「……まさか見逃されるなんてね。魔王様もベルも甘すぎるのよ！」

苛立ちを隠そうともせず、マモンは吐き捨てるように言う。

「そういうことだ。さて……」

啓斗は広間を見渡す。

部屋の中央にはエルフ達が捕えられており、隅にはが3つ橫たわっている。

振り向くと、ルカはを噛み締めて涙をボロボロと流していた。

「おい、今すぐルカの鎖を解け。さもないと、右目も抉られることになるぞ」

ぽたり、ぽたりとの雫が流れる指先をマモンの顔に向けながら啓斗は告げる。

「……そうね、こうなったってことは、私も撤退した方が良いわね」

マモンが指を鳴らすと、ルカを縛っていた鎖が消滅した。

「ルカ、大丈夫か？」

聲をかけるが、返答が無い。

うずくまったまま小刻みに震えている。

すると、ベルフェゴールがマモンの橫の壁を破壊してってきた。

「やあやあマモン。いいじに不意打ち喰らっちゃったみたいだね」

一切悪びれた様子も見せず、の読めない笑顔を浮かべている。

「ベル、よくも私の左目抉ってくれたわね！後でたっぷり代価を払ってもらうから覚悟なさい！」

マモンは未だに左目を抑えながらベルフェゴールに怒鳴る。

「おー、怖い怖い。でもさ、まだちょっと仕事殘ってるんだよねー」

そして、ベルフェゴールは笑顔を崩さずにこう続けた。

「そこのエルフ、全員殺せって」

それを聞いた瞬間、啓斗は無數の分を広間中に展開していた。

分は全て、マモンとベルフェゴールに殺意を向けている。

「おやおやおやおや。本気かい？隨分面白い技ではあるけど、僕ら2人に本気で勝てるとでも？

勘違いしないでよ、「今は」見逃すって言ったけど、邪魔するなら容赦しないからね？」

啓斗は、いきなり分達で2の悪魔を攻撃し始めた。

ベルフェゴールは慌てたように、マモンは俊敏に攻撃を回避した。

「おわっと！ 怖いなぁ。そんな剝き出しの殺意向けないでよ。こりゃちょっとに教えないとまずいね。

折角、今日はそっちを無傷で帰してあげようと思ってたのに」

そう言ってマモンの方を見る。

「あら、良いの？リンチはあなたの流儀に反するんじゃない？」

「いいのいいの。の程を知っとくのも良い経験になると思うから」

その提案に、マモンも口の端を吊り上げる。

「楽しそうね、乗った。ただし、終わったら5つくらい彼から「貰う」わよ」

その言葉にベルフェゴールは苦笑いをした。

「しょうがないなぁ。ま、「強」の君に似合ってるけど。じゃ、そこのの子が再起する前に片付けよう」

ベルフェゴールとマモンは、啓斗の分たちを蹴散らし始めた。

ベルフェゴールはその格に似合わない異常な格闘能力で分を次々と吹っ飛ばして殺している。

マモンは高笑いと同時に放った火炎魔法で辺り一帯を火の海にし、その火炎をって分たちを骨まで焦がしている。

「これなら、どうだ！！」

啓斗は分を追加するとともに、召喚魔法を全て使用した。

更に、分全員に【緋クリムゾンノ・銃弾バレット】の発要請をかける。

自分でも魔法剣で腕を斬り、の弾丸を形する。

分達も各々で流し、雨のような飛沫が2の悪魔に襲いかかる。

しかし。

「あーあー、必死になっちゃって。どうせ何も守れやしないのにさ」

「……この能力は要らないわね」

の弾丸は、ベルフェゴールの皮に接する直前に蒸発して消えた。

マモンが謎のバリアを展開する。

バリアにれた弾丸は、全て分達に跳ね返って行った。

「ちゃっちい召喚獣なんて出すもんじゃないよ？」

両方ともに四足獣型で召喚された2の獣を、ベルフェゴールは両手から発した魔法弾で消し飛ばした。

「これ、本當にゴーレムなの？ 作りが雑すぎて小學生の下手な工作みたいじゃない」

マモンがゴーレムの頭部に小さな衝撃波を放つと、ガラガラとただの石に戻ってしまった。

「分君達も、さよならだね」

ベルフェゴールが地面に手を當てたかと思うと、そこを中心に波が放たれる。

マモンは既に啓斗本に迫っていた。

「じゃあ、いくつか頂くわ」

そう言って啓斗の頭にれる。

「ぐあああああああああああ！！！！」

啓斗は、今までじたことの無いような激烈な頭痛に襲われた。

「んー、いい技持ってるじゃない。じゃあ、【ドッペルメイカー】と【ファイナル・カース】、【過パーコレイション】を。それと、私の回復に【ピンチヒール】も頂いていくわね」

マモンが手を離すと同時に、啓斗は床に崩れ落ちた。

マモンの左目の負傷は綺麗に消滅し、元から怪我などしていないようなほどになった。

「うーん、マモンだけ印象に殘ってしくないな。しばらく會えなくなるし、腕くらい折ってこーっと」

分を一瞬で全て消し去ったベルフェゴールも、笑顔をり付けたままトコトコと　啓斗に歩み寄る。

「ちょーっとだけ痛いけど、まあ、変に抵抗した君が悪いんだからね」

そう言うと、啓斗の左腕を摑み、肘の関節を逆方向に思い切り捻じった。

ゴキゴキゴキゴキゴキゴキゴキ……

腕の骨が砕される音を聞きながら、啓斗は歯を食いしばった。

しかし、想像を絶する苦痛を和らげるためにはばずにはいられなかった。

「うぐあああぁぁぁぁぁぁぁ！！！？？」

「そーそー、痛かったら大人しくみっともない聲上げてなよ。変に我慢すると余計辛いだけさ」

左腕を完全に砕骨折させた後、右腕に手をかけた。

「さ、次だね」

また腕を捻りあげようとした、その瞬間。

視界の端から何かが飛んでくるのをマモンと啓斗は見た。

「にゃっ！？」

風の塊がベルフェゴールの顔面に直撃し、彼を數メートル吹っ飛ばした。

「あー、まさか……」

風塊ふうかいが飛んできた方向を見ると、予想通りの景があった。

「……怒ってるねー。正常な判斷出來てる？ルカちゃん・・・・・」

そこには、再び龍の姿になったルカが立っていた。

その目はギラギラと怒りで輝いている。

「オオオオオオォォォォォォ！！！」

咆哮しながらルカはベルフェゴールに襲いかかった。

「え、速っ！」

龍人となったルカは、風を切る音を立てながらベルフェゴールに連続で攻撃を繰り出す。

(えっと、右手の爪、すぐに左手、また右手、右足、回りながらの左足、両手同時)

しかし、ベルフェゴールは冷靜にきを読みながらすいすいと全て避ける。

「ガルルルルルアアアアァァァァ！！」

ルカはそれでも攻撃の手を休めることは無い。

(んー、どうやら怒りすぎて前が見えなくなってるのと、龍の力が制しきれなくなってるのが両方起きてるっぽいな)

大振りの回し蹴りを放った後、ルカの勢が崩れた。

(よし、ここだ！)

これ以上時間をかけられない。一撃で意識を刈り取るため、後頭部に狙いを定める。

だが、

「げあっ！？」

ベルフェゴールは後ろに吹っ飛ばされた。

「何が…………ああ、そういうこと」

ベルフェゴールは、ルカの尾に弾き飛ばされたのだ。

「ウウウウウウウウアアアアアア！！」

ルカがを抑えてうずくまる。

次の瞬間、そのがに包まれた。

「うわぁ、ガチのドラゴンになっちゃった」

ベルフェゴールの眼前には、広間の天井を破壊し、空を覆うほどの大きさに見える巨大な緑龍が鎮座していた。