《私、いらない子ですか。だったら死んでもいいですか。》第四十七話~エピローグ~
請求書に呆然としていると、突然世界が割れたような音がした。
どうやら暴走時の私が魔法陣ごと勇者を殺しちゃったせいで、ニートリッヒにかかっていた魔法が溶けてしまったようだ。
これでニートリッヒにおける戦いは完全に終わった。ニートリッヒの周りにあった霧は晴れて、本來の姿に戻る。
リグレットの記憶の中にあった、敵魔族とヘレンによる魔力暴走によって起こった発により廃墟となったニートリッヒの姿。
人がいた痕跡はなく、ただただ荒れ地が続いているように見える。
そして手元に殘った謎の請求書。ちなみに渡してくれたのはクラヌだ。なんでこんなの持ってるの。てかこれ、私の責任じゃないよね。私の請求書じゃないんだよねっ!
そんなこと言ったってなにも始まらない。マジで悲しいなー。るーるーるー。
「ねぇクラヌ。これ、何?」
「さぁ?」
「いや、さぁってなにさ、さぁって。これ渡してきたのクラヌでしょうに」
「なんかね。もらったの?」
「なぜに疑問形。んで、誰にもらったの?」
「えっと……ホモ顔の年?」
あいつかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
ホモ顔の年と言ったら、世界樹の管理人で唯一神であるシンしかいねぇじゃねぇーかっ!
なんたってこんな請求書を渡してくるんだ。
…………私は関係ない。こんな請求書知らない。
私は手に持っていた請求書を燃やした。
「さて、ここからどうするかねー」
「あ、あの…………小雪お姉さま?」
「アンリ、お姉さまはやめようね。んで、何かな?」
「私はいつになったら初めてを……」
「それ、絶対ないから。いい、の子同士でなんて私にはないんだからっ!」
「しょぼーん」
いや、そんな顔しないで。困っちゃう。なんか困っちゃうっ!
私に一どういう反応を期待しているのさっ! ちょっと怖いよ。
「ああもうっ! 二人共。とりあえずここから離れるよ」
まずはこの場所から離れる。これ重要。だって、この場所には謎の霧があっていろいろと問題になっていたらしいからね。
それが、私たちが來たことによってすべてが解決してしまった。
あふれだしていたゾンビどもはただの死に戻り、この場所に平穏が訪れたに違いない。
あとはあの腐った臭いを漂わせる悪臭王が何とかしてくれるでしょう。
正義を志していても、私にできるのは戦うことだけ。守る力はあっても街を収めたり再建させたりする力は持っていない。
こういうとここそ、できるやつに頑張ってもらおう。
だが、ここで見つかるわけにはいかない。
だってめんどくさいことが起きる予がするしね。
またごみ屑勇者とか元勇者(笑)とか言われるんだぜ。わー嫌だ。
ということで、私は逃げる。
それに、私の役割はわかったんだ。
私の気持ちがどのように左右するかで世界の運命が決まってしまう。
『天秤の判定者』なんて厄介な役割を押し付けてくれたものだ。シン、私はお前を恨むぞっ!
しょぼくれているアンリと、犬みたいに私の周りをクルクル回って頬すりしてくるクラヌの首っこをつかんで、全力ダッシュしようとした。
「ま、待ってくれ!」
突然誰かに呼び止められる。
後ろを振り向くと、そこにはかなりイケメンな剣士様がいた。
やばい、ちょっとタイプ……ってリグレットっ! なんで? どうして?
「小雪様の暴走が収まったと同時に、この場所に設置されていた魔法陣が霧散して死に戻るはずだったのだが……。どうやら俺は死ねなかったようだ」
「わっふー、敵が討伐されに來たぜぇ!」
「ちょっとクラヌっ! 話に割り込まない。それにそこにいるのはリグレットなんだから……ってあれ? リグレットはゾンビになっていたわけだから……敵?」
「ち、違う。 ゾンビなのは確かなんだけど、もう敵対する気はない」
「ならどうしたの?」
「俺を、お前たちと一緒に連れて行ってほしい」
「「「もしかして、変態?」」」
「なぜそうなるっ! 小雪様はどちらかというとツッコミの人だと思っていなのにっ!」
そんなこと、勝手に思われても困る。
確かに三人でいるときは、クラヌとアンリがボケて私がツッコミ役なんだけどね。
「本來なら私もあの世に行くはずだった。だがヘレンに蹴飛ばされて。俺はアンデットとしての生がある。生といっていいのかわからないけどな」
「ねぇねぇアンリ。もしかしてこの人馬鹿」
「クラヌ、しーっ! 言っちゃだめよ。本當のことを聞こえるように言っちゃダメっ!」
クラヌとアンリは平常運転でボケまくっている。誰かこの二人をとめてっ! 私にはちょっと無理っ。
「……リグレット。この二人は無視して頂戴」
「ああ、わかった。それで話を戻すが、俺を連れて行ってほしい」
「それまたどうして、こんなしかいないところにりたがるのさ。やっぱ変態……」
「ちちち、違うっ! それに俺にはヘレンというがいる。彼を裏切るようなことはしない」
「でもヘレンは死んじゃったし……」
「死んでいようが生きていようが、ヘレンに対する気持ちは変わらない」
あらやだ、リグレットさんマジでかっこいい。
「俺にはやりたいことがある。人間だった時に目指していた平穏に暮らせる平和な世界を作りたいんだ」
「それと私になんの関係が……はっ! 私が勇者だからお供にっ! 無理無理、絶対に無理っ! もう勇者じゃないし、(笑)だしっ!」
「そんなことないっ! 小雪様こそ真の勇者だと思う。それに、あなたが信條としている助けを求める人に手を差しべたいという志にしたんだ」
「なんであんたが知っているっ!」
「…………暴走中に神魔法をかけただろ? その時、小雪様のことがこちらに流れてきて……」
ということは、私の恥ずかしいあれやこれやばバレテーラっ! ってことなのか。やっぱこいつ変態だー。
「あなたと一緒に行けば、俺の目指す道にたどり著ける気がするんだ。だから一緒に連れて行ってほしい」
「すごくヤダ、ほんとやだーーーーーっ」
とんだとき、私はじてしまった。なんかニートリッヒに向かってくるんですけどっ!
このままいやいや言っていたら面倒ごとに巻き込まれちゃうっ!
「ああもう、わかったわよ。それはいいとして、まずはここから逃げるよ」
「「なんでーどうしてーなんでなんでー」」
なんかクラヌとアンリがお子様特有のなんでなんで攻撃してきたんですけどっ! いまそれどころじゃないっつってんでしょ。
「ああ、王國軍がこちらに向かってきていますね」
「なんでわかんのっ!」
「それは……剣士として評価されない項目ですから」
どうしてここであのアニメに出てくる有名なセリフっぽいこと言っちゃってんのっ! こいつもボケの人間かっ!
畜生、でも今憤ってもしかたない。とにかく逃げる、マジで逃げるっ!
アンリとクラヌを擔いで私は走した。その後ろをリグレットが付いてくる気配をじる。あいつ、マジでついてくるんだ……。
まあでも、旅の仲間は増えて損はないかな。あいつが変態っぽかったからなんか嫌だっただけだし。
そう思ったら自然と笑いがこみ上げてきた。
この世界はくだらなくてどうしようもないことばっかりだけど、なんだかんだ言って楽しい。
それはアンリやクラヌっていう仲間がいるおかげなんだ。
私には役割がある。『天秤の判定者』として、もしかしたら世界を破滅させてしまうかもしれない重要な役割が。
でも、今回のようにアンリやクラヌ、新しく仲間になったリグレットがいれば、私が暴走しても何とか踏みとどまれる気がしてきた。
これは一人ではできないことだ。
人それぞれダメなところがある。それを補い支えあいながら生きていくのはなんてすばらしんだろう。
私もアンリも……ゾンビになってしまったリグレットも王國の人間からしたらいらない子だ。死んだって別に構わないと思われているんだろう。
クラヌは……この國の人間にとって魔族は敵だしいらない子だね。
一人の時はいらない子だって思い続けて何度も死のうとしていたけど、今はそれも考える暇がないぐらいに楽しい。
だからまだ、生きていてもいいよね。
という訳で、死ぬのはもうちょっと先延ばし。今は今を楽しもう。それからでも遅くはない。
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