《職に恵まれた年は世界を無雙する》対抗戦、準備!
ピーッッ
甲高い音が部屋中に鳴り響く。
その音は部屋の扉の方から鳴っている。
恐る恐る見ると、片手に笛を持った龍央が立っていた。
「もう起きる時間だ。早く起きろ!」
ピーッッ
再度鳴らしてくる。
「分かった分かったから、もう鳴らすな。今日は主婦じゃないんだな」
「今日は休みだからな。いつでもフライパンとおたまを持ってここへ來るわけには行かねぇよ。主婦じゃねぇし。」
主婦とは冗談で言ったものの、龍央はし傷ついたように最後の方はボソボソと喋っていた。
「今日はここを出るんだろ?行くあてはあるのか?」
「ああ。クロエの故郷に行こうと思ってな。」
外から巨大な足音が聞こえてくる。
「カイ、初耳だ。我には先に言ってくれないか。」
「すまん、忘れていた。」
龍央がそのやり取りを靜かに見ていたあと、肩を叩いてきた。
「仲いいな!異世界慣れしてんなー。」
そう言うと、部屋から出ていった。
手の中の違和に気がついた。紙を握りしめていた。
...いつの間に。さすがは龍央だな。
紙の容は、食堂でクロエと廻が食事をしているうちに部屋へ戻れ。話がある。というものだった。俺は龍央になにかしたかと一瞬ドキッとした。龍央は怒ったら怖そうだからな...。
そんな事を考えていると、俺のお腹がなった。俺はそれほど食べる方ではないのに、なるのはおかしいと変な違和をじ、食堂へ向かった。
ある程度食べ終えると、俺は気配を消し食堂を出た。部屋に戻ると、既に龍央がいた。
「遅かったな。15分も待たされるとは思わなかったぞ。」
「たったの15分だろ。」
どうでもいいやり取りを龍央が無理やり打ち切り、顔の前に紙を差し出してきた。
その紙の容は、【優勝を摑み取れ!ガチな冒険者集う!闘技場で暴れまくれ!】という所謂いわゆる闘技大會の申込書だった。
「なんだこれは…」
「あー、なんだ、その…參加してくれ」
突然何を言い出すかと思えばただそれだけのことだった。
「それは戦いの慣れに相応しいからいいが、それなら別にみんながいる所でも話していいんじゃないか?」
俺は疑問に思っていることを率直に聞いた。すると、龍央が考えついたとは思わない返事がきた。
「廻とクロエにプレゼントを送りたくてな。俺だと、毎回準決勝で負けるんだよ。それでカイに出てもらおうと思ってな。この大會には必ず大がいるんだ。まぁ、勇者賢者ジョブについてりゃ楽勝だがな。」
「なかなか面白そうだな。優勝の報酬はなんだ?」
待ってましたという顔で見てくるもんだから、毆ってしまった。すまん。
「いきなり毆んなよ…!まぁ、いい!報酬はなんと!魔導書としい魔法と金だ。その金額は5000000DGディアゴールドだぞ!」
この世界の金の數え方は分からないが、500萬という考えでいいのだろうか。もしそうなら、確かに大金である。だが、報酬で引っかかるところがある。
「なぁ、しい魔法ってのは効果を言えばなんでもくれるのか?」
魔法と言ってもこの世に存在しない魔法もあるはずだ。それをどのようにくれるのか。
「あぁ、そのへんは俺もあやふやでな。主催者側によれば、研究して魔法を造るとか言っていたが、俺は違うと思うんだよなぁ。」
「俺も同じ考えだ。俺の考えだとそれは最強の魔導師になるな。」
「俺もそう思うぜ。まぁ、とりあえず參加してくれ。しかも、チーム戦だ。カイの黒…クロエだって參加できるぞ。」
それなら、優勝だってありえる話だ。いっちょやるか。
「楽しそうだ。參加する。申込書はどこに持ってけばいいんだ?」
「カイならそう言うと思ったぜ!それはギルドに持ってけばいいはずだ。だが、お前の場合、ザレフんとこまで通されそうだが...。まぁ気にすんな!」
自分の喋りたかったことを喋り終えると、海希に紙を渡し、食堂へ行ってしまった。全く勝手な野郎だな。
食堂にて。
「クロエ、廻。俺と一緒に闘技大會へ出ないか?」
「カイが言うなら、我に異論はない。」
「僕もいいよ。魔導書なら殲滅に必要不可欠。」
殲滅という言葉に食堂にいる者達が反応するが、俺が咄嗟に人ではない!と言ったおかげでみんな安堵してそのまま食べ続ける。
俺は廻にそっと耳打ちした。
「廻、一般人の前ではあまり昔のこととかさっきみたいな殲滅とか勘違いを起こすような発言はやめてくれよ。」
「分かった。カイ、ごめんね。」
まさか謝るとは思っていなくて、カイはし焦る。
「ちょっといいか...。」
仲良くしているところを龍央が話しかけてくる。空気を読んでもらいたかったところだ。
「なんだよ、今取り込み中なんだが。」
トーン低めで言う。
「その申込なんだがな、今日の12時までだからな。急げよ。」
「それを早く言ってくれよ!」
俺は咄嗟に時間を確認する。
11時18分。
うわっ、ギリギリだ。
龍央は焦っている俺を面白そうに見ている。クロエと行けば、すぐ著くか。
俺はのんびりと行くことにした。
11時43分。
やっと、ギルドまで著いた。ギルドにはいつも人が多いが、今日は1段と人が集まっていた。今日が申込最終日だからだろうか。否、絶対そうである。
俺は、付からギルドの端まで並ぶ列の最後尾に並んだ。さすがにオルナに確認してもらって箱にれる作業にそんなに時間はかからなかった。わずか5分ほどでたどり著くことが出來た。 
「オルナさん、こんにちは。今日はまた混んでますね。外も暑いですし、これだけ人が集してると熱気が凄いですよね。お仕事頑張ってくださいね。」
この暑さの中でずっと紙に目を通して汗をかいて疲れているせいか反応がややしどろもどろであった。
「え?あ、海希さん。こんにちは。…………はい、こちらの箱にれてください。れましたら、ギルド長室まで行ってください。ザレフ様が呼んでますよ。」
「そうですか、ありがとうございます。」
そう言って、俺は列から外れ、ザレフの待つ部屋まで向かった。
コンコン
ドアを2回ノックすると、聲が聞こえてきた。
「どうぞ」
俺はドアを開けて、軽く會釈をしてザレフの元へ向かう。
「海希か。お前なら參加すると思っていたぞ。優勝もできるかもしれぬぞ。」
「そうですか。あ、そうでした。ギルドの皆さんにアイスというものを作ってきたので、ぜひ皆さんで食べてください。こんな暑い日には最適ですよ。あと、オルナさんが倒れそうなので代した方がいいですよ。」
「そうか。後で、レベッカに頼んでおくよ。」
オルナさんは、ギルド一番の人らしいし、男の気持ちに同してザレフに言うことで俺の好度アップも間違いなしだな。決して狙っている訳では無い...。
「そういえば、俺のレベルって高いほうなんですか?」
ザレフは大きく目を開いた。
「海希...お主本當に言っているのか...。まぁ、お主らしいがな。」
これは高い...高すぎる、と捉えていいのだろうか。
「海希、依頼クエストの用意ができたぞ。3つくらいあるのだが、どれも厄介でなぁ。」
「厄介ですか...。とりあえず容次第ですね。」
ザレフが、決して綺麗とは言えない機から3枚の紙を取り出すと俺に手渡ししてきた。
「えーっと...勝負と上級魔サンドラゴンワイム退治とロストの実収穫...。」
最後の一つだけ明らかに簡単そうだが、一応候補にもれて深く考える。
「ザレフさん、ロストの実ってなんですか?」
「ロストの実はなかなか食べられない高級食材で、もちろん手は困難、その上、素手でると消えてしまうというタチの悪い果だ。だが、それは疲れが一瞬で吹き飛ぶほどの味さと回復力がある。」
予想してしまって思わず涎を垂らすところだった。危ない危ない。俺は意外とフルーツ系は好きなのだ。
「じゃあ、ロストの実収穫の依頼クエストをけます。ですが、明日開催されるイベントを最優先しますので、保留にしておいて下さい。」
「了解した。明日の対抗戦までにを休めておけ。頑張れよ!」
笑った顔が皺だらけで思わず笑ってしまいしそうになるのをぐっと我慢して、ギルド長室を後にした。
俺は、対抗戦に使う武の調達をした。だが、この街には武屋が多すぎる。勉強不足な自分には武なんて分からないので、ギルドの人たちに聞いてみることにした。
「あの、すみません、冒険者の方ですか?」
俺はギルド長室に一番近くにいた、いかにも酒が大好きで、いつもナンパしてそうなごつい男に話しかけた。
「あ?なんだてめぇ...。お?お前、いい嬢ちゃんつれてんじゃん!仲間にならねぇか?」
いきなりなんだこいつは。キモい以外の言葉が見つからないほど醜い心をしている。
「なるわけねぇだろ、クソが...。に飢えやがって気持ちわりぃなぁ!ちっ、こいつに聞くんじゃなかった。」
俺は己のに支配された奴が大嫌いだ。キレてしまいそうなほど嫌いだ。
ガタンっ!!!
男は機をひっくり返して、機の上にのっていたもの全部臺無しにした。俺は善人ではないが、食べを末にするやつは嫌いだ。
「鬼が好き勝手言いやがって...!!この俺様を知らねぇのか!?」
周りからコソコソと聲が聞こえる。
あの年すげーな...あいつに口答えしてるよ、勇気あるよな、殺されるんじゃないか?やばくないか?…………など、口々に聞こえてくる言葉にこいつは悪い意味で有名ということが分かった。だが、別の世界から來た俺には分からない。
「知るわけないだろ、たった3日前にギルド來たばっかなんだよ。まぁ、俺に勝負を挑んできたところでお前は負けるだろうがな。」
「へぇぇぇ...テメェが勝つとでも?」
男の顔や腕に青筋がたつ。
「あぁ、勝つね。」
「俺様は、ストーグ。Sランクだぜぇ?勝てるわけねぇだろぉ!」
しばしの沈黙。周りの人達は何が起こるのか心配で見ている。
「はぁ...。あー、めんどくさい。この際、戦うのが手っ取り早いか...。」
「おうおう、その通りだぁ!戦う方が早く決著つけれるもんなぁ。どっちが勝つか目に見えているが、つきあってやるよぉ!!!」
そんな事を言っているうちに、俺はオルナに対戦部屋へ場した。
俺がSSランクだと伝えるのが、大いに楽しみだ。
俺はオルナに司會を頼んだ。
「こっ、これより!ストーグ様対海希様の模擬戦を始めます。負けた方は、ザレフ様から騒ぎを起こした罰として、明日の対抗戦場権を破棄させてもらいます!」
「「そんなの聞いてねえぞ!?」」
俺とストーグがハモり、お互いを見合わせた。オルナはにこっと笑って言う。
「この方が面白いし、當然の報いだと思いますよ?」
確かにオルナの言っている事は正しい。言い返しのしようがない。
「ルールはないというのがルールです!何を使っても相手を倒せば終了となります。ダメージは、特殊な結界により神ダメージへと変換されます。怪我の心配はございません!」
張が漂っている。空気がピリピリする。俺は、クロエとしか戦ったことがないのを思い出し、勝てるのか心配であった。ここで、怖気付いても仕方ない。俺は殺す勢いで勝負する。
「それではッ、試合開始!」
オルナの合図と共に、ストーグが臨戦態勢にる。突進でもして、相手を怯ませることを目的としたつきをしているため、気づかなかった。ストーグが魔法を使うための詠唱をしていたことに。
ストーグの周りに9個程の火炎玉が構築される。俺は、魔法を扱うのに慣れていない。というか、使ったことがない。とりあえず、ダメージ軽減をしておくことにした。
「モード︰レジスト!水!」
俺が屬を変えた瞬間に、ストーグがぶ。
「九尾炎!」
屬を変えたとはいえ、當たれば痛いのは確実だ。念のため避けることにする。が、炎はますます速度を増して追いかけてくる。
「うわっ、マジか。」
非常にめんどくさい。こちらの力が奪われるだけだ。俺は、策を思いついた。それは、合だ。火は、その火より大きな火に包まれることで合する。その火はより、大きくなる。その火を放てば、一撃で仕留められるかもしれない。善は急げだ。俺は、追いかけられながら巨大な火の玉をイメージする。すると、後ろからボシュッボシュッボシュッ...と聞こえてきた。これは、もしや。
「よし。功したか。」
「な、なんだ!?でっか!」
ストーグは驚きを隠せないで、口を開けて立っている。今がチャンスだ。俺は容赦なく投げつけた。俺の...ファイアーボールには発の機能があるようで。ストーグを中心に広範囲発を起こした。観戦者には當たらないものの、ストーグは結界が割れたのか、しばかり火傷を負っていた。気を失っているため、俺の勝ちだろう。
「しょっ、勝者!海希様!」
周りから拍手と歓聲が聞こえてくる。
よくやったぞ!小僧!まさか倒すなんてな…という言葉も聞こえる。
俺は、相手を一瞥し、醜いクズがッ...と言って立ち去ろうとした。だが、足をストーグに摑まれた。
「おっ、おれはっ、お前のランクと名前...聞いてなかったなぁ...」
俺は早く準備をして、明日のために力を回復させたいがために、早口で言っておいた。
「俺は、海希だ。お前の一つ上のSSランクだ。これで十分だろう。俺は行くぞ。」
空気が、視線が痛い。なぜ、ストーグなら分かるが、他の人も恐怖の視線を送ってくるのだろう。SSランクはそれほど珍しいのだろうか。それとも、この年齢であるが故に將來に恐怖しているのだろうか。
ストーグが立ち上がり、俺に毆りかかろうとするも、ダメージが大きかったようで不発に終わった。
「行こう、廻。俺たちだけで探した方が良さそうだ。」
「うん、僕もそう思うけど、周りの人達はすごく手を貸したそうに見てるよ?」
廻に言われて、ようやく気づいた。廻の言葉をきっかけに、1人の優しそうな男がこちらに近づいてくる。
「武ならいい店知っているよ?案してあげようか?」
男の後ろにいる人達は、俺たちに頷いてほしいのか頭を上下にブンブン降っている。
「あ、あぁ、よろしく頼む。だが、金もない。出來るだけ安いところがいいのだが…。」
その言葉を聞いた陣が目を輝かせてこちらに歩んでくる。
「私たち、あなたの戦いぶりにしました!これが一目惚れってやつなのですね!?はっ、そんなことよりお金がないのですね?それなら私たちがあなたのために武を買ってあげる!そのかわり、お名前や好きなものとか教えてください!」
はぁはぁ...、と伝えたいことを息継ぎもしずに話すもんだから息がしあがっているのが伺える。
「そんな安い條件でいいのか?名前は、神谷海希。好きなものは...好きなもの......この世界と戦いと仲間だな。」
仲間ですって!なんと優しいんでしょう...そんなような言葉が次々と発せられる。一応、戦闘狂みたいな事も言っていたが、無かったことにされたようだ。
そんなこんなあって、男に店を案してもらい、達に金を貰い、武を買った。
俺の買った武は、魔法杖ウィザーズロッドである。しかも、最高級品のもの。魔法杖ウィザーズロッドを裝備することで魔法の威力が著しく上がるようだ。俺の拳は威力が高すぎるため、対抗戦では封印することにした。優勝すれば金は貰えるのだし、相手の狀態を最優先に考えて、魔法杖ウィザーズロッドを買うのが妥當だと思った。俺の武は見た目もカッコよく、能も良いため、値段を見ずに買ってもらったが、今思うと本當に申し訳ないことをしたと思う。改めて見ると、100萬DGディアゴールドもするではないか。俺は別れ際に、陣に「高かったのにすみません。この恩は必ず返します。」と言って、立ち去った。
それを聞いた陣は、お禮を言われると思っていなかったのか、目を數回をぱちくりさせ、赤面させた。
「ああ、なんて可いんでしょう!」「最高だわっ!!」
などと、気味の悪い言葉を聞いた俺はの趣味が心配になった。別に俺は、かっこよくは無いのだから。
つか、ストーグのせいで時間が無駄になったな。
「...!?」
手首が熱い。紋章がより一層紅く輝いている。
「カイ、カイ...!クロエが危ない...かも!」
廻が慌てていう姿を見ると、余程危ない狀況だと察した。
とりあえず、ギルドにテレポートし、ダッシュで門の外まで駆ける。
門兵がこちらに來る。
「あなたの黒龍がっ...!先ほど100羽程の毒鳥コカトリスが來て!寢ている黒龍様を襲っていきました。我々では、全てを狩ることは出來ませんでしたが、80羽程は狩りました。毒鳥コカトリスは猛毒をもっています!今すぐ治癒魔法をかけた方が宜しいかと!」
俺はすぐさまクロエに駆け寄り、両手をクロエのにあてる。そして、心で強く念じる。すると、魔法が使えない門兵までもが目視できるほどの魔力がに注ぎ込まれていく。
俺が治癒魔法をかけている最中に黒龍が起き上がる。
「カイ、どうしたのだ。そんなに慌てふためいて。」
門兵は先ほどあったことをクロエに話した。
「我があの弱き毒鳥コカトリスの毒を食らうとでも?はん、笑わせてくれる!そんなもの痛くもくもないわっ!」
「俺は本気で心配したんだが...」
「そうだったか、カイ。だが、我にかなうは龍だけだ。」
そうか、と言って、クロエの背に乗り、館へ移した。
館にて。
「おう、おかえり、カイ!隨分と遅かったじゃねぇか。」
「あぁ、ちょっと変なやつに絡まれて...。」
と、ストーグを思い出す。あいつを思い出すと、怒りが湧いてくる。
「そりゃ、災難だったな。今日も泊まってくのか?」
「あぁ、今日は出ていこうと思ったが、金もないしで、明日は優勝するから金もあるし、明日はちゃんと出て行くよ。迷かけてすまないな。」
「いいってことよ。ぱぱっと、食事済ませて寢ろよ?じゃねーと、睡眠不足で明日負けちまうぞ!」
「そうだな。クロエにも出しといてくれ。」
おうよ!と、言いながらクロエの元へ行ってしまった。
すぐに食事を済ませ、廻と共に寢室へ向かう。ベッドにつくと、クロエも窓際に顔を近づけて寢るようにしていた。俺は無意識に口が開いた。
「クロエ、廻、明日頑張ろうな。」
それを境に、クロエ、廻、俺は眠りについた。
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