《異世界スキルガチャラー》ヴァーリュオン出発前夜 sideゼーテ

今日は出発の前日ということで、ゼーテは勿論のこと、啓斗とルカも含めた騎士団の団員たちは、朝から晩まで準備の仕事で王城から街の中心までを駆けずり回った。

主な仕事は、食糧を専用の馬車に積み込むこと、武・防の點検、馬車の整備などだ。

今回、マギクニカへと出発するのは、現ヴァーリュオン國王「ジェイド・ヴァーリュオン」を含めた王族・貴族が數名。その人々を護衛するため、ともに出発するヴァーリュオン魔法騎士団(ゼーテ、ルカ、啓斗はここに屬する)全員。そして、騎士団のバックアップのために同行する、ラビアを含めた數の鍛冶師、研究者、醫者だ。

王族と貴族を安全に運ぶための巨大な馬車が2臺あり、その周囲にバックアップの役割を擔う非戦闘員たちが乗る馬車が5臺、それを全方位から取り囲むように騎士団の馬車が14臺ほど走るという陣形だ。

馬が逃げ出したり、荷臺の老朽化が激しいので補強したりとアクシデントが絶えなかったが、何とか全ての仕事を終わらせた。

その時には、もう夜の10時になっていた。

遅い夕食を食べて一息つくと、他の騎士団の人々は明日に備えて就寢しに行ってしまった。なぜかというと、ヴァーリュオンからマギクニカまでは馬車を全速力で飛ばしても8時間はかかるため、出発時間が明日の明朝5時なのだ。

食堂で偶然、啓斗、ルカ、ゼーテ、ラビアの4人が揃ったため、夕食を食べながら言葉をわす。

「明日はいよいよ出発ね。3人とも、覚悟はできてる?」

「もーちろんですよ! いやぁ、今からワクワクするなー!」

ラビアはかなり興した様子で、出発を楽しみにしているのがひと目でわかる。

それとは対照的に、ルカの表が優れない。

「ルカ、大丈夫か? 顔が良くないが……」

「え? あ、ごめんね、心配かけちゃって。大丈夫、ちょっと疲れただけだから」

ルカは力なく微笑んだが、本當に合が悪そうだ。肩で息をしているし、顔も悪い。明らかに大丈夫ではない調に見える。

「私、もう寢るね。じゃあ、また明日……」

フラフラと立ち上がると、ルカは自分の寢室がある方向へと歩いて行った。

「……すまん、どうにもルカの様子が気になる。ゼーテ、ラビア、また明日な」

ルカが見えなくなってし時間が経ったあと、啓斗が席を立って行ってしまった。

「じゃあ、今日は解散ですかね。ゼーテ様、また明日」

「ええ、お休み」

「そういえばゼーテ様、シーヴァ様に會わないんですか? しばらく顔見れないんですから、行ったらいいじゃないですか。オレは親父に挨拶してから寢ます。それじゃ」

笑顔で手を振ると、ラビアは走っていった。

ゼーテは、薄暗い病棟の廊下を歩いている。

時々戸うような仕草をしたり、足を止めたりしているが、しづつ前へ進んでいる。

そして、自分の兄が寢ている病室が見える場所まで來る。

そこでまた立ち止まってしまうゼーテだったが、意を決したように歩き出すと、病室の前に立った。

「わ、おねえちゃんきた!」

「……!? マ、マリーちゃんじゃない。こんな夜遅くにどうして?」

いきなり後ろからマリーが現れ、屈託のない笑顔を向けてくる。

「あのね、まっくろのおにいちゃんがね、おねえちゃんとおにいちゃんはあわないほうがいいって!」

「ど、うして……?」

「わかんない。でも、「ぶじにかえってこれるのをいのってる」って!」

「そう……分かった。マリーちゃん、シーヴァをよろしくね。私が帰ってくるまで、一緒に遊んであげて」

「うん、わかった! それじゃあ、おねえちゃん、おやすみなさい!」

それだけ言うと、マリーはとてとてと走って廊下の闇に消えてしまった。

ゼーテはそれを見送り、また病室のドアを見つめる。

そして下をギュッと噛み締めた後、そのまま自室へと帰って行った。

病室のベッドの上でシーヴァは、ゼーテがどのような行を取るのか気配をじ取っていた。

そして、ゼーテが帰っていくのが分かると、1人で靜かに微笑む。

「そうだ、それでいい。ただほんのしだけ遠くへ出かけるというだけで、何も大袈裟なことじゃあないのだから。別れの挨拶なんて大層なものは、僕らには必要ないだろう?」

上半だけを起こし、窓の外を見る。

「ああ、今日はいい月が出ているじゃないか。……僕はただ、お前が縛られることが無くなって戻ってくることをむ。別に戦えなくたっていい、長して心を強くしたお前の姿を見せてくれ」

シーヴァが見つめる先には、煌々と輝く満月が空に浮かんでいた。

漆黒の夜の闇の中で圧倒的な存在を放つ大きな月は、 しい白銀ので夜の街を照らしている。

ヴァーリュオン出発まで:あと7時間30分

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