《ステータス、SSSじゃなきゃダメですか?》第三十五話
  結局それ以上大した収穫を得られなかったヴィルヘルム達は、見つからないうちにと迎賓館へと帰還する。アンリは実家にやや後ろ髪を引かれていたが、ヴィルヘルムが帰ると決めた以上、そして従者という立場でこの國に訪れた以上それに従わざるを得ない。
  裏口からいそいそと再侵し、どうにかこうにか帰還した二人は、そのまま斬鬼の待つ部屋へと直行。しばらく後に帰ってきたミミも含めて、それぞれ手にれた報を換し合った。
「さて、早速掻き集めた報を吐いてもらおうか。わざわざ労を掛けて外に出したんだ、相応の価値あるものは集められたんだろうな?  あ、ヴィルヘルム様はこちらに!  私が溫めておいた安楽椅子でございます!」
  相変わらずの待遇の差に、最早すら覚える変わりの早さ。なんだか妙な方向に捻じ曲がった善意を、ヴィルヘルムは甘んじてける。
  ゆらゆらと揺れる椅子に座ると、なんだか座っている部分が生暖かい。どうやら彼の言葉は本當だったようで、彼は何とも言えない気持ちになった。
  まだまだ寒い時期、確かに暖かいものはあればあるだけ助かるが、だからといって実際に人の溫もりを押し付けられると、それはそれで微妙な気分になるのは仕方がない事だろう。相手がいくら絶世のだったとはいえ。
  追及を逃れられそうな雰囲気に心でホッとしたヴィルヘルムは、優雅に足を組んで安楽椅子を揺らし始める。そんな彼を目に、斬鬼はアンリへと詰め寄った。
「……ヴィルヘルム、様への質問は無いのね……まあ良いけど。といっても、悪いけど貴が想像するほど大した報なんて得られなかったわよ」
「何?  貴様、もしやヴィルヘルム様と共に外出できる事にかまけて、ろくに働いていなかったのではあるまいな?  クソ!  何て羨ま……羨ましい!」
「言い直してないじゃない!  一回溜めたなら取り繕いなさいよ!  別に聞き込みに行ったアテが外れただけで、二人で何したとか……そんな事してないんだから!」
「なんだその一瞬の逡巡は!  やはり貴様心當たりがあるな!」
「な、何にもないって!  ホントだって!」
  一瞬アンリの脳裏によぎったのは、イシュタムの『配偶者か?』という発言。別に働いていなかった訳ではないが、個人的な用事に付き合わせてしまったという事に若干の後ろめたい思いが無い訳でもなかった。
  斬鬼らの追及の目から逃れる為、慌てて話を戻すアンリ。
「……私の実家が近くにあったから、そこまでちょっと付き合って貰ったのよ。お母さんに何か変わったことは無いかって詳しく聞こうと思ったんだけど、その當のお母さんがいなかったのよ」
「両親に挨拶だと?  貴様やはり怪しい事を……」
「だ、だからそんなんじゃないって!  本題はここから。私のお母さんを誰かが連れ去ったのよ!  それも、多分國の役人が!」
  アンリのその言葉に、斬鬼は眉を顰める。
「……ふむ、仮にも貴様はこの國の勇者なのだろう?  報を盜みに來たあの時の間者どもは全て私、そしてアルミサエル様が全て排除した。貴様が寢返ったなどという報は伝わっていない筈だが?」
「そんなの私だって分からないわよ!  イシュタムだって知らなかったし、どうして連れ去られたかなんて分からない!  思い出の品だってしも殘されてなかったのよ!?」
「貴様のなど知った事ではないが、もうしばかり落ち著いて話せ。騒がれると耳に響く」
「……そうね、一回落ち著くわ」
  鬱陶しげに手を振ると、斬鬼は彼の主張を押し留める。あまりにすげない態度に一瞬怒りが沸騰しかけたアンリだったが、その文句が口から飛び出る直前にヴィルヘルムの冷たい視線に覗き込まれる事で、思考が冷や水に掛けられたかのように沈靜化した。
  話している事が本題と若干ズレている。あくまでけた任務は異変の調査で、異変への不満をまくし立てる事ではない。もとより冷酷な吸鬼に共を求めることなど、それ自がハナから間違っていたのだとアンリは自に説得を続ける。
  冷靜になったアンリを見て、意外そうな目線を向ける斬鬼。これまでの彼ならばに任せて文句の一つや二つ付けていてもおかしくなかったが、それが來ない。
  とはいえ、それは特筆すべき変化というには弱過ぎる。彼が目を掛けるほどの価値もなかった為、すぐにその目線を切った。強いて言えば、『五月蝿いのが無くなった』という程度の慨である。
  ちなみにヴィルヘルムは通常運転で辺りを見ていただけである。その全くを映さない瞳をしでも改善すれば、なくとも取っ付きにくさは僅かに減るだろうに。
「ただ私達がいなくなった後に出てきた勇者、そして國に連れて行かれた私の母親。この二つは無関係とはいえないと思うけど?」
「……フン、その程度はこちらも把握している。ミミ、調査した結果を報告しろ」
「はいっ」
元気よく答えたミミは、懐から一枚の紙を取り出す。どうやら結果はその紙に書き記してあるようだ。
「例の勇者はおよそ二月ほど前に現れたようです。なんでも國王肝りの青年だそうで、國王から直々に下達されたと聞いています。ただ、素はどうにもはっきりせず、そこらの平民という話もあれば國王の非嫡出子という噂も流れているようです。なくとも、どの話にも明確な出典はありませんでしたが」
  國王直々という割にはどこぞの流れ者ともつかないような素。高貴であれ下賤であれ、それが勇者ともなれば市井の噂には登る筈だが、それがはっきりとしないというのはしばかり異常と言える。
「それに、彼の前任である元総司令、そしてそれまでに要職に就いていた幾人かの貴族が、國家転覆の罪で捕縛されているそうです。処刑こそまだ行われていない様ですが……いずれにせよ、偶然で片付けるには難しいかと」
「報告ご苦労。貴様は下がって良いぞ」
「はい」
  報告を終え、再び元気よく返事をするミミ。だが、言われた通りすぐには退かず、チラチラと何かを期待する様にヴィルヘルムの方を見る。
  見られていることに気付いた彼だが、それが何を意味しているのかまでには頭が回らない。よく分からないまま、ヴィルヘルムミミに対して頷き返した。
  だが、それだけでもミミには十分だったらしい。彼は満面の笑顔になると、そのまま軽くスキップなどしながら斬鬼の背後へと戻っていった。
「……いずれにしても、あの男を徹底的にマークする必要があるわね。どうにか様子を伺う方法があれば良いんだけど……」
「だが、王宮の警備は厳重だ。警備を蹴散らすのは容易いが、奴の住まう場所も分からない以上簡単には手を出さない。一つ機會があるとすれば……我々の歓迎會とやらより他にあるまい」
  公式な場に顔を出す機會は數あれど、探ることが出來る機會はそうそう無い。そんな中の千載一遇のチャンスが、明日に開かれるという歓迎會だった。
  
【書籍化・コミカライズ】小國の侯爵令嬢は敵國にて覚醒する
豊かな小國サンルアン王國の宰相の娘にして侯爵令嬢のベルティーヌ。 二週間後の結婚を控えていた幸せなある日、自國が直接関わってはいない戦爭の賠償金の一部として戦勝國に嫁ぐことになってしまう。 絶望と諦めを抱えて戦勝國へと嫁ぐ旅を経て到著したベルティーヌは、生まれてこの方経験したことのない扱いを受ける。 「私はなんのために生まれてきたのか」と放心するが「もう誰も私をこれ以上傷つけることができないくらい力をつけて強くなってやる」と思い直す。 おっとりと優雅に生きてきた侯爵令嬢は敵國で強く生まれ変わり、周囲を巻き込んで力をつけていく。 □ □ □ 小國令嬢の累計アクセス數が2022年3月12日に1千萬を超えました。 お読みいただいた皆様、ありがとうございます。
8 179【完結】処刑された聖女は死霊となって舞い戻る【書籍化】
完結!!『一言あらすじ』王子に処刑された聖女は気づいたら霊魂になっていたので、聖女の力も使って進化しながら死霊生活を満喫します!まずは人型になって喋りたい。 『ちゃんとしたあらすじ』 「聖女を詐稱し王子を誑かした偽聖女を死刑に処する!!」 元孤児でありながら聖女として王宮で暮らす主人公を疎ましく思った、王子とその愛人の子爵令嬢。 彼らは聖女の立場を奪い、罪をでっち上げて主人公を処刑してしまった。 聖女の結界がなくなり、魔物の侵攻を防ぐ術を失うとは知らずに……。 一方、処刑された聖女は、気が付いたら薄暗い洞窟にいた。 しかし、身體の感覚がない。そう、彼女は淡く光る半透明の球體――ヒトダマになっていた! 魔物の一種であり、霊魂だけの存在になった彼女は、持ち前の能天気さで生き抜いていく。 魔物はレベルを上げ進化條件を満たすと違う種族に進化することができる。 「とりあえず人型になって喋れるようになりたい!」 聖女は生まれ育った孤児院に戻るため、人型を目指すことを決意。 このままでは國が魔物に滅ぼされてしまう。王子や貴族はどうでもいいけど、家族は助けたい。 自分を処刑した王子には報いを、孤児院の家族には救いを與えるため、死霊となった聖女は舞い戻る! 一二三書房サーガフォレストより一、二巻。 コミックは一巻が発売中!
8 188Monsters Evolve Online 〜生存の鍵は進化にあり〜
一風変わったVRゲーム『Monsters Evolve』があった。モンスターを狩るのでもなく、モンスターを使役するのでもなく、モンスターになりきるというコンセプトのゲームである。 妙な人気を得たこのゲームのオンライン対応版がVRMMORPGとして『Monsters Evolve Online』となり、この度発売された。オフライン版にハマっていた吉崎圭吾は迷う事なくオンライン版を購入しプレイを始めるが、オフライン版からオンライン版になった際に多くの仕様変更があり、その代表的なものが初期枠の種族がランダムで決まる事であった。 ランダムで決められた種族は『コケ』であり、どう攻略すればいいのかもわからないままゲームを進めていく。変わり種ゲームの中でも特に変わり種の種族を使って何をしていくのか。 人間のいないこのゲームで色んな動植物の仲間と共に、色んなところで色々実験してやり過ぎつつも色々見つけたり、3つの勢力で競いあったり、共に戦ったりしていくそんなお話。 カクヨムにて、先行公開中! また、Kindleにて自力での全面改稿した電子書籍、第1~6巻を発売中! そしてオフライン版を描くもう1つの物語。 『Relay:Monsters Evolve ~ポンコツ初心者が始める初見プレイ配信録~』も連載中です。 良ければこちらもどうぞ。 https://ncode.syosetu.com/n9375gp/ 無斷転載、無斷翻訳は固く禁じます。
8 84「気が觸れている」と王家から追い出された俺は、自説通りに超古代銀河帝國の植民船を発見し大陸最大國家を建國する。 ~今さら帰って來てくれと言っても、もう遅い! 超テクノロジーを駆使した俺の建國史~
ロンバルド王國の第三王子アスルは、自身の研究結果をもとに超古代文明の遺物が『死の大地』にあると主張する……。 しかし、父王たちはそれを「気が觸れている」と一蹴し、そんなに欲しいならばと手切れ金代わりにかの大地を領地として與え、彼を追放してしまう。 だが……アスルは諦めなかった! それから五年……執念で遺物を発見し、そのマスターとなったのである! かつて銀河系を支配していた文明のテクノロジーを駆使し、彼は『死の大地』を緑豊かな土地として蘇らせ、さらには隣國の被差別種族たる獣人たちも受け入れていく……。 後に大陸最大の版図を持つことになる國家が、ここに産聲を上げた!
8 64疑似転生記
技術進歩著しい世界ではVRゲームを活用した學習が行われるようになった。そんな世界で父親が開発した全く売れなかった異世界転生を可能にしたゲームをプレイしてみることになった少女の物語。
8 112異世界召喚!?ゲーム気分で目指すはスローライフ~加減知らずと幼馴染の異世界生活~
森谷悠人は幼馴染の上川舞香と共にクラスごと異世界に召喚されてしまう。 召喚された異世界で勇者として魔王を討伐することを依頼されるがひっそりと王城を抜け出し、固有能力と恩恵《ギフト》を使って異世界でスローライフをおくることを決意する。 「気の赴くままに生きていきたい」 しかし、そんな彼の願いは通じず面倒事に巻き込まれていく。 「せめて異世界くらい自由にさせてくれ!!」 12月、1月は不定期更新となりますが、週に1回更新はするつもりです。 現在改稿中なので、書き方が所々変わっています。ご了承ください。 サブタイトル付けました。
8 143