(此奴は本當に噂通りの人間なのか？)

リエナ・レヴィアがレクウェル家との決闘に出場するようハウルド家當主から直々に・・・依頼された時、レヴィアが最初に思った事はこれであった。

依頼の要請があった時既に【零落の兇弾】の皆は勿論、レヴィア自もハウルド家の悪い噂というのは耳にっており、一どんな相手なのかと相応の覚悟をして挑んだ會談だったのだが・・・蓋を開けてみれば、とても噂のそれと當主本人の印象は違いすぎていた。

まず容姿、全くと言って良いほど民衆の前に姿を表さないので、完璧に國民の獨斷と偏見で形されたもの──簡単に言うとえた豚である──迄とは行かなくともそれに似たものであると考えていたのだが・・・何のことは無い、どこにでもいそうな気さくな好青年であったのだ。

それに加え【零落の兇弾】一行を驚かせたのが、自と自尊の塊であると言われるその大貴族が、有名とはいえ冒険者に頭を下げて頼んできた事だ。しかも會談の後は、宴會かと思うほど豪勢な食事會まで用意してくれるという特典も付きで。

レヴィアは困した。

｢民衆の悪い噂はどこから來たのか？｣と。

レヴィアの経験上冒険者という分の自分にここまで禮を盡くす貴族など、現セタリッド國王くらいだった。

実の所、相手が噂通りの人だったとしても余程でなければ依頼をけるつもりであったレヴィアは、一つ【零落の兇弾】として依頼をけると言う條件を付けさえしたが、二つ返事で了解し決闘に挑んでいた。

決闘の最中でもレヴィアは考えていた。彼の中の常識を覆したあの男に、何故あの様な噂が流れているのか。冒険者チームの皆は｢演技の可能も否定できない｣と言うが、彼はそれはないと斷言出來た。人一番正義の強い彼だからこそ、若くしてハウルド家當主と言う座に就いたあの男の言は真実だと確信していたからだ。

(では何故、悪い噂が？ 単に平民の、上流階級への嫉妬から來たものなのか、それとも・・・)

どんどんと深く考え込むレヴィアだが、唐突に目前に迫った敗北の危機に、強制的に戦闘へと意識を向けさせられる。

しかしそれは、一度にひとつの事にしか集中出來ない彼にとって、半覚醒狀態で戦っているようなものであった。

結果リエナ・レヴィアは、一人のの闘と、に加擔する地図が読めなくて道に迷った人レイン・グレスティアに敗北したのであった───

｢あぁ、くそ・・・｣

靜寂に満ち、先の一撃で砂塵の舞う中で、レインは苛立ちを表す。

(武破壊・・・・・・・はぁ…完全に油斷した)

ゲーム時代のシステムとして、武破壊というがある。

EOWでは3年ほど前、運営が新規プレイヤー救済の為無駄に強力な武を配布していた。そこで、新規プレイヤー同士が10人程で手を組み、その武で持って古參プレイヤーをPKプレイヤーキリングして周ると言う事件が起こった事がある。結果、それらの新規プレイヤーが、普通手にるはずのないアイテムや素材を所持していまいゲームバランスが崩壊したのだ。

その後対策として運営が用意したのが、武破壊システムである。

後に新規殺しと言われる事になるこれは、公式の説明では

｢全ての武に耐久値を設定し、値が0になると【破壊狀態】となり、【修理】するまでその武は使用不可になる。更に、自分のステータスに合わない武を使用した場合、耐久値の減量が大幅に増加し、破壊された場合は、【修理】も出來なくなる【完全破壊狀態】となる｣

となっており、多くのプレイヤーを悩ませた。更にその後には、

｢実力に合った武でも、あまりにも技量に欠けた使用をすると【完全破壊狀態】になる｣

と言うある程度のPSプレイヤースキルをも必要とする仕様に変更してきたのだ。

しかしそのおか、大量跋扈していた武だけは良い新規プレイヤーは鳴りを潛め、ゲームバランスも戻り、一応事態は解決していた。

(やっぱりこの世界にもあるのか。実力に合わない武の使用、これが原因だと良いけど・・・)

何年もトッププレイヤーとして、1対1では無敗という看板を背負ってきたレインにとって、｢あまりにも技量に欠けた使用｣が原因だとするとプライドが許さないのである。

レインは【アイテムボックス】から瞬時に取り出した木刀を手に、満創痍で尚まだ戦う気で立とうとするダルダの元へ向かう。

様々な弱化を自に掛けてはいるが、レインの本気の一撃をけて尚けると言うのはそれだけで賞賛されて良い事であり、本気を出してしまったレインからすれば半分自分の負けのようなものである。

ダルダは、人間ならばくはずの無い程ボロボロに砕けた全の骨を種族の特権高速自然治癒にものを言わせて有り得ない速度で治し、立ち上がる。

しかし直ぐに膝を著くことになった。

先程のレインによる一撃で砕された全の骨はあらかた治りつつあるが、その衝撃は脳へ甚大なダメージを與え、最早今意識を保っているだけでも奇跡と言える程だ。

｢っ…むぅ・・・つ、続き、を──｣

｢はぁ・・・【完全治癒オール・ヒーリング】【睡眠スリープ】｣

力盡き、気絶しうつ伏せに倒れたダルダに、レインはため息混じりに魔法をかける。

『・・・勝者、レイン・グレスティアァァァ！！！そして、ハウルド家とレクウェル家の決闘は、最後に逆転し、三勝二敗でレクウェル家の勝利となります！！』

ダルダの戦闘不能を察したアナウンスはレインとレクウェル家の勝利を宣言し、決闘はスラグディア中に響く程と共に、アリサの勝利で幕を閉じたのだった───