《異世界スキルガチャラー》門番 ディーラの最後の記憶
『うーわ……見事にボッコボコにされちゃった』
『しかもURほとんど奪われちゃってるじゃないですか』
『これは問題ですね。かなり大掛かりなアップデートしないと』
『こんな所で死なれちゃ困りますよ、啓斗様』
『えーっと、ここをこうして、この機能
も追加して、んーっと………』
『って、何見てるんですか!今回はこれ以上出てきませんよ!アップデートはまだです!ま・だ!!』
「ん……ふぁ……痛っ!」
ルカは、ズキズキとした痛みに思わずしかめっ面になりながらを起こした。
「あれ?私……あの後……」
自分がベッドの上にいること、中が包帯だらけなこと、隣で啓斗が椅子に座って寢ていること、その全てがルカを驚かせた。
「……そっか、ケイト君が運んでくれたんだ」
俯いて靜かな寢息を立てる啓斗を見ると、しだけ安心する気がした。
だが、そのの至る所に生々しい打撲の跡が殘っている。
(ケイト君でも治しきれない重癥だったんだ……)
そう思うと、改めて今現在、自分とこの青年が生きていることに驚かされる。
カーテンを開けて窓の外を見ると、既に朝になっていた。
焼け焦げた木片や大量の狼、クモの死が目にる。
「…………………」
にじわりとした痛みをじながらカーテンを再び閉じる。
振り向くと、啓斗は片目を開けていた。
「あ、ごめん。起こしちゃった?」
「いや、大丈夫だ。それより、そっちのが心配なんだが……」
を乗り出そうとするルカを押しとどめながら啓斗が言う。
「怪我は……痛いけど、安靜にしてたら治ると思う」
ルカはを見回しながらそう返す。
「……そうか。なら、俺はし出かけてくる」
「確認したいことと、あと食料の調達に行かないとならないからな」
「大人しく寢てろよ。そうでなくても既に重癥なんだから」
啓斗はそのまま部屋を出ていった。
ルカは不満そうだったが、仕方なくもう一度橫になって目を閉じた。
「さてと。まずは………」
啓斗は再び跡に足を踏みれていた。
どうやら司祭達が死んでしまった影響で口の結界も消滅してしまったらしく、普通にることができてしまった。
「せめて、だけでも連れて帰らないと」
腕時計でマップを呼び出し、現在地を確認しながら進む。
まず、昨日の悪夢を思い出させる広場に著いた。
一夜経ち、錆のような匂いは薄れていたが、所々にの跡が付いている。
「……ダメか」
この広間で殺害されたエルフ達のは、一人分も殘っていなかった。
どうやら、あの時の戦闘で跡形も無く消し飛ばされてしまったらしい。
「………」
啓斗は、靜かに広間に向かって頭を下げた。
そのまま、この自分がいかに無力か思い知らされたこの場所を後にする。
祭壇のある通路まで辿り著いた啓斗は、見覚えのある後ろ姿を見つけた。
「……ディーラ……さん」
駆け寄ってはみるが、ディーラは祭壇に跪ひざまずいて祈るような姿勢のままきもしない。
ディーラは、既に冷たくなっていた。
「……こういうことは、予想通りになってほしくないもんだよ、本當に」
目を閉じ、手をの前で組んだディーラから、淡いが見える。
どうやら、【追憶の目】が反応しているようだ。
「そうか、魔力を消費しないタイプのスキルもある……ってことだろうな」
啓斗は勝手にそう納得しながら、ディーラをじっと見つめる。
脳に、ディーラの最後の記憶が映し出される。
「くそっ!邪魔だ!」
ディーラは啓斗に救い出された後、次々と現れるクモから逃げまわっていた。
全力で走りながら、ある場所を目指す。
(このまま行けば、恐らくあの怪とルカ達が戦うことになる……)
(恐らく、負けてしまう。私達エルフの鋭が束になってかかってもかすり傷1つ負わせられなかった相手だ)
ディーラ達エルフは、啓斗とルカが去った後に「狼狩り」を行った。
森に巣くう狼は、森の最深部にあるこの跡の周辺を城にしているため、儀式などを行うために戦闘能力を犠牲にしている司祭達にしばしば襲いかかる。
しかし、今代の巫、ルカが生まれたため、もう撃退だけで留めておくにはいかなくなったのだ。
(狼たちは、どうにか全滅させた。しかし、そこを奴らは突いてきた)
多くの負傷者や數の死者を出しながらも、ディーラ達は狼の群れを全滅させた。
だが、戦死者を弔うための葬式の途中に、巨大なクモを従えたが現れたのだ。
「こんばんわ、エルフ族の皆さん。早速で悪いんだけれど……」
「再起不能になってもらうわ!」
そう告げると巨大なクモが小グモを召喚し始めた(ただし小グモと言っても人間の腹辺りまでの大きさがある)。
は、エルフの鋭戦士達でも目測で捉えられないようなスピードで次々と首に手刀を當てていく。
「なっ……………」
その時、ディーラが最後に覚えていたのは、破壊されていく家々と、社に向かっていくクモの集団だった。
(あの後、気がついたのは跡の中だったか)
気絶させられた後に目を覚ますと、自分のは糸で縛られて天井に吊るされており、拷問される仲間を見下ろしていた。
「さっさと答えた方がのためよ?巫は何処にいるの?」
は、魔師や司祭を中心に拷問している。
しかも、爪を剝ぐなどの地味なものではなく、質問が意にそぐわない度に四肢を切り落としていっている。
そんな様子を見せられる日々が數日続いたあと、寢間著の年が現れた。
「やあ、マモン。いい報だ。もうすぐ、巫がここに戻ってくるらしい」
「ベルフェゴール、アナタって本當に來訪から要件までいきなりね」
「だってその方が無駄な會話が無くて済むじゃないか。あと、いちいちフルネームで呼ばなくていいってば」
「で、魔王様が興味のある異世界人君も一緒に來るから、僕がテストすることになった」
外見ではかなりの年齢差があるが、2人は親しい関係らしく、かなりお互いに砕けた口調で話し合っている。
だが、それより驚いたのは、2人の名前である。
「ベルフェゴール」と「マモン」。
古い書で読んだことがある。
そこには200年の昔、2代目「魔王」となった者に人間から転生されて大悪魔となった7人の人間がいると記されていた。
7人にはそれぞれ「七つの大罪」と呼ばれる稱號が與えられ、それに適応した能力と新たな名前が付けられたという。
そこに、「怠惰のベルフェゴール」と「強のマモン」という名前が記載されていた。
「それじゃあ、このエルフ達を殺すのはちょっと待ちましょう」
「そーだねー。々使い道・・・があるだろうし、手駒・・のクモ君達によろしく言っといてー。じゃねー」
ベルフェゴールらしき年は去っていった。
「……ハァ。最年で1番の問題児なのは相変わらずねぇ」
その言葉を聞いたあと、ディーラは強烈な眠気に襲われて意識を失った。
(そして、その後にケイト君に救出されて今に至る、という訳だな)
そんなことを考えているうちに、目的地の祭壇に到著した。
一番奧まで行き、司祭達の座り方を真似た「祈り」の姿勢を取る。
『汝、ここで祈りを捧げることの意味を理解しているか? 』
「はい、承知しております」
『……汝は、巫を除けばこの里の最後の生き殘り。その命を捧げると言うのか?』
頭の中に、直接「聲」が響いてくる。
「構いません。我らの巫、そしてあの悪魔達を打倒しうる年を救うためならば、このディーラ、魂を消されても構いません」
そう力強く答えた。
『……良いだろう。汝の命を使い、かの悪魔2に「暴風の洗禮」を與えよう』
瞬間、全から力が抜けていく。
(私のような人間にできるのは、これくらいだ)
(だが、それでも役には立てるはずだ。どうか……)
(どうか……君達に……地龍様のご加護がありますように………)
そのまま目を閉じると、ディーラの意識は闇に溶けて消えた。
「ディーラ……さん……」
啓斗は、ディーラのを前にしてしばらく呆然としていた。
その後にじっと祭壇を見つめ、ディーラを抱えて跡を出た。
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