《お姫様は自由気ままに過ごしたい ~理想的な異世界ライフを送るための能力活用法~》第二十話『やってきましたウラウスの森……じゃないってどういうこと』
「というわけで、ウラウスの森にやっていました!」
「「わ~」」パチパチパチ~
靜けさのだたよう森の中。うるさいじのザブリェットの聲と一號と二號の拍手が、森全に向けて騒音を奏でる。
あのあと、ポチを起こしたザブリェットは、とりあえず森っぽい場所に向かって歩き続けた。攻撃しすぎたせいか、まともにけ答えができなくなってしまった、半分以上意識がないポチ。これではまともに案もできない。だけど、このままポチの回復を待っていたら日が暮れてしまう。そうなってしまえば、今日中に木材を手にれられないだろう。だからこそ、まずはそれっぽいところを目指して歩いた。
そして、十分そこらで森についてしまったのだ。どうやら結界でもあったようで、魔王城あたりから見た時は何もなかったが、広大がる緑の木々達を見つけた時は心踴りそうになった。
靜かで、心が洗われるように落ち著ける素晴らしい場所だ。それが、あと數分で火の海に変わると考えると、とっても悲しくなる。
ああ、一誰がそんなひどいことを……。そう思ったザブリェットの瞳からホロリと涙が流れる。
「どどど、どうしましたの、お姉さま!」
「いいい、いきなり泣いて。痛いところが、ゲフーー」
泣きながらも二號を毆り飛ばすお姫様。この悲しみは誰にもとめられない。
八つ當たり気味に二號を毆り続ける。一號が止めようとも無駄だ。こうなったザブリェットを止められるはずがあろうか。いや、そんなこと誰にもできるはずがない。自由気ままに振舞う、それがザブリェットだからだ。
「もうやめてください、ご主人様! 二號が戻れなく快楽に溺れてなりますしまいます!」
「畜生! 誰が森を燃やそうと……それ私だ……畜生!」
「ぐえへぇえぇぇぇぇっぇ」
「二號、しっかりしなさい。ご主人様、そんな理不盡なことでご褒をあげないでください!」
「この変態、嬉しんだろ、これがしかったんだろ!」
「しあわせぇぇぇぇぇえええええ」
どんどんとカオスな方向に進んでいく三人。二號を毆りつける拳が、次第にリズミカルになっていく。このじがだんだん楽しいと思えるようになってきたザブリェットは、毆る音でベートーヴェン響曲第9番の第4楽章で歌われる『歓喜の歌』を再現する。
「あ、なんでしょう。この心から歌いたくなるリズムは……」
そう言った一號は、手の指を互に組み、まるで祈るように瞳を閉じる。
「Oオー Freundeフローインデ nichtニヒト dieseディーゼ Toneテーネ!
Sondernゾンデルン lastラスト unsウンス angenehmereアーンゲネメレ anstimmenアンシュティメン
undウント freudenvollereフローイデンフォレレーーーー」
ハーピィ特有の歌聲なのだろうか。ザブリェットの心を揺さぶるほど上手な歌聲を一號が見せつける。
それに対抗するように、それは見事な毆打音を奏でる。腕にスナップを聞かせ、時折ビンタを混ぜる。そうすることで奏でる音に工夫が加えらえれ、より一層表現かな演奏になる。
まぁ、音はバッシーンだとか、ドカ! だが、よく聞くとなんとなく打楽を思い出させる音だ。
そんなひどい音なのに、一號の歌聲とマッチして、聞きってしまうほど素晴らしいものに変わる。
森に住まう小鳥たちは、木々に止まって演奏を聞いている。
それだけにとどまらず、狐のような、狼のような魔、様々な生きたちが集まりだす。
あまりにもしい二人に魅了され、気が付けばオーケストラの演奏會だ。
もう気を失っているポチなんか、たちの椅子にされている。
全てのが心安らぐ空間。ただ一つ、この素晴らしい空間を臺無しにしているものがあるとすれば……。
「えっへえええええぇっぇぇぇぇぇっぇええ」
二號の醜い聲だろう。
毆られているのに恍惚とした顔。若干頬を赤く染めて、えへえへと笑っている。誰が見ても変態だと言い切れるだろう。
それはこの場にいる様々な生きたちもじている事。
だからこそ、瞳を閉じて、一號の聲とザブリェットの演奏に集中する。
二號の聲を雑音ノイズだと思えば、なんとなく我慢できる。
二號なんていないもの、そう考えながらこのしい演奏を聞きった。
「う、ううん……」
椅子ポチが目を覚まし、のそっと起き上がる。上に座っていた生きたちは、突然き出した椅子ポチに驚いて、一號の近くに寄った。
頭に直接響いてくるかのような歌聲を間近に聞いてしまった生きたちは、自も歌いたくなり、聲をあげた。
謎の音に耳を傾けて、一何をしているのか確認しようとしたポチ。
最初に目についたのは、ザブリェットが二號をリズムよく毆りつける姿。
咄嗟に止めようとすると、次に聞こえてきた一號の歌聲。思わずを直させる。しいは人に大きな影響を與えるものなのだ。
んで、最後に聞こえてきたのが二號のぎ聲。これには歌聲に見とれていたポチも興ざめしたように顔を顰める。
「……コイツ、黙らねぇかな」
そんな願いは葉うはずもなく、演奏は続いていった。
***
「あ、おはよう。ポチ。ウラウスついたよ?」
演奏が終わったザブリェットは、ポチに『よっ』と手をあげてそう言った。
その態度に思わず「はぁ」とため息を付くポチ。頭をクシャリとさせて、あたりをもう一度見渡した。
「なぁ姫。ウラウスの森に行きたかったんだよな?」
「うん、そうだけど、ポチが寢てばっかりだから」
「「私たちがいますのに!」」
「一號と二號は頼りないから」
「「いやん……」」
馬鹿げたことを言う二人をジトーとした目で見つめながら、ザブリェットはポチに愚癡を言う。そんな罵りが嬉しいのか、を震わせる一號と二號。顔は満面の笑みを浮かべていた。
「ほんと、一號と二號はダメだな」
「何を言うですか!」
「僕たちだって、やればできる子です!」
「はぁ、だったら俺なんかに頼らず、ウラウスの森に行けばいいだろう。そんなこともできねぇのかよ」
「私、方向音癡!」
「僕、亜空間音癡」
「二號、亜空間音癡ってなに?」
「よくぞ聞いてくれました、お姉さま。亜空間音癡っていうのは、僕みたいな亜空間能力者と言われる存在なのに、亜空間に潛ったら道に迷ってしまう事を言うのです」
「あ、方向音癡の亜空間版ね」
「そうとも言います!」
「はぁ、この三人は問題児ばっかりだ!」
ポチの一言に一斉に振り向く三人。
こいつは何を言っているんだとう目で睨みつけた。
この視線だけで人を殺してしまいそうなほどだ。それをなんともないようにけ流し、ポチはこう言った。
「ここ、ウラウスの森じゃねぇぞ」
「「「……えっ」」」
固まる三人。どう見たって森。他にそれっぽいところはない。だったらここがウラウスの森だと思うはず。なのに、ポチはここが違うという。納得がいかない。
そんな三人に、ポチは丁寧に説明してやる。
「この森は、魔王様の趣味で作られた畑だ。森じゃない。ウラウスの森は、歩いて三日かかる場所にあるんだぞ」
「え、でも、どう見たって森……」
「これ、全部ブロッコリーだ」
「…………」
ザブリェットは無言で上を見上げた。ぱっと見木に見えるが、よく見るとブロッコリー特有のフラクタル構造をしている。
いや、別にブロッコリー特有じゃないけど、巨大なブロッコリーを下から見上げるのは始めてなので、そんな想しか思いつかないザブリェットだった。
「ま、間違いは誰にでもあることだしな。ただ、今日はもう無理」
「……もう一度」
「えっと、今日は無理」
「ちっくしょうぅぅっぅぅぅぅ」
ザブリェットの悲しいびがブロッコリー畑に響き渡るのだった。
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