《異世界転移するような人が平凡な高校生だと思った?》45話 100層
ダンジョン最終階層──100層にて
「....流石に........暗いな」
 あたりはほとんど暗闇に覆われていて、早めに目を慣らさなければ、移も困難に思えた。
 (ゲームなら、魔法かなんかで明かりを照らして進むけど....)
 現実でそれをするのは自殺行為に他ならない。普段暗い所にいる魔たちが、急に明かりを見つけたら、そこに何がいるのかなど、一瞬でわかるだろう。
 しかもここは100層。魔達は皆、高い知を持っている。仮に魔との戦闘になって、まず狙われるのは、明かりで周りを照らしている者。そして、明かりが消えれば、に慣れていた目が、突然の暗闇に、何も見えなくなる。そうなれば終わり、覚の鋭い魔たちの餌食となる。
 1時間前、それをミスラに指摘された祐は、ゲームの知識に頼りすぎるのはやめよう。と誓った。
「魔....いる」
 シュナはそう言うが、ミスラとシュナの気配以外、何もじることが出來ない。
「シュナ、熱源探知か?」
 気配は當然、音もじることが出來ない。もしかしたら、遠くにいる魔を知したのかもしれない。という希的観測でシュナに確認する。
「....違う、魔の本能。熱源も何モ ない.... 距離は──────近い」
 最後にそういった途端、シュナの影がいた。俺の前にいた何かを蹴る。
ギィィィン ︎
 シュナが蹴りを與えると、不思議と、俺やミスラにも、今シュナが蹴った魔が見えるようになった。
 まず見えたのは鎌だった。だがそれは、草や小枝を刈るようなものではなく、鋭利で、ギラギラとっており、所々が付著して、如何にも生の首を落とすためだけに出來たと言わんばかりのものだった。
 そして、次に顔を見た。
 それを見た途端、祐は、こいつは本當に魔なのか?と疑った。見れば、目の前の魔の顔には、あるべきはずのがなく、あるのは人の頭が白骨化した骸骨だけだった。もしかしたら、の方には、があるかもしれないと思ったが、古びたローブのようなものを著込んでいたため見ることは出來ない。だが、もっと視線を下に向ければ、そいつには足がなく、ゆらゆらと浮遊していていることがわかった。  
 その全像を、もう一度観察した上で、祐は言葉を発した。
「死神……?」
 「そう見えても仕方ありません。ですがあれは魔です。所謂いわゆる、アンデッド系統の魔ですね」
 ミスラの冷靜な説明で、自も落ち著き、目の前の敵をもう一度見る。
 確かに、よく見ればのあたりには怪しくる赤いものが、服越しにうっすらと見える。恐らくあれが、あの骸骨の魔の核だ。そして、こっちが考察している間、骸骨は全くかない。こちらがどうくかを観察しているのだろうか。99層までは、命の危機でない限り、何ふり構わず突っ込んできた魔とは大違いだ。祐は初めて見る知の高い魔との戦いに、張が走る。
 そして、相手がとった行は....
『ォォォ』
 逃走だった。きっとこっちがくまでは、骸骨は、きを見せないだろうと思っていた矢先の行が、前代未聞の逃走だったため、祐達のはき始めるのが一瞬遅れた。
「追ウ」
 シュナの言葉に続き、ミスラと祐は走り出す。本來、命第一なダンジョンで、逃げる魔をほっとくのは愚の骨頂と言われている。もしその魔が仲間を連れてきたら、厄介極まりない挙句、自分たちの危険───どんな魔法や武を使っているのかなど───がれてしまう。
 「思ったより早いですね....雷でを貫くしか..!」
「ダメだ!雷なんか打ったら目が潰れる!」
 俺とシュナは目を瞑ればいいかも知れないが、狙いを定めるミスラに関しては、目を開けていなければならない。に當たれば數分はきが激減する。明かりによって魔たちを引き寄せ、骸骨を逃すより厄介なことになる。
 方法はいつくかある。シュナの瞬・魔天魂蒼を使うという手だ。Gに放った時のような瞬速の衝撃波であれば、この距離を一瞬で詰められ、この通路の範囲的に、目を瞑って打っても衝撃波の範囲の方がデカい。
 だが、もちろんデメリットはある。あの衝撃波は魔力の10分の1を一気に放出するものらしい。普段はそれを纏って防プラス打撃に使うのが本來の使い方。それを飛ばすという事は、それなりの魔力を使うらしい。
 ボス部屋まで休憩する所があるかわからない以上、ここで、またあれを使うのはオススメできない。ならば攻撃手段は限られてくる。剣を飛ばすか、強化魔法で距離を詰めるか、または明かりのない魔法で仕留めるか.....ん?明かりのない....魔法...?
 何かを閃いた祐は善は急げと、詠唱を始めた。
「『生ある者には闇が潛む。力の強は闇の本流。我、闇を拒まず、を滅す。そこに慈悲はなく、苦しみもない。何もかもを殘さず、顧みず、敵を打ち払え』」
 祐は長文詠唱を終えると、んだ。
「後ろに跳べ!」
 その指示で、瞬時に何をするのか理解した2人は、急停止して祐の進行方向の逆に走る。
『闇絶ダークアブソリュート』
 祐の手から出てきたのは、100層の闇よりも暗い、小さな玉。それを祐は振りかぶると、今も逃げている骸骨に向かって投げてから、自分も急停止してミスラたちの方向に走る。
『..オォ──』
 骸骨は、追手の足音が遠ざかるのに異変をじ、後ろを振り向くと、目の前には膨れ上がる闇の玉が見え、それに驚く暇もなく、飲み込まれた。
***
「やった....か?」
 多分、1番この狀況で言っちゃいけないことだと分かってはいたけど、なんとなくの好奇心と、目の前の慘劇を前にして、そんなことはどうでも良くなった。
 通路は愚か、闇が飲み込んだ空間が、直徑20メートル程の球狀の空間になっていた。
「この有様を見てから、それを言うのはちょっとセンスがないですね」
「ミスラ、日本に滯在してた期間何してた....?」
 祐の詰問を軽くスルーしたミスラは、通路から球狀の空間を覗く。
「祐が放ったせいもあるんでしょうが、音ももなしにこんな威力が放てるとは....やはり闇魔法はほかの屬の魔法とは一線を畫していますね」
「その代わり、詠唱が他の比にならない程長いけどな」
 代償を払わせられたように、魔力もごっそり取られたし。だがシュナの魔法よりは燃費は良いのは明白だろう。
「それにしても、本當にここの魔は知が高いんだな。この調子だと、出會った魔は、相手が手のを出す前に仕留めないと、さっきみたいに逃げられそうだ」
「それか、一番手っ取り早い方法は、出會った魔を無視して、ボス部屋まで突っ走ることなんですけどね。けどそれは地図と魔の特、そして早い判斷力がないと不可能です」
「ゆっくりと進むしかないか....」
 それだけなら良かったが、100層に來るまでにマッピングしてきた階層を、思い出してみると、一つだけわかったことがある。
 それは、下に行くにつれて階層が広くなっていること。まぁ妥當な試練ではあるけど、それはつまりこの100層はダンジョンの最下層。どこの階層よりも1番広いことになる。となれば、慎重に進むのは良いが、広さを測り間違えるとボス部屋にたどり著くまで、何日も、下手すれば何週間も掛かることになるだろう。
 力はあっても、この薄暗く、いつ襲われるか分からないダンジョンでは、神までは回復させるのは困難。だが祐は分かっていた。神が限界に達してきているのは俺だけだと。
 ミスラは仮にも神だ。何萬年という歳月を生きてきた者ならば、相當の神力を持ち合わせているはず。
 シュナは、このダンジョンは生まれの故郷みたいなもの、命を狙われるのは日常茶飯事。を手にれて間もない為、多は神にも疲れが來ているだろうが、本人は余裕そうだ。
 そんな余裕そうな2人を見ながら、自分の弱さを実する。だが決して弱音は吐かない。止まることの出來ないこの狀況で、そんな弱音を言っても仕方ないのだ。
 それはしょうもない男のプライド。けどそれ以上にこの2人を守りたい。生還して地上にたどり著きたいという思いから來る諦めの悪い意地だ。
(だから絶対、俺が倒れちゃいけない)
 例えそれがを滅ぼすとしても、仲間が悲しむ結果になるとしても、生きてしいという、強で、臆病で、間違っているとしても、途絶えることのない殘酷な願いだった。
「よし、んじゃそろそろ行くか」
 言葉は軽々しく、だがには力を込めて、決意をに歩き出す。
 ミスラとシュナは頷き、その決意に気づく訳もなく、祐に続いて歩き出した。
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