《すばらしき竜生!》第6話 殘念
ロードは走った、なるべく殘念と帝國軍達のいる場所から逃げるために。 前世でアニメを見ていたロードなら分かる、あの場所は厄介事が起きそうな雰囲気がプンプンする。 本気では無いとしても、結構速い速度で走っているロードだが、一向に嫌な予が止むことは無かった。そして、ロードはふと後ろが気になり、後ろを見てしまう。
――そこには殘念化けがいた。
「待てやぁあああああ!」「うおっ!?」
は縄で簀巻になっているのにもかかわらず、を用に使い、激しくバウンドしながら高速でロードに付いて來ていた。 とても人には見せられない様な必死な表と、綺麗な純白の長髪が勢いよくれながら迫ってくる姿は、夜に見たらロードでも失神するほど恐かった。
(あれは……空中に跳ねると同時に"天軀"をフルパワーで使っているのか。著地も最小限に抑えている、あやつ……できる!)
流石のロードでも思わず立ち止まって、解 析現実逃避をしてしまう。そうしている間にが目前まで迫って來ていた。
「逃がさないわよ! ……あ、ヤバッ!キャアアアアアアア!!」「――グフッ!」
これまた用に跳ねながら回転して地面に著地するが、スピードを完全に殺す事が出來ずにロードに頭から激突した。 ロードも予想外過ぎて完全な不意打ちをくらって見事な"くの字"になる。の方は、ロードがクッション代わりになり怪我はしていないようだ。
「……ん……地面がらかい? って、アンタ大丈夫!? まだ死んじゃダメよ、未來は明るいわ!」「誰の……せいじゃ……アホが」「何ですって!? 大、あんたが私を置いて逃げたのが悪いんじゃない。そもそも――――」
(あぁヤバい、意外とモロにクリティカルった。意識が………)
が何かを言っているが、ロードの消耗が思ったより激しかったらしく、意識が朦朧としている。
「あ、待って! 気絶する前に縄を―――!」
のび聲と數人の足音を聞きながら、ロードの意識は暗転していった。
◆◇◆
(――地面がい、多分これは土のさじゃない。それにひんやり冷たいし、若干カビ臭い)
「――おーい」
(俺は……そうだった、に予想外の頭突きをモロに當たったんだっけか?)
「すいませーん」
(はぁ、そんな事で気絶とか……予想以上に疲れてたのか。父さんとの試合に、俺達の集落が襲撃にあってから一回しか寢てないんだっけか? ……そりぁ疲れが取れてない訳だ。いや、俺がまだ弱いだけか……)
「絶対に起きてるよね? そろそろこの場所飽きたんですけど……」
(というか現在の狀況を考えてみると、十中八九ここは牢屋だろうな。地面が固い、涼しい、カビ臭い……こんなにヒントがあったら誰でも分かるわな、それに……)
「それに、さっきからとてつもなく殘念なの聲が聞こえる気がするけど、気のせいだろう。俺は二度寢を決行することにしよう」
「気のせいじゃないわっ! あんた早く起きろって言ってるでしょうがぁ! ……というか誰がとてつもなく殘念なよ!?」「あ、いたの?」
ロードは周囲を見回して、やはりここは牢屋なのだと理解する。どうやらを捕まえるついでにロードも捕まったらしい。どうやらロードの嫌な予というものが的中してしまったらしく、心でため息をつく。
「はぁ……もういいわよ。さっさとここから出しまょう」「え? なぜに?」「なぜって、ここから出たいでしょ?」「いいか? 牢屋っていうのはな、無職で安全で3食晝寢付きの最高の件なんだぜ?」「あんたはアホかぁ!!」
冗談で言ったつもりだったが、ロードは毆られた。それはもう思いっきり毆られた。目に止まらない速度でフルスイングされたロードは吹っ飛んで壁に激突し、牢屋全にい同士がぶつかる音が響く。 黒竜の理耐は土竜の次に高いはずなのだが、それでものフルスイングの拳はロードにダメージを與える。 そしての行為は、沸點が低いロードを怒らせるのに十分だった。
「――ってぇな、このガキ! だからって甘く見てると思うなよテメェ!」「はぁ? いいわよ、やってやろうじゃないの、私がただのだと思ったら大間違いって事を理解させてあげるわ!」
「――あぁ?」「…………ペッ」
がロードの足元に唾を吐く。それにより怒りゲージの頂點を越えて噴火したロードは靜かに構えを取り、は自の武である二丁拳銃を虛空から出して構える。
「「――上等じゃゴラァ!!」」
狹い牢屋で地面を蹴っていたのは、両者共ほぼ同時だった。
◆◇◆
広大な草原に建設されている帝國軍の基地は、帝國と王竜國のちょうど境目にある。それはいつか來る戦爭の時に準備を整える為だ。 その帝國基地の中央に建っている司令本部の一室には重い雰囲気が漂っていた。
『報告からして、謎のに資金と食糧を盜まれた挙句、簡単に逃亡を図られたと? それで合っているかダラブリッジ司令』「は、はい。その通りでございます陛下。ですがは現在捕えて、牢にれております。 を捕えた部隊の報告ですと、共にいた男も同じく捕えてと同じ牢にれたとのことです」
ダラブリッジ司令と呼ばれた男は、モニター越しの男に傅きながら、事の顛末を説明している。 話の容は、白髪の謎のの事だ。ダラブリッジは事も無げに平然と話しているが、心はとてつもなく焦っていた。
ダラブリッジがそうなるのも納得出來るほど、モニター越しの男は危険な雰囲気を纏っていたからだ。 それもそのはず、彼は武力で全てを制する國家、帝國の王なのだ。つまり帝國で一番強く、発言力がある人なのである。言葉を間違え彼を怒らせたら、彼の一言でダラブリッジの首が飛んでもおかしくはない。
「それで、その者達の処罰についてですが……」『殺せ』「………は?」『殺せ、と言っておる。帝國に仇なす者には全て死だ。ましてや盜みなど、我等を舐めているとしか思えぬ。何の慈悲もなく速やかに処刑せよ』「…………畏まりました。直ちに処刑の準備に取り掛かります」『うむ、我も忙しい。報告については後ほど兵を送るように』
そう言い殘して、映像はプツリ――と途切れる。未だにダラブリッジは傅きながら、今の帝國はおかしいと思う。
(いくら犯罪者でも全てを処刑するというのには無理がある。帝國は元々、武で政治をする國家だが、今の武力政治はやり過ぎてる。 これではそのうち兵士から反が起きてもおかしくはない……そしたら帝國は大混に陥る)
ダラブリッジはいくら考えても無駄だと思い、帝王に命令された通り処刑の準備を行う為に部下を呼び出す。 數分後にドアをノックしてっていた部下に、先程の話をする為に話をきりだす。
「先日捕えた二人はどんな様子だ?」「はっ! 男の方は疲れが溜まっているのか、未だに寢ております。はここから出せと先日から騒いでおりますが問題はありません」「そうか……先程、陛下に連絡を取ったのだが………」「陛下は何と?」「処刑せよ、との事だ。早速取り掛かってくれ」「それは………いえ、了解しました、直ちに準備にります」
部下は一瞬不満そうな表を浮かべたが、気を取り直してそう言い部屋を退室する。 ダラブリッジは椅子に深く座り、もう限界かも知れないと天を仰ぐ。
何度もいうように帝國は武力國家だ。それは力としの知恵があれば、たとえ冒険者でも平民でも誰にでも高い地位に就けるチャンスがあるという意味でもある。 ダラブリッジも元はただの村の平民だったが、人して村を出て帝國軍にった。それから日々戦果を挙げて徐々に地位が上がり、今や基地を任される地位まで來たが、ダラブリッジもいい歳だ。帝國軍を抜けて何処かで隠居しようかとし考えてきている。
「長年……帝國に居たが新しい帝王が新任されてから帝國は兇暴になった。……隠居、本気で考える時が來たのかもなぁ」
そんな事を言いながら、帝國の武力政治の新たな犠牲者になる2人が捕らえられている牢獄に目を向ける。
――ドガァアアアン!!
「何だ!? 何事だ!」
今の轟音は確かに牢獄から聞こえてきた、今までで走を試みた者も沢山いるが、こんな轟音はダラブリッジでも聞いたことがない。 事を理解する為に、牢獄に注目していたダラブリッジだが瞬時に現実から目を背ける事になる。
基地が作られてから、一度も破壊された事が無い強固な牢獄が2回目の轟音で周囲の建ごと吹き飛び、綺麗な丸のクレーターが出來上がる。 どう見てもあり得ない現象を執務室から見ていたダラブリッジは、こう思った。
「…………隠居するか」
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