《すばらしき竜生!》第43話 頼み
エルド達は自分達が人間では無いと言われたのに、ロードの言葉を予想していたらしく軽く息を吐いて姿勢を正す。
「謁見の間での一言であらかた予想はついておりましたが、やはりロード殿は竜眼の持ち主でしたか」
「竜眼っていうとあれか? 竜神様が使っていた能力だよな」
「そうよ。全てを視る眼……まさしく神の力ね」
全員が驚いてロードを見てくるが、ロードだって竜が人の國を作っているのに驚いていた。 しかも、七天竜以外の竜を見るのは初めてだったので、本當の姿を見たいと思ってしまう。それを見た後に戦ってみたいと思うのはロードのだ。
「差し支えなければロード殿は竜族でなんの部類にるのか教えていただけますかな?」
「それを聞かなくても王様には予想はついてるんだろ?」
今回、ロードが呼び出された理由はギルドマスターに売った鱗の金を貰うため。売った鱗は黒竜の。 それをエルドが知らないわけがない。知っているうえでロードを城に呼び出し、ここに連れてきたのだから。
「人類の天敵、竜の頂點に位置する存在である七天竜。その一柱である黒竜様……ですね?」
ガタッ! という音を立てて側近の皆が椅子から飛び退く。側近達はエルドから同類としか聞いていなかったらしく、仲間を見る目から完全に上位の者を見る畏怖の目になっていた。
「……わからねぇ。なんでこんなに全員が黒竜って聞いただけで恐怖の対象として見るんだ?」
分からないなら聞いたほうが早いと思ってエルドに質問すると、エルドは目を閉じて靜かに語り始める。
「とても昔の話になります。二百年前、七天竜と人類の大戦がありました」
これについてはロードも知っている。
「その頃、人類と竜は互いに不可侵條約を結んでおり、一切の関わりをせずに平和を保っていたのです。ですが、竜の素材は人類が強くなるためには必要だと気づき始めました」
その時に竜は憤慨したが、忠告ですました。だが、人類はそれだけでは學習しなかったとエルドは言う。
「一度だけでも強さを得てしまった人類はそれを求めます。結果、人類は竜狩りを止めなかった。 そして、とうとう人類は忌を犯してしまいます。七天竜にまで手をかけ始め、最初の被害をけたのが黒竜なのです。……しかも黒竜の長の妻を無慘に殺して…………」
「それは怒るだろうな」
「そう、黒竜種は怒り狂いました。他の七天竜も我慢の限界だったらしく七天竜の長達と人類で戦爭が始まったのです」
炎竜は緑に恵まれていた地形を溶巖地帯に変え、水竜は一つの國を一瞬で水沒させた。 風竜は永遠に暴風がなる呪いをかけ、その場所は今でも暴風のせいで生命は何一つ無い。 その他の雷竜、土竜、白竜も各地を荒らし周って七天竜は全人類に『我らは簡単に全てを破滅へ導ける』という警告の元に恐怖を植え付けた。
植え付けたはずだったのだが、それはほぼ無意味に終わってしまったとエルドは言う。
「……それはなんでだ?」
「人類の國はいくつもありました。七天竜が荒らした場所は國に近い場所でした」
七天竜は怒り狂ったが、ただ躙しただけでは魔と同じになってしまうと思い、各地に呪いと呼べるような災害を起こす程度で収めた。だが、黒竜だけは違かった。
「黒竜の長だけはそれに納得せず、全ての王、貴族、騎士といった力を持つ者全てを殺しました・・・・・。 もちろん、黒竜の長は殺戮兵ではないので無力な農民や奴隷は殺しませんでしたが、歯向かってくる者全てを引き裂き、喰らい、暴の限りを盡くしました」
そうして人類はほとんど滅び、黒竜は死の象徴として歴史に名を刻んだのです。とエルドは話を締めた。
本石版に描いてあったのは人類と七天竜が戦爭をして、人類の大半は機能を失ったという事実だけ。 まさかここまで先祖がやらかしていたとは思っていなく、話を聞いたロードは頭を抱える。
(そりゃ、全員が黒竜って聞いて驚くわけだ。皆の反応は正しかったということか……)
シエルは言った『災厄と呼ばれている黒竜種』と。その時は強いってだけで大袈裟だと笑ってやりたかった。
(――笑えねぇ!)
全く冗談じゃない。
「そして、黒竜の格として自由人、短気、戦闘狂といった三つがありまして、竜族の間でも恐怖の対象として見られています」
自由人、短気、戦闘狂。まさかの全弾ストライクで機に突っ伏すロード。もし、この場にシエルが居たなら大笑してロードを指差していただろう。
『――ブフッ、アッハッハッ!』
何故か神の笑い聲も聞こえてくる気がして、ムカついて空に殺気を送ると、殺気は周囲にも広がったらしく、側近達は更にを震わせる。
「すまん。この場に居ない奴神の笑い聲が聞こえた気がして殺気放っちまった」
「殺気だけで死ぬと確信したのは久しぶりだったぜ……」
「流石は黒竜様ね。格が違うわ」
「そこまで言うのか? 俺が見たじだとあんたらも相當強そうだがな……後で全員俺とやるか?」
戦闘狂と言われたのであれば遠慮はしない。それがロードであり、黒竜の格ならば仕方が無いよな、と強引に納得する。
それの標的にされた者としては良い迷で、視界に捕われた數人――もとい數匹の竜は「ヒィィイイ!」というけない聲を出す。
「私の側近に不安をじてしまうよ」
「いやいや、黒竜相手は無理だって! 勝てっこねぇ!」
それについてはやってみなきゃ分からないだろうと思うが、それはロードの考えであって普通の竜の考えでは無い。 これは自分がおかしいのかと疑問に思うロードだが、シエルに呆れられる場面が沢山あったのを思い出してやはり自分がおかしいのだろうと理解する。
「ロードさん……いや、様がいいか? そんなに戦いたいのなら闘技會は知ってるよな?」
「普通に呼び捨てで良いよ。闘技會はもちろん出るぞ。その前に魔剣祭も控えてるけどな」
「ほう、魔剣祭ですか……當日に皆で行こうか。もちろんお忍びで」
「別に王様の行を制限する気は無いが、そこは大丈夫なのか?」
王様となれば執務などで忙しいだろうし、魔剣祭の次の週には闘技會が控えているのでそちらの面でも忙しいだろう。 そういう意図で質問したのだがエルドはぶっちゃけるじて笑って答える。
「もう闘技會についてはほとんど準備は終わっているのです。なので一日くらいサボっても支障はありません」
「そういうもんか……」
「それに、側近の皆も闘技會に參加するので、ロード殿の力量を知っておきたいというのもあります」
「なんだ、やっぱり戦えるんじゃねぇか。……それに折角來てもらうんだからヒントやらなきゃな。もし來たら、俺の本気を一瞬見せてやる。それを見てどんな対策してくるのか楽しみだ」
「くれぐれも魔剣祭の會場は壊さないでくださいね? 黒竜の本気なんて灑落になりませんから」
そんな言葉に顔を引きつらせて注意してくるエルド。 ロードもそこまでしようとは思ってない。ただ、相手は死を一瞬じるかもしれない程度に収めるつもりで力を出すのを予定している。 それに、魔剣祭でやらかしたらまた教員共からどんな目で見られるか分からない。ただでさえ今は『教授泣かせ』として広まっており、ロードは教員にすれ違うたびに避けられている。
「バルト師匠ってば、どんな教育してこんな戦闘狂育てたのかしら……」
通常のロードだったら怒るであろう発言をした側近の一人だが、そんな言葉などどうでもいいと思える単語がロードの耳に聞こえた。
「バルト? バルトって言ったか今! 父さんを知ってるのか! 今どこにいる!」
「ば、バルト師匠は良くここに遊びに來ていて、戦い方を教えてもらってたの……居場所までは……ごめんなさい」
予想外のロードの食いつきに驚いたのか泣きそうになりながらもしっかりと答えてくれる。 怯えた姿を見てロードも詰め寄り過ぎていたと我に返り、姿勢を戻す。
「……すまん」
「噂には聞いてましたが、やはり黒竜は……」
「…………あぁ」
流石に報は來ているようで、エルドは察したようになる。
「出來るならばバルトやネイル……馬鹿親父と母さんを探すのを手伝ってしい」
ロードは黒竜が滅んでいると思っているが、心の片隅でまだバルトやネイル、生き殘っている黒竜がいると信じている。 だが、流石にロードだけでは探すのに限界がある。だからこそのお願いだった。
「ロード殿。いや……ロード様。私達はバルト様や奧様に多大な謝をしているのです。今こそ私達に恩を返させてください」
「竜 殺 しドラゴンスレイヤーだっけか? 師匠がそんな奴に負けるはずがねぇ。絶対に生きてるだろうよ」
「……ありがとう。頼む」
皆の言葉にロードは再度深い禮をした。
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