《俺が斬ったの、隣國の王様らしい……》東スラム
☆☆☆
「なあ、と魚と野菜、どれが食べたいー?」
「一択だろ。というか、うちに以外置いてあったか?」
「はあ……。リューズさあ、栄養バランスはちゃんと考えるべきだぞ〜?」
「買ってきてんのお前じゃねえか……」
俺は、態とらしく呆れた仕草を取るミラに抗議する。
ミラは臺所でを焼いており、香ばしい匂いがこちらまで漂ってきている。
調理を続けながらミラは、俺を橫目に見て。
「そういえば、ウィリアムとか言う坊ちゃんな。リューズに従って、東スラムに來たみたいだ」
「……そうか」
「うちの奴らの話だと、見て直ぐに放心して、暫くけなかったってよ。で、意識が戻ったかと思ったら、急にどっか駆け出したって」
「余程、ショックだったみたいだな」
俺は、ウィリアムが東スラムで見たであろう景を思い起こし、他人事の様な想を述べる。
すると、今度こそミラは呆れた溜息を吐いた。
「おいおい、味方に引き込むつもりだったんじゃないのかー? そんな他人事みたいな……」
「……そうだなあ。別に、ウィリアムにはそこまで期待していない。ウィリアムが仲間になったところで、ウィリアムの家――アルベルト家が協力しなければ、意味は無い。俺がしいのは、ウィリアムじゃなくて、ウィリアムの家の方だ」
そう答えると、ミラは肩を竦めた。
と、ミラとリューズの會話に割ってる様にして、コンコンッと扉が叩かれる。
リューズとミラは互いに顔を見合わせると、首を傾げた。
「來訪者とは、珍しいな……」
俺がそう呟くと、ミラは俺に代わり、來訪者に向かって。
「誰だ?」
「……お二人の時間の邪魔を許して下さいっす。ファミリーの……」
「ああ、お前かい……。扉越しじゃなく、ってきなー」
ミラはどうやらだと、る様に言うが、扉の外にいるファミリーの男は何やら渋っている様で、中々って來ない。
訝しげに思ったミラは、眉を顰めて。
「どうしたんだい? どうしてって來ないんだい?」
「……あ、そ、その……。姉と兄貴が、折角、夫婦水らずの所に、あっしが水を差すというのは……」
「ふふふふ、ふーふー!?」
ミラは手に持っていた菜箸を握力で折り、何とも間抜けな聲を上げていた。
「取りし過ぎだろ……。って、何か焦げ臭いぞ……?」
俺は口をパクパクさせ、今だに気が転しているミラを無視し、臭いの元に目を向ける。
案の定、焼いていたが焦げ、黒い煙が臺所から上がっていた。
ああ……。
「ふふふ、夫婦とか、馬鹿言ってんじゃないよ!? お前、さては新人かい!? あたしらは、そんな関係じゃない!」
「ええ!? し、しかし、ファミリーの中で、みんな言ってます……けど? 姉と兄貴は、鴛鴦夫婦だって」
「おしどりいいい!?」
何やらミラは顔を真っ赤にし、頭から蒸気が出てきている。
俺はミラの背後を通り、焦げてしまったがこれ以上不味くならない様、適當に皿へ盛って食べる。
に、苦い……。
ミラはそんな俺に気付かず、夫婦がどうのこうのという話を永遠と繰り返す。
そして、俺が焦げてしまったを食べ終える頃には。
「ま、まあ、その……。子供は最低でも三人はしい! あ、あああ後は、ベッドは一つで……」
「おい、お前の脳でどこまで話が進んでんだ?」
「え? それは、勿論、結婚まで!」
馬鹿じゃないのか?
俺はすっかり脳お花畑になってしまったミラを、現実に引き戻すために口を開く。
「いい加減に戻ってこい。俺は今、そういう事をしている暇がないのは、お前が一番分かっているだろう」
「そんな事言わずに、ね? あ・な・た〜? あ、待って! ごめんなさい! 噓! 冗談! だから、アイアンクローを止めてええ!」
ファミリーの目の前で――扉越しだけど――素のミラが出ていたので、アイアンクローをかまして強制的に現実へ引き戻す。
ボスの悲鳴に、扉越しからでもファミリーの男が揺しているのが分かった。
「ったく……。二人きりならいざ知らず、ファミリーのもんがいる時は、止めろよ……」
「ご、ごめん……。ちょっと暴走した……」
ちょっとじゃねえー。
だが、細かい事を突っ込んでいては話が進まない。
今度は、俺がミラに代わって、ファミリーの男に訊ねる。
「それで? 何かあったのか?」
「へ、へい! 実は、ウィリアム・アルバ・アルベルトと名乗る貴族の男が、兄貴に會いたいと……」
「……ああ、分かった。通せ」
「へい!」
扉の向こうで、駆け出していく男が聞こえ、暫くしてウィリアムが門口に立った。
「……や、やあ。リューズくん」
「顔が悪いぞ、ウィリアム? まあ、積もる話があるだろう。中にるといい」
俺は合が悪そうなウィリアムを中へれる。
念のため、何か怪しいきをしていないか、目をらせる。
俺はウィリアムを椅子に座らせ、その対面に俺とミラが座る。
「……そ、そちらのしいは?」
と、ウィリアムがミラに目を向けて問い掛けてきた。
「ああ、気にするな。これは頭がお花畑なポンコツだ」
「!?」
ミラがショックをけているが、俺は気にせず。
「よく俺の家が分かったな? 教えた覚えは無いんだが……。おい、ミラ。今は大事な話をしているから、首を締めるのは止めろ!」
俺は憤るミラを窘めら気を取り直し、ウィリアムの話に耳を傾ける。
「……あ、ああ。東スラムに行って、直ぐに君と話がしたくて……。それで、東スラムの……あの場所を知っているという事は、君がスラムの出なんじゃないと思って。スラムを探し回ったんだ……」
「なるほど。それで、時間が掛かったのか。もうし、早く來ると思ってた」
「……君は、僕が會いに來る事を予想していたのかい?」
「まあな。だから、ファミリーの連中には、聞かれたら答えろと言っておいたんだが」
俺がそう答えると、「そうか……」と、ウィリアムはを小さく震えさせながら、小さく呟いた。
「……あそこは、何なんだい? スラムと言えど、同じ王都の土地とは、とても思えない」
「そうだろうな。あそこは、率直に言うとゴ・ミ・捨・て・場・だ。お前は、あそこで何を見た?」
顔を真っ青にしているウィリアムに訊ねる。
ウィリアムはカタカタとを震わせたまま。
「……と、とても口じゃ、言い難い、けど。うん……。僕が辛うじて思い出せるのは、こ、子供が、頭を……。じょ、の、頭を割って、そこから出てきたを啜って……た、よ」
俺は瞼を閉じ、その景を思い起こす。
きっと、飢えた子供が母親の頭をかち割り、脳味噌でも啜っていたのだろう。あれはあれで、案外、・味・い・。
「……他には?」
「ほ、他は……。ごめん、思い出せない。ただ、恐ろしくて、吐き気が……」
「まあ、発狂しなかっただけマシだな。あそこは狂気が渦巻いてるからな。一般人なら、近付くだけで発狂する」
「それで、ファミリーの人達が立ちりの規制を……?」
「ああ。それで、詳しく聞きたいなら話してやるぞ? 東スラム――貴族のゴミ捨て場の話を。聞いたら最後、お前はもう、戻れない」
最後通告のつもりで、俺はニヤリと笑みを浮かべ、青い顔のウィリアムに問う。
ウィリアムもあれを見た後で、既に腹を括っているのか、唾を飲む様にして頷く。
「そうか、いい覚悟だな。じゃあ、早速説明してやろうじゃあないか……。あそこは、さっきから言っての通り、貴族共のゴミ捨て場でな。散々、玩にされて捨てられた貧民達のれの果てが、お前の見てきた連中だ」
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