《Re:現代知識チートの領地運営~辺境騎士爵の子供に転生しました~》魔法が使えない。
「さて、魔法の練習を始めましょう」
「はい! アリサ先生!」
心の中では、アリサ呼ばわりだが、きちんと魔法の師として敬うように言葉では先生をつける。
「あー……、その敬い方もいいわ! アルスはかわいいわね」
右手に杖を持ったまま、アリサが俺に頬ずりしてくる。
正直、きちんと魔法を教えてほしい。
「アリサ先生、きちんと魔法を!」
「――そ、そうね……。まず、魔法というのは思いの強さ! つまり頭の中に、どれだけ明確で正確な景を思い浮かべるかで発できるかどうかが決まると言われているの」
「つまり、その條件さえ満たせば詠唱は必要ないと?」
アリサは、俺の言葉を聞くと同時に「詠唱が必要ない? 何を言っているの!? とんでもない!」と、言って、右手に握っていた杖の柄を川原の石に叩きつけていた。
「――!」
あまりの剣幕に俺は、數歩下がる。
ちょっと魔法に対しての熱量が俺と違った気がして驚いたのだ。
「……あ、ごめんなさいね。すこし的になって……」
「い、いえ……大丈夫です」
5歳の子供に見えても、中は47歳の大人なのだ。
彼も々とあったのだろう。
よく知らないことに対して突っ込みをれるのはよくない。
婚約そして結婚で、俺は々と長したのだ。
「それでね、昔は詠唱が格好いい! という風があったのよ! それなのに、最近はね! 魔法詠唱なんてしたら隙だらけになるし、格好悪いとか言い出す人が増えてね……」
「そうですか……」
「そうなのよ! 30年前は、そんなことなかったのに!」
「……」
30年前?
いま、サラッと弾発言があったぞ? 
これは、実年齢をきちんと聞いておくべきだろうか?
いあ、に年齢を聞くのはマナーとしてどうなのだろう。
「あの、アリサ先生が魔法を教わったのっていつごろですか?」
「私が魔法を習った時期?」
「はい、やっぱり僕と同じで魔法指南書で魔力測定とかしてからですか?」
「そんなことしないわよ、最初から普通に魔法使えたもの」
「……」
おかしいな。
もしかして、アリサは、かなりすごい魔法師なのか?
それよりも魔法を覚えた時期から年齢を推測しようとしたのだが、無理そうだな。
「あ……。アルス、昨日は魔法が発しなかったことは気にしたらダメよ? 誰でも得意な魔法と、そうでは無い魔法があるもの」
「そうなのですか? 使えない魔法も存在するのですか?」
「使えないというか苦手なじかな?」
「そうなのですか……」
ちょっと自分自の魔法の才能に自信が無くなってきたぞ?
本當に俺、魔法使えるのか?
俺が考えこんでいるとアリサが、なにもない空間から長さ80センチくらいの木の棒を取り出すと俺に差し出してきた。
「先生、これは?」
「それは魔法の杖よ。魔力を増幅してくれるの」
「そうなんですか?」
差し出された杖を手に持ってみるが力が沸いてきたり、魔法が閃いたりするようなイベントが起きることはない。
「その杖は魔力を増幅してくれるの。ちなみに、その杖の原材料は、魔枝と言うのよ? ダンジョンから産出されるから結構珍しいんだから。 一応、アルセス辺境伯爵様からの心遣いだから、大事に使ってね」
「わかりました」
辺境伯からのプレゼントか……。
まぁ、父親が俺くらいの魔法師としての才能があるのは一萬人に一人くらいと言っていたからな。
アリサ先生の魔法を見るだけで分かる。
それが軍事的に、どれだけ強い力を持っているか――。
一度、魔法師が戦場に投下されれば、その圧倒的な力で英雄とか賢者とか勇者とか呼ばれてしまうのだろう……。
――あっ……。
そこまで考えてようやく理解する。
魔法師は恐れられているということを。
そのことをアリサが何度も言っていた。
そう、強い力というのは尊敬と共に畏怖と恐怖を生み出す。
その魔法師の道に俺も踏み出そうとしている。
まぁ正直、ボッチで引きこもりだったアルスには、誰かに恐れられたり畏怖されたり恐怖されるような知り合いはいないから問題ない。
そして、俺だって大して他人を気にしないで過ごせる。
他人に対して無関心な東京で暮らしてきた実績があるからな。
「それじゃ、魔法の練習を始めましょう。まずは杖を構えて――」
「はい」
俺はアリサの言うとおり、杖を川のほうへと向ける。
「簡単な魔法からいくからね。一番、簡単な魔法アイスアローからね」
アリサの言葉に俺は頷く。
アイスアロー、日本語では氷の矢と言ったところだろう。
何度も漫畫やアニメで、そういう場面を見たことがある。
「まずは詠唱ね」
「さっき、詠唱は必要ないって――」
「ま・ず・は! え・い・し・ょ・う・ね!!」
「――あっ、はい……」
どうやら、アリサ先生は、魔法の詠唱に対して並々ならぬこだわりがあるらしい。
「私の詠唱の後に続いて復唱して!」
「はい」
もう、どうにもなれ。
半ば現狀を投げ出していると。「氷の霊よ! 萬を凍てつかせよ! 世界を氷に閉ざし生きとし生ける全てのの活を止めよ! アイスアロー!」とび3本の氷で出來た矢を生み出すと川に向かって打ち出し魚を串刺しにしていた。
「もしかして……、獲が逃げた場合、追いかけたりするんですか?」
「そうよ! すごいわね! 何人もの魔法師見習いに教えてきたけど、見破ったのはアルスが初めてよ?」
「そうですか……」
「それじゃ、やってみて!」
俺はアリサ先生の言葉に頷き詠唱を行い「アイスアロー!」とぶ。
そして――。
――一週間後。
「アイスアロー!」
川へ向かって魔法詠唱をしたあと、魔法の言葉を紡ぐ。
「はぁはぁはぁはぁ――」
魔法が……まったく発しない。
最底辺の最弱の魔法なのに――。
魔法を習ってから一週間――。
最初は、アリサも仕方ないと言っていた。
2日目、3日目になると流石におかしいとアリサも思い始める。
そして昨日は、魔法指南書で再度、魔力があるのかどうかを確認したのだ。
その結果は……。
魔力がないと出た。
「アルス、もう諦めましょう」
朝から練習していた俺にアリサが、やさしく語り掛けてきた。
「……で、でも!」
「アルスの気持ちは分かるけど……、最初から魔法が発しなかったのは……たぶん、アルスに魔力がなかったからだと思う」
「……違うのです、アリサ先生が……僕に魔法を教えに來てくれて、その僕が魔法を使えなくて……杖だって……」
辺境伯が態々、杖をアリサに渡して俺に授けてくれたというのに。
魔法の才能がないと分かったら落膽するに違いない。
両親だって、辺境の地を開拓するのに魔法が有効だと喜んでいたのに、俺には魔法を使う才能が無いと伝えたら、どれだけ悲しむだろう。
「……両親に會わせる顔がない――」
「大丈夫よ! 魔法の才能の有無で、子供の価値を決めるようなご両親ではないから!」
言われなくても分かっている。
でも、それでも……。
「……し一人にしてください」
俺の言葉に、アリサはしばらく無言で俺を見ていた。
でも俺が座り込んだまま、頭を上げないでいると「夜遅くなるまでに戻りなさい」と言って去っていった。
彼が去ったのを確認すると、俺は川原近くの巖の上に上がると橫になった。
もうすぐ冬の到來が近い。
「ずいぶんと冷えてきたな……。はぁ……、俺はどうしたらいいんだろう」
魔法が使えたら々と試したいことはあった。
領土を魔法でかにして、領土を広げること。
それが全て、ダメになった。
魔法が使えないなら、俺にどんな価値がある?
ただのサラリーマンとして生きてきた俺の知識が、この世界でどの程度……役に立つ?
現代人の知識は、土臺が存在しているからこそ使いになるのだ。
――それなのに、この世界は青銅石時代の文明レベルなのだ。
俺みたいな現代人の知識では、どうにも出來ない。
「ふざけんなよ」
思わず苛立ちが口に出た。
一週間、必死に魔法の練習をしてきて、まったく使えない。
あげくの果てには、魔法指南書が俺には魔力がないと判定してきた。
最初の判定は、なんだったんだよ! と、作った國に苦を言いたいくらいだ。
はじめから希なんて持たなければ、楽だった。
――でも、最初に希を見せておいて絶を見せるなんてやり方はひどいだろうに。
恨みごとなんて腐るほどある。
でも、それよりも……。
誰かに期待されて、それを裏切るほうがずっと辛い。
何故なら、俺の將來を見てアリサも両親も俺に対して接してきたのだから。
自分が諦めるだけで済むなら、どんなに楽だろう?
でも、將來はシューバッハ騎士爵領を継いでいかないといけない。
俺にそれだけの価値があるのか?
苛立ちのあまり俺は、巖が砕ける場面を想像しながら何度も毆りつけた。
何度も何度も……。
結局、巖が砕けることなんてない。
俺が毆った場所は、がついているだけ。
気がつけば、日は沈みかけていた。
時刻的には、俺がメテオストライクと無邪気に使えない魔法を唱えていた時くらいだろう。
ハハハッ、とんだ道化だ。
使えない魔法を使おうとしていたのだから……。
――そのとき、誰かが近づいてくる気配をじた。
振り向くとアリサが顔を真っ青にして「アルスッ!? あ、あなた、何をしていたの?」と慌てて俺に話かけてきた。
彼は俺の両手を摑むと悲痛な表で「ここまで思いつめていたなんて……」と呟いていた。
別に彼が悪いわけじゃない。
俺には魔法の才能がなかったから、それだけだ。
ただ、朝から何も食べずに魔法の修行をしていたから眠い。
「……アリサ先生……」
俺は、かすれた聲でアリサの名前を呟いたあと、急速に意識が遠のいていった。
――翌日、目を覚ますと家には誰もいなかった。
慌てて、外に出ると川の方から大勢の人の聲が聞こえてくる。
何か異変があったのかと思い、川へ向かう。
川辺に到著すると、そこには何十もの騎馬兵の姿があった。
「アルス」
俺の名前を呼ぶ聲が聞こえてくる。
聲がした方へ視線を向けると、アリサが心配そうな表で俺に近づいてきた。
そんな表で見ないでほしい。
俺には、心配してもらえるだけの価値はないのだから。
そこまで考えたところで、俺は頭を振る。
いまは、そんなことよりも現狀を確認しないと。
「アリサ先生、あの騎馬兵は?」
「あれは、アルセス辺境伯様の兵士。今、當主のアドリアン様がアルセス辺境伯と會話しているところよ」
「そうなのですか……」
何のためにアルセス辺境伯が、こんな田舎の辺境の地に來たのか分からない。
それよりも、俺が魔法を使えないことを知られたらマズイ。
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