《ガチャで死したら異世界転移しました》人竜戦爭 ⑬ 恐怖
────イグラッドからびていた腕が引かれ、それと同時に彼は膝から崩れ落ちた。
無理もない、いかに竜族の中でも特出した力を持つ彼でも、その核である心臓を破壊されてしまえば生きることは出來ないだろう。
「・・・」
レインはそんな景をただ靜かに見ていた。
引かれた手のあった場所には、なにか黒いモヤが浮かんでいる。そして、やがてそこから翼を生やした白髪の男が出現した。男はレインを見る。
「・・・貴様は、何者だ?」
「・・・はぁ・・・どいつもこいつもさぁ、なに?相手が何者なのかを知らないと攻撃出來ない呪いでもけてるの?」
一何度目なのかと言うほどの問に、レインは苛立ちを隠さない。
「呪いだと?・・・ふん、まぁよい。どうせ貴様はここで死ぬのだ。貴様が何者なのかなど、どうでも良いな」
「そうそう。どうでもいいの・・・あ、でも確認はさせて、お前が今の竜族の王ってことで間違いない?」
「そうだ。我こそが竜族の王、ティルガ・ルインツァーレである」
そう言うとディルガは自の翼を広げ、兇悪な笑みを浮かべる。
「・・・じゃあ、確認は取れたか・・・あぁそれと、それ・・って、お前の娘とかじゃないの?」
レインはディルガの足元の、王だったものを見る。
「・・・ふん。娘だからといって我は贔屓はせん。我の従順なる駒たちを治していくなど、我への反逆でしかない。つまり、こやつはもう不要だ」
「だから、殺したと?」
「そうだが?何がおかしい?人間どもとて自分の都合の悪いものを消したり、他人を支配しるだろう?それは、家族とて例外ではあるまい?」
ディルガは、さも當たり前のように言ってのける。
実際、力が全ての竜族達からすれば、いやそうでなくとも、邪魔者は排除するのが當たり前であろう。
────しかしそれは、レイン慎也には理解できない考えだった。
「・・・そう。じゃあお前にも、死んでもらうよ」
レインはどこからともなく用の真紅の刀を取り、構え、今回は最初から本気で・・・踏み込んだ。そしてそれは、今までとは比にならない速度を生み出す。
「なっ!?」
竜族の王でさえもレインの姿を捉えられず、攻撃を躱そうとした時にはもう遅かった。
「ぐっ!?」
ディルガは一瞬で背後をとったレインに後首を摑まれ、思い切り投げ飛ばされる。
「僕は思うんだよ。お前みたいなやつは、ただ殺すんじゃ足りない。じっくりと痛めつけて、ゆっくりと嬲り殺すのがいい、ってさ」
上空で勢を整えようとしたディルガは、いつの間にか自の翼の片方が失われていることに気づき、バランスを取れないまま遙か遠くの地面と衝突する。
「・・・なぜだ?・・・何がおきた・・・?」
そんな聲が、能力を最大まで増幅させたレインには聞こえた。
レインはその間、毟りとった翼を捨て、イグラッドの死骸を召喚魔法を使った場所へと【影転移シャドウ・トランジション】を使い移させた。
「・・・あやつは・・・本當に何者だ・・・?」
——1000年前の災厄。自の親が、その駒たちが、一瞬にして消え去った・・・・・・・・・・あの日以來、ディルガはただ魔族と名乗った者を滅ぼさんと、それだけを考え、力を求めていった。大陸から撤退した後も、殘った出來るだけ強力な竜族達と戦ってきた。子供とはいえ王族の子であるディルガは、そのどれにも一切の苦戦はなく、ただただこう思っていた────あまりに弱い、と。ディルガは強かった。いくら王族の子とはいえ、ディルガの強さは竜族達の中でも異常な程であった。竜族以外のどんなに強大だと言われる魔にも、一回も引いたことなどない。いつからであったか、ディルガは竜族の王になり、自分が、自分こそが最も力を持った存在なのだと、自分こそが、憎き魔族を滅する存在なのだと、そう考えるようになった。それからはただ復讐だけを考え、歯向かう者は片っ端から破壊していた。
そんな彼が、どこぞの誰ともわからない、黒い服に黒いとんがり帽という奇抜ないでたちの存在に、恐怖していた・・・・・・。
「おい」
未だクレーターの中心に仰向けに寢ているディルガに、聲が掛かった。
ディルガは恐怖というものが分からなかった。
(なぜ自分はこんなにもあやつから逃げようとする?なぜ、手足がこうとしない・・・?)
「・・・おい、けって」
レインはディルガの頭を摑み、無理矢理に起こす。ただ、手が小さいため、指が頭にくい込んでいた。それだけでディルガの頭蓋は悲鳴を上げ、脳は危険だとんでいた。
「・・・貴様は・・・なぜそれほどの力を持っている?・・・一、どんな手段で…?」
ディルガは朦朧とする意識の中、言葉を紡ぐ。しかしそんなことを言われても、レインの答えは決まっている。
「どうやって?そんなの、僕が聞きたいよ。今言えるのは、ゲームで育てたから、かな」
「げーむ…だと?知らないな、そんなものは」
「・・・そう。じゃ、もういいや。よく考えたら僕は他人の痛めつけ方も、嬲り方も分からないし、いい加減疲れたから」
ディルガは力なく笑い、言う。
「そうか・・・」
生というのは得てして、明らかに自分の敵わない相手と対峙したとき、まずは逃げるか、素直にその命を差し出すものだ。稀にそんな場合でも果敢に立ち向かうものもいるが、そんなのは只の自己満足である。一匹の小さなトカゲが、重火を持ち完全武裝した軍人に挑めば、結果がどうなるかなど、火を見るよりも明らかである。
自分の死を悟ったディルガは、レインがディルガを持つのと逆の手を引いたのを見る。それが彼の最期であった。
(あぁ、願わくば、我の復讐が、いつか果たされんことを・・・)
そして、レインの腕が突き出され、竜族の王、ディルガ・ルインツァーレは、永遠に意識を手放した。
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