《ひねくれ魔師が天才魔法使いよりも強い件について》第75話 決著
視界が狹い。
周りの景も、満の狀況も、徳の狀況も分からない。
それでも、一つだけわかることがある。
中學に上がってから最初の1年間、魔法使いを忌み嫌い、満をも憎んでいた時期があった。
ただ上を目指すために使えるものは全て使った。
それでも、本気の勝負で勝てなかった男が塡の隣には居た。
『風宮 満かざみや みつる』
魔師にも優しく、ライバルとして見てくれる人間。
その男に塡は救われた。
そして今も、2対1で負けている相手の攻撃を防ぎ、守ってくれた。
その事実が塡の背中を叩き続ける。
ただひたすらに前へ前へと塡の足が進み続ける。
10メートルほど前方にて
次々と飛來する破する札をギリギリながら避け続ける。
反撃の余裕などなく、ただ防だけに手を回す。
なんの解決にもならない回避と防、それを幾度となく繰り返す。
何度意識が離れようとしたか、何度足を止めようとしたか、何度その場から逃げようとしたか。
それでも、そんな狀況でも、風宮満は逃げなかった。
自分の後ろにいる友達のために、そして何より、
満「悔いが殘らないようにするために」
聲に出した言葉は満の背中を勢いよく叩いた。
今の今まで防と回避しか出來ていなかった年は最後の抵抗と言わんばかりに攻撃に転じる。
次々と舞う札をものともせずに全速力で突き進む。
間合いにったと意識した瞬間、暴風を圧した小型の竜巻を敵に向かって剣先から出した。
剎那、発音が言葉を吸い込み、爪痕を殘しながら進む暴風に周囲が破壊された。
數メートル先からの発音は塡に衝撃を與えるには十分だった。
何が起こったかなんて見なくても分かる、殘りない魔點を高度に圧し、魔法を発したのだろう。
魔法で発生した衝撃を吸収する魔點なんて、もう殘っていない。
死を覚悟しての攻撃、塡が前に進むにはそれだけで十分だった。
左手にかかる重と、生暖かい溫と生臭いの匂いは塡に覚悟を決めさせるには十分だった。
塡「後は、任せとけ。」
頷くことも返事をすることも無く、満は意識を失った。
ぐったりとした満を地面へと預けたまま、塡はを前へと進める。
徳「する友語だな、緑青塡。」
塡「同萬時徳。」
徳「かっこうつけて貰って悪いんだが、そのボロボロのでどうするんだ?」
塡「そうだな、死にかけの魔師が奇跡の逆転で魔法使いを倒すって話はどうだ?」
魔法使いの不敵な笑みが剝がれる。
徳「その冗談は笑えないぞ。」
塡「生憎、ジョブは盜賊なんでね。」
皮混じりの言葉を合図に戦闘が開始される。
徳「お前じゃ俺には勝てないぞ、緑青。」
ヒラヒラと舞う札は照準を定めるかのように停止し、それぞれが瀕死の年を追い詰めるために、一斉に前進を始めた。
塡「『波紋』」
前に突き出した手を中心に、水面に一滴の雫が落ちた様に波紋が広がっていく。
徳「そんな防しか出來ないから魔師は魔法使いには勝てないんだよ。」
直後、札は防に直撃し薄い壁は破れ、殘りの札が塡を絶命させる為に直進する。
と、思われたが波紋にぶつかるや否や、札は壁に張り付くかのようにペタリとかなくなり、その場でゆらゆらとたたずんでいた。
塡「そんな思考だから魔法使いは魔師程度に苦戦するんだよ。」
ゆっくりと腰を下ろし、前へと重心を移させた塡は友のため、人のため、そして何より、自分の為に大きく一歩を踏み出す。
ダンっ!と衝撃音が響き、塡のが前へと移する。
その走りは先程よりも遙かに遅く、明らかに限界なことを意図せず示した。
徳「ぬるいな魔師。本當にぬるい。」
塡「ずっとトドメを刺さないお前に言われたくはないね。」
浮遊する札と、投げられたナイフが衝突する。
煙から姿を現した年は、左手に握った投げナイフを全力で敵に投げる。
徳「そんな攻撃が通じると思うなよ。」
年の手のひらから出された強風によって、投げナイフは地面に叩き落とされる。
ボロボロながら、敵に駆ける年は右手に握った投げナイフを左手に持ち替え、再度敵に投擲する。
徳「無駄だってわかんねぇのか。魔師。」
塡「分かってるさ。」
それでも、投げナイフを投擲する事はやめなかった。
宙を舞うナイフは全て叩き落とされた。
それでも、塡は投げナイフを投げ続けた。
徳「もういい、お前には失した。」
開いた手のひらから野球ボール程度の火の玉が出現した。
徳「終わりにしよう。そろそろ時間だ。」
火の玉が回転を始め、発された。
高速で飛來する火の玉を止める為の魔點は殘っていない。
塡「今度こそ終わりだな。」
ポツリと呟いた塡はゆっくりと目を閉じ、手を下ろした。
だが、塡のは反抗した。
意志の中核たる頭の命令を無視し、塡の腕は火の玉へとばされた。
衝突した衝撃でが倒れそうになったが、その程度の攻撃では塡の歩みを止めることは出來なかった。
徳「本當に稽な奴だな。勝てるはずもない勝負をし、救えるはずのない者を救おうとしている。だから負けるんだ緑青。」
大聲で語りかけてくる敵の聲に返事をすることさえも出來なかった。
ただ、目の前の火の玉を防ぐことだけに意識をさいた。
徳「お前が魔法使いなら藤原を奪還されていたかもしてないが、魔師程度に負ける訳がない。そもそも、魔師と魔法使いには絶対的な壁がある。式を組むスピードだ。そのしの差が魔師と魔法使いに強大な壁を生み出す。」
ジリジリと皮が焼けていく覚にび聲をあげそうになった。
まともにかない右半を無理やりかしながら、塡は防を続けた。
徳「そろそろ諦めろ、緑青塡。お前がいくら足掻こうが意味はない。お前が魔師だからだ。魔師でも強くなれると思ったならそれは見當違いだな。だが、もし本気でそう思っていたなら、それはお前の親が悪いな。親を見て育つなら、親が愚かだったんだろ?」
返事は出來ない。
子供のように怒號で返すことはない。
ただ、真っ直ぐと敵を見據える。
徳「愚かな親を見て育ったお前は愚かな人間だ。古代の言葉で"類は友を呼ぶ"という言葉があるらしい。だから、愚かなお前には愚かな人間が近寄る。魔師程度に関わり、それだけでなく命すら擲なげうつとは、とんでもない愚行だ!」
直後、火の玉が散し、徳の左頬は何かによって強打された。
直ぐに制を立て直すために一度後ろへ引こうとするが、果たされることなく右頬が毆られた。
徳「グッ!」
塡「・・・殺す。」
徳「・・・おいおい、騒だな。」
余裕気な言葉とは裏腹に制が未だ立て直せていない徳は、無理やり懐から大量の札を取り出した。
徳「『急急如律令にて我がを死守せよ』」
飛び出した札すべてが、陣形を描くように並び始めた。
それぞれがまるで最初から決められていたかのように素早く丸を描いていく。
塡「殺す。」
徳「『結界』!!」
衝撃音が迸る。
札から札へと円形になるように見えない壁のようなが作られた。
拳は壁を貫くことはなく、塡のは突如停止した。
徳「所詮、この程度だよ。この薄い壁一つ破れない。それがお前だ、緑青塡。」
塡「・・・」
怒りゆえの沈黙。
否、それは怒りで言葉が出てこないという理由ではない。
それは、ただ、全力での集中。
その集中が必要になる技を今酷使しているのだ。
怒りで隠れていた塡の顔は不思議なことに、笑みで溢れていた。
徳「何がおかしい。」
塡「・・・お前が稽だから、ついな。」
徳「今更揺を狙ったところで、この狀況は巻き返せないぞ。」
塡「そんな所が稽なんだよ。」
直後、壁が何かに吸い込まれるように消え去った。
徳「・・・あ?」
直後、徳の視界に映った暗闇を全速力で駆ける人影が徳の右頬を勢いよく毆打した。
塡「ぶっ飛べぇ!」
瓦礫に何度もぶつかり、やがて停止した徳のには、これまでとは違いが大きく服を汚していた。
呼吸が荒くなり、肩がいていることが遠目でわかる。
続けて攻撃を仕掛けるため、低く腰を落とした塡は、盜賊のスキル、『腳力向上』を発し、標的を目掛けて地面を思いっきり、蹴った。
目にも止まらぬ速さで駆けていく塡の右拳は再び徳の右頬に吸い寄せられた。
徳「二回目も同じ攻撃とは、舐められたもんだな!」
拳が頬に到達することはなく、徳の右手に直撃した。
腹の中央あたりの、鳩尾みぞおちと呼ばれるポイントを徳の膝が容赦なく貫く。
呼吸が止まり、息が出來なくなるが、無理やりにでも空気を肺に詰め込み、出てくる嗚咽全てを飲んだ。
苦しんでいる暇などない、目の前に敵が存在し、護るべき人間が居るならば、今の塡はただただ走るだけである。
塡「『加速』!」
徳「『発宣言スタートスペル』を隠す余裕すらないか!」
幾度となく塡の腕半分程度のダガーが空を斬る、だがそれでも、塡の手が止まることは無かった。
徳「『踴り狂え五芒星ペンタグラム』!」
至近距離から放たれる発する札、塡に防する力も気力も魔點も無い、だからこその行だったのだろう。
手のひらの中心部分、魔點を放出するが多く集まっている部分。
そこを敵に向け、次の瞬間、が世界を覆った。
発する札だけではなく、周囲の瓦礫や地面を抉り取った線は敵を軽々しく貫いた。
周囲の溫度が急上昇し、コンテナの隙をうように風が通り抜け、塡の頬に涼しさをじさせた。
塡「・・・さすがに痛てぇな。」
左の手のひらがヒリヒリと痛み、皮は赤くただれていた。
塡(超至近距離ゼロ距離からの魔點直接砲撃、防を張る暇すらなかった。確実に仕留めたはず・・・)
確信が持てないのは今回の戦闘で何度も徳の噓ブラフに引っかかったからだろう。
だが、結果を確かめるまでもなく確実に即死、よくても意識不明の重だろう。
塡(最悪のパターンとしてはこの戦闘自が幻で、舞は既に拐されてるというパターンか。)
もし塡の頭がいつものように回転していたならこの事実に気付けていただろうか、いや、それは不可能だろう。
なぜなら、それは誰もが想像出來るが現実的に不可能な事だからだ。
高エネルギーの攻撃、熱量も量も生半可な攻撃では再現出來ないだろう。
だからこそ、気付けなかった、発生した煙が濃すぎることに。
徳「仕留めたとでも思ったか?だとしたら、お前はめでたい奴だよ。」
煙の奧から聞こえてくる聲は塡の神経を逆でし、どん底へ突き落とした。
徳「生憎だが、俺は生きてるよ。」
通り抜ける風に煙が運ばれ一人の年が姿を現す。
先程、高エネルギーの攻撃を超至近距離で放った年。
全ての魔點を放出し、も満足にかせないという狀況に加え、ピンピンとは言えないが確実に塡よりも元気な敵の登場は絶絶命と言う言葉を使うに最適な場面かもしれない。
塡「なぜ生きている。」
徳「俺の自己的式オリジナルマジックを忘れたのか?」
塡「・・・『結界』」
徳「そうだ。」
塡「だが、お前の攻撃や防はに基づいていた。」
徳「よく気付いてるじゃないか。そう、俺の自己的式オリジナルマジックは『結界』・・・ではなく、『』・・・でもない。」
塡「・・・?!」
予想外の言葉が耳を通り抜け、塡を困へと導く。
徳「本當の自己的式オリジナルマジックは、『暦道』。まぁ細かく言うと暦道を主とした、賀茂氏に関わるだがな。」
塡「・・・」
徳「さすがにまでは細かく知らないか?まぁ、使える人間が限られている上に時間をかけて理解するものでもないからな。」
塡「暦道、『和郡國』が出來るよりもさらに昔の日本と呼ばれる國、その日本が出來ておよそ千年程度がたった頃に使われていた、暦を作するための學問。」
徳「なんだ、知ってたのか。」
塡(何か使える式はないか古文書を読んでおいて良かった。ただ、それ以上のことは知らねぇってことは必然的に対処が難しくなる。)
もう既に使える魔點は完全に無くなってしまった塡に、それほどの場面をひっくり返せる力はないだろう。
塡(・・・俺の負けか。)
心で呟いた言葉は津波のように塡の心を破壊していった。
今までの勝負に置いて、負けという決著にこれといった被害はなかったが、今回は違う。
負けという決著は『藤原舞』という人間を失ってしまうことと同義。
その事実はゆっくりと塡の首を締めていく。
徳「どうした?來ないのか?」
今できることは決まっている。
両手を上げて降伏するか、スキルだけで突撃するか。
スキルだけで勝利することは無理に等しく、決著は変わらないだろう。
ならばやるべき事は一つ、両手を上げて地面に膝をつけ、全力で降伏する。
それで全てが終わる。
ボロボロになった塡や満は殺されることはなく、これ以上ダメージを負うことも無い。
ただ、一人の人間を失うだけ、塡に損害はない。
降伏する以外に手はない。
行を決めた塡は早かった。
両手を上げて地面に膝をつけ、全力で降伏する。
だが、不思議と塡のは両手を上げることなく、全速力で徳の元へと突撃した。
塡「何してんだろうな・・・」
その言葉を置き去りにし、塡の拳は徳の左頬へと吸い込まれていく。
だが、徳はあくまでも満と塡を連続で相手していた。
そんな人間にただのパンチが屆くわけもなく、ボロボロの握りこぶしは空気中で靜止してしまった。
徳「期待外れだ。」
言葉が聞こえてくるやいなや、塡のは吹っ飛ばされた。
もう起き上がることは出來ない。
決著が著いた。
徳「俺の勝ちだ。」
絶えることのない余裕を象徴する笑みはそのまま、暗闇の中へと消えていった。
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