《異世界スキルガチャラー》覚醒する龍の巫
「んでェ?どうすんだァ?さッさと捕まるかァ?」
クモ男は嫌な笑みを浮かべながらジリジリとルカを追い詰める。
ルカは決心がつかないまま、一歩、また一歩と後ずさる。
ついに、壁に背中がついた。
「まァ、どうせ巫なんて戦う力持ッてねェよなァ?」
そのまま腕を広げて捕獲勢を取る。
「背後に注意を払わないとは、相當の自惚れ屋だな」
啓斗の魔法剣がクモ男の背中を貫いた。
「げ……ェェ……」
アラクネラはそのまま地面に倒れ込む。
啓斗はそのまま頭を踏み潰した。
「ルカ、無事か?」
敵の死には目もくれず、ルカの安否を確認する。
「う、うん。大丈夫」
ルカも、大したケガはしていない。啓斗は、サッと【ヒール】でルカを治した。
「そうだ。ディーラさんにこれを渡すよう言われた」
ルカに小瓶を渡す。
ルカは不思議そうに首をかしげるが、とりあえず手に握らせた。
「それの中を飲めばいいらしい。だが……」
啓斗は途中で後ろを振り返った。
「ようやく親玉のおでましだな」
そこには、通路を埋め盡くすほどの大きさのクモがいた。
いくつあるのか分からないほどの量の眼でこちらを観察している。
さらに、天井から先程啓斗が潰したクモ男と似たような姿をした敵が4ほど降りてくる。
「おーおー、やってくれるじャねェの」
「なら、お前らまとめて再起不能にして連れてくだけだァ」
「異世界人も捕獲したら報酬が倍だからなァ」
クモ男達が口々にそう言う。
「ルカ、その小瓶の中を飲め。今すぐに」
啓斗が剣を構えながらルカに言う。
この狹さで、壁際に追い詰められて逃げ道もない。
ルカが小瓶の中を飲めば狀況を打開できると皆が口を揃えて言うのだから、それを信じることにしたのだ。
「う、うん。分かった……」
ルカは、小瓶を開けると中を勢いよく飲み干した。
「んんんん!!!???」
次の瞬間、ルカは白目をむいて気絶してしまった。
「な、おい!ルカ!?何が起きてる!?」
崩れ落ちたルカを揺さぶりながらぶ。
『落ち著け、人間。今、ルカは準備期間にった。數分で終わるから、それまでクモから守れ。いいな』
また脳に男の聲が響く。
その間にも、クモ達は接近してくる。
「ああ、そうかい。なら、傷一つつけちゃいけないよな」
啓斗は、分を大量に作して自分とルカの前に並べる。
即席の障壁だ。與えた命令は「俺(啓斗本人)とルカを守れ」である。
「デカくてもたかがクモだ。5分でも10分でも耐えてやるよ」
啓斗は、クモ軍団を冷めた目で見據えた。
「えーっと……ここはどこですかー!?」
小瓶の中を飲み干した直後、視界がグルグル回り出し、気がつくと真っ暗な場所にいた。
暗闇の中で呆然と立っていると、奧から1人のが姿を現した。
「こんにちは、ルカさん。突然でごめんなさい。でも、一刻を爭うの」
は、ルカと似たような容姿をしていた。金の髪と鮮やかな青い瞳、ただし耳は尖っていない。
「急な話で信じられないかもしれないけど、聞いて。あなたは地龍の力を呼び覚ますことが出來る巫なの」
突然そんなことを言われても、ルカにけ止められるほどの頭はない。
よって、頭上に大量の「?」が浮かんでいる。
「巫って言っても、儀式をする必要は無いわ。もう適応の儀は済んだから」
そう言ってルカが握り締めている空瓶を指さす。
「それは、巫を龍の力に完全に適応させるための薬。飲み干したあなたは、もう龍の能力についていける魔力を手にれたの」
「これから、龍の力の説明をするわ。時間が無いから一回しか言わない。よく聞いていて」
の言葉に、ルカは全神経を傾ける。
「……數が多すぎるぞ、どこから出てくるんだ?」
啓斗は分を使ってクモを殲滅せんめつしながらルカの目覚めを待っていた。
向こうの攻撃もこちらには屆かないが、こちらもクモたちの本に攻撃が屆かない。
「キシャアアアアア!!」
クモ達が一斉に啓斗に向かって襲いかかり、そこを分が迎撃するというのが先程からずっと繰り返されている。
そのまま數分が経ち、啓斗側に異変が起きる。
ところで、ここでこの世界の「魔法」について説明しよう。
魔法を使用するにあたり、威力は「魔力」に依存し、使用可能回數や持続時間は「MPマジックポイント」に依存している(ただしこの世界には「MP」という呼稱は存在しないので、「MP」という表記を使用するのは啓斗とナビゲーターだけだ)。
例えば、シーヴァ達の「眼」の使用限界が2分なのは、力消耗が激しいと同時に、MPの消費が激烈だからだ。
仮想空間でゼーテの銀眼が無制限に使えたのは、MPが無限に設定されていたからだ。
ここで最も重要なのは、魔法ならばどんな種類のものだろうとMPを消費することと、どんな仙人だろうがMPには限界があるということだ。
そして、それは異世界人である啓斗も例外ではない。
つまりどういうことかというと(もう皆さんお察しになられているだろうが)、啓斗のMPが切れたのである。
今まで様々なことにMPを使い続けた彼は、明確なMPの回復手段も知らずに今まで戦闘を続けてきた。
逆に今までMPを保てたのが奇跡と言えるだろう。
「……分のきが、止まった?」
MPの枯渇こかつが招くのは、効果が続いている魔法の消滅、魔法使用不可、そして召喚獣などの行停止である。
分のきが止まった瞬間、クモたちが分のを食い破る。
「……どういうことだ?一何が起きている?」
まず、自分にMPが存在していることすら理解していない啓斗は混する。
「時間切れだなァ。ほら、さッさとトドメ刺してやるよォ」
分全てを消し去った後、クモ達は啓斗へと歩みを進める。
「クソッ!なぜ出ない!?」
魔法剣すら出現させることが出來ない。
完全に啓斗のMPは現在0だ。
抵抗できない啓斗に、クモの牙が突き立てられようとした、その時。
一陣の強風が背後から吹き抜け、クモを向こう側に吹き飛ばす。
振り返ると、ルカが手をばして立っていた。
「ケイト君、間に合った?」
そう言ってニコリと笑ったルカの目は、どこまでも澄み渡っている。
「あとは任せて」
ルカは、啓斗の前に立ち、クモを見つめる。
「殘念だけど、私の勝ちだよ」
ルカのの周りに、暴風が吹き荒れ始める。
啓斗はその景にただただ目を見張っていた。
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