「――え！？　今日から、僕は居間で寢るのですか？」

「そうよ……」

シューバッハ騎士爵家の當主であるアドリアン――つまり、俺の父親から魔法をアリサ先生から教わっても良いと許可が出てから夕食を摂ったあと、俺はいつもどおり両親が寢る部屋に向かったら、母親に居間で寢なさいと言われたのだ。

これは、所謂……待というではないだろうか？

――と、言うことを考えていたら母親が膝をつくと抱きしめてくる。

いつもと違って、とても力がっていて痛いくらいだ！

「ああっ、アルス。まだ5歳なのに！　いくら、貴方が選んだと言っても私は、貴方をあげたくない！」

「……お母さん、僕はではないです」

しばかり過保護すぎではないだろうか？

だけど、その反面、母親が俺のことをすごく気にして心配しているという気持ちは痛いほど伝わってくる。

「分かっているわ。分かってはいるけど……。私の大事な息子がと思うと……」

「一、何の話をしているのですか？」

俺は首を傾げながら母親に聞き返す。

「さっきも説明したわよね？」

「はい、さっき……今日からは居間で寢なさいと……」

「そう、それが問題なのよ！　居間では昨日から誰が寢ていると思う？」

「――あっ！？」

俺は思いだす。

昨日から、居間で誰が寢ているのかということを……。

そう、俺達の家は人が泊まれるようなスペースというか客室がないのだ。

つまり……、俺の家というかシューバッハ騎士爵邸では、部屋が余っていない。

「――え？　で、でも……」

年頃の、まだ結婚もしていない魅力的なであるアリサ先生と同じ部屋に一緒に寢るという現実に、俺の心臓の鼓は高速で律を始める。

「……もう、顔を真っ赤にして！　アルス？　アドリアンから許可が下りたと言っても、そういうのはダメよ？　」

「――わ、わわわわ、分かっています！」

俺は3オクターブくらい高い聲で母親の問いかけに答える。

それでも……本當に一緒に寢ていいのだろうか？

アドリアン――つまり俺の父親である當主が許可をしたということ。

そこから導き出される答えは、師弟関係になったのだから、寢食を共にしろ！　と言うことなのだろう。

「だ、だけど――」

俺は両手で頭を抱えながら考える。

いくら、が子供だと……しても……だ！！

一つ屋の下どころか、同じ部屋に男が一緒に寢てしまっていいものなのだろうか？

外見は稚園生だが中は47歳の中年だぞ？

論理的というより倫理的に、それは不味いのではないのか？

「くっ！？」

俺は、を強く叩く。

心臓の鼓が煩い！　律がを巡って耳元まで響いてくる。

転生したら、金髪ハーフエルフと同じ部屋で寢る。

そんな、語の主人公でしか味わえない設定を俺が味わえる日がくるなんて、前世の俺が考えられただろうか？

いいや！　予想なんてできない！

師弟関係！　一緒の部屋で寢られる！

なんて……スバライ制度なんだろうか！

「アルス？　アルス？　大丈夫？」

気がつけば母親が、俺のことをとても心配して語りかけていた。

「……だ、大丈夫です……」

俺は一瞬、から力が抜けてふらつく。

すると、母親が倒れる前に支えてくると抱きしめてきた。

「やっぱり、いくら頑張っても子供なのね。アルス、無理はだめよ？　貴方には貴方の人生があるのだから、無理なら私からアドリアンに――」

どうやら、母親は俺が魔法を習うことに、反対らしい。

俺は母親から距離を取る。

「お母さん、僕は、もう決めた！　僕にはアリサ先生以外は必要ない！」

「――ッ！？」

覚悟を決めた言葉を母親に告げる。

もしかしたら、母親に俺の気持ちをきちんと伝えたのは初めてかも知れない！

「わかっています。お母さんは僕を心配してくれているのは……」

「……」

紡いだ言葉は、母親に屆いているようで彼は、目を赤くして頷いてくれる。

とても良い親だ。

アルスの知識と記憶が融合してなくても、俺は、きっと彼を親だと慕ったと思う。

「でも、それじゃ……前に進めないんです！」

「――前に……？」

母親の問いかけに俺は頷く。

「僕は僕の未來を、僕自の手で切り開いて生きたい！　それにはアリサ先生は、居なくちゃいけないんです！」

「そこまで……、そこまで、あののことを？」

母親は、ギリッと歯軋りして「よくも……私の息子を！」などと言っている。

不味いな……どうも俺の母親は周りが見えていないようだ。

ここで、俺のフォローが失敗したら魔法の修行にも影響が出かねないぞ？

どうする？　どうすれば……アリサ先生のことを認めさせて魔法の修行にも影響がでないように母親を説得できる？

――考えろ！

俺の長い社會人経験は何のために存在していた？

母親よりも倍近く生きてきた人生経験とインターネット環境のエロゲーは何のためにあった？

日本の誇るサブカルチャーにを沈めてきた俺の半生は何のために存在した？

考えるんだ！

そして答えを導き出せ！

この異世界に來てから、常に正しい答えを導き出してきた俺の頭脳を、ハムスターが車を回すように高速回転させろ！

そう、全ては……この手の中に答えはある！

「お母さん……」

「アルスは、騙されているのよ？　そう、私のアルスを……許さない、許さない、絶対に許さない……」

母親に話かけたら瞳からハイライトが消えていた。

これは、不味い。

完全に暴走している！？

今の母さんは、完全に事を勘違いしていて、自分の狹い視野でしか世界が見えていない！

「どいて、アルス。あいつ殺せない」

「待ってください！　お母さん！　そのセリフはいけない！」

居間に向かおうとする母親の服の裾を摑んで必死に俺は食い止める。

――だが！　5歳の子供には大した力なんてない。

しずつ、居間が近づいてくる。

このままでは、母さんとアリサ先生が！

二人が、お互いを勘違いしたまま戦うことになってしまう！　そんな事になったら……。

「お母さん！」

こうなれば一か八かの賭けだ！

母親の服を引っ張って歩みを遅らせていた俺は洋服を離す。

「……ア、アルス？」

彼は、唐突に俺が服の裾を離したことに困した様子を見せた。

そう引いてダメなら、押して通す！

「僕は、お母さんが大好きです！」

「私も、アルスが大好きよ？」

ようやく俺の話を聞いてくれるようになったようだ。

ここで上手く説得すれば……。

「僕は、お母さんの匂いが好きです！」

「私も、アルスの下著の匂いが好きよ？」

「ん？」

「え？」

おかしい……。

今の會話の中で聞いたらいけない単語が混じっていたような……。

俺の聞き間違いでなければ、母親は俺の下著の匂いを嗅いでいたということになるのだが……。

「お母さん、僕の下著の匂い……今、嗅いだとか言って……聞こえたのですが……」

「そうよ、お母さんだもの、息子の調管理のために匂いを嗅ぐのは普通でしょう？」

「……」

いやいや……。

おかしいだろ！

絶対に！　おかしいだろ！

それとも異世界だと普通なのか？

異世界だと息子の調管理を確認するために下著の匂いを嗅ぐのは當たり前の行為なのか？

くそっ！？

統合されて融合された5歳のアルスの記憶が使えない！

ニートをしていたアルスの記憶が役に立たない。

俺の記憶のデータベースには、息子の匂いを嗅ぐために下著を使うという、そんな危険なワードは存在していない！

もう……異世界の基準が分からない。

どうすればいいんだ……。

「……ぼ、僕も……お母さんの下著が好きです！」

「まぁ！？」

こうなったら破れかぶれだ！

郷にれば郷に従え！　と言うし！

俺の言葉を聞いた母親は、頬を赤く染めて、「やっぱりアルスは私のことが……」と、言いながら近づいてくる。

明らかに母親の俺を見る目が野獣……猟犬の目であった。

が震える。

どうやら、俺は間違った答えを、異世界に著てから初めてしてしまったようだ。

俺は、構える。

いつでも母親を――ハンターに対応できるようにだ！

「お前たちは、何をバカな掛け合いをしている？」

不本意ながら、一即発な狀態に突した俺と母親に語りかけてきたのは父親であるアドリアンであった。

「貴方！　息子が私のことをしているって！」

「いい加減正気にもどれ！」

父親が母親の頭の上に拳骨を落とすと母親は「痛い……」と、呟くと、そのまま倒れてしまった。

「お母さん？」

「アルス、大丈夫だ。ライラは、お前のことが心配でお酒が苦手なのに飲んでいたようだ」

父親は空になった１リットルほどの青銅で作られた瓶の形をしたものを見せてくる。

「それとな……、母親を大事にしすぎると嫌われるぞ？　気をつけろよ？」

アドリアンは、俺に語り掛けながら酔って寢てしまった母親を抱き上げる。

そして寢室の扉を開け中にり扉を閉めてしまった。

「……はぁー……」

溜息しか出ない。

母親の異常な言も全て、いきなり意識を失うまで飲んだ酒の力と言えば納得できる。

しかし……。

子供が魔法を習うくらいで大げさな……。

「とりあえず。今日は、居間で寢よう」

もう疲れたよ。

俺は居間にり真っ暗部屋の中で布団を見つける。

今日は々とあった。

急速に眠気が襲ってくる。

俺は、眠気に負けて布団の中にる。

布団の中は暖かくて、花のような良い匂いがした。