《裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚》363話
屋敷に戻ってきて扉を開けようとしたところで、中にイーラの気配をじた。
急にいなくなったと思ったら、先に帰ってたのか。まぁ今日の訓練は見てるだけで、ほとんどやることがなかったからつまらなかったんだろう。
この辺でイーラが危険になることなんてないから心配はしてなかったし、別に帰りたきゃ帰ってもいいんだが、一言もなしに急に帰るとか自由すぎるだろ。
イーラだし仕方ねぇかと扉を開けたら、玄関ホールのど真ん中に小さな人形が仰向けに寢かされているのが視界にった。
見た目はイーラをそのまま小さくしたような、クオリティのかなり高い人形なんだが、なぜかその人形からイーラの気配がする。
まぁ普通に考えたらあの人形みたいなのがイーラなんだろうけど、遠近法にしては小さくね?
そういやサイズは変えられるんだったな。だとしても、何やってんだ?
ん?よく見ると髪のがいつもと違うな。いつもは途中までき通るような青で半ばから先に向けて黒くなっている長髪なんだが、玄関ホールに寢転がってる小さなイーラは髪が全て黒い。
気配はイーラなんだが、もしかして驚かせるつもりでイーラの一部を含ませた人形だったりするのか?
気配でイーラと判斷して話しかけたら、実はただの人形だという恥ずかしい思いをさせるドッキリとかか?
そう考えたら、本當にただの人形に見えてきた。むしろ頭がイーラのまま小さくなっているから、あれでいたら不気味だし、たぶんガワは普通の人形なんだろうと思った瞬間、人形の眼球がいて黒目がこっちを向いた。
人形だろうと思った瞬間にいた目と目が合ったせいで、思いっきり心臓が跳ねた。
人形がいきなりくとかホラーだろ。
「オギャーーーー!」
イーラは俺の存在を確認したところで、なぜかび始めた。
これは赤ちゃんの泣き聲のつもりか?
俺が口で立ち止まっていたせいでアリアたちは俺がるのを待っていたみたいだが、イーラの聲が聞こえたようで俺とドアの隙間から中を覗き見て、首を傾げたのが気配でわかった。
いつまでも立ち止まっていたら邪魔だろうと中にったんだが、イーラの泣き真似が止まらない。というか、普通にうるせぇ。
「……うるせぇよ。というか、何してんだ?」
俺が文句をいうと不満顔ではあるが泣き真似はやめた。
そしてイーラは顔を俺に向けて両腕を上げた。
「バブー。」
たぶん抱っこしろってジェスチャーなんだと思うが、意味がわからん。
赤ちゃんの真似にしては見た目も泣き聲もおかしいだろ。
……まぁいいか。
「アリア、俺はシャワーを浴びてくるから、イーラのことは頼んだ。」
面倒になってイーラのことは任せて通り過ぎた瞬間、イーラがまた泣き真似を始めた。
「オギャーーー!オギャーーーー!オンギャーーーーーーーー!!!!」
「うるせぇよ。意味わかんねぇから。いいたいことがあるなら普通にいえ。」
そういや犬みたいな狀態のときは喋れなかったりするし、今の狀態ではまともに喋れないのか?と思ったが、杞憂だった。
「リキ様が最近かまってくれないんだもん!人間は赤ちゃんが好きなんでしょ?イーラだって0歳だもん!抱っこして!」
べつに誰もが赤ちゃんを好きなわけではねぇし、そもそも今のイーラは赤ちゃんではなく不気味な人形もどきなんだが……こういうのはアリアよりセリナの方が向いているかと顔を向けたら、苦笑いが返ってきた。
「たぶんだけど、最近はリキ様も忙しいし、寂しかったんじゃにゃいかにゃ〜。ん〜それにしても……イーラ、気持ちはわからにゃいでもにゃいけど、リキ様が困ってるよ。」
セリナが俺に答えた後にイーラに遠回しに止めるように伝えたんだが、イーラはを尖らせた。
「イーラも困ってるもん!」
…俺にかまわれないことで何が困るんだよ。
まぁでも、イーラにはいろいろやってもらってるから、抱っこくらいでいいならかまわないはずなんだが、こんな要求のされ方のせいか呑みたくねぇな。
「…イーラ。」
「うぅ……。」
ん?セリナにはいい返したし、俺には迷だってのに続けやがったのに、アリアには名前を呼ばれただけで迷いが出るのか。
イーラの中では俺よりアリアの方が上なのか?
「今までもだが、今度パワンセルフに行くのもイーラ頼りだし、今日の午後だけなら付き合ってやるよ。だから今は邪魔すんな。さっさとシャワーを浴びて晝飯食わなきゃだから、イーラは先に席についてろ。」
「いいの!?バブー!」
寢ていたイーラがピョンっと起き上がり、ちょこちょこと食堂に向かって走っていった。
あんな人形みたいな姿でいていたら他のやつらを驚かせちまいそうだが、止める間もなく食堂に行っちまったし、どうしようもないからとシャワー室に向かった。
シャワーを浴びて食堂にるとアリアが俺を待っていたかのように出口の橫に立っていた。
「どうした?」
「…カリンさんたちのシャワーにもうし時間がかかりそうなので、先に晝食を食べていてください。」
「なんかあったのか?」
「…カリンさんはシャワーを浴びせても起きず、ピリカールさんは一度起きたのですが途中でまた寢てしまい、ヨコヤマカナデさんも途中で寢てしまったため、セリナさんとウサギさんとヴェルさんとニアさんに3人の世話をお願いしています。わたしもすぐに手伝いに戻りますが、ラスケルさんたちの仮眠時間を確保するためにも晝食の時間を遅らせるわけにはいかないので、リキ様は先に食べていてもらえますか?リキ様がいないとラスケルさんたちが遠慮してしまうかもしれないので。」
チラッと食堂を見るとラスケル、パトラ、リッシーは戻ってきているようだ。3人とも申し訳なさそうにしているところを見るにラスケルは男だから手伝えず、パトラとリッシーは気を使われてシャワー室から追い出されたんだろう。
「わかった。悪いがカリンたちはよろしくな。」
「…はい。」
アリアの頭を軽くで、シャワー室に戻っていくアリアを見送った。
先に食えって話だし、遠慮なく先に食うかと席に向かうと、ローウィンスも席についていた。
村の子どもたちもそうだが、今日はいつもよりし早い晝食なのにほぼ全員いるんだな。べつに俺らが食べた後にいつも通りの時間で食べればいいと思ったが、そうすると食事係が大変だろうし、誰も文句はなさそうだからいいか。
テーブルを回って自分の席の近くに來たところで、俺の席に先に座ってるやつが見えた。
まぁ気配でわかってはいたが、小さいイーラだ。テーブルで見えなかったから、もしかしたら気のせいかもと思いたかったが、気のせいではなかったな。なんで俺の席に座ってるんだよ。
「イーラさんを模して作されていて、とても可らしいお人形ですね。村の方々からの贈りでしょうか?」
ローウィンスが俺に微笑みかけながら、人形のようなイーラを勘違いして褒めた。そして、あらためてローウィンスがイーラに顔を向けた瞬間、イーラも俺たちの方に顔を向けた。
「ヒィ…。」
短い悲鳴を上げて椅子から落ちそうになったローウィンスの背中を支えた。
よほど驚いたようで、背中に手のひらを當てただけなのに服越しに鼓が伝わるほどに激しく音を立てていた。
気持ちはわかる。あんな人形みたいな姿で、わざとかってくらい微だにしない狀態から急に顔だけかされたらビビるわ。
気配でイーラかもしれないと思ってた俺ですら驚いたんだから、気配がわからないローウィンスには急に人形がき出すとかホラーでしかないだろう。
ん?そういやこの世界って普通に魔としてスケルトンとかいるのにホラーって概念あんのか?
「……あ、ありがとう、ございます。…………もしかしてイーラさんですか?」
「バブー。」
「……そうだ。今日は年相応に過ごす気分らしい。」
「年相応?…イーラさんはたしか0歳と4ヶ月ほどでしたよね。大きさだけでしたらたしかに人族の同年齢と変わらないのかもしれませんが……えっと…。」
「不気味だよな。まぁこの村には赤ちゃんがいないし、食べたこともないから、前に見たときの大きさだけ再現したんだろう。気にしたら負けだ。」
「え?あ、はい。」
一応落ち著きはしたが、まだし混しているみたいだ。俺もイーラの考えがよくわかってねぇし、これ以上聞かれても答えられないからちょうどいいけどな。
椅子から退く気のないイーラを持ち上げて座り、仕方ないからイーラは膝の上に乗せた。
何が楽しいのかキャッキャいってるが、赤ちゃんって実際にキャッキャなんていうっけか?いや、オギャーもバブーもおかしいんだから、気にしたら負けだ。
イーラについて考えるのをやめて周りに視線をやると、全員食べる準備は出來てるみたいだ。
「待たせて悪いな。アリアたちは遅れてくるみたいだが、先に食っていいってことだ。というわけで…いただきます。」
「「「いただきます!」」」
子どもたちの無駄に元気な返事で晝食が始まった。
ふと視線をじて橫を向くと、ローウィンスが微笑ましそうに俺の方を見ていた。
もうさっきの恐怖は落ち著いたのか?
「そういや気になったんだが、この世界でも人形がいたら怖いものなのか?」
ローウィンスは俺の言葉の意味がわからなかったようで首を傾げたが、し間をおいて何かに気づいた顔をした。
「普段であれば恐怖を覚えることはないかと思います。リキ様の故郷では理攻撃で退治できないゴーストが恐怖の対象になっていて、ゴーストが乗り移った人形の語などもあるとは伺っております。ですが、こちらではそういった恐怖はありません。ただ、先ほどのイーラさんを見たさいに以前読んだ『人形使いの暗殺者』という本のことを思い出してしまい、恥ずかしいところをお見せしてしまいました。申し訳ありません。」
お化け的な恐怖じゃなくて人間の仕業の恐怖なんだな。というか、こっちじゃ魔法でだいたいのことが出來ちまうから、日本では怪奇現象といわれて怖がられていたことがこっちだと普通に誰かの仕業になるわけか。
「今回は全部イーラが悪いから、あまり気にするな。」
「バブー。」
ローウィンスを宥めながら飯を食い始めたら、なぜかまたイーラがバブバブいい始めた。意味がわからん。
まぁいいたいことがあるなら喋るだろうと無視して食べていたら、スープを掬ったスプーンを持ち上げたところでイーラが俺の腹に頭突きしてきやがった。そのせいで、スプーンに乗っていた大きめの芋とスープが落ち、イーラの顔面に直撃した。
イーラの額に當たった芋は跳ねることなく食い込み、そのまま吸収されたみたいだ。顔中に落ちたスープも既に吸収して、キャッキャと喜んでいる。
飯を食わせろって意味だったのか。いや、ふざけんな。
「飯が食いたいなら自分の席に行け。」
「ヤー!」
「じゃあ大人しくしてろ。」
「バブー。」
…………まぁいい。
いっても無駄だろうからと諦めて、食事を再開した。
飯を半分くらい食べ終わったところで、アリアたちが戻ってきた。
寢てるやつの世話なんて大変だろうに意外と早く終わったんだな。
アリアたちは俺に対して軽く頭を下げてからいつもの席につき、食事を始めた。
とくにおかしなところはなかったと思うんだが、なぜか隣のローウィンスがし驚いたような顔をしたのが視界の隅に映ったから、何かあったのかと顔を向けた。
ローウィンスが見てるのはアリアか?
いつもと変わらないと思うんだが、何に驚いたんだ?と考えていたら、俺に見られていることに気づいたローウィンスが一度イーラを見てから俺を見た。
「……イーラさんは特別なのですね。」
なんで今このタイミングなんだ?
もしかしてイーラに驚いたときの混が実は今まで続いていたのか?
「べつに特別ってわけではねぇが、強制的にいろいろやらせてることがけっこうあるからこのくらいはな。」
「……私も早くイーラさんのようになりたいです。」
「は?いや、こんなことしてくんのはイーラだけで十分だから。」
「申し訳ありません。お気になさらないでください。」
この話は終わりだというようにローウィンスが微笑んだ。
「ん?あぁ。」
ローウィンスの話の切り方がし不自然にじたが、とくに続けたい話というわけでもないからてきとうに流した。
その後もローウィンスと雑談をしながら晝食を終えた。
遅れてきたアリアたちは急いで食べたのか、俺が食い終わる前に全員が食べ終わっていたようだ。
ラスケルたちの仮眠の時間をとるために早めに晝食にしたのにゆっくり食っちまったな。すまん。
「アリア、セリナ、サーシャ、ヴェル、ニアは殘ってくれ。それじゃあ、ご馳走様。」
「「「ごちそうさまでした!」」」
子どもたちが食堂から出ていき、サラはラスケルたちを空部屋まで案するようにアリアに頼まれたようで、ラスケルたちとともに出ていった。
ローウィンスもこの後仕事があるからとあらためて挨拶して退出していった。
殘ったメンバーを見たところ、どうやら俺が名前を上げた5人だけでなく、朝いたメンバーは全員が殘ったみたいだな。まぁ朝の訓練について聞きたかっただけだし、いて困るわけではないからいいけど。
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