《戦力より戦略。》帰還

ん?

俺は起きた。

起きたはずだ。

こうして思考していることが何よりの証拠だろう。

しかし、けない。

よくある金縛りなら瞼くらいはあく。

あれは脳のかすことを司ってる部分がまだ寢ているからである。

だから、徐々に起こそうとつま先や指先という末端から意識していけば解除されやすい。

だが、そういう訳ではない。

一応、全ての部位の覚はあるのだ。

夢かとも考えたが、どうもそうではない。

現実的な範囲だし、まず明晰夢であるならこんなに何も出來ないのはおかしい。

今日もやることがあるんだ。

まぁ、特に変わったことではないが、継続的にやっておかないと倒産が怖いからな。

俺がよっぽど起きなければメイドたちや、リオンが起こしてくれそうなもんだが、その気配もない。

時間なんて確認できないからわからないが、実は寢始めてすぐこれになって解放されるのは7時間後とかだったら地獄だな。

今はちょっとした危機から起きているが、あと1時間もすれば飽きて寢てしまうかもしれん。

ん?

夢だとしたらそれでいいのか?

「……おきてください……」

お、なんか聞こえた。

てことは周りに人がいるのは確定か。

どこか知らん場所に1人ぼっちという展開ではなさそうだ。

それが一番怖かったからな。

寢ている間に一服盛られてどっかに拘束されてるとかが。

だが、拘束されているような圧迫もない。

まじでなんだ……?

「……ブレさん……」

ん?

今名前呼ばれたか?

だが、俺を「さん」づけで呼ぶ奴なんていたっけな……?

近なところで言えば、リオンは呼び捨て、メイドたちは「ご主人様」。

従業員は「社長」、リアーネはまちまちだが、「さん」づけはないだろう。

つい最近、兄呼びが増えたが彼こそ俺をリブレさんとは呼ぶまい。

では、誰だ……?

「……リブレさん、起きてください……!」

徐々に聞こえる聲が大きくなってきた。

となると、やはり俺が覚醒途中なのか?

寢て起きるまでにこんなに労力を要するようになってしまったならかなり重大な問題なんだが。

もはや人間やってられんぞ。

「起きてくださいよぉ!」

バチンッ!

かなり強力な一撃が頬を襲ったような気・が・し・た・が、覚醒前なのでどうにも痛さもじない。

だが、それをきっかけとしてか周りの狀況がつかめてくる。

人間、視覚なくとも聴覚である程度は空間認識が出來るってことだな。

「もう何発かぶち込んでやるとよい」

耳が復活してきて、誰の聲かが判別できるようになった。

これはオーシリアだな。

「もちろんです! いきます!」

そして、懐かしいこの聲は……!

「えいっ!」

バチン!

俺が傷に浸るより早く、頬に痛みが走る。

「いったあぁぁーー!?」

というのは心の中の聲で実際には口がかない。

「えいっ! えいっ! えいっ!」

聲の主は構わずその手を振るってくるからたまったもんじゃない。

聴覚の後に痛覚、つまり覚が戻ってきたってことか。

だが、このままだと俺の顔が死ぬ……。

「えいっ……?」

どうにかこうにか念というか、オーシリアに助けを求めてステッド・ファストで顔を守る。

「い、今のは、オーシリアさんですか!?」

「いや、主がやったことじゃな。どうやら意識は回復してきておるらしい」

「リブレさんが……!」

その聲は、俺のにしがみついて泣き出す。

ほんと、聴覚と覚だけでも返ってきてて良かったと言うべきか?

好きな人のぬくもりと、聲をじることが出來るのだから。

ただいま、レイン。

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