「アルス」

「はい」

「魔王討伐に関してだが――」

「分かっています。その事に関しては、アリサ殿と連攜し必ずや――」

「それは分かっているが――、魔法でラルググラストを倒したのだろう？　その際、どう倒したのか覚えているのかの？」

「それは……」

フィーナを魔王に殺された時、俺は魔法を使うことが出來なかった。

だが――、ラルググラストを倒した時は魔法が使えた。

おそらく、誰かを守りたいと思う気持ちと他に何らかの行程が必要で俺が魔法を使う為には必要なのだろう。

そして、たぶんそれは……。

「判明はしていないと言う事でよいのかの？」

「申し訳ありません」

「不確定な報で軍の行と民の移を決める訳にはいかぬの。アドリアンよ、シューバッハ騎士爵領の領民の退避をアルセイドまで行うようにの」

「はっ！　分かりました」

「我が領までは、村人全員だと一週間以上は掛かる。早めに取り掛かるように。人手が足りない場合は、軍を使ってもよい」

アルセス辺境伯の命令に、父親であるアドリアンも天幕から出ていく。

「それでは、自分もこれで――」

「うむ。何かあった場合には、リンデールと相談をするようにの」

「はい」

頭を下げて天幕を出たあと、コレからのことを考えながら家に戻る。

俺が魔法を使う方法。

心當たりは一つしかない。

最初に目を覚ましてから、隕石の魔法で魔王を倒した時の記憶――、それは……。

「水汲みの作業……」

おそらくというか、それ以外にはない。

何せ、俺が魔法を教えてもらった時にやっていたことと言えば水汲みくらいなだ。

それ以外にはないだろう。

家に戻ると、母親が何時も通り抱き著いてきた。

「アルス、大丈夫だった？」

「はい。大丈夫です」

「本當に？　何か言われなかった？　無茶なことをしたらダメよ？」

「何の無茶もありませんでした」

母親に言葉を返しながら、これからのことを考える。

とりあえず、時間は殆どない。

水瓶に――、川から水を汲んで貯めていく――、それを繰り返すしか思いつく方法がない。

もしダメなら、王都の騎士や兵士に魔法師に何とかしてもらうしか方法がないだろう。

――それでも！

フィーナだけは、この命に代えても――。

俺を信じてくれた彼だけは……、どんな方法を使ってでも……、絶対に殺させる訳にはいかない！

「アルス？」

「なんでもないです。とりあえず、水を汲んできます」

俺は、最初の時に母親の家事の手伝いをしていたことを思い出しながら川と家を往復し続ける。

本當に魔力が貯まっているのか分からない。

それでも、いまは自分が出來ることがコレくらいしか思いつかない。