《最弱の村人である僕のステータスに裏の項目が存在した件。》第3話 厄介事
初めてこの項目を見つけた時の正直な気持ちは―――めんどくさい。
その一言に盡きるだろう。
當然のことながら僕はこの裏の項目を誰にも話していない。
それは勇者という職業が自由な冒険者になりたいという僕の願いとは正反対に位置するから。
なのでどうしようもない場合などの例外を除き、基本的にはこの力は隠していこうと思っている。
「レンくーん!」
ベッドで橫になっていると名前を呼ばれる。
この聲はリサラだろう。
のそりと起き上がって聲の方向へと向かう。
「どうしたの?」
「うん! シチュー作ったんだ! 夕飯にどうかなって!」
リサラは大きめの鉄鍋をこちらへと差し出す。
蓋の隙間から煮込まれたや野菜、そしてまろやかな香りが漂ってきた。
「うん、頂くよ。ありがとう」
僕の家には両親はいない。
僕がい頃に魔に殺された。
別にそのことについて何も思わない訳でもないけど、今ではだいぶ吹っ切れていた。
そんな両親とリサラの両親は仲が良かった。
なので必然的に僕とリサラも隣同士仲の良い馴染になっている。
「……?」
しかし、リサラは何かを言いたそうにしている。
帰る様子はなくその視線の先には……シチュー?
「えっと、食べないの?」
「……まだ夕方にもなってないけど?」
「そ、そうだよね……」
「うん」
そのまま沈黙。
なんだろう……何か他に用件でもあるのかな?
「お母さんが味しかったかどうか聞いてくれって言ってた」
「そうなの? 分かった、今度會ったら伝えるよ」
「……うん」
「………」
「………」
妙にそわそわしたままかなくなるリサラ。
赤茶の髪のの先を指先で弄りながら何かを期待するようにこっちをチラチラ見てくる。
さすがに何かあると気付いた僕はこっそり鑑定眼のスキルを使用した。
――――――――
リサラのシチュー
リサラのがたっぷり詰まったシチュー。
材はロックボアの、旬の野菜、リサラ家の畑で採れた芋、などなど。
完度 あまり良くない
――――――――
「ああ……」
つまり今すぐ食べて想がしいと。
「お腹すいたからちょっと味見してもいいかな?」
すると、パーッと顔を明るく輝かせるリサラ。
特にお腹は空いてないんだけど……まあたまにはいいだろう。
お皿を持ってきてシチューをれる。
ふむ、見た目は……どうなんだろう。
おが焦げてるみたいに見えるけど。
リサラがやたらと張してこっちを見てくる。
食べにくい……というか僕もり口で胡坐かいて食べるとか行儀悪いな。
まあ注意する人もいないし別にいいけど。
そして、リサラに凝視される中でスプーンでシチューを頬張った。
「………味しいよ」
「ほんと!?」
に火を通しすぎている。
ロックボアのは下処理を上手くしないと筋が多くて食べにくいのだ。
それが出來ていない。
そして、野菜は大きさがバラバラで食べにくい。
ついでに生焼けで青臭い。
味付けもたぶんこれ調味料の量を間違えたんだな……なんかしょっぱい。
しかし、それを知らないリサラは僕の言葉に飛びあがるほど喜んでいた。
「えへへ、実はそれ私がつくったんだ! すごいでしょ!」
「へー?」
自分でも素っ気無いリアクションだとは思うけどこういう格なんだから仕方ない。
まったく火の通っていない野菜を噛みながらも顔は変えない。
リサラは妹みたいな存在だ。
いや、同い年だけどさ。
だからこそ悲しませることなんてできるはずもなく僕は黙々とリサラのつくったシチューをお腹に収めていった。
「今度はもっとすごい材料を使って凄いシチューをつくってあげるね!」
うん……材料の前に調理過程を見直してほしいんだけど……
そんなことが僕に言えるはずもなかった。
◇
さて、シチューを食べた後は食後の運だ。
僕は村の外れの森の傍まで來ていた。
というかリサラ……作りすぎ。
お腹パンパンなんだけど。
ちなみにリサラは僕の想を聞いた後で満足そうに帰っていった。
「さて、っと」
まずは剣の素振りから始める。
回數は気にしない。
目標を設定するとそちらに気をとられて型が崩れる気がするから。
とにかく自分の納得できる一振りができるまで何度も繰り返す。
これをやり始めたのは神託で村人の職業が判明する前くらいかな?
4歳くらいだ。
それから3年間、僕はこうして木剣の素振りが日課だ。
だけどいくら慣れてても2時間3時間もやると腕が重く持ち上がらなくなってくる。
子供は大人よりも筋力がないからこんなもんだろう。
「治癒」
こんな時はスキルの出番だ。
わざわざ村の外側まで來たのはこのスキルを見られないためだ。
薄緑の発が腕にまとわりつく。
スーッと熱が引いていくように、腕が軽くなる。
昔読んだ本で運後って言うのはの筋が傷付いている狀態だっていうのが書いてあった。
それを僕はスキルで治したのだ。
最初はこの治癒も一日數回が限界だったけど今では10回使用しても限界が見えなくなった。
やっぱりこういうのは使えば使うほど慣れて要領も良くなるんだろう。
「っふ!」
そして、また延々と繰り返す。
上段だけでは攻撃が単調になるので中段、下段、そのほかの多種多様なきを繰り返す。
剣が使えなくなった時のためにほかの武も練習はしているけど、メインはやはり剣だ。
格好良いからね、そのへんは僕も年相応に憧れているってことだろう。
僕の夢は先に記述した通り自由気ままな冒険者だ。
冒険者になって魔を倒したりしてお金を稼いだり……そしたら田舎でのんびりお嫁さんと暮らしたい……
そりゃ裏には勇者って書いてあっても僕にも自由くらいあるはずだ。
言わなければバレない。
このことは墓場まで持って行こう。
そして、平和で平凡な人生を送ろう。
それだけが僕の願いだ。
がさっ
草が揺れて何かが飛び出してくる。
に塗れて満創痍。
全が傷だらけで今にも死んでしまうんじゃないかってくらい弱っている。
「ゴブリン?」
濃い緑の。
子供より強い程度の弱い魔だ。
だけど基本的に魔が出ないこの村までやってくるのは珍しい。
「群れからはぐれたのかな?」
怯えるように後退ってから威嚇するように睨んでくる……だけど、それだけだった。
ゴブリンはそのまま地面に倒れ伏して意識を失った。
僕はそのゴブリンへと近づく。
傷口から流れでる青紫のが痛々しい。
ゴブリンは悪い魔。
ほとんどの人間がそう判斷するだろうし、実際その判斷で間違いないだろう。
例え見逃してもいずれ徒黨を組んで人間への復讐をすることを考える知能の低い存在。
それがゴブリンだ。
ここで殺さないといずれ誰かに危害を加えるかもしれない。
これは良いとか悪いとかそういうことじゃなく、ただの常識。
だから殺す。
それが當たり前なのだ。
このゴブリンも運が悪い。
人の目の前で意識なんて失わなかったらまだ生きれたかもしれないのに。
だけど僕はこれから殺すそのゴブリンをなんとなく―――本當に何となく鑑定してみた。
―――――――――
ゴブリン 小鬼族
Fランク
スキル なし
―――――――――
ここまではなんてことのない報。
だけど僕は知っている。
この覚を覚えがあった。
このゴブリンは―――僕と同じだ。
鑑定眼に念じる。
すると、あっさりとその裏に隠された項目が姿を現した。
―――――――
セリア 魔族
狀態異常(ゴブリン化)
スキル 博、魔、心眼
―――――――
見ない方が良かったかな……と、し後悔した。
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