｢・・・ん…？｣

仄暗い、鉄格子とゴツゴツした巖壁に囲まれた場所で、アリサは目を覚ます。

｢ここは・・・？｣

｢お姉様っ！！｣

アリサがを起こすと、聞き覚えのある聲とともにが抱き著いてきた。

暗闇の中でも分かるほど綺麗な金の長い髪を眺め、アリサは自分の意識が急激に覚醒していく覚を覚える。

姉妹で全く同じき通るような金の髪、好きだと言っていた花の微かな香り・・・

まさか、と驚きながらアリサはの肩に手を置き、を離し顔を見ようとする。

しかし、は俯き顔を見せようとしなかった。

｢・・・り、リエナ・・・？｣

アリサは、あの日、花を摘みに行くと言って庭へ出ていたきり帰って來なかった、最の妹の名を呼ぶ。

小さく頷くの顔は、部屋の暗さも相まって未だ見えない。

｢・・・あ、あの…直ぐに助けに來れなくてごめんなさい・・・私も皆も必死に探したのだけれど・・・｣

そう言って謝るアリサだが、はただ小さく頷くだけ。

｢・・・リエナ…？｣

様子の変な妹を心配したアリサは、前髪で遮られたその奧を覗き見ようとする。

その時ふと、がアリサの手を摑んだ。

｢え、あの・・・痛っ｣

どんどんと強くなっていくの腕の力に、アリサは顔を顰める。

｢・・・んで・・・ったの・・・｣

尋常ではないその力に手を離そうとするアリサは、が何かを呟いているのに気付く。

斷片しか聞こえないその聲を、アリサは聞かなければならないと何故か強く思った。

恐る恐るアリサは顔を近づけ、聞き取ろうと努める。

｢んで・・・なかったの・・・んで・・・なんで───ナンデモットハヤクコナカッタノ───？｣

｢ひっ・・・｣

突如響いたその聲は、しかしの出せる聲それではなかった。

アリサはいつの間にか離されていた両手を後ろ手にもちをつく。

聲の主──であったもの・・・・・・──は、生々しい音を立てながらたちまちその異形をわにする。

その形容し難い、しかし圧倒的なまでの威圧に、アリサは今までじたことも無い程の恐怖を覚える。

(魔！？でもこんなの見た事・・・これが【名欠けネイムレス】・・・？こ、こんなの…倒せるわけが・・・)

だがそのに余る恐怖は、逆にアリサを勇気づける。

(で、でも、グレスティアさんならっ…あの人なら───)

｢あっはぁ〜？こわぁいはずなのにぃ、アハハ、いいねぇ、そのめ・ぇ。しまい・・・そろってぇ、ほんとにぼくごのみぃ～・・・ホント、殺して遊びたい・・・・・・・｣

その瞬間、暗闇の中で何かがった。

(・・・え？)

何がったのか探すアリサが見たのは、力無く倒れ崩れる、首から上の無い自分の・・・・だった─────

｢─────っ！！｣

全に酷く汗をかいたアリサが目を覚ましたのは、先程と同じような、鉄格子の扉以外全てが巖壁に囲まれた狹い部屋であった。

｢お、おはよう。やっと起きた｣

｢｢アリサ様っ！｣｣

｢・・・大丈夫？酷い汗だけど｣

長くうなされながら目を覚まさなかったアリサを心配する聲に答える前に、彼は自のを確認する、主に首を。

その姿を見てレインは眉を寄せるが、アリサは構わず続ける。

何度もさすって何の異常も無い事を確認したアリサは、ようやく周囲を見渡す。

｢・・・ここは？｣

｢そんなんこっちが聞きてーな｣

｢全くその通り｣

アリサの問いに直ぐに答えたのは【零落の兇弾】の2人である。

さらに見渡す──見渡す程広い部屋ではないが──と、どうやら闘技場のあの控え室にいた全員がここに居るようだ。

｢・・・で、これで全員起きた訳だけど、これからどうする？｣

そう言って壁に背を預けて座るレインは、仄暗い部屋と黒い服(帽子)によって、目を凝らさないとほぼ見えない程壁と同化していた。

｢あ、ちょっと待ってね。今座標確認の魔法を使ってるから・・・・・・出た。うん…まぁそうかなとは思ったけど、間違いない、ここは冒険者學校の真下ね｣

｢敵さんの方からご案たぁ隨分とよゆーだなぁおい？｣

苦笑と共に言うレヴィア。そして、何だかおじさんはイライラしていた。

｢まぁ、こっちとしては探す手間が省けたわけだし、敵のボスもぱっと見つけてぱっと倒してしまおうか｣

(あぁでも場所は既に見つけてたっけ？)

｢ぱっと倒せるのはグレスティアくんくらいだけどね｣

レインは頬をかくレヴィアに軽く手を振って部屋を出ていった・・・男の手首の太さほどもある鉄格子を、片手で軽々と折り曲げ破壊しながら。

｢・・・どうした、行かんのか？｣

誰もが無言で遠い目をしている中、一人全く気にしていないイグラッドがレインに続く・・・彼は彼で、レインの背丈では必要なかった高い部分を片手で吹き飛ばしながら。

｢・・・・・・行こっか｣

唯一似たような事が出來なくもないレヴィアがそう言った事で他の面々は部屋を後にした。

ふとアリサは、両腕に僅かな痛みをじ立ち止まる。しかし、確認しようとしたが服によって隠れているため見ることが出來なく、気のせいだと自分に言い聞かせ歩き出すのだった────