「………」

「一発目が空振りしたら上半がかなくなったぞ。こいつ一何がしたいんだ？」

『分かりません。が、警戒は怠らないようにしてください。足の手は依然としてび続けてますし』

黃の王は、床に拳を叩き付けた姿勢のまま靜止している。しかし、まるで上半と下半の意識が分離しているのではないかと思えるほどに下半の手は大化しながら闘技場を囲い始めている。

さらに、に纏う風も徐々に強くなってきたようだ。

「ルカの例から見て、風の能力っていうのは確実に強力だろう。吹き飛ばしでもしてくるのか……？」

『正直言って全く予想がつきません。でも、風は気を付けないと確かに駄目ですね。応用が嫌ってくらい効きますし、単純に強いですから』

啓斗は、取り敢えず黃の王の本から離れ、壁を埋め盡くし始めている手を観察する。

「どんどん一本一本が大きくなっていってるな。こっちも何されるか分からないし、破壊しよう。本とガチで戦うよりは安全策なはずだ」

『賛です。じゃあ私が本を監視しておきますので、啓斗様は手の破壊をお願いします』

「了解だ」

啓斗が指を鳴らすと、空中に無數のダガーナイフが出現し、それと同時に手元に鉄の剣が一本召喚された。

使用したのはURスキル【サウザンドダガー】と、Rスキルの【実剣ブレイド・召喚サモン】

だ。

剣を両手で構えて一息吸い込むと、啓斗はものすごい勢いで壁を這いまわっている手に斬りかかった。

「こいつでも喰らえ！」

剣で斬り払うと同時に無數のダガーも手に襲い掛かる。

手応えとしては、まるで切れ味の悪い鉈でメチャクチャ固い木材を切ろうとしているかのようなじだった。

(ウネウネいてる見た目に反して……すぎる！ 【サウザンドダガー】もほんのしだけ表面を削る程度しかダメージを與えられていないようだが……)

『啓斗様、本の方にきが！！』

ナビゲーターの大聲に反応して振り向くと、黃の王本が上を起こしていた。

顔の見えない頭をこちらに向けているのだが、そのの周りには先ほどと比べにならない烈風が渦巻いている。

「………！」

黃の王が啓斗に腕を向けると、に渦巻いていた風が一瞬で凝されて撃ちだされる。

『ヤバいです、避けてー！』

「言われなくても避ける………っ！！」

咄嗟に【トリプル・スピード】を発して風を回避する。

風の塊は壁を覆っていた手に直撃した。

『おおっ、これならダメージが……ってそんな都合よくいきませんよねー……』

「おいおい、マジかよ！？」

手に直撃した風は、なんとそのまま手を覆って流れ出した。超高速で風の流れは手全に及び、風を帯びた手に囲まれるという結果になった。

と、その時、いきなり闘技場に放送が響き渡る。

『おおっと、ここで実況を代するお時間になりました！ 私たち、ヴェローナ＆レイラに代わって実況解説をして下さるのはこの方！ あの「黃の王」の生みの親、ミリアさんでーす！』

『ハァイ、皆さんご機嫌よう！ 今回のザ・コロッセウムサバイヴ、楽しんでいただけてるかしら？ 今挑戦者と戦ってる子の説明をしに來たの！ 理解が深まれば視聴者の皆さんも楽しめるでしょうし、せっかくだしね！』

『流石はミリアさんです。確かにあの怪のきは私たちには不可解極まりないといっても過言ではありませんからね』

そんな放送をしているとき、黃の王を中心として壁を這っている手が帯びている風のスピードが増した。

『あの黃の王は、手による遠隔攻撃と本の超破壊力を重視したパワー型モンスターよ。でも、限られたスペースで戦う時は今やってるみたいに獲を取り囲んで一撃必殺、っていう戦法を取るの』

『ほー、そうなんですか！？ 実際にはどういう風にやるんですかね！？』

『まずは手を一定の領域にばして獲を逃げられなくする。今やってるみたいにね。で、その後に風の力を手に纏わせるの』

『なるほど、そこまでは今やってますね。で、その後は？』

『あとは一撃必殺を叩き込むのよ。まあ、見てれば分かるわ』

ミリアがそう言った時、黃の王が啓斗の方を向く。

次の瞬間、啓斗のが凄い速さで黃の王に吸い寄せられていく。

「……なっ！？」

『まさかっ！？ 啓斗様、回避ぃー！！』

【ジャストシールド】を使う暇すら無かった。

後方から吹いた風と、黃の王に向けて吹く強風に飛ばされ、啓斗はこの怪の目の前まで飛ばされる。

そのまま、黃の王が振り下ろした拳を背中に叩き込まれた。