
「自分の願いを、夢を葉えたい。実に結構。だが手段がダメダメ。強引な手段を取れば抵抗されるのが當たり前ね。丁度いいから勇者達にアドバイスをあげるわ」
「「「んん?」」」
「あれは『我々が預かろうじゃないか。なに、解析後に返す』と言ったわね」
「「「うんうん」」」
「貴族と會話する時は抜け道を探しなさい。『解析後に返すから貸してくれ』と取ったら負けよ」
「「「んー……?」」」
「今回ので言えば『弓と魔導剣を預かる。解析したから別の武を返す』が可能なのよ。噓は言ってないし、武を渡したこっちが勘違いしただけ」
「「「えー……なにそれ、えー……」」」
「良い? 特に日をまたぐ場合はしっかりとした文面を紙に殘し『契約』をしなさい。どう足掻いても『別の解釈ができない文面』でね。貴族との口約束は避けるように。握り潰されて終わるわよ」
「そもそも今回は『冒険者から武を明確な期限を設けず渡せ』と言ったのです。この時點で正気ではありませんよ? 金屬の塊である武は高いのですから」
「お前達が王妃からけ取ったその裝備、一人分一式で節約すれば平民が年単位暮らせる値段しているからね?」
「「「え゛っ」」」
「特に長嶺だが、まずミスリルそのが非常に使い勝手がよく、高価である。そしてミスリルの錬技を持ち、かつ優れた合金を作る配分を知っており、しっかりと形にする技もある。それを作った職人もかなりの。実に良い腕をしている」
「武より防の方が面積も広いし部位も多いので高いですが、防の部位ごとに見れば剣との差はそれほどありませんからね」
防は基本頭、、腕、足となるだろう。を護る分武に比べ面積も必要になり、そうなれば當然使用する鉱石量も増える。結果値段が上がる。
そして裝備一式と言えば武と防セットであり、合わせた値段は平民が年単位暮らせなくもない値段になる。
長嶺は何とも言えない顔で自分の裝備を見ていた。
「自分がに著けているの価値ぐらいは知っておきなさい。突然召喚し戦ってこいと言うのだから、それぐらい支給するのは當然よ。むしろ安すぎるぐらいだし、ありがたく貰っておきなさい」
「……そう言われると確かに」
「フィーナが持ってる弓に比べればミスリル一式なんてゴミみたいなよ。気にせず使い潰しなさい」
「えっ、そんな高いのあれ」
「お母様から誕生日に貰った私の寶だよ?」
そう言って弓を掲げるフィーナであった。
『アーティファクト……!?』と呟くように驚きの聲をあげたに冒険者達……と言うか、ロビーにいる者の視線が集まる。皆勇者一行の話を聞いていたため、靜かだったのだ。発言者を確認した冒険者達の視線は一斉に弓へと戻った。
聲をあげたのはギルド職員の1人。素材買い取り窓口のである。奧の部屋から出てきたところだったようだ。
「ほう? 《鑑定の魔眼》とは、中々レアなを持ってるわね」
《鑑定》は手にれている必要があるが《鑑定の魔眼》は視線で十分だ。その代わり魔力を消費するのだが、自分のの一部であるためコストは非常に軽い。
調べる系の魔眼は対象にれる必要がなく、対象のアイテムの上や橫にポップアップが出て詳細を見れるのだ。
非常に當たりの魔眼と言えるだろう。職に困る事はない。
ちなみに《鑑定》は、《分析》が生と対象が違うスキルがある。
両方の能力を持った、つまり対象を選ばない《解析》も存在する。
普段は非常に便利なだが、場合によっては知りたくない事まで知ることになる。
彼の弓に対する《鑑定》結果はこうなる。
魔導弓・アルテミス アーティファクト
  使用素材:??? ???
  製作者:シュテルンユニエール
  所有者:セラフィーナ
レア度は基本的にノーマル、レア、エピック、ファントム、レジェンド、アーティファクトで表示され、左から右に上がっていく。
鍛冶などのスキルレベルが9や10でレア3、エピック5、ファントム2ぐらいの確率でできると思って良いだろう。
ちなみに勇者達のはファントムである。
ちなみにスキルレベルは……
1~2 新人、見習い
3~4 一般
5~6 師匠
7~8 お城勤め
9~0 世界に數人、第一人者
と言われるレベルである。
これは基本的に戦闘系スキルでも同じだ。5~6で教える立場ぐらいの腕はある。
兵士で例えるなら小隊長など率いる側。7~8だとベテランであり、近衛兵だったり、部隊長などかなりの腕前と言える。
ただしスキルとは基本的に補助であり、絶対ではない。
料理スキルがLv10だからといって塩と砂糖を間違えたら絶的である。
あくまでその人の能力を表していると思っていい。
そしてスキルと技量(経験)は別である。
スキルレベルが同じでも、當然経験を積み、技量を持っている方が勝つだろう。
ただ、あった方が楽なのは確かである。SLが高ければ高いほど補正がる。
鍛冶では叩く強さや場所、タイミングが漠然と分かり、SLによってその度が上がっていく。
剣では剣を振る速度や剣の扱いに補正がる。
盾では盾の扱いが上手くなり、盾でけ流すのにベストな角度などが分かる。
優秀な生産者が素材まで厳選した場合レジェンドに屆くこともあるだろう。
素材にもレア度はあるので、影響は當然ける。でもゲームではないのでレア度で全てが決まるわけではない。
総合的に狀態が良いと判斷されたらレア度が高かったりする。
鉄のインゴットがあるとする。その場合、錬合でレア度に変があったりするので、目安にはなる。
ゲームみたいにアーティファクトの武を拾ったからと言って、使ったこともないで無雙は不可能だ。
眷屬騎士の持ってる魔導剣は《魔力作》がゴミだとただの鈍だ。あれは《魔力作》により刃を作る。剣でもあり鈍でもある。刃がないので鞘がいらない。後刀の強度が武に渡した魔力依存。ショボければ簡単にへし折れる。
フィーナの弓は弓なので、當然當たらん。る為の矢も自分で魔法詠唱だ。
ゲームでは……ないのだ……。
「素材は2個だけど、どっちも分からないなんて……私の知らない素材……」
「神霊樹の幹と聖魔糸よ」
魔導弓・アルテミス アーティファクト
  使用素材:神霊樹の幹 聖魔糸
  製作者:シュテルンユニエール
  所有者:セラフィーナ
「……あ、変わりました」
「じゃあ本當の事なのか。どっちも聞いた事ねぇが……」
「そりゃあ、召喚される前に向こうで作っただし?」
「なるほど……」
「……あの、言ってしまって申し訳ありません……」
「別に構わないわ。襲われる心配は無用よ。來たらしばき倒すから」
基本的にレア度を言ってしまうのは好ましくない。人はに弱い生きだ。
実際の強さはともかく、見た目は細いお嬢様方である。そんな人がアーティファクトの武を持っているとなると、奪おうとする者はいるだろう。
だが一番ヤバイのはフィーナの弓ではないのだ。騎士達の腰にある魔導剣もアーティファクトだし。
シュテルの元にあるが問題なのだ。
それを見てしまった職員はカパッと口を開け目を見開き固まった。
基本的に裏方の素材周りだが、たまに付に立つことがある職員である。それなりに人なのに臺無しだ。それをちらっと見た支部長がちょっと引いていた。
「お、おい。どうした? おーい? 帰ってこーい」
「…………はっ! す、すみませんちょっと衝撃的なが見えてしまって……」
「アーティファクトでも十分衝撃的だろ」
「いえ、その……」
ちらっちらっとシュテルの元を見て、目をゴシゴシ、パチパチしてからジーっと見るが勿論鑑定結果が変わる事はなく。靜かに手で顔を覆うギルド職員。
「おいどうしたんだ」
「アーティファクトが複數あるのも納得です……」
「複數!?」
「フィーナの弓。騎士達の剣に盾、ヒルデの腰にも裝飾に混じってるわよ。私に仕える者達に私が裝備を作って渡すのはおかしくもないでしょう? フィーナは誕生日のプレゼントだけど」
「武も防もアーティファクト級魔裝……」
「『なにーっ!?』」
「でもそれよりも……何とは言えませんが、あの方の元の……」
「あの変わったネックレスか?」
「別に言っても良いわよ。こちらから言いふらす事でも無いし、言う必要もないから言ってないだけで絶対に隠したい訳でもないしねぇ」
ケーキスタンドまで取り出しすっかり寛ぎ狀態のシュテル。
全5段で1段3皿乗っている大型魔導スタンドである。各段ゆっくりとくるくる右回り左回りと段ごとに回っている。
大神殿の料理人が作ったが皿に乗ってくるので、空の皿とれ替えて補充する。
ファーサイスが料理に力をれているが、アトランティスはダンジョンから果実も採れるのでデザートの方に力をれている。
そのケーキスタンドまでもがアーティファクトで、素材不明なのに々頬を引き攣らせつつ、改めて元のに目を向けるギルド職員。
プランタアルマ 神
  製作者:シュテルンユニエール
  所有者:シュテルンユニエール
「あれはプランタアルマという神のようですよ……」
「…………はっ? 神!?」
「製作者と所有者がシュテルンユニエールとなっています」
「製作者と所有者が同じ神…………」
「ちなみにあれらアーティファクトを作ったのも同じ名前です」
「…………お前、何でわざわざ言った?」
「…………(ふいっ)」
「目ぇ逸らすな! 巻き込んだろてめぇ!」
人間、大きすぎるは誰かに喋りたくものである。
本人が別に良いと言っているし、何の問題もないのだ。さらっと喋り、周囲にいる人達を巻き込む選択をしたギルド職員であった。
「……待てよ? フェルリンデン王國の勇者召喚の施設が神様の指示により破棄されたとかなんとかいう報が…………」
「……そんな噂、ありましたね」
「ああ、それ本當よ。私が壊したもの」
さらっとぶち撒けると支部長がガクッと近くのに手をつき、『俺、しばらく倒れてて良いかな……』とかボヤいているが、他のギルド職員が猛反対していた。
『何言ってんですか! ダメですよ!』『死ぬ気で頑張って下さい支部長!』
好き勝手言うギルド職員を睨みつける支部長であった。
「信じる信じないは自由よ?」
「正が何であれ、毆りかかって來た者を毆り返すだけですからね。信じる信じないは重要ではありません」
「うむうむ」
相手が何者だろうが、自分が何者だろうが関係ない。個がある者、気にらない事には抗うのだ。抗う方法は人により多種多様だろう。
「まあ後數日滯在したら、王都にでも行こうかしらね」
「え、數日滯在する……んですか!?」
「……何か不満でも?」
「い、いえ……」
「この世界純正竜がいるダンジョンがないからストレス発散できないのよね……」
「模擬戦でもしますか?」
「そうねぇ……たまには1対4でもしましょうか」
「お、良いですね」
「では街の外ですか」
1対4とは……シュテルVsフィーナ、ヒルデ、エルザ、イザベルである。
一種の脅しが始まろうとしていた。
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