「ネル、二人はどうしたんだ？」

「シンヤがいなくなった後、私は心配だったんだけど、ハクちゃんとルナちゃんはシンヤのことは大丈夫って言って遊んでいたの。それで戦いの時の疲れがでちゃったんだね、日向ぼっこしているうちに眠りについたの」

自分の膝の上で気持ち良さそうに寢ているハクとルナを見て、薄く笑いながら喋るネル。

風が吹けば肩に乗っている髪がフワリとなびく。

その際ネルのピンクの髪がしく輝いた。

「なんだか、今の様子を見ていると、ピクニックにでも來た親子みたいだな」

そんな言葉が自然とこぼれた。

それ程までに微笑ましく、落ち著く景なのだ。

「それよりも、シンヤ！」

「なに？」

「さっき、小さな地震があったんだよ。知らない？」

「いや、知らないぞ？」

「そうなんだ、一なんだったんだろうね」

俺はその地震の原因がわかっている。

さきの眷屬との戦いの影響だろう。俺とあの眷屬が変したときの、その魔力量が大きすぎた為、今回は地震という形で姿を現した。次に眷屬が現れた場合、【神化】を使えば、どんなことが起きるかわからないから、なるべく使わないようにして、戦おう。

しかし、どうして今になって眷屬が現れたんだ？しかも、邪神の眷屬。邪神は大昔に次元の狹間に追い返されたはずだ。確かに地上の生が神を殺めることはできないが、次元の狹間に追い返されたんだったら、神であろうと戻ってくるのに時間がかかるはず。しかも、魔王たちに追い返されたということは、それ程傷を負っていたということ、それなら尚更時間がかかるはず。

まさか、神全種大戦の生き殘り？なのだとしたら、まだ他にも邪神の眷屬が生きている可能がある。

だが、なぜ今になってき出した。何かの前兆か？もしかすると、邪神の復活…………。いやいや、そんなことは無いか。

っと、俺のが大きく揺さぶられる。

「ん？ああ、すまん。なんだ？」

「シンヤが珍しくボーッとしてたから」

「いや、ちょっと考え事をしていただけだ」

周りの言葉が聞こえないほど、深く邪神や眷屬のことを考えていたみたいだ。

それにしても、初代の王たちはすごいな。墮ちたものでありながら、神の端くれである邪神に傷を負わせて追い返すとは。

またもそのようなことを考えていると、ハクとルナが眠たそうな目をりながら上半を起こし、「ふにゃ〜」と欠をする。

「あっ、ご主人様だ！」

「おかえりなさいませ！ご主人！」

ハクとルナは、眠たそうだった目が一気に開き、俺に飛びついてきた。

「ぐっ！」

俺は小さな聲で呟いた。

全が重度の筋痛になっていたのだ。多分、初めて神化を使い、その強大な力が俺のにはまだ負擔だったのだろう。まだまだ修行が足りないということだ。

「ご主人様〜……ッ！？」

「クンクン、ご主人の匂いで……すっ！？」

俺に抱きついて、匂いを嗅ぎ出した二人は、急に顔を強ばらせる。そして、一瞬でネルのもとに戻っていった。

「ど、どうしたんだ？」

俺はし焦り気味で2人に聞いた。

「「ご主人(様)、匂いが臭い(です)！！」」

「ぐはっ！！」

二人の言葉がを貫く。

これは娘に言われたくない言葉ランキングトップ10にる言葉。

これが反抗期の娘を持った父親の気持ちなのかもしれない。想像以上に攻撃力のあるものだった。

「ね、ネル。俺は臭いのか？」

二人の言葉に揺を隠せず、聲を震わせる俺。

ネルは、なんて答えればいいのかわからない様子だ。

「ハク、ルナ。どんな匂いなんだ？」

「えっとね、なんか気分が悪くなって気持ち悪い」

「他にも嗅いだだけで心が汚染されるかのようにもじました」

俺は二人の意見を聞いて匂いの原因に心當たりがあった。

子供の頃、魔法神レーネ様から一度聞いたことがある。

気分が悪くなる。嗅いだだけで心が汚染される。そのような負の影響を與える匂いは、恐らく、あの眷屬の匂いだろう。もっと正確に言えば、あの眷屬を毆った際に拳に付いた眷屬の、そのに混じった邪神のの匂いだろう。水魔法でを洗い流したのに。

仕方ない。俺は拳に神気を集め、邪神のとその匂いをかき消した。

「ハク、ルナ。これで大丈夫なはずだ」

俺はハクとルナに向けて手を大きく広げた。そんな俺を見たハクとルナは、ジリジリと近づいてくる。この行は、俺の心に大ダメージを與えてきた。

しかし、近づくにつれ匂いが消えていることに気づき、今度はしっかりと抱きついてきた。

「ご主人様の匂いに戻ってる！」

「ほんとだ！ご主人の匂い！」

二人は笑顔でそう言ってくれた。

これは嬉しいことだ。

「そうか、よかったよ」

俺は二人の頭をでる。

この子達は邪神の匂いに気づき、ネルがどうして気づかなかったのか。

その理由はこの子達が神気を、つまり神の力をしだが持っているからだろう。そして、本能的に邪神の匂いを嫌がった。

あれ？じゃあなんで俺は気づかなかったんだ？一番近く、自分自に匂いがついていたのに。

それに今思えば、眷屬との戦いの後、あの時の俺は気分が良かった。懐かしくもじていなのかもしれない。眷屬のあの男と戦って興したから？いや違う。もっと、別の何か。

その疑問が浮かび上がったとき、俺の記憶の奧底に、俺のの奧深くに封じられていたはずの、開いてはいけない真っ黒な箱が、巻き付いて解けないほど絡まっていた鎖が、緩んだように、箱の蓋がほんのし開いて、中がれ出してしまったようにじた。

◇◆◇◆◇◆◇◆

『その子供をーーーザザーーー渡しーザーーザザーーーー』

『このザーーーー絶対にーーーーーザザザザーーー』

多くのノイズが鳴り、途切れ途切れになりながら映る映像。

そんな映像から見えるのは、月のに輝く一人のと白い翼。禍々しいオーラをそのに纏う一人の男と、男の隣に立ちこちらを見ている人間の。

燃え盛る山と小さな小屋。揺れる大地に川は荒れ狂う。三人を中心とした竜巻が発生し、男はこのを挾みながら人間のを抱き寄せる。

なんだ、この映像は。

この男が何故か懐かしい。

そこからは、一度全てが真っ黒に染まり、何も聞こえない、何も見えない世界になった。

次に見えたのはオーラがなくなった姿の男と人間の。

こちらを見下げて、その瞳は潤みだし、涙が頬を沿って地面に落ちていく。

『見てしまったのザーーザザーーー封印ーーーザザザザーーーーー』

『ザザッ、ザーーーーーーーめんねーーーーごめんねーーーザザーーーザザザーーー』

『すまなかっザーーーザザーーーーこの子をーーー頼ザザーーーー』

神社にある拝殿の小さな階段にこのは置かれた。

男との言葉からは、後悔と悲しみが深くじられる。

ーーーーーーーーーープッーーーーーーーーーー

そして、今見ていた映像は全て闇に染まり、またあの真っ黒な箱の中に吸い込まれ、蓋は閉じ、鎖がまた固く絡まっていった。

◇◆◇◆◇◆◇◆

「……ンヤ、…シンヤ！」

目をゆっくりと開くと、俺の目の前にネルの顔があった。そして、その目にはうっすらと涙が浮かんでいる。

俺はをゆっくりと起こそうとした。だが。

ッ！

巨大なハンマーで毆りつけられたような痛みが、頭に響く。

さっきまで何か大切な、恐らく、俺に関する大切な何かを見た気がする。

真っ黒な箱。れ出した何か。そんなことしか覚えていないが、それは自力で開けれるものではないと本能で理解した。

しかし、見たものは全て覚えていない。俺のスキル欄にある、完全記憶をも超える力。

結局なんだったのかわからないまま、考えることをやめた。

「ネル、俺はどうしたんだ？」

「き、急にシンヤの顔が悪くなって、そのまま橫に倒れて気絶したの」

俺はネルの言葉に驚いた。まさか、この歳になって気絶してしまうとは。子供の頃神様たちみんなとやった修行以來か。

狀況を把握するため、周りを見回す。上にはネルの顔とごく一般的な大きさの、左にはハクとルナの涙で崩れた顔、右にはネルのでできた壁、下にはですべすべとぷにぷにしたもの。

今わかった報を統合すると。

「これは膝枕か？」

「う、うん」

いつぶりだろうか。修行していた頃は、いつも終わる度に地面に倒れ、よくセラ様がやってくれていた。

「嫌だった？」

ネルの言葉に、俺は首を橫に振る。

別に嫌なものではない。むしろ心地いいものだ。

俺はハクとルナの頭に手をばす。

「ごめんな、ハク、ルナ。心配させちゃって」

「「う、う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁああ！！」」

今までで聞いたことの無い音量の泣き聲。

その聲は、この場に吹く風よりも、揺れる葉の響きよりも大きな聲だった。

「二人とも泣きやめ。俺は大丈夫だから」

「で、でも、ご主人の顔、まだ悪いし」

「顔が悪い……」

「あ、間違えた！顔が悪いんです！」

間違えた言葉だとしても、娘のように育ててきた子に言われると、が抉られる。

俺はもう一度、大丈夫だと言って立ち上がる。

「シンヤ、まだ寢転んでいた方がいいよ」

「いや、大丈夫だ」

【盤上の地図ボードマップ】

気配はじていないが、先程のハクとルナの泣き聲で魔が近づいているかもしれない。

そう思い俺は盤上の地図ボードマップを視界に広げた。

そして、盤上の地図ボードマップにより見つかったのは、魔などではなく、大きなと部にいる人だった。

「おっと、これはちょっと急がないといけないな」

「どうしたの？」

神夜の顔に、珍しく焦りが見える。

「ここから俺たちが行く方向。つまり、西に100m先の地面にがある。そこで、多勢の人が捕まっていて、10數名の敵がいる」

しかし、人間か異種族かわからない。どちらにしろ助けるつもりだが、異種族だった場合、また、隠蔽の指を創造しなければならないのだ。神気を使うから、し痛いが。

「ほんと！？」

「ああ、だがちょっと待ってくれ」

【魔力支配】

俺は自分の周りにある魔力を今支配した。これで、支配した魔力を繋げていき、の中へとれてれた人の魔力量を図はかる。

そして、どんな人が捕まっているのかが、わかった。それはミルフィーユとの約束で守らなければいけないものだった。

「魔力量からして、異種族の人の可能が高い」

俺は無限収納インベントリの中に、人數分の隠蔽の指を創造する。

「じゃ、行くぞ」

そして準備が出來たので、足を一歩、前に進ませようとしたその時。

俺のが直した。

「どうしたの？シンヤ」

「……がかねぇ」

なんだ、この覚は。拒んでいるのか。今はを休ませろ。箱の中を見た影響が殘っている。がそう言っている気がした。

「すまん、今回は俺は行けない」

「わかった」

「あと、ちょっと待ってくれ」

ネルたちは俺の呼びかけに、進もうとした足を止めた。

「こいつを、持って行ってくれ」

俺は、無限収納インベントリから隠蔽の指を取り出し、ネルに手渡す。

「敵はお前らの好きにしていい。だが、もしも異種族の人達がいた場合は、できるだけ怯えさせず、この指を渡してくれ」

俺はそう言ってネルを見た。ネルは首を縦に振り、ハクとルナと一緒に走っていった。

「はぁ、まさかが直するとは。俺が見たものは、一なんだったんだ？」

俺はそう呟いて、走って行く三人の背中を見ていたのだった。