「まぁ……そうですね――」

「アルス君、駄目よ？　貴方を生んで育ててくれたのはご両親だけどね？　それだけじゃないのよ？　貴方が普段食べている食事や服は領民の稅金だからね？　きちんと領民に還元しないとね！」

「――あ、はい……」

アリサ先生が俺の頭をでながら、とてもマトモなことを言ってきた。

そういえば、両親はあまりそういうことを俺に話をしたことが――。

「――あれ？」

俺は思わず額を右手で押さえる。

何か、俺は大事なことを忘れているような気が……。

思わず塞ぎこんだ俺を心配したのかアリサ先生が慌てた様子で「アルス君！　大丈夫！？」と語りかけてきた。

彼の言葉に、俺は條件反的に「――あ、はい。……だ、大丈夫です」と、答えていた。

「何度も同じ時を巡っているって聞いたけど、それでもアルス君は私達から見たら子供なのだから、無理したら駄目よ？」

「……はい。気をつけます」

先ほどまで考えていた何かを忘れているようなことを思い出そうとしなければ、考えなければ頭が痛くなることはない。

だけど、それは本當に思い出さなくても良いことなのか？　と、自分に問いかけそうになる。

思考をしていると、アリサ先生が俺の頭をでてきた。

「何か？」

「うんと……、何となく？　アルス君が悩んでいたみたいだから――。それに私の実家にも妹や弟がいるからね」

「そうですか……」

「うん。もちろん！　アルス君と同じ年齢の妹もいるのよ？」

「何人家族ですか？」

「私の家は10人家族ね！」

「そ、それは……」

とても多い人數なのではないだろうか？

ただ、たくさん生んでたくさん育てると言うのは醫學が発達していない時代では普通だったと聞いたことがある。

「大家族ですね？」

「そうね、でも一応、私が出稼ぎしているし！」

「なるほど……」

つまり、家族を――。

妹や弟が暮らせるようにするためには、魔法師団を抜けられないということか。

まぁ、たしかに理想と現実は違うからな。

「もし、僕がそれだけの給料を支払うと約束したら――」

俺の言葉に、アリサ先生が、「うーん」と、顎に人差し指を當てながら俺の方をジッと見てくる。

「そんなに求められるのは嬉しいのだけど、どうして私に、そんな提案をしてきたの？」

「それは――」

彼の問いかけに俺は思わず言葉が詰まる。

別に、勉強を教えてもらえる相手なら誰でも良かったはずだ。

それなのに彼に決めた理由は――。

「僕は、子供に勉強を教えるといった時のアリサ先生の言葉に惚れ――」

途中まで、言葉を紡ぎ言いかけたところで無意識のに両手で口を押さえていた。

何故か知らないが、俺はアリサ先生には惚れたという言葉を使ったらいけない気がしたのだ。

ただ――、どうして思い止まったのか……。

「アルス君？」

「申し訳ありません。アリサ先生が、以前に子供に勉強を教えたいと言っていましたので、良かったらと思っただけです」

「そう――、とても魅力的な提案だけどね？　私が子供達に勉強を教えるなら、やっぱり自分が生まれ育った村の子供達に教えたいから……」

「そうですか……、無理を言ってしまって申し訳ありません」

たしかに彼の言っている言葉は筋が通っている。

自分が生まれ育った村に著があり、村に戻って子供達に勉強を教えたいと思うのは、至極當然と言えば當然のことだ。

「別にいいのよ？　アルセス辺境伯の首都アルセイドには、老いて引退した魔法師たちが私塾を開いているの。彼らなら、アルス君の要に答えてくれると思うわよ？」

「――要に答えてくれる？　私塾でしたら、それなりにりがいいのでは？」

「そうでもないのよね……」

俺の問いかけに、アリサ先生が「だって、學問よりも仕事の手伝いをさせる親が多いから……。學問にお金を使って何になるって通えない子供が多いの」と、溜息を混じりに離してきた。

「――それは……」

「やっぱりアルス君は學問が大事だと言うことが分かっているのね？」

アリサ先生の言葉に、「はい、學問は國力に直結しますから――」と、答えると共に何となくだが理解できてきた。

首都アルセイドに到著した初日に文字を使った看板がなく絵で描かれた看板が多かったのは、自國の文字が読めなかったからだろう。

つまり、知的財産の大半は権力者が握っているということになる。

文學系統の為政については、気をつける必要があるな。

「それにしても、アルス君はたくさんのことを知っているけど、誰に習ったの？」

「さあ？　僕もよく覚えてないんですよね……」

まさか日本の學校とは言えないから、ここは誤魔化しておくとしよう。